隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1625.東京バンドワゴン ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード

2016年05月11日 | ホームドラマ
ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード
東京バンドワゴン
読 了 日 2016/05/11
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 300
発 行 日 2016/04/30
ISBN 978-4-08-775429-2

 

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の前が真っ暗、とか頭の中が真っ白と言った言葉は、小説やドラマの中ではよく目にしたり聞いたりするが、自分がそうした状況に置かれるとは考えていなかった。すべてのデータファイルを外付けのHDDに記録していたのに、うっかりミスからHDDをフォーマットしてしまったのだ。
このブログの元となるWordのファイル、ブログのHTMLデータを納めたメモ帳のファイルなど、とにかくすべてのデータを失ってしまった。何十年もの間パソコンと付き合ってきたのに、基礎中の基礎といった事を怠っていたことへの、報いか、罰か?
データ復旧ソフトを使っての復旧はうまくゆかないので、仕方なく今日HDDを専門の業者に送って、見積もりを取ることにした。どの程度の費用が掛かるか分からないが、膨大なデータが復旧するのなら、かかる費用に目をつむるしかない。
そんな中落ち着いて本を読むことなどできないと思ったが、元来の楽天的な性格から読書はまた別のことで、結構面白く読めるから不思議なものだ。

 

 

またこのシリーズの季節がやって来た。毎年4月末に新作が出て、2作前のシリーズが文庫化されるという恒例の行事が何年か続いている。本書でもう11冊目となる。昭和のテレビ全盛時代を彷彿させる、下町のドラマは多くの読者を懐かしい世界へといざなう。
第1作がこの世に出たのは、2009年で、僕が読んだのはそれから2年ほど後の2011年だった。その1作で僕はシリーズの虜になって、延々と読み続けることになったのだが、昭和14年生まれの僕は幼い頃、東京の駒形で育ったから、どこかにその記憶が残っていて、余計に作品の舞台や登場人物たちの会話が、懐かしく感じられるのかもしれない。
そうは言っても舞台は下町だが、時代は現代で見合った人の流れや、起こる事件は様々だ。今回はスパイ活劇そのものと言ったエピソードで、堀田勘一がロンドンへと飛ぶことにもなるのが面白い。

 

 

のシリーズの魅力の一つは、この世の人ではなくなった堀田サチの語り口にもある。まるでその場にいるような気にもさせるところは、シリーズを通しての売り物だろう。 こんな単行本の新作を買うほど僕には余裕はないのだが、この日のためにとっておいた、ヨドバシカメラのポイントが役立った。

 

収録作
# タイトル
花も嵐も実のなる方へ
チャーリング・クロス街の夜は更けて
本を継ぐもの味なもの
ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード

 

 

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1405.東京バンドワゴン フロム・ミー・トゥー・ユー

2013年10月31日 | ホームドラマ
フロム・ミー・トゥ・ユー
東京バンドワゴン
読 了 日 2013/10/11
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 307
発 行 日 2013/04/30
ISBN 978-4-08-771510-1/td>

 

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年4月末に刊行されている「東京バンドワゴン」のシリーズも8冊目となった。
下町に昔ながらの古書店「東京バンドワゴン」を経営する堀田家の大家族の日常を描くこのシリーズは、今では失われつつある、昭和の匂いを色濃く残すエピソードの積み重ねで、心地よい空間をかもし出してきた。
科学技術の発達は、便利で暮らしやすい世の中を作ってきた反面、人の繋がりや人情の機微などという、昔から培ってきた人としての大切なものをなくしてしまっているような気もする。 西岸良平氏の「三丁目の夕日」が映画化され、多くの人々の共感を得ているのは、そうした我々が亡くしてしまったものを、懐かしむ心境だろうか?
この「東京バンドワゴン」シリーズも、下町の風景や大家族の古書店を中心とした、そこに暮らす人々の交流を描いて、多くのファンを獲得している。そして、そのファンの要望が高かった映像化がいよいよ現実のものとなって、(2013年)10月12日から日本テレビで放送が開始された。
キャスティングもスクリプトもまったく予想してなかったものだが、僕は素直に有るがままを受け入れることが出来た。それどころか、心地よくドラマを味わっている、といっていいだろう。

 

 

