隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1050.心臓と左手

2010年01月31日 | 連作短編集
心臓と左手
読 了 日 2006/02/15
著  者 石持浅海
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 261
発 行 日 2009/09/20
ISBN 4-334-74643-8

 

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年(2009年)暮れからまだ読んでない本のデータをパソコンで、HTMLデータとして取り込んで整理している。数えたことはないがざっと200冊以上はあるので、読み終わったらすぐにブログに書けるようにとの準備である。
また、同じ本を買ってこないように用心のためでもある。前にどこかで書いたが、古書店を見て歩いている時、欲しい本が安価で出ていると、既に持っているのを忘れて買ってしまうことが時として発生する。僕の悪い癖の一つだ。例え100円でも、ちりも積もれば山 にはならないが、豊かな経済力を誇っているわけではないから、そうした無駄遣いは慎まなければならない。
ところがこのところ、幸運に恵まれて?行きつけのセルフサービスのガソリン給油所で、カードのポイントが貯まってショッピングセンターの商品券をゲットしたため、またもや新刊の文庫3冊を買うことが出来たのだ。
今の僕にとって、これほど幸せを感じることは他にない。めったに出会うことのない至福の時が短い間に2度も訪れたことに、うれしさの反面ゆり戻しが来るのでは、と余分な心配も・・・。

 

 

無駄話が続いたついでに、先の未読の本のデータの整理についてもう少し書いておくと・・・。
僕のブログ作法は、記事を直接BROACH(NTTぷららの提供するブログサービス)に記述するのではなく、Windowsに付属する「メモ帳」で、いくつかのパターン、すなわちテンプレートを作っておき、そこに記事の内容を流し込むという方法をとっている。
テンプレートは、本の種類―例えば文庫とか単行本とか、あるいは長編であるとか短編集であるとか、更には国内の作品、海外の作品とか、その種類ごとにあわせて何種類かを用意しておくと、割と簡単にブログの記事が統一性を保たれる。これは、最初からそうなっていたわけではなく、何とか少しでも見栄えのする記事にしようとしてきた、3年弱の試行錯誤の結果である。
そうして、メモ帳で作った記事をhtmlの拡張子で一度、デスクトップに保存して、ブラウザーで開きプレビューすることが出来るので、その後にコピー&ペーストで、BROACHに移す。
そこで、わずらわしい本のデータは予め作っておけば、たくさん有る未読の本のデータも読み終わったら、少しの感想文を書くことで、すぐにブログに載せることが出来ると考えたのである。ある程度のhtmlや、ほんの少しのcssなどの知識がいることはいるが、それほど多くの知識を必要とすることはない。が、少し見栄えのあるもにと考えると、それはそれで少しの勉強(テクニック)もいるが・・・。

 

 

いったところで、前からちょっと気になっていた本書は、安楽椅子探偵タイプの連作集だ。
僕は安楽椅子探偵が探偵の究極の姿と考えているから、古今東西の安楽椅子探偵タイプのミステリーを出来るだけ多く読みたいと思っている。「念ずれば通ず」といわれるように、普段そうしたことを考えていると、不思議とどこからともなく情報が入ってくるばかりでなく、目にもつくようになる。
時にはタイトルだけでわかるときもある。ごくまれにだが・・・。
そんなこんなで、本書もその類で、著者のファンだということもあるのだが、以前からタイトルが気になっていた1冊だ。帯のキャッチコピーや解説などによれば、本書の主人公は僕が最初に読んだ著者の作品「月の扉」の主人公だそうだ。過去の記事を振り返ってみたら、「月の扉」(2006年2月読了)には感想文がない。
だからということでもないのだが、「月の扉」については全く覚えていないのだ。
初めて詠んだ著者の作品で、面白かったからファンになってその後も読み継いできたのだろうが、困ったことだ。そこで、読み返すことにした。こんなことをしていたら、いくら時間があっても足りなくなる。(内容については前の記事【701.月の扉】に追加した)

 

 

