隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0411.赤・黒 池袋ウエストゲートパーク外伝

2003年07月28日 | サスペンス
赤・黒
池袋ウエストゲートパーク外伝
読 了 日 2003/07/28
著  者 石田衣良
出 版 社 徳間書店
形  態 単行本
ページ数 281
発 行 日 2001/02/28
ISBN 4-19-861308-7

 

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峰渉は映像製作会社でディレクターをしていた3年前、ロックシンガーのビデオクリップ制作にカジノの場面が必要となり、店に当たりをつけてくれた村瀬勝也と知り合った。
組にこそ所属してないが、村瀬は池袋でしのぎを削るその筋の男だった。その村瀬に誘われたカジノで、バカラに嵌り首の回らない状態になる。そんなところへ村瀬が、組織の経営するカジノの売上金を狙った狂言強盗の話を持ってきた。村瀬の計画は完璧だった。
実行も計画通り運んだ。何もかも上手くいったかに見えたが、金を分配する段になり、中年の銃撃役の男が村瀬を撃ち金を奪って逃げた。

 

サブタイトルにあるように、今回は外伝ということで、主人公の真島誠は登場しない。もっともI.W.G.P(池袋ウエストゲートパーク)には、マコトの他にも主役を張れるキャラクターはいくらでも居る。ということで、本作では狂言強盗に失敗し、羽沢組の氷高社長に5千万円の借用書を書かされ、逃げた中年男を追う羽目になった、小峰渉が主役となる。そして、その監視役として付けられたのが“サル”こと斎藤富士男だ。どちらかといえば、この“サル”が今回の主役といっていいだろう。小峰から事情を聞いたサルが10歳も年上の小峰に言うせりふが泣かせる。「度胸もなかなかだし、頭も切れる。だけどあんた、なにか大事なもんが一本抜けてんな」
サルと小峰のコンビが中年男を探す糸口をつかもうと苦心するあたりが、良い。予定調和の結末だが、切れの良い会話や、店舗の速いストーリー展開が心地よい。

 

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0410.深追い

2003年07月26日 | 警察小説
深追い
読 了 日 2003/07/26
著    者 横山秀夫
出 版 社 実業之日本社
形    態 単行本
ページ数 312
発 行 日 2003/01/05
ISBN 4-408-53430-7

 

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階建ての庁舎周りに署長、次長の官舎、さらに署員用の家族宿舎、独身寮が固まっているところから、警察署員が「三つ鐘村」と呼ぶ三つ鐘署。その三つ鐘署を舞台に、そこで働く刑事たちの物語である。
自転車で帰宅途中のサラリーマンが、車道によろけ通りかかった4屯トラックに撥ねられて即死した。死んだ会社員の手帳に挟んであった妻と思しき写真の女性に、秋葉は見覚えがあった。小中学校時代の同級生、綾瀬明子だ。事故で死んだ高田の妻・明子は一時三つ鐘署捜査主任秋葉と心を通わせた相手だった。秋葉の明子への思いが、明子を思わぬ方向へと向かわせる。(表題作・深追い)
他に、三つ鐘署刑事課・鑑識係三枝は、幼い頃海で溺れかけたところを、二人の大学生に助けられるが、そのうちの一人、小西和彦は高波にのまれて死亡した。それからというもの、年に1回三枝は小西の両親の家に行き一泊してその両親と過ごすことが決まりとなっていた。(又聞き)など、全7編の短編集。筆者曰く、「愛」と「毒」のある警察小説を書きたかったそうだ

 

 

初出誌
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 深追い 週間小説 99年3月19日号
2 又聞き 週間小説 01年6月8日号
3 引き継ぎ 週間小説 99年11月26日号
4 訳あり 週間小説 00年7月14日号
5 締め出し 週間小説 00年10月27日号
6 仕返し J-novel 02年8月号
7 人ごと 週間小説 01年12月28日号

 