これを書いている現在(10月28日)もう、3回目の放送が終わった。録画したドラマを見ながら、此の小説を読み始めた頃を少しずつ思い返している。
正味45分程度の一話ではなかなか思うようには、話が進展しないが、すでに多くの内容を忘れてしまっている僕も、「ああ、こんなこともあったナ」と、懐かしさ?も蘇る。仏壇に堀田サチが姿をあらわす場面はまだないが、どういうシーンになるのか楽しみだ。
彼女の役は加賀まりこ氏でナレーションも担当している。その昔、六本木あたりを活動の場として、野獣会?と称したグループから次々と芸能界にデビューした中の一人が加賀まりこ氏だったと、記憶しているが何しろだいぶ昔のことだから、僕の記憶もあまり当てにはならない。
確かその中には亡くなった大原麗子氏もいたのではなかったか?
時の流れはある意味で残酷な一面をも見せるが、はじけるような若さを振りまいていたまりこ嬢がおばあさんの役を演じるなど、時代の変遷を感じる。

8冊目の本書も、タイトルはビートルズの曲名からだが、それが示すように登場人物一人ひとりが、東京バンドワゴンに関わるエピソードを語るという形式で、下表のように11話が収められている。

 

収録作
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 紺に交われば青くなる WEB文芸RENZABURO 2008年11月
2 散歩進んで意気上がる 書き下ろし  
3 忘れじの其の面影かな 書き下ろし  
4 愛の花咲くこともある WEB文芸RENZABURO 2009年1月
5 縁もたけなわ味なもの WEB文芸RENZABURO 2009年5月
6 野良猫ロックンロール 書き下ろし  
7 会うは同居の始めかな 「青春と読書」 2010年5月・6月号
8 研人とメリーの愛の歌 WEB文芸RENZABURO 2009年12月
9 言わぬも花の娘ごころ WEB文芸RENZABURO 2009年9月
10 包丁いっぽん相身互い 「青春と読書」 2010年3月・4月号
11 忘れものはなんですか 「小説すばる」 2010年8月号

 

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の記事は昨日(10月30日)に出す予定だったのが、録画した放送大学(地上デジタル121ch)のいくつかの講義を見ていて、忘れてしまった。
放送大学の番組表を見ていると、時には僕の興味をそそる授業があり、そうした講義を予約録画して昼間見るようにしている。
主にコンピュータ関係やデジタル情報に関連した講義は、高校でも劣等性だった僕には難しい内容もあるが、知識欲をくすぐるものがあって、出来るだけ見るようにしているのだ。本当は放送大学に申し込んで、勉強すればいいのだが、経済的な余力のない僕は無料の放送を見ることしか出来ない。だからテキストなしの講義は予習復習も出来ないので、大雑把な知識を得るだけで満足しなければならない。
それでも基本的なアルゴリズムや、デジタル処理に関する基礎知識を学ぶことが、アプリケーションの理解などに必ず役立つと思っており、生涯学習の一環として続けたい。

 


1252.東京バンドワゴン レディ・マドンナ

2012年05月19日 | ホームドラマ

 

レディ・マドンナ
東京バンドワゴン
読 了 日 2012/05/12
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 301
発 行 :日 2012/04/30
ISBN 978-4-08-775409-4

 

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京バンドワゴンシリーズも7冊目となった。かつてNHKBSで放送されていた書評番組「週刊ブックレビュー」で何方かが紹介していた東京バンドワゴンというタイトルを忘れないようにとメモしておいたのはいいが、どんな内容だったかということはすっかり忘れており、まあメモしたんだからその時に興味があったのだろうと、ずっと後になって木更津市立図書館で見つけて読んだのが始まりだった。
といってもそんなに前のことではなく、昨年(2011年)11月初めのことだ。それから1か月余りで既刊の6作全部を読み終わってしまって、毎年4月末に新刊が出るというのを待ちかねていた。ノスタルジックな思いを蘇らせるような雰囲気を醸し出しているこのシリーズは、昭和初期の生れである僕を捕まえて離さない。

 

 