の連作集は「月の扉」の後日譚ということのようだ。サブタイトルにもなっている「座間味くん」というのは主人公の本名ではなく、前作で沖縄・座間味島の絵柄のTシャツを着ていたことで、周囲の人から便宜的に呼ばれたあだ名のようなものだ。今回もその名で呼ばれているので、彼の本名は依然として判らないままだ。
パズラーとして、余分なものを排除した形で進めるためか?あるいは前作でも名前を特定しなかったことからの継続でそうしているのか?いずれにしても座間味くんという名前で一向に差し支えはないが・・・・。
連作は、前作の沖縄での事件で参考人として事情聴取をされた座間味くんと、当時沖縄で行われることになっていた国際会議の警備の応援に派遣されていた警視庁の大迫警視が、新宿の書店で偶然に出会った事から始まる。時折逢って酒を酌み交わしながら、大迫警視が遭遇した過去の事件について話し合うという設定だ。現在警視が扱っている事件でないところが、他のミステリーで見られるシチュエーションと違っているところだが、大迫警視から聞かされる事件の顛末について、座間味くんは全く違った観点から真相を推理するというストーリーは小気味の良い結末を迎える。
下記の表にあるように、7編の短編が収録されているのだが、最後の1篇は「月の扉」の事件関係者が11年後の沖縄那覇空港で再会するというストーリーで、物語の締めくくりの役を果たしている。

 

収録作
# タイトル
1 貧者の軍隊
2 心臓と左手
3 罠の名前
4 水際で防ぐ
5 地下のビール工場
6 沖縄心中
7 再会

 

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1049.神の手

2010年01月23日 | サイコ・サスペンス
神の手
PREDATOR
読了日 2010/1/27
著 者 パトリシア・D・コーンウェル
Patricia D.Cornwell
訳 者 相原真理子
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 346(上)
328(下)
発行日 2005/12/15
ISBN 4-06-275267-0(上)
4-06-275268-9(下)

 

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ーンウェル女史の「検屍官」シリーズを読むのは何年ぶりだろう。そういう時にこのブログは役に立つように作ってある。(愚にもつかない自慢をするな!ともう一人の僕が言っているが・・・)
ページの上部に配置した著者索引を引いて、「コ」をクリックして、パトリシア・コーンウェルを選択すれば今まで読んだ書名が出てくる。最後の書名をクリックしてと・・・。
なんと、最後に第13作目の「痕跡」を読んだのは2005年6月だった。実に5年ぶりのこととなる。10作目くらいまでは文字通り夢中で読み耽ったといってもいいだろう。それほどまでにのめり込んだシリーズなのに、一旦立ち止まったらそれきりになってしまった。
たいした理由があるわけではないのだが、11作目あたりから僕が好ましいと感じていた、ストーリー中の登場人物たちの雰囲気が次第に外れていくような気がしていたのだ。特に殺人課の刑事ピート・マリーノを思いやるDr.スカーペッタの言葉や、行動が僕は好きだった。そうしたスカーペッタの親心ともいえそうな言動に対して、すねたようなマリーノの態度もどこか好ましく思えたものだった。
だが、そうした関係は巻が進むにつれて壊れていくようで、更には死んだと思われていたFBI特別捜査官のベントン・ウェズリーが現れるに及んで、少しお休みしようかということになってしまったのだ。こんなところが僕・隅の老人の読書雑感といったところか!?

 

 

さて、本書・シリーズ第14作目は図らずも、僕が最後に読んだ年の暮れに発行された。しかしそのころはもう、多分新刊をすぐに買うという状態ではなく、BOOKOFFで105円の棚に並ぶのを待つ経済状態だったと思うから、この本を買ったのも相当後になってからだろう。
しばらくぶりに読むシリーズは、何のかんの言ったって読み始めれば、やはり懐かしい感覚が沸いてくる。Dr.ケイ・スカーペッタや、ルーシー(スカーペッタの姪で、今は私的捜査機関のオーナーである)、ピート・マリーノらが、僕を待っていてくれたような気になってしまう。だが、相当な期間を経ているので、文字通り劇的に変化している環境に慣れるまで時間がかかる。幼い頃からその片鱗を見せていたルーシーの抜群の能力は、長じてFBIのデータベース開発に寄与するなどのコンピュータ・プログラマーの才能を発揮した。そうした能力が開発したソフトウェアは、彼女に莫大な財力を与えた。
天才に見られる常人とはかけ離れた心理状態や行動は、理解しがたいところのあるのは当然のことだが、今回本書を読みながら、何とはなしに森博嗣氏の作品に登場する“真賀田四季”を連想する。同じ天才という単なる理由だけの連想かもしれない。
それはともかく、ここでもピート・マリーノ=今では、ルーシーの運営する全米法医学アカデミーという私的捜査機関の捜査部長を勤めており、既に警官ではなくなっている=と、Dr.ケイ・スカーペッタとの関係は依然としてギクシャクしたままで、気をもませる。
スカーペッタもマリーノ同様アカデミーに勤務しているという状態である。