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0409.卍の殺人

2003年07月24日 | 本格
卍の殺人
読了日 2003/7/24
著 者 今邑彩
出版社 東京創元社
形 態 単行本
ページ数 268
発行日 1989/11/20
ISBN 4-488-02323-1

 

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2月に読んだ「金雀枝荘の殺人」(338.参照)が面白く読めたので、著者のデビュー作を読もうと思った。
東京創元社の「鮎川哲也と13の謎」という企画で、一般公募の13番目の椅子を獲得した作品である。12人の既成作家の作品と一般から公募して13編目を選ぶという方式は、その昔、講談社で刊行された「書き下ろし探偵小説全集」で行われた方式と同じで、そのとき一般公募に応募して選ばれたのが鮎川哲也氏の「黒いトランク」(307.参照)である。
小遣いに不自由する高校生だったその当時の僕にとって、この講談社の「書き下ろし探偵小説全集」は思い出深く、全巻揃えるのは到底無理だったが、何とか小遣いをやりくりしながら高木彬光氏の「人形はなぜ殺される」(200.参照)とか、島田一男氏の「上を見るな」(80.参照)、江戸川乱歩氏の「十字路」(221.参照)などを買ったことを思い出す。勿論「黒いトランク」も手に入れた。金ぴかの装丁に、黒い箱入りの全集を手にするだけで、胸が躍ったものだ。

話が横道にそれたが、本書の内容は、語り手の「私」こと脚本家の萩原亮子が、恋人のイラストレーター・安東匠の故郷、山梨県の実家へ同行することになるのだが、彼女を迎えたのは殺人事件だった。
匠の実家は、ワインの醸造も手がける資産家で、彼は安東家の当主・安東いつの長女・祝子の養子だった。家を出て東京でイラストレーターとして暮らしている匠に、最近になって当主のいつから、家に帰り従妹の布施宵子と結婚し、家業を手伝わないなら養子縁組を解消する、と言ってきたのだ。
「私」と匠が屋敷に着いたその晩、従姉の布施品子とその夫隆広が殺されるという事件が起きた。屋敷は卍の形で建てられており、安東家と、布施家-当主いつの二人の娘の家族-の二家族が住んでいた。館物独特のトリックが仕掛けられているが、人物像が良く描かれており、デビュー作らしい力作という感じだ。




0408.スリーピング・マーダー

2003年07月20日 | 本格
スリーピング・マーダー
SLEEPING MURDER
読了日 2003/7/20
著 者 アガサ・クリスティ
Agatha Christie
訳 者 綾川梓
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 348
発行日 1998/11/15
ISBN 4-15-070085-0

 

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ミス・マープルシリーズの長編は、英BBCテレビで、ジョーン・ヒクソン主演で制作されたドラマ12本を先に見ている。若い頃クリスティ女史の作品は全然読まなかった。ドラマの方は、録画したビデオを今でもたまに見返しているが、実に良く出来ており、本書を読んで原作に忠実に作られていることが判った。以前読んだ「復讐の女神(Nemesis)」(51.参照)では多少設定の違いはあるものの、ドラマの質としては一級品だろう。
この「スリーピング・マーダー」は著者が亡くなった年(1976年)に発表された作品だが、書かれたのはそれより30年も前のことだそうだ。この作品の形式は〈回想の殺人〉と呼ばれるそうだが、この形式を著者は、「五匹の子」(アメリカ版はMurder in Retrospect=回想の中の殺人)」で確立したといわれている。
タイトルの示す通り、眠っていた殺人事件を、結婚間もない若妻グエンダが掘り起こしてしまうというストーリーで、僕はドラマ共々「復讐の女神」に並んで好きな作品である。

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新しい家を見つけて引越しをする予定のグエンダが、偶然見つけた家の中で繰り返し既視感に襲われる所がドラマでも良く描かれていた。わが国の作品でもこうした形式の作品があり、昨年6月に読んだ、佐々木俊介氏の「繭の夏」(236.参照)がそうだった。
今回本書を読んで、ようやく本家本元の味わいを堪能した。

