隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1139.鉄の骨

2011年02月18日 | 経済
鉄の骨
読 了 日 2011/02/16
著  者 池井戸潤
出 版 社 講談社
形  態 単行本
ページ数 537
発 行 日 2009/10/07
ISBN 978-4-06-215832-9

 

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時期よく読んだ著者の作品から遠ざかって、少し間があいた。WOWOWで「空飛ぶタイヤ」がドラマ化されて話題を呼んだことなど、著者の新しい作品の情報は、僕の耳にも入っていたが、なぜか読むまでに至らなかった。
そして、昨年(2010年7月)、NHK土曜ドラマで放送された「鉄の骨」の初めの方を少し見て、銀行ミステリーとはいささか趣の異なったストーリーだということで興味がわいた。ところが、僕は録画していると勘違いをして、あとでゆっくり見ようと思っていたら、どうしたことか、録画はしてなかったらしく、ハードディスクにもDVDにもデータは見当たらず、今頃になってあわてる始末だが、もう遅い。
途中までしか見てなかったが、小池徹平氏の演ずる主人公(下のイラスト)の、正義感あふれるキャラクターが、よくマッチしている印象があった。
そんなところへ、先達ていすみ市大原へ出かけた折に立ち寄った古書店で、本書を見かけた。古書店の棚に本書を見かけて、急に読みたいという欲求が高まり、衝動買いをした。
普段は行きつけのBOOKOFFなどで、105円の本を買おうかどうか迷うことがあるのに、出先だと気が緩むのか?こうした衝動買いをしてしまうのが、僕の悪い癖?

僕が好んで著者の作品を読むのは、現役のサラリーマンだった頃に、多少なりとも銀行取引に関連する業務を担っていたことによる、ということをこのブログで何度か書いてきた。いまさらという感じだが、著者の池井戸潤氏はかつて三菱銀行(現在の三菱東京UFJ銀行)に在籍していたことがあって、その体験や知識を総動員した(そればかりではないだろうが)銀行ミステリーを数多く発表している。
僕は自身のつたない経験ではあるが、資金繰りの苦しい実態や、業績の芳しくない折の借り入れのむずかしさを、実際に味わってきたことで、そうしたストーリーに胸の痛くなるほどの思いが蘇って、惹かれるのかもしれない。

 

が、本書はそうした銀行ミステリーとは別のジャンルで、中堅のゼネコンを舞台とした企業ドラマだ。
裏の舞台として銀行も多少関連するのだが、今回のメインはあくまで企業競争の世界である。今なお実社会では時折、談合問題が新聞、テレビで報道されるが、大手の総合建築企業・いわゆるゼネコンと、中央官庁、地方行政が関わる官製談合は一時期大いに世間をにぎわせた。
ここでは、「脱談合」を大きなテーマとして掲げている。談合は果たしてなくすことができるのか?
主人公の富島平太は、大手の建設会社を目指して10社も面接を受けていたが決まらなかった。そして希望のランクを少し落として、中堅のゼネコン・一松組の面接を受け、常務の尾形に認められ入社が決まったのだ。

持ち前の正義感をたてに、建設現場でやりがいを感じて仕事をこなしていたが、突然業務課に異動となる。業務課は陰で談合課といわれている部署だった。
そこで平太は組織ぐるみの談合の実態を知るのだが、「談合は必要悪」という理屈のなかに次第に身を沈めていくのだが…。

 

 

 

が、彼が最初に関わった談合では、新しく入札の指名業者に加わった企業の談合への不参加により、談合は成立しなかったのだ。 そして、次に現れた2000億円を超す地下鉄工事へ会社の命運を賭けての取り組みが始まる。しかし、このところ業績の芳しくない一松組に対して、銀行はつなぎ資金の融資申し込みに、いい顔はしなかった。

そうした状況の中で、平太は学生時代から付き合ってきた野村萌との仲も、ぎくしゃくした思いの通わない関係へと行きだしたのだ。奇しくも彼女は一松組のメインバンクである白水銀行新宿支店へと入行していた。
それでも過去に数多くの談合を取りまとめてきたフィクサーの三橋との出会いが、平太を否応なしに談合の裏の世界に引き込んでいく。
魅力的に描かれる一松組の尾形常務や、フィクサー三橋の人物像だが、彼らが平太を伴って、大きな工事の談合にどうかかわっていくのかがストーリーの焦点だ。
終盤の緊張感漂う彼らの舞台に引きずり込まれる。

読み終わった後、ドラマを見られないかと、NHKのwebサイトを覗いたら、3月に再放送があるとのこと。楽しみに待つとしよう。

 

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