物も金もなく、決して豊かではなかった子供の頃を思い起こさせて、失われてしまった何かを見せつけられるような気にさせる。歳をとると昔(過去)のことを思い出す、とはよく言われることだが、僕は最近時々子供の頃育った家で、家族がそろっているところを夢に見る。
和裁職人だった明治生まれの厳しい父が亡くなってから、10年近くたつが夢の中ではまだ若く、笑顔を見せており、目覚めた僕は貧しいながらも楽しかったことばかりの思い出が胸を打つ。
夢と言えば(また話がそれてしまう)、近頃は少なくなったが、以前には同じ景色の夢を繰り返し見ることが多かった。現実のありようとはほんの少し違ってはいるが、何度も夢に現れるから、僕はその景色の中の道を知っていたり、店をよく訪れたりするのだ。
そして目覚めては、またその景色の場所に行ってみたいという、思いを強くするのだが、もしかしたら現実の世界への欲求不満とか?心理学的に言えばそんな判断がされるのかも・・・・。

 

のシリーズ作品で描かれる下町の世界も、まだどこかにあるのだということを、強く信じさせるものがあって、惹かれるところだ。いや、東京バンドワゴンのような古書店が実世界でもあってほしいという欲求がわく。
昔、小学館から出ているコミック誌「ビッグコミック・オリジナル」に連載されていた(今も連載されているのかな?)西岸良平氏の「夕焼けの詩―三丁目の夕日」が、昭和30年代の下町の様子が描かれて、後に映画化もされて評判となった。そうした現象は、何も僕が歳を取ったこととはかかわりなく、年配の読者の郷愁の思いを、若い読者には今では失われてしまった何かを見つけ出させるといったことを、生じさせているのだろうか?
今回も、それほど重大な事件が起こるわけではないものの、堀田家やそこに関わる人たちの周辺で発生するミステリアスな事柄が、季節ごとに語られる。僕は、毎回定番のように描写される、堀田家の家族そろっての食事(主として朝食)の場面が好きだ。 各々飛び出すセリフが入り乱れて、組合せパズルのような様相を示して、何ともにぎやかで微笑ましい。今のように核家族化が進む前の大家族の元では、日常茶飯事だったことがここからも懐かしく思い起こされる。

ゆったりと流れる大河のような物語の流れは、しかし少しずつではあるが確実に変化を見せて、人々は歳を取っていく。80歳を超えた当主・堀田勘一の健康が気になるところだが、今の調子では語り手を務めるサチが言うように、曾孫のかんな、鈴花が嫁入りするまで、長生きをすることを願おうか。

 

収録作
# タイトル
雪やこんこあなたに逢えた
鳶がくるりと鷹産んだ
思い出は風に吹かれて
レディ・マドンナ

 

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1210.東京バンドワゴン オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ

2011年12月14日 | ホームドラマ
オブ・ラ・ディ・オブ・ラ・ダ
東京バンドワゴン
読 了 日 2011/11/16
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 302
発 行 :日 2011/04/30
ISBN 978-4-08-775400-1

 

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5作の「オール・マイ・ラビング」と一緒に図書館で借りて読んでしまった。読んでしまった、という言い方はおかしいが、前にも書いたように最新作の本書はもう少し後で読もうかと思っていたのだが、幸か不幸か長いこと貸し出し中だったのが、第5作を借りようと図書館に寄った際に返ってきていたから、思わず2冊とも借りてきてしまったのだ。
それでも2冊続けて読みたいところを我慢して、間に1冊入れてから読んだ。
この続きが来年の4月末だそうだから、その近くになったら読もうと思っていたのだが、考えてみればその先はまた1年待つことになるのだ。僕のように遅れてきた読者は、それだって6作目までは待たずに読めたのだから、それだけでも十分満足すべきかもしれない。

 

 

おなじみの堀田サチによる前口上は、季節の移ろいなど織り込みながらの名調子で、下町の昔ながらの風情が語られて心地よい。毎回4つの連作に託して描かれる四季折々の堀田家の日常は、同じようでいながら変化に富んだ成り行きを見せる。
なんで僕はそんなに引き付けられるのだろうと、毎回思うのだがやはり個性的な人々の生活の中で感じられる、易しさとか我南人風に言えばLOVEなのかなあ。ここに登場する人たちは、欲がないというか物に執着しない、というところも好ましく思えるのか。 金さえ出せば何でも手に入る世の中で、堀田家にはエアコンもなければ、テレビだって1台しかなくて、たまに子供がみてるくらいなのだ。そういえば誰一人携帯電話も持っていないのではないだろうか。
それだって何不自由なく楽しく暮らせるのだが、一度手に入れた便利さや豊かさから人はなかなか抜け出せないものだ。しかし、本書を読んでいると、本当の豊かさとはなんだろうと考えさせられるのだ。