 


0407.波の上の魔術師

2003年07月18日 | サスペンス
波の上の魔術師
読 了 日 2003/09/24
著  者 石田衣良
出 版 社 文藝春秋
形  態 単行本
ページ数 252
発 行 日 2001/08/30
ISBN 4-16-320280-3

 

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戸則道は大学を卒業したものの就職口の当てもなく、もう一年父親に仕送りを頼みその間パチプロまがいの生活をしている。
あるとき行きつけのパチンコ店、コスモスの店長に「会わせたい人が居る」と、近くの喫茶店に引っ張って行かれた。そこには、先日パチンコ店の前で外宣車の右翼に頭を下げさせた老人が居た。その老人は、小塚泰造という相場師で、白戸をアルバイトとして雇いたいという。
一日1万円、月25万で、という老人に、切りよく30万でという則道の条件が飲まれ、パチンコよりも割りが良いので引き受ける。それからは、経済新聞を隅から隅まで読む毎日が続くこととなった。
老人に相場師となる訓練が施され、白戸則道が相場師への道を歩む過程がテンポの速いストーリー展開で描かれる。

 

 

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0406.第三の時効

2003年07月16日 | 警察小説
第三の時効
読 了 日 2003/07/16
著  者 横山秀夫
出 版 社 文藝春秋
形  態 単行本
ページ数 328
発 行 日 2003/02/25
ISBN 4-08-774630-5

 

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津市のBOOKOFFでたまたま目に付き、安かったので買ってきた。警察小説だが、前に読んだ「陰の季節」(389.参照)や「動機」(390.参照)とは違い、こちらは刑事たちの捜査活動が描かれている。F県警本部捜査一課が担当した事件が6件の連作ミステリー。
それぞれ緊迫した捜査の模様が描かれてサスペンスを煽るが、中でも表題作の「第三の時効」が秀逸。

タクシー運転手殺害事件の発生から丸15年の時効を前にF県警本部強行班捜査係の面々は逃亡中の容疑者・武内からの連絡を見込んで、被害者宅に詰めていた。
15年前、タケウチ電器店の武内利春は本間宅へエアコンの取り付けに来て、幼馴染だった本間ゆき絵を犯した。そこへ帰宅したゆき絵の夫・本間敦志と争いになり、武内は敦志をナイフで刺した。というのがゆき絵の申し立てたことである。武内は事件後台湾へ7日間渡航していた。海外に出ていた間は時効が停止される為、本来時効は丸15年が第一の時効とすると、第二の時効、丸15年と7日が武内の時効となる。はたして、タイトルの第三の時効とは?

 

 

他にパチンコ店の現金集配者を狙った強盗殺人の被疑者が公判廷で、全面的に自供を翻しアリバイを主張する「沈黙のアリバイ」。
主婦殺し、証券マン焼殺事件、そして調理師殺しと立て続けに発生した三つの殺しを巡って、捜査一課を仕切る課長の田畑と各班長、勇退を直前に控えた刑事の思惑が交錯する「囚人のジレンマ」。
マンションに入った容疑者が密室状態の見張りの包囲陣から消えてしまい、第一課強行班捜査三係と応援の暴力対策課の睨み合う会議は結論の出ないまま長引く・・・「密室の抜け穴」等々。ドラマチックなストーリーが続く。

TBSの月曜ミステリー枠で横山英夫サスペンスとしてシリーズ化されているドラマがあるが、本書の中からも表題作の「第三の時効」や「密室の抜け穴」がそれぞれドラマになっている。
2月に放送された「第三の時効」では、公安あがりの楠見班長を演じた段田安則氏の熱演が全体を引き締めており、印象深いドラマに仕上がっていた。

 

 

初出誌(小説すばる)
# タイトル 発行月・号
1 沈黙のアリバイ 2001年9月号
2 第三の時効 2002年2月号
3 囚人のジレンマ 2002年4月号
4 密室の抜け穴 2002年7月号
5 ペルソナの微笑 2002年9月号
6 モノクロームの反転 2002年11月号

