隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0906.ホック氏の異郷の冒険

2008年08月31日 | 本格
ホック氏の異郷の冒険
読了日 2008/8/31
著者 加納一朗
出版社 天山出版
形態 文庫
ページ数 299
発行日 1989/3/30
ISBN 4-8033-1766-6

 

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はうかつにもこの加納氏の第37回日本推理作家協会賞受賞作が、シャーロック・ホームズのパスティーシュだとはつい最近まで全く知らなかった。
このブログの著者別の作品一覧に、著者の似顔絵を載せるために、顔写真を探すので手持ちのミステリーに関するリファレンスを見ていて本書のことを知ったのだ。そこで何はともあれ読んでみようとAmazonで購入した。
著者の作品を読むのは初めてで、どんなものかと読み始めてそのスタートから引き込まれてしまった。
ストーリーの記述者である”私”の家の築80年を越す蔵の中から、往時の当主・榎元信医師の美濃半紙に毛筆書きという、古い原稿が見つかったと言うところから、物語は始まる。
明治初期の口語調で書かれたものを元信の曾孫に当たる”私”が現代語風に訳して、なおかつ小説風にしたという設定になっている。だから、そこからは当の榎元信医師の語りでストーリーは展開される。榎医師が往診したことから知り合いとなった陸奥宗光は、当時一外交官だったのだが、後に農商務大臣となるも、榎医師とは親しく付き合う中だった。榎元信は、その陸奥宗光からの依頼で、国益に関わる事件をイギリスからやって来たサミュエル・ホックという人物と二人で立ち向かうことになるのだ。

このストーリーを面白くしている要素は沢山あるのだが、その一つにサミュエル・ホックという人物の言動が、直ぐにシャーロック・ホームズそのものだと読者に気づかせる記述にある。
また、ストーリーがあたかも実話であるかのような錯覚を起こさせるほどに、ここでは沢山の実在した人物の名前が出てくることである。維新の影をまだ色濃く残した明治初期という時代を背景にホームズ(ホック氏)と、ワトソン(榎医師)の活躍を描いた冒険譚だ。

 

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0905.推理小説

2008年08月25日 | 警察小説
推理小説
読了日 2008/8/25
著者 秦建日子
出版社 河出書房新社
形態 文庫
ページ数 317
発行日 2005/12/30
ISBN 4-309-40776-5

 

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レビドラマ化で、大分話題を呼んだらしく、買った人も沢山いるのだろう。BOOKOFFで結構見かけるようになって価格も安くなっていたので、買って読んだ。連続殺人犯が推理小説というタイトルのミステリーを書いて、その通りの殺人を重ねるというストーリーである。事件の捜査に当たるのがメインキャラクターの警視庁刑事、雪平夏見。女性刑事、ストーリーの進行と共にこの刑事のキャラクターが少しずつ明らかになっていくのだが、その容姿の美しさからは、想像出来ないような破天荒なところもあり、興味を引く。

殺人犯が現場に残していく手製の栞(しおり)に書かれた「誰がアンフェアなのか」という言葉から、テレビドラマのタイトルは「アンフェア」となったらしいが、珍しく僕は見てないので、ドラマがどのように作られているのか、これからレンタル店で探してみようかと思うのだが、タイトルとしてはちょっと意味不明になるのではないか?
著者の秦氏は、元々脚本家として知られた人で、この話は小説でしか書けないから小説にして、小説家としてもデビューを果たした。それが、テレビドラマ化されたので、脚本は当然本人ではなく、他の脚本家が手がけた様だ。
お終いまで読むと、なるほど映像化の難しいところが良くわかるのだが、そんな所がどのように処理されているのか?これからドラマを見るのがちょっと楽しみだ。

 

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0904.もう一人の私

2008年08月22日 | 短編集
もう一人の私
読 了 日 2008/08/22
著  者 北川歩実
出 版 社 集英社
形  態 文庫
ページ数 349
発 行 日 2004/09/25
ISBN 4-08-747741-X

 

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に読んだ「硝子のドレス」(468.参照)が、左程僕の好みに合っていたとは思えなかったので、この作者の作品はもう読むこともないだろうと思っていたが、時間つぶしに寄ったBOOKOFFで、巻末の日下三蔵氏の解説を呼んで、価格が安かったことも手伝って、つい買ってしまった。
初出一覧でもわかる通り、短編集だということも読んでみようかと思った理由の一つだ。ロアルト・ダールの「あなたに似た人」同様、本書のタイトルも全編に亘っての共通項のようなものだ。
収録された9編の短編は、いずれもどうしようもない違う自分が現れたというような感じのストーリーで、僕としては、またしても生理的に合わない話しの連続だった。
僕は若い頃読書に夢中だった頃、こんなに感情移入をさせて読んでいただろうかと、振り返って見るほど、最近はそれがひどくなり、感情移入が出来ない話には拒絶反応が出てしまうのだ。

それでも、最後の1篇「替玉」には、短編ならではのミステリーとしての面白さを感じて、ようやくいくらか客観的な読み方が出来たようだ。

 

初出誌(小説すばる)
# タイトル 発行月・号
1 分身 96年3月号
2 渡された殺意 96年7月号
3 婚約者 96年11月号
4 月の輝く夜 97年3月号
5 冷たい夜明け 97年11月号
6 閃光 97年7月号
7 ささやかな嘘 98年5月号
8 99年12月号
9 替玉 99年5月号

 