 

 

し話がずれるが、タイトルはこれも他の巻でも使われている、ビートルズのポール・マッカートニーの曲だ。
ナイジェリアの言葉で「人生は続く(英語でLife Goes On)」という意味だそうで、マッカートニーが作曲した際はそうした意味を込めて作ったようだ。しかし、聞くところによれば、ナイジェリアにはそんな言葉はないということらしい。
まあ、どっちでもいいのだが、本シリーズを読み続けてきて、毎回このタイトル込められたという“Life Goes On(人生は続く)”にふさわしい展開を見せて、本当にずっと続けてほしいという思いが強くなるのだ。
今回、収録作タイトルをメモしておかなかったことに気付かず、図書館に反してしまった。また後で、図書館で見たときに追加することにしよう。

 

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1208.東京バンドワゴン オール・マイ・ラビング

2011年12月08日 | ホームドラマ
オール・マイ・ラビング
東京バンドワゴン
読 了 日 2011/11/13
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 301
発 行 :日 2010/04/30
ISBN 978-4-08-771350-3

 

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京バンドワゴンの5作目を図書館で借りてきた。来年(2012年)4月末に7作目が出るようなので、その近くまで待ってから5作目と6作目を読もうかとも思ったが、待ちきれずに借りてきてしまった。(この巻と次の第6作はまだ文庫になっていないから、図書館の単行本を借りることにしていた)
このシリーズは最初の東京バンドワゴンが発表された2006年から、1年1作の割で毎年発表されてきたということで、この第5作目は昨年(2010年)の発行となっている。実は本書と一緒に今年(2011年)の4月に出たばかりの第6作「オブ・ラ・ディ・オブ・ラダ」も借りてきたのだ。
少し前までは貸し出し中になっていたのだが11月12日に図書館に行ったら、返ってきていたのでつい嬉しくなって、2冊とも借りてきてしまった。しかし今(11月13日)本書を読み終わって、続けて読もうかどうしようかと迷っている。図書館への返還期限(11月26日)はまだ先だから1冊か2冊、間に入れて読むことにしよう。

 

 

このシリーズは毎回1年を四季に分けて物語が語られる形式となっている。そして、1作ごとに当然のことのように登場人物たちも一つずつ歳をとっていくのだ。なんだかその辺がリアルタイムで、一緒に暮らしているかのごとき錯覚を起こす。
このさわがしい楽園(これは1978年にTBS系列で放送された連続ドラマ「人間の証明」の挿入歌に使われた歌のタイトルでもある。ハスキーな歌手りりいさんの歌唱が素晴らしく、僕は今でも時々思い出したように聴いている)に身を置いている時が、僕の至福の時でもあるのだ。
毎度のことながら、巻頭は今は亡き堀田サチによる大家族・堀田家の紹介に始まる。10ページ足らずの中で、要領よく家族を一人ずつ簡単な略歴までも添えて、紹介しながら家族の成り立ちまでも語っていく。このイントロ部分を読んでいるだけで、堀田サチの暖かな目線を感じて、心を洗われるような気がしてくるのだ。

 

 

1作の「東京バンドワゴン」を図書館で借りて読んだ時には気付かなかったが、この第5作も図書館の本だがまだ新しいせいか、紫の立派な紐(この紐には名前があったが度忘れした)がついており、単行本も良いなと思い、一瞬単行本を揃えてみようかなどと不届きな考えがよぎる。「ぜいたくは敵だ!」なんてことが戦時中言われていたな。
もちろん、思うだけだ。そんな経済的な余裕はこれっぽっちもない。
昔読んだ本の中だったか、「あまり人を好きになりすぎてはいけませんよ。別れがつらくなるから。」というようなセリフがあった。ドラマだったかな?シリーズ作品に入れ込むのは、パトリシア・コーンウェル女史の「検屍官」以来か、このドラマが終わるときのことを考えただけでも寂しくなる近頃である。

 

収録作
# タイトル
あなたの笑顔は縁二つ
さよなら三角また会う日まで
背で泣いてる師走かな
オール・マイ・ラビング

 

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1204.東京バンドワゴン4 マイ・ブルー・ヘブン

2011年11月26日 | ホームドラマ

 