 

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0405.狐闇

2003年07月13日 | 骨董
狐闇
読了日 2003/07/13
著 者 北森鴻
出版社 講談社
形 態 単行本
ページ数 418
発行日 2002/05/30
ISBN 4-06-264854-7

 

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リーズ の長編第2作。宇佐美陶子は、顧客のスーパーマーケットチェーンのオーナー須田鹿之助からの依頼もあり、平塚市で開かれ た骨董市で海獣葡萄鏡二面を競り落とした。せりにはちょっとした邪魔が入り予定していたより高い出費になってしまった が、帰宅して箱を開けると一枚が“三角縁神獣鏡”と入れ替わっていた。そして、「品物が手違いで入れ替わったので買い戻 したい」という電話が入る。
国宝級の“三角縁神獣鏡”を手にした陶子は、手離したくなく、しかし、それが元で骨董商の資格まで無くすことになると は考えてもいなかった。だが、滝と名乗る考古学者からそれがレプリカであることを指摘される。事件は盗掘問題、更には 殺人事件にまで発展する・・・。
ちょっとした手違いから、骨董商の資格まで剥奪され、その上、命の危険にまでさらされる宇佐美陶子の危機的状況がサス ペンスいっぱいに描かれる。
作中、孔雀狂想曲(400.参照)で登場した「雅蘭堂」の店主・腰名集治、民俗学者で東敬大学助教授の蓮丈那智(340.参照)ら が顔を出す。こうしたほかの作品の主人公たちが顔を揃えるという珍しいストーリーとなっているが、それが少しも不自然 でなく関連させているので、いっそう面白く感じる。

 

 

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0404.事件当夜は雨

2003年07月11日 | ハードボイルド
事件当夜は雨
THAT NIGHT IT RAINED
読了日 2003/07/11
著 者 ヒラリー・ウォー
HILLARY WAUGH
訳 者 吉田誠一
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 309
発行日 2000/05/19
ISBN 4-488-15203-1

 

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ラマのナレーションのようなタイトルがちょっと気になっていた。元のタイトルとは違うタイトルを訳者が付けたのかと思ったら、そうではないようだ。
このアメリカの作家について僕はまったく知らなかったのだが、紹介されている他の作品にも「失踪当時の服装は」などというタイトルが付けられていて、面白いなと思っていたら、どうも意訳くさい?
写真は帯がついてない状態だが、買ったときには、帯がついており、「宮部みゆきのオールタイムベストテン」という惹句が書かれていた。どっちかいうと、僕はそっちに引かれたのかもしれない。

 

ストーリーは、土砂降りの雨の夜、果樹園主を訪れたその男は、「お前に50ドルの貸しがある」と、言い放つやいきなり銃を発砲した。コネティカット州の小さな町ストックフォードで起きた奇怪な事件。
フェローズ署長は手がかりを求めて捜索するが、手がかりと思われるものが次々違うことが判る。霧の中を手探りで歩くような空しい捜査が続く。
本の内容とは直接関係ないが、冒頭の事件発生時の模様が、昨年10月にテレビ東京で放送されたドラマ「家紋」の雪の夜を思い出させる。 このドラマは、松本清張氏の「死の枝」(残念ながら未読)を基にしたもので、清張氏の没後10年特別企画として作られた。岸本加世子、吹越満氏らの出演でミステリードラマとしては良く出来ていた。
さて本書も、事件発生から警察の丹念な捜査にもかかわらず謎が謎のままで進んでいくところが、なんとももどかしい思いがするが、どう解明されていくのだろうかという興味を持続させながら引っ張っていく。

 

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0403.顔のない男

2003年07月09日 | サスペンス
顔のない男
読 了 日 2003/07/09
著  者 北森鴻
出 版 社 講談社
形  態 単行本
ページ数 262
発 行 日 2000/10/30
ISBN 4-06-319640-4

 

