隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1051.バイアウト

2010年02月08日 | 経済

 

バイアウト 企業買収
読 了 日 2010/2/8
著  者 幸田真音
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 446
発 行 日 2009/11/10
ISBN 978-4-16-777649-8

 

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刊で買った文庫3冊のうちの1冊だが、本書はほとんど衝動買いに近い。新刊の書店を訪れた際には、文庫棚でいつも無意識に探してみる著者の一人である幸田真音氏の作品が、平積みされているのを見てそのタイトルにも惹かれ思わず手に取った。
少し前に読んだ真山仁氏の「ハゲタカ」シリーズで、このところM&A(Merger & Acquisition=企業の合併・買取の意)とかTOB(Take Over Bid=株式の公開買い付け)という言葉の世界にはまってしまった感じで、かつて堀江貴文氏のLiveDoor(ライブドア)、村上ファンドの村上世彰氏らの世間をにぎわせた実際の事件と重ね合わせながら胸躍らせて読んだことも、本書を手にした理由だろう。
もともと僕が60歳還暦を契機として読書を続けようと思い立ってすぐの頃、NHKテレビで放送されたドラマ「レガッタ 国際金融戦争」で、それまで知らなかった世界を見せられて、同時に原作者の幸田真音氏を知ることになったのだ。当時読む本は圧倒的に海外作品が多かったのだが、幸田真音氏の描く、僕にとって新しい世界は魅力的で、間をおかずに何冊か探して買い求め読んだ。
そして、外資系の会社でディーラーとして優秀な実績を積んだ経験が活かされた、迫力のある作品を生み出す著者のファンになっっていった、というような経緯(いきさつ)もあって幸田作品は要チェックだったのだ。
それでも最後に読んだ「代行返上」が2006年だから、もう4年ぶりとなるのか。

 

書は外資系の証券会社に勤務する広田美潮という女性セールスマンが、TOBを仕掛けられた企業や投資ファンドの間で、ある目的のために証券セールス活動をする物語だ。
僕にとっては株取引の世界や、莫大な資金を運用するファンド会社などは、全くのところ無縁なはずが、こうした物語を読んでいる間は、あたかも渦中の人物となったかのごとく、成功事例に快感を覚えたり、失敗して多額の損失を招く恐れにおびえたりするのがおかしい。この作品では従来のものとは一味違って、ドラマチックで多様な展開と、さまざまな登場人物たちの行きかう人間ドラマが、実在の企業や人々を連想させたりして、より一層面白くしている。
いつものように、こうした世界を判りやすく描いて、あるときは成り行きを解説するような記述と共に、ストーリーを展開させていく著者の手法は親切だ。

ところで、僕は本書を読んでいて、今までとんでもない誤解をしていたのではないかと思った。
著者の作品を読んでいつも過去に培ってきた経験や知識のみが、面白い作品を生み出しているのだと思っていたのだ。
が、確かにそうした一面はあるだろうが、一つの作品が生まれるまでには、相応の取材や調査が必要だということをすっかり頭の中から消し去っていた。もちろんのこと、著者自身の持って生まれた創作能力もあるだろう。本作品でいつにも増して、ストーリーの多様性に驚きながらそんなことを考えた。

巻末には国際金融アナリスト・倉都康行氏と著者の対談も掲載されており、こちらも面白い。

 

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