 

 

FBI心理分析官・ベントン・ウェズリーのPREDATOR(捕食動物とか、略奪者の意)の研究で、殺人犯として収監中の囚人と対峙いている中で、囚人の語った未解決事件が、最近発生した一家行方不明事件との関わりがあるらしいというところあたりから、話は複雑な様相を示して俄然面白くなる。
そしてさらに、殺人事件が発生する。正体不明のホッグ(Hand of God=神の手? タイトルはここから)と名乗る不気味な人物側からの視点と、スカーペッタ、あるいはマリーノ、ルーシーらの側からの視点とが交互に語られて、めまぐるしく場面は転換される。
歳をとって理解力の怪しくなっている僕は、筋を追うので精一杯だが、胡散臭いような人物がそこここに現れて、フーダニットではないにもかかわらず、ミスディレクションらしき構成が面白い。 さすがに終盤はスリリングな場面が現れて、息をもつかせずという展開になるところはシリーズの売り物だ。
AMAZONだったか、楽天だったか忘れたが、本書を読んでいる途中で、昨年(2009年)暮れにシリーズの最新刊「スカーペッタ」文庫上下巻が発売されたことを知る。第15作目の「異邦人」が2007年だから、2年ぶりの新作だ。まだ、15作目も読んでいないのだから、僕にとっては新作はずっと先の話だが・・・。

 

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1048.憎悪の依頼

2010年01月19日 | 短編集
憎悪の依頼
読 了 日 2010/1/19
著    者 松本清張
   
出 版 社 新潮社
形    態 文庫
ページ数 294
発 行 日 1982/9/25
ISBN 4-10-110951-6

 

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者の初期の短編集。初出一覧で下記に記したが、特に表題作は1957年の作品だから、発表されてから既に50年以上も経っている。にも関わらず、少しも古さを感じさせないどころか、作品のテーマは普遍的なものだから、むしろ見方によっては新しささえ感じる。
少し前から高校生の頃、夢中で読んだ松本清張作品を少しずつ読み返しているのだが、当時とはまるで違う感覚で作品を鑑賞している。当たり前といえば、当たり前のことかもしれないが、当時の僕がいかに子供だったかということを思い知らされているような気がしている。
40歳を過ぎてから作家活動に入ったという松本氏の描く世界は、充分に成熟した人間性のようなものが土台にあって、物事を冷静な目で見ているという感じが伝わってくるのだ。だから大人ぶってはいたものの、まるで子供だった自分が恥ずかしくなる、という感覚をもたらすのかも知れない。

 

 

そうした自分の感覚とは別に、本短編集ではいわゆる推理小説ばかりでなく、というより人間性を追及したドラマが描かれるものの方が多いような気もする。「文字のない初登攀」からおしまいの「壁の青草」までの6篇は主人公の半生のある部分を切り取ったという感じの作品で、見方によっては結末のないストーリーだ。 しかしながら、いずれも男性の主人公のそれぞれ違った形の生き様が、その心の内と共に語られる物語は、切なさや、空しさ、不条理といった、生きている限り誰もが遭遇することなのだが、胸に残る。

 

 

「憎悪の依頼」
倒叙型(事件の犯人側から描かれる類のミステリーの形式)の推理小説を思わせるストーリーで、既に裁判も終わって収監されている男の語りで、進展する。松本清張氏の「動機を重視する」という推理小説に対する考え方が反映された1篇。伏線のようなタイトルが見事。

「美の虚像」
こちらも推理小説の1篇だが、事件が起こって犯人は誰かという形ではなく、何が事件なのかということも途中からわかってくるといった、ユニークなストーリーだ。解説の権田萬治紙も書いているように、松本清張氏は美術、特に絵画に関する作品が幾つもあって、絵画に対する造詣の深さを物語っている。 本編もタイトルからも想像できるように、絵画の話だ。というより抽象画で名前を売った画家と、それを支持する一流美術評論家の物語。

