「子供の頃、祖父母のいる八ヶ岳山麓の村で過ごした。盆花を取りに近所の遊び仲間と連れ立って山にはいる。お昼に祖母に作ってもらったおにぎりが忘れられない。おにぎりの水分で濡れた新聞を広げると、
海苔の香りが鼻腔にひろがった。梅干の入った大きなおにぎりを、心地よいそよ風
に吹かれながら両手で抱えて食べる。これほど楽しかった昼食はなかった、と言う。

 学校に行くようになったら、運動会や遠足のときは母におにぎりをたのんだ。時々
稲荷ずしを作ってくれた。一度だけだったがサンドイッチの時もあった。でもやっぱり
おにぎりがいちばんいい。

 ところが 女房は「お弁当はサンドイッチと紅茶だ」という。家族でイギリスで暮らし
た時、イギリスの子供の弁当は キットカット1個、人参1本、青りんご1個、ポテト
チップの小袋1つというのが多いらしい。うちの子供たちの弁当は温かい紅茶と
サンドイッチだった。これを見た向こうの母親たちに感心されたと女房は得意そう
だったが 本当はおにぎりで圧倒して欲しかった、と言っている。」