マイ・ブルー・ヘブン
東京バンドワゴン
読 了 日 2011/11/07
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 文庫
ページ数 365
発 行 :日 2011/04/25
ISBN 978-4-08-746686-7

 

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リーズ4作目は番外編とでもいおうか?いや、番外編は違うかな、年代がちょっと遡って、古書店・東京バンドワゴンの戦後混乱期編である。堀田家はまだ現在の当主勘一の時代にはなっておらず、その父親の堀田草平が当主であった時代だ。堀田家2代目の当主である。
若い人にはピンと来ないだろうが、タイトルからして戦後の昭和の時代が彷彿とするだろう。マイ・ブルー・ヘブン、私の青空はその頃は大いに流行った歌。僕にとってはタイトルを聞いただけで涙が出てきそうなほど懐かしい歌だ。
東京大空襲で焼け出されて、当時住んでいた駒形の借家から28歳の母親は2歳だった弟を背に、6歳の僕の手を引いて、命からがら近くの隅田公園に避難した後、元の場所へ帰ってみれば、家など跡形もなく一面焼け野原と化していた。父親が戦地(中国のアモイ)へと召集されていたから、若い母は大変だっただろう。
茨城県の牛久町(現在は牛久市)にある母の実家に疎開して、終戦まで過ごす間何度となく空襲警報のサイレンを聞くことになり、後に僕は長い間そのサイレン恐怖症となる。
そうした幼児体験の後、貧しいながら平和な時代がやってきて、こうした歌を聴くことになるのだ。

 

 

本書はまだ敗戦国のみじめさを残した時代から、10数年の間の物語で、シリーズの語り手である堀田サチが(当時は五条辻佐智子といった)、堀田勘一と夫婦となり長男・我南人が生まれて、高校生となるくらいまでが描かれる。
戦時中は敵国の歌ということで禁止されていたジャズが聞こえ始めて、勘一たちの即席編成バンドが大活躍をすることになるのだが、即席とはいってもそれぞれのパートを受け持つプレーヤーたちは、皆一流の腕を持っており、中でもヴォーカルのマリアは名の売れたジャズ・シンガーだ。
そんなストーリーを読んでいると、一昔前に(いや、一昔というのは言葉のあやで、実際には半世紀も前か)進駐軍のキャンプで歌って、その後プロ歌手になった実在の芸能人たち(何人もいたはずだ)を思い出したり、華やかなスイングの音色が聞こえてくるような錯覚を起こすほどだ。もっともこれを読みながら、NHK教育テレビのN響アワーを画面を見ずに音だけ聴いており、オペラの序曲集をやっていて、ヨハン・シュトラウスの歌劇「こうもり」のリズミカルな音楽を聴いていたせいもあるのだろう。
本書がシリーズの他の巻と一線を画すところは、一つの事件の展開を追って東京バンドワゴンと、それを取り巻く面々が協力して、収束に向かうという長編小説になっているところである。

 

 

のシリーズに登場する個性あふれるメンバーたちには、一人一人にドラマがあったことを想像させるところがあるということを、前に書いたがその一部が本書によって明らかにされることも読みどころの一つで、たぶんさらに続くストーリーの中でも、追々そうしたエピソードが描かれるのではないかと期待している。
僕のようにそうした時代をリアルタイムに生きてきた人間には、ノスタルジーだけではない何かを感じさせて、物があふれて比べようのないほどの豊かな?現代とは違った、幸せ感を味あわせてくれる。
それは堀田我南人(ここに登場する60歳を超えたロックンローラー)の十八番(おはこ)のセリフではないが、
「やはりLOVEかなあ」

 

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1201.東京バンドワゴン3 スタンド・バイ・ミー

2011年11月17日 | ホームドラマ

 

スタンド・バイ・ミー
東京バンドワゴン
読 了 日 2011/11/01
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 文庫
ページ数 358
発 行 日 2010/04/25
ISBN 978-4-08-746557-0

 