「すずらん」
この作品も倒叙型で進められるのだが、アリバイ崩しを主体としたミステリーだ。主人公の考え抜かれた策略は、思わぬところから破綻を招く。

「尊属」
こちらは女性の主人公だが、第1作と同じような収監されている女性容疑者の量刑に関して、新しく赴任してきた刑務所長が疑問を感じて、調べるというストーリー。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月号
1 憎悪の依頼 週刊新潮 1957年4月1日号
2 美の虚像(「美の虚象」改題) 小説新潮 1966年3月号
3 すずらん(「六月の北海道」改題) 小説新潮 1965年6月号
4 尊属 新潮 1964年8月号
5 文字のない初登攀 女性自身 1960年11月16日号
6 絵はがきの少女 サンデー毎日 1959年特別号1
7 大臣の恋 週刊朝日別冊 1954年中間読物号
8 金環食 小説中央公論 1961年冬季号1
9 流れの中に(「流れ」改題) 小説中央公論 1961年10月号
10 壁の青草(「少年受刑者」改題) 新潮 1966年5月号

 

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1047.シルバー村の恋

2010年01月12日 | コージー
,align="center"シルバー村の恋
読了日 2010/1/13
著者 青井夏海
出版社 中央公論新社
形態 文庫
ページ数 289
発行日 2009/7/30
ISBN 978-4-334-74618-6

 

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になる作家の一人でありながら、最後に読んだ「星降る楽園でおやすみ」から2年が過ぎた。本書を買う前に調べたら、本書のほかにも数冊未読の新刊があるようだ。まあ、楽しみを後のためにとっておくことにしてと。
本書は、前の2冊と一緒に未来屋書店で購入した文庫3冊の最後の1冊だ。下に初出一覧を書いておいたが、5話からなる連作集で、同じビルの各階での事件を同居家族の5人が体験するという設定となっている。同じビルの各階での事件といえば、ずっと以前に読んだ、永井するみ氏の「歪んだ匣」を思い出すが、シチュエーションが異なっており、また違った面白さだ。
家族6人がそれぞれ主人公という設定が面白い。妻を亡くし、定年を過ぎたお父さん、その息子夫婦と高校生の娘、中学生の息子、そして、離婚して実家に戻っている息子の妹の6人である。

 

もしかしたらこんな家庭はどこにも見られる近頃の一つの典型かもしれない。
好きな作家の作品で、連作短編集でもあることからタイトルのいかんに関わらず、手にしたのだが、タイトルのシルバー村から、老人を連想して老人の話かと思っていたら、そうでもなかった。シルバー村とは老人のためというより、年配者のための施設・コミュニティセンターの名称だ。
第1話では定年を過ぎた日高家のお父さん・日高一郎が主人公となるストーリーで、ちょっとしたどんでん返しとも言うべき結末を見せる展開である。ミステリーともいえないような謎が提示されることはされるのだが、その結末は僅かにカタルシスを感じさせる締めくくりとなっているところが愉快だ。

 

解説の大矢博子によれば、1作ごとに良くなっていく、という著者の最高傑作だと絶賛する。
が、僕にしてみれば、期待が大きすぎたのかもしれないが、ミステリーという観点からは、少し物足りないという気がしている。それは多分、第1話で受けた印象が最後まで続くと思っていたからかもしれない。しかし、これは家族の物語だということで見れば、また見方が変わってくるのだろう。家族といえども、皆が通じ合っているとはいえないということだ。最初に書いたように、これはある意味、現代の家族の一つの典型かもしれない。

 

初出誌(ジャーロ)
# タイトル 発行月・号
第一話 もう一度ときめきたいあなたに
(シルバー村の危険な恋 改題)
2006年春号
第二話 自分らしく生きたいあなたに
(第二小会議室の仁義なき攻防 改題)
2006年秋号
第三話 セカンドライフに備えたいあなたに
(トレーニングルームの華麗なる軍団 改題)
2007年秋号
第四話 マイペースで勉強したい君に 書下ろし
第五話 家族の絆を見失ったあなたに 書下ろし

 