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0903.平台がお待ちかね

2008年08月11日 | 図書
平台がお待ちかね
読了日 2008/8/22
著者 大崎梢
出版社 東京創元社
形態 単行本
ページ数 260
発行日 2008/6/30
ISBN 978-4-448-02528-1

 

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刊のタイトルからして、成風堂書店シリーズかと思ったが、新しいシリーズのようだ。『配達あかずきん』(849参照)に始まる書店・成風堂シリーズで、著者の書店員だった経験から生まれたミステリの魅力にすっかり嵌ってしまった僕は、本書のタイトルに強烈に引かれた。
6月下旬だったか、7月の初めだったか、木更津市立図書館の蔵書検索をしたら、まだ入ってなかったので、早く読みたい一心から、図書館に出向いて、この前の記事の「モザイク事件帳」と一緒にリクエストカードを書いて出した。
8日に調べ物があって図書館に行ったら、タイミングよく本書が入っているとのことで早速借りてきた。

今度は、中堅どころの出版社の新米営業マン・井辻智紀(いつじともき)君が主人公だ。初出一覧の通り5編の連作である。「あっ!」という間に読んでしまわないよう、読むのは寝る前の30分から1時間にしておくことにした。幸い僕は先月からこの方ずっと、朝から晩までパソコンの前に座ったきりなのだ。
前にも書いたが、著者名検索のためのインデックス作りから始まって、著者別作品一覧や、それぞれの記事とのリンクを張ったりすることで、一日の殆どの時間を費やしている。8割方終わったと思っていたのだが、昔の人は巧いことを言っている。「百里の道は九十九里を以って半ばとす」の通り、何のことはない後の2割を終わらそうと思ったら、今まで掛かった時間以上に掛かっている始末だ。

というようなことで、じっくり時間をかけて読み終わった。営業活動は、職種を問わず簡単な仕事ではないが、本書を読むと中小出版社の営業の苦労の裏表が、微妙なタッチで描かれて、主人公と一緒になって一喜一憂する。4作目の「絵本の神さま」では、井辻君が始めて訪れた東北地方の小さな書店が店仕舞いをしていて、落胆する場面が冒頭で描かれる。利益率の低い書店という商売の厳しさもあるのだが、それまでに至る経緯がこのエピソードのテーマとなっている。

以前この日記で、僕は小売業の形態が業種から業態に変化していくことについて簡単に書いたことがあるが、その業種店の最も典型的な例が書店であることも書いた。しかし、ここに出てくるような家族経営の、いわゆるパパ・ママストアが潰れることは少ないとも言われている。二極分化の一方だからだ。
だから、このストーリーでは、経営難を描きながらも、もう一つの切ないエピソードが語られていくのだが・・・。

僕が、このような本に関する物語に惹かれるのは、基本的には本好きということもあるのだが、ほんの短い期間ではあったが、僕も書店経営の一端を担った経験があるからだろう。それはともかくとして、このシリーズも、もう少し続けて欲しいものだ。営業活動をする人にとっても、ちょっとしたヒントがそこ・ここに散りばめられているような気がする。

初出(ミステリーズ!)一覧
タイトル No. 発行月
平台がお待ちかね vol.24 2007年8月
マドンナの憂鬱な棚 vol.25 2007年10月
贈呈式で会いましょう vol.26 2007年12月
絵本の神さま vol.27 2008年2月
ときめきのポップスター   書き下ろし


0902.モザイク事件帳

2008年08月01日 | 短編集
モザイク事件帳
読了日 2008/8/1
著者 小林泰三
出版社 東京創元社
形態 単行本
ページ数 309
発行日 2008/2/29
ISBN 978-4-448-01230-4

 

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京創元社からのメールマガジンで、魅力的なキャッチコピーに出会って、ぜひ読んで見たいと思ったが、まだAmazonのユースト価格もそれほど安くなっておらず、木更津市立図書館にリクエストしておいた。6月に頼んだからかれこれ2ヶ月近く掛かったことになる。
どこに惹かれたかと言えば、連作短編集のなかに安楽椅子探偵ものが入っていると言うところだ。

胸を躍らせながら、ページを開き読み始めてビックリ。残念ながら、僕の好みではなかった。どちらかと言えば(どちらかと言わなくても)僕は単純な人間だから、好みに合わないと判ると読むのが苦痛になる。せっかくリクエストして読めるようになった本だからと思って、ブログの整理をしながらとはいえ、1冊読むのに2週間近くも掛かっていたのではどうしようもない。

ちょっと例えは違うが、亡くなった映画評論家の淀川長治さんの著書に、『嫌いな人にあったことがない』と言うのがある。彼ほどの人物ならば、そうだろうなと納得できるが、僕は極めて平凡な人間だから、そうした心境には程遠く、どんな本でも快く読めると言うまでには至っていない。
まあ、しかしこういう本を好きな人も勿論いるのだろう。明日図書館にそっと返しに行こう。

 

収録タイトル
タイトル カテゴリー 発行月号
大きな森の小さな密室 犯人当て Vol.3-4(03年2月/04年3月)
氷橋 倒叙ミステリ Vol.13(05年10月)
自らの伝言 安楽椅子探偵 Vol.15(06年2月)
更新世の殺人 バカミス Vol.17(06年6月)
正直者の逆説 ??ミステリ Vol.19,21(06年10月/07年2月)
遺体の代弁者 SFミステリ Vol.23(07年6月)
路上に放置されたパン屑の研究 日常の謎 書き下ろし

 

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