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リーズ3冊目を読む。気に入った本が次々と読めるのは何より嬉しいものだ。それよりも自分の好みに合った本が見つかった時の方が、喜びは大きいのかな?
いずれにしても先月下旬から僕は至福の時を重ねているのである。それは読書以外に、ブログに書いた記事に適切なコメントを頂くことが、やはり先月下旬からずっと続いていることも喜びの一つとなっているからなのだ。
文面からは分からないが、多分まだお若い方だろうと思う。しかし、いろいろと話題の本などに関して詳しく、参考になる情報をもいただいている。こうしてブログを書いていて、やはり張り合いのあるのはコメントを頂いた時だ。このところ途切れているが、以前にはKAZUさんというハンドルネームの、広島の方からはよくいただいていた。
僕のような年寄りの書くブログに、コメントを寄せるのはある種の勇気のようなものが必要だと思うと、大変有難いことである。今後ともよろしくお願いします、いろいろ教えてください。

 

 

ようやく一つの区切りとなる1200冊を超えて、これから1300冊に向かって読み進めることになる。できれば好きなストーリーや、キャラクターたちに会えることを願っているが、そう簡単ではないのが世の常だ。そうした書物に出会った時に思いきり楽しむしかない。
さて、このシリーズは2006年に「東京バンドワゴン」が出てから、今年2011年までに毎年1冊ずつ発表されており、現在6作が出ている、ということは前にも書いた。それらが2―3年ごとに文庫化されており、今2009年の第4作目の「マイ・ブルー・ヘブン」までが文庫となっているので、4作目までを買い求めた。
自分の物にしてしまわないと、落ち着かないのは貧乏性の表れだ。人に言わせれば、金を持たない奴ほど無駄遣いをするのだという。僕の場合は全くその通りなので、何も言い返せない。しかしそんなことで幸せを感じられるのだから、安いものではないか。

 

 

のシリーズは舞台こそ老舗の古くからの建物をそのまま使っている古書店兼カフェだが、時代は現代なのだ。だが、現代でも昭和の人情味があふれる下町の風情がそのまま残っているようなところは、まるで30年ばかり時計を巻き戻したような感覚だ。
読んでいるうちに一昔もふた昔も前の時代の物語を読んでいるような錯覚を起こす。僕にとっては決して良い時代ではなかったのに、メイジセイカ(明治製菓)いやトシノセイカ(歳のせいか―つまらないおやじギャグを言ってしまった)最近そうした昔のことをよく思い出す。
少し脇道にそれるが、「刑事コロンボ」シリーズに「秒読みの殺人」というエピソードがあり、ファンの間では評価がいまいちだが、僕は好きな作品の一つだ。いろいろと印象に残るシーンは多い中で、主人公のケイと呼ばれるテレビ局のアシスタントディレクターが、夜、今は廃屋になっている昔自分の過ごした家で、思い出にふける場面がある。そこに現れたコロンボはケイに向かって「出世した今、昔を懐かしんでいるのかと思った」というのに対して、ケイは昔の貧乏生活を思い出していた、というのだ。
コロンボは、楽ではない暮らしだったが、いつでもいろんな人が出入りしていて、賑やかで楽しい暮らしだった、という旨を話す。それに対してケイは、ありのままを受け入れるコロンボの素直な性格をほめる。

僕は昔のことを思い出すといった時に、時々このコロンボのエピソードを思い起こして、その昔早く貧乏生活から抜け出したかったことなど、ちょっぴり苦い思い出を恥じたりするのだが、なんてことはない今でもその貧乏生活は相変わらずなので、可笑しい。

話が違う方向に飛んでしまったが、この「東京バンドワゴン」シリーズは、厳しかった昔の生活をすら懐かしく感じさせて、ビートルズの明るく楽しい歌声のような、心安らかにさせるホームドラマを見せてくれるのだ。

 

収録作
# タイトル
あなたのおなめなんて
冬に稲妻春遠からじ
研人とメリーちゃんの羊が笑う
スタンド・バイ・ミー

 

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1199.東京バンドワゴン2 シー・ラブズ・ユー

2011年11月11日 | ホームドラマ
シー・ラブズ・ユー
東京バンドワゴン
読 了 日 2011/10/29
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 文庫
ページ数 383
発 行 日 2009/04/25
ISBN 978-4-08-746424-5

 