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1046.片耳うさぎ

2010年01月07日 | サスペンス
片耳うさぎ
読 了 日 2010/1/6
著  者 大崎梢
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 317
発 行 日 2009/11/20
ISBN 978-4-334-74677-3

 

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こ何ヶ月か細かな食料品などを買うときに使っていたカードのポイントが貯まって商品券と換えた。
カードはイオン(大手スーパーを経営するグループ企業)のカードだからよく行くジャスコに出店している未来屋書店(この書店もイオングループが経営している)で、文庫3冊を買うことが出来た。こういうことでもないと、例え文庫といえど新刊など買う余裕はない。別に新刊だろうと古書だろうと本の価値に変わりはないのだが、やはり新刊を手に入れたときの嬉しさは何にも変えがたいものがある。こんなことで幸せを感じられるのだから、安上がりな人間だとは思う。
何度か書いてきたような気もするが、中学生の頃必死の思いで溜めた小遣いで手にした文庫本を開くときの感激と、ほのかににおう印刷インキの匂いは、50数年たった今でも忘れることは出来ない。自分でカバーをかけて大事に読んだものだ。
カバーといえば、普段は書店で文庫にカバーを架けてもらうことなどめったにないのだが、今回なんとなく「カバーおかけしますか?」という問いに「お願いします」と言ってしまった。
僕は10年来三越デパートで購入した皮製の文庫カバーを使っており、時折保護剤のペーストを塗って手入れをして使っているから、とても手触りがよく手放せなくなっている。そういうことでカバーは頼まないのだが、今回かぶせてもらったカバーは、濃いグリーン系のカラーでデザインされた地味だが好みのカバーだったから、そのカバーのままで読んでいる。
と、本の内容と関係ない話はすらすらと書けるのに、肝心の本の内容を紹介しようとすると、途端に手先が鈍る。そう簡単にはいかないのだ。感じたことをそのまま書けばいいのだが、そうなると「面白かった!」とか「そうでもなかった」ということで、終わってしまいそうになるのだ。まるで小学生並みだ。
否、「いまどきは小学生だって、もっとましなことを書くぜ!」と、もう一人の僕が言う。そうかもしれない。
切りがないからこの辺にしようか、しょうがないね全く!

 

大崎梢氏の本は、配達あかずきんのシリーズにすっかり魅せられてしまい、シリーズ3冊を続けて読んですっかりファンになった。その後シリーズ外の1冊も、同様に楽しませてもらったから、本書もそのほかに発表されている作品も読みたいと思っていたのだが、なかなか機会がめぐってこなかった。
元書店員をされていたことからの実体験を活かした書店シリーズは、こういう本屋さんに行って話をしてみたいものだと思わせた。僕もその昔、45歳のときに会社の仲間と一緒に、郊外型書店のチェーン化を目指して起業した経験があることから、書店を舞台としたミステリーには人一倍野関心があった。残念ながら僕の起業経験は能力不足から、1年半ばかりの短い期間で終末を迎えたが・・・。

だが、今回読んだ本書はそれとは関係なく、小学校6年生の女の子を主人公とした話だ。父親の事業の失敗で、住んでいたマンションを引き払わざるを得なく、やむなく父親の実家に世話になることになった蔵波奈都一家。
奈都が小学校1年生の頃一度だけ来たことのある父親の実家・蔵波家は、その昔庄屋だったこともあり、周囲を圧倒する大きな屋敷とともに、現在も周辺に強い影響を及ぼす存在だった。
数え切れないほどの部屋数を持った屋敷には、奈都の祖父・蔵波勝彦、その姉であり奈都にとっては大伯母の雪子、そして奈都の父親・浩三の兄一家が住んでおり、さらには浩三の長兄・故宗一郎の長男・一基が居候をしているという具合だ。
それにしたって誰もいない部屋は数多く、奈都にとって大きな屋敷はなんとなく怖いという印象だった。その上、父親は職探し、住まい探しでしばらく家を空け、母親は実家の祖母の具合が悪くなって、これまたそっちのほうへ1週間ほど行きっぱなしになるという。さあ、広い屋敷に他の家族がいるとはいえ、一人で置いておかれる6年生の奈都にとっては、恐怖体験である。
そんな奈都を気遣って助け舟を出したのは同級生の祐太。姉さんだという中学生の一色さゆりを紹介してくれて、そのさゆりが奈都の母が帰ってくるまで奈都の部屋に泊まりこんでくれることになったのだが・・・。