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世田谷区砧浄水場近くの緑地公園で発見された全身打撲による骨折死体。空木精作という男だとわかったが、周辺住民とも接触はなく、交友関係も、女性関係も皆無で実態がつかめなかった。
という幕開きで始まる本作は、七つのエピソードからなる連作の形をとった長編ミステリー。一話ずつ一応完結しており、次第に男の顔が見えてくるのだが・・。
事件を捜査する原口、又吉の両刑事が男の家で奇妙なノートを発見する。それは、空木が探偵のような仕事をしていたらしいメモの書かれたノートだった。関係のないような一つ一つのエピソードが最後に収斂されていく。

 

収録作
# タイトル
第一話 真実情報
第二話 隠語研究
第三話 堕天使考
第四話 変貌要因
第五話 赤色凶器
第六話 遠景接写
第七話 仮面幻戯

 

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0402.粘土の犬

2003年07月07日 | 短編集
粘土の犬
読 了 日 2003/07/07
著  者 仁木悦子
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 211
発 行 日 1977/03/15
分類番号 0193-360629-2253

 

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前に、平岩弓枝氏のミステリーに嵌って、映像的なストーリーからどのくらいTVドラマになっているのか調べて、データベースを作ってみようと思い立った。
ネットで見たり、図書館へ通って調べたりして、1ヶ月ほど掛けて、アクセスで一応のデータベースを作成した。ドラマはかなりの数に上ったが、何しろ古いものが多く、再放送も望むべくもなく見ることは諦めていたが、ある時スカパーのドラマ専門チャンネルで、たまにそうした古いドラマを放送していることを知った。


そんな折に見たのが、「記憶の復讐」というドラマで、原作がこの本のタイトルになっている「粘土の犬」だとわかる。仁木氏の作品は結構ドラマ化されており、本書に含まれている「かあちゃんは犯人じゃない」も、それより前にドラマとなっている。
「粘土の犬」は、本書の最後に収録されているが、タイトルにもなっている好短編だ。
会社の金で行った投資に失敗し、焦げ付きを作った男が交際していた子持ちの若い未亡人の金に目をつける。洋装店を開くための資金として積み立てている金だった。そして、彼はこの未亡人を殺害する。と、この作品は倒叙ミステリーの形をとっている。犯人は誰か?ということでなく、どのように犯人にたどり着くのかというのが謎解きの興味となるわけだ。
犯行の方法や犯人が最初からわかっているという形式のミステリーを倒叙形式と呼んでいるが、この倒叙形式を一般に馴染み深くしたのは、なんと言っても、テレビドラマの「刑事コロンボ」だろう。一つには、倒叙形式は映像表現に非常に向いている形式だということだ。犯人は誰かという、いわゆる本格ミステリーのフーダニット(誰がそれを行ったか?Who (Had) Done It?を省略した言葉)は、ドラマや映画だと、キャスティングで想像がついてしまうという欠点がある。だから、ドラマなどには、倒叙形式の方が適していると思われる。
もう一つドラマになっている「かあちゃんは犯人じゃない」では、11歳の少年の父親-といっても母の再婚相手で継父だが―が殺される。そして少年の母親が容疑者として連行された。一人になった少年は、同級生の家にその間引き取られることになる。同級生の父親は警官だ。少年の一人称で語られる本作は、純真な少年の目が真相に迫る描写がすばらしい。1988年に乱歩賞作家サスペンスというシリーズの中でドラマ化された。今は芸能界から引退したのか?テレビで顔を見なくなった歌手で俳優のちあきなおみ氏の主演で、割りと良く出来たドラマだった。
この他に、おなじみの仁木雄太郎、悦子兄妹のシリーズ3篇も収録されている。

 

 

収録作一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 かあちゃんは犯人じゃない 宝石 1958年2月号
2 灰色の手袋 宝石 1958年3月号
3 黄色い花 宝石 1957年7月号
4 弾丸は飛び出した 宝石 1958年4月号
5 粘土の犬 宝石 1957年11月号

 

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