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ートルズの歌声が聞こえてきそうなタイトルだが、前々回の「東京バンドワゴン」の第2弾である。
僕は原則として、読み終わった本はBOOKOFFに持っていくなり、あるいはNetに出品するなりして、処分するが、主として「安楽椅子探偵」型ミステリーや、特に気に入った本は文庫でとっておく。ミステリー文学賞で歴史のある江戸川乱歩賞受賞作は50冊以上になった。東京創元社のネット販売で手に入れた著者のサイン本などもその一つで、そちらは単行本だが、そのほかは限られたスペースの関係で文庫となる。
このシリーズもとっておきたくて、第1作から文庫で買っておこうとamazonに注文した。Amazonを利用したことのある人ならご存知のように、古書の安いものはいわゆる1円出品が数多くある。1円と言っても送料が定額の250円だから、251円ということになるのだが、それでも新刊で買うよりはずっと安く、古書と言ったって、ほとんど見てくれは新刊同様のきれいな本が送られてくることもある。
注文して2―3日で届くから手軽で、今までに僕は随分利用してきた。決済はクレジットカードである。
1、2巻は安かったので古書を、だが3、4巻は送料を含めると新刊とそれほど変わらないので新刊という具合に4巻まで買い揃えた。
できれば全部古書でいいのだが、3―4巻はまだ文庫になったばかりなので安くなっていないのだろう、仕方がない。

 

 

このシリーズを読み始めて、僕はよくばりだから探せば、まだまだ面白いシリーズがあるのではないかと思っている。その点でも、amazonというnet shopは関連本を勧めてくれるからありがたい。今回もいろいろと似たような本が挙げられているので、このシリーズを読み終わったら、さがして見ようと思っている。
と言ったところで、今回は堀田家の家族についてざっと書いてみようか。
先ず当主の堀田勘一は奥さんのサチを数年前76歳でに亡くしているが、もうじき80歳になるも、まだ元気溌剌で古書店を切り盛りしている。そして、その長男は我南人(がなと)というおかしな名前だが、60歳ながら頭髪を金髪に染めて長身、伝説のロッカーと呼ばれるミュージシャンで、時々はまだテレビに出たり、ライブを行ったりと現役である。
しかしこの男、若い頃からの放浪癖がいまだに治っていないようで、落ち着いて家にとどまることを知らず。秋実さんという今は亡き奥さんとの間に、紺(こん)、藍子という男女二人の子供がある。さらに愛人との間にできた青(あお)という男子を引き取っているのだ。男子と言っても、もう20代後半だ。その愛人について我南人は一切明かしていない。
そんな親に似たのか長女の藍子もシングルマザーで、花陽(かよ)という中学生になる女の子を設けているも、父親の名は誰にも明かしていないのだ。紺は亜美という奥さんがいるが、亜美は親の反対があったため、家を飛び出して、駆け落ち同然に紺のところへ来たのである。小学校高学年の男の子・研人がいる。
ざっと、4世代のメンバーを紹介したが、この他にご近所さんやら、常連さんやらが入り乱れて、毎回賑やかな様相が示されるのだ。

 

 

の家族には波瀾万丈の過去があるようだが、この後次第に明らかになっていくのではないかという予感を持たせる。まだ本書で2作目だから、回が進むにつれていろいろとわからなかった部分についても、明らかになっていくところはあたかも連続テレビドラマの味わいで、じっくりと読み進めたい。
僕にとって昭和の時代を彷彿とさせる群像劇は、金もなく物もなくといった厳しい時代を過ごしてきたにもかかわらず、過ぎ去った時代は何もかもが懐かしく、「東京バンドワゴン」の日々に入り浸ってしまうのだ。
多彩な登場人物一人一人にドラマがあり、それを紐解いていくだけでも壮大なストーリーが展開するのではないかと、6作もあるシリーズに心を躍らせる。

 

収録作
# タイトル
百科事典は赤ちゃんとともに
恋の沙汰も神頼み
幽霊の正体見たり夏休み
SHE LOVES YOU

 

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1197.東京バンドワゴン

2011年11月05日 | ホームドラマ
東京バンドワゴン
読 了 日 2011/10/25
著  者 小路幸也
出 版 社 集英社
形  態 単行本
ページ数 277
発 行 日 2006/04/30
ISBN 4-08-775361-1

 