 

学6年生と中学3年生の、二人の少女たちの冒険がどのように展開するのか?ちょっと危ぶみながら読み進めると、田舎の大屋敷が舞台ということでなんとなく感じていたが、まさしくそこは横溝正史の世界ではないか。
そういえば、著者のインタビュー記事で確か彼女は、横溝正史氏のファンだといっていたようなことを思い出した。そのときは横溝作品の世界と、大崎梢氏の作品世界とのあまりにもの隔たりを感じて、ぴんと来なかったのだが、本書を読み進めるうちに殺人事件こそ出てこないが、あの横溝正史氏の世界が現代に蘇ったという感覚が強くなってきた。しかも金田一耕助はいないものの、その役割を小学6年生の女の子が無理なくこなす展開に驚かされる。
著者の新たな作品世界に拍手。

 

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1045.ハートブレイク・レストラン

2010年01月05日 | 連作短編集
ハートブレイク・レストラン
読 了 日 2010/01/02
著  者 松尾由美
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 291
発 行 日 2008/07/20
ISBN 978-4-334-74445-8

 

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まり流行らないファミリーレストランを書斎代わりに使う、フリーライターの寺坂真衣は、そこで不思議な現象と出会う。
表紙イラストの左に描かれている、なんとなく影の薄いお婆さんはそれもそのはず幽霊だったのだ。 ということでお婆さんの幽霊が出てくるといえば、若竹七海氏の「サンタクロースのせいにしよう」が思い浮かぶが、こちらのお婆さんは、幸田ハルさんという名前で、もともとはレストランのある土地の所有者だったのだ。
といってもよくある土地取引のいざこざが原因で化けて出るといった類の話ではない。なんとなればこの幽霊のお婆さんの姿は見える人とそうでない人とがいるが、心に傷を持つ人とか、不幸せな人がその姿を見ることが出来るというのだ。そして、彼女はその後のレストランの様子とかそこに集まる人々のありようを気にかけているのだとか?・・・。

 

 

寺坂真衣は今日も行きつけのファミレスで原稿を書こうかどうしようかと悩んでいた。寄稿しているロックの雑誌の編集長が体験した不思議な話なのだが、書いて良いものかどうか迷っているのだ。
彼の誕生パーティの席上、バースデーケーキにナイフを入れると、中から今日なくしたばかりの結婚指輪が出てきたというのだ。そんな不思議な話をかかってきた携帯電話で、友達と話し終わったとき、見慣れてはいるが話したことのないお婆さんから声をかけられた。上品な着物姿で優しいまなざしの、そのお婆さんはなんと、真衣の前で、ケーキと指輪の問題をあっさりと解明してしまったのだ。(ケーキと指輪の問題)
話し終わってスーッと消え行くお婆さんを見て、驚く真衣にレストランの店長は、お婆さんが幽霊であることや、ここに現れる事情などを聞かせる。

 

 

婆さんの名探偵といえばすぐに思い浮かぶのが、アガサ・クリスティ女史のミス・マープルだが、ここに現れる幸田ハルお婆さんも安楽椅子探偵を地で行く名探偵で、殺人事件こそ出てこないが、不思議な出来事をいとも明快に推理する姿と、昔の謙虚な女性の姿そのままの言葉遣いが、心地よく頭にしみこむ感じだ。
この作者の作品は本書で3冊目だが、最初に読んだ「銀杏坂」も、お婆さんではないが女性の幽霊が出てくる話で、そうした異世界の話が得意なのか?
そうは言ってもとても読みやすく、日常の謎派とも言うべきミステリーと、安楽椅子探偵タイプの話は、最近の僕の最も好きなカテゴリーだ。
連作短編なので、シリーズ化してもっと続けてほしいと思うが・・・。

 

初出(小説宝石)
# タイトル 発行月・号
1 ケーキと指輪の問題 2003年6月号
2 走る目覚まし時計の問題 2003年12月号
3 無作法なストラップの問題 2004年6月号
4 靴紐と15キロの問題 2004年12月号
5 ベレー帽と花瓶の問題 2005年5月号
6 ロボットと俳句の問題 2005年9月号

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