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とめ買いした文庫の新刊を読み終えて、調べ物で寄った図書館で検索をして本書を見つけた。2006年の発刊だから新しい作品ではないが、先達て―と言っても9月か、それとも8月だったか?―NHKのBS放送で毎週土曜の朝6時からの番組「週刊ブックレビュー」のなかで、誰だったか忘れたがこの本を紹介していた際に、僕は何か気になってタイトルをメモしておいたのだ。
内容はすっかり記憶の底から漏れてしまったが、図書館で借りて帰ってから見たら、「東京バンドワゴン」とは古くからある古書店の名前だったことが分かって、メモした意味も思い出した。
このところ古書店を舞台にした心地よい作品をいくつか読んでいるので、古書店と聞いて食指が動いたのだ。後で図書館を覗くか、amazonで検索してみようと思って、タイトルだけ大急ぎでメモしておいたのだが、その内容をすっかり忘れていたのだから困ったものだ。

 

 

そんなこんなで、まとめ買いした最後の文庫である「きのうの世界」を読み終えて、記録を付ける間も惜しんで読み始めたのである。そんなことをしているとまた後で苦労するのだが、このところ読了日を見て分かるように、何冊か読んではまとめて記事を書くようにしているのだ。その、「後で書く」ということがあまり貯めこむと何を書いていいのか苦痛になってくるのだ。
そしては、小・中学校の時の作文の授業を思い出す。僕はこの作文が苦手で、先生は「自分が思ったこと、感じたことをそのまま書けばいいのですよ」というが、それがそう簡単ではないのだ。クラスの中にはそれはそれはうまい作文を書くやつもいて、ただただ感心するばかりであったことなど思い起こす。
今でもこうした僕の読書記録のようなブログで、プロ顔負けの立派な評論とも思えるものもあって、そういうのを見ると自己嫌悪に陥るから、なるたけ見ないようにしている。話が訳のわからない方向に行ってしまった。

 

 

て、著者の作品は「空を見上げる古い歌を口ずさむ」他3冊を読んでいるが、最後に読んだのが2006年だから、もう5年も前になるのか。3冊の内容はもうすっかり忘れたが、心癒されるような内容ではなかったかと、その位しか記憶に残ってない。
ところが本書を読み始めて、語り口からも、文体からも全く違うと感じて、驚く。なんとなれば本書の語り手は幽霊、と言ってしまうのはちょっと意味合いが違うかもしれない。先に書いたように「東京バンドワゴン」は今も昭和の匂いが色濃く残る下町の古書店だ。三代にわたって続く店は途中で、カフェを併設することになって、正面から見ると玄関口を挟んで右半分がカフェで、左半分が古書店という具合だ。
現在の当主は堀田勘一という80歳に手の届こうという年齢だが、まだかくしゃくとして古書店を切り盛りしている。サチという名の勘一の奥さんは数年前に76歳でこの世を去っている。だが、堀田家の行く末が心配なサチはこの世から立ち去りがたく、いまだこの家にとどまり、彼女が事の成り行きの語り手となっているというわけだ。
堀田家は当主の勘一をはじめとして、四世代にわたる11人もの個性的な面々が集う大家族である。大変な時期もあったのだが、今では勘一を中心にかつての時代がそうであったような、賑やかなれど暖かい家庭を形作っている。

 

 

僕も昭和の時代に50歳までどっぷりとつかってきた人間にとっては、堀田家の在り様が懐かしくて、登場人物たちの動きやセリフにじわじわと涙がわいてくるようだ。先代が毛筆で書いた堀田家の家訓(もうこの言葉さえ死語になっているのではないか?)がそっちこっちに張り出されており、その中の一つに《食事は家族そろって賑やかに行うべし》というのがあるように、朝の食卓の模様が実に愉快だ。
そっちこっちから飛び出す言葉は、こういう場面で誰と誰とが順序良く話すわけではないから、無差別に飛び交うセリフは、どれとどれとが結びつくのでしょうか?というクイズみたいだ。
笑いと涙、そしてミステリーまでと読書の楽しさを満喫した後、この単行本が2006年の刊行だから、もう文庫も出ているのではないかと思って、amazonを検索したら、なんと今年(2011年)までに全部で6作も出ていることにびっくり。調べてみると、この作品が発表された時に、書店員の間で大分評判になったようで、知らないというのは困ったものだ。
僕にとっては初めてのホームドラマ&ミステリーといったこの作品の、しばらくの間虜になりそうな予感。

 

収録作
# タイトル
百科事典はなぜ消える
お嫁さんはなぜ泣くの
犬とネズミとブローチと
愛こそすべて

 

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