隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0955.シャーロック・ホームズ殺人事件

2009年01月31日 | サスペンス
シャーロック・ホームズ殺人事件
MURDER,SHE WROTE  Murder of Sherlock Holmes
読了日 2009/1/31
著 者 ジェームズ・アンダースン
James Anderson
訳 者 高田恵子
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 322
発行日 1986/7/18
ISBN 4-488-22801-1

 

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・ミステリのVシリーズを半分(5作)読んだところで、瀬在丸紅子が年を経たらこんな感じになるのではないかと思ったのが、本書の主人公、ジェシカ・フレッチャーだ。そこで、森・ミステリをちょっと一休みして、ずっと以前に読んだ1冊を読み返してみることにした。
この作品は1986年の発行となっているが、本自体はその翌年の再版である。それでもNHKでドラマが放送される10年以上も前だった。この当時の僕は、このブログの中で何度も書いているが活字から遠ざかっていた時で、ミステリーもほとんど読んでいなかったのだが、たまたま書店の文庫棚で本書を見かけて、ミステリードラマに関心の向いていたこともあって、買い求め読んだのである。
アメリカで放送されていたドラマのノヴェライズで、ミス・マープルを髣髴させる主人公、ジェシカ・フレッチャーが魅力的に描写されており、まだ見ぬドラマへの憧れが募ったことを今でも思い出すことができる。
というのも、ドラマで主人公を演じているアンジェラ・ランズベリ女史(表紙の写真とイラスト)は前に映画「クリスタル殺人事件」(アガサ・クリスティ女史の「鏡は横にひび割れて」を元に英国で1980年に制作されたオールスター映画)で、ミス・マープルに扮して好演しているのを見ており、ドラマへの期待がなおさら高まったのである。

 

 

ところで、本書はドラマ「ジェシカおばさんの事件簿(原題は”MURDER,SHE WROTE” 彼女の書いた殺人事件)」のパイロット版として制作されたもののノヴェライズである。ジェシカ・フレッチャーが手慰みとして書いたミステリー原稿を、ニューヨークで公認会計士として働く甥のグラディが持ち出して、出版社に勤めるガールフレンドのキットに見せたことから、原稿は出版社社長のブレストンに渡り出版されることになるという発端から、ストーリーは展開される。

 

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ジェシカの書いたミステリー小説「死体は真夜中に踊った」がベストセラーに躍り出たことから、彼女はカボット・コーブ(架空の町:ドラマではキャボット・コーブと発音される)というメイン州の小さな港町からはるばるニューヨークに足を運ぶ仕儀となる。テレビ出演や記者のインタビューやら忙しいスケジュールをキットとともにこなす中、出版社社長のブレストンから招待された仮装パーティーで、思いもかけない事件が突発して、甥のグラディに会社の秘密書類の盗難と、果ては殺人事件の容疑がかかってしまう。邸のプールにシャーロック・ホームズの仮装をした男の銃殺死体が浮かんでいたのである。

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まぐるしい都会から早く静かな故郷のカボット・コーブに帰りたいと思っていたジェシカだが、甥に降りかかった容疑を晴らすためにニューヨーク滞在を引き伸ばすことになる。そして、怖いもの知らずと、おばさん特有の押しの強さを存分に発揮するジェシカの活躍が始まる。
今では、シリーズドラマをたくさん見た後だから、本を読んでいても主役のアンジェラ・ランズベリ女史の顔を思い浮かべながら、その動作までをもトレースできて、再びドラマを見返したくなってくる。
アメリカ本国では、このシリーズ・ドラマは12年にもわたって264本が制作されている。その他に2001年までに単発のTVムービーとして長尺ものが3本ほど作られている。それだけファンに支持されて、人気も高かったのだろう。わが国ではNHKで放送されたのが50本くらいだったろうか?
その後、CSのLaLaTVで、新シリーズが22本ほど、TVムービーが2本だったかが字幕版で放送されたが、それでも全体の半分にも満たない本数だ。DVD化もされていないから、未放送のシリーズも見たいと思っているファンは、僕のほかにも大勢いると思われるが今となっては望み薄か?

 

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0954.魔剣天翔

2009年01月28日 | 本格
魔剣天翔
読了日 2009/1/28
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 新書
ページ数 306
発行日 2000/9/5
ISBN 4-06-182145-8

 

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のタイトルを見て、僕はまだ読んでいないのだが、山田風太郎氏の「魔界転生」を思い浮かべた。その原作が元となって舞台や、映画にもなって多くの観客を魅了した。
だが、もちろん本書とは何の関係もなく、発音が似ていることから連想しただけだ。
こちらは十九世紀にイギリスで作られたという装飾美術品のエンジェル・マヌーヴァ(AngelManeuver:天使の演習?)と呼ばれる短剣を巡る話だ。柄に埋め込まれたエメラルドはさらに300年ほど昔に遡る由緒ある品で、エンジェル・マヌーバは時価数億円とも言われている。

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発端は、探偵の保呂草潤平がテレビなどで名の売れているジャーナリスト・各務亜樹良(かがみあきら:女性)から、仕事を依頼されたことにある。
このほどフランスから帰国した画家の関根朔太の手元にエンジェル・マヌーヴァがあるかどうかを探ってほしい、というのが依頼の内容だった。そもそも短剣は、関根朔太が結婚したフランス人の娘の父親の所有していたものだったのだが、彼女は関根と結婚する際に無断でそれを持ち出したらしい。彼女は関根との結婚後、女児を出産してすぐに亡くなったということで、結婚を認めていなかった娘の父親は、エンジェル・マヌーヴァを取り返したがっているらしい。
この辺の保呂草と依頼人のやり取りは、ハードボイルドタッチで、進むのだが、事件はまったく別の方面から発生する。

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根朔太の帰国と同時に、彼の親友で元レーサーの西崎勇輝の率いるアクロバット飛行チームも活動拠点のフランスから帰国したのである。彼のチームには関根朔太の娘・関根杏奈もパイロットとして加わっていた。奇しくも彼女は、阿漕荘に住む大学生・小鳥遊練無(たかなしねりな)とは高校時代に少林寺拳法のクラブで活動していた先輩だった。小鳥遊は杏奈からもらったアクロバット航空ショーの招待券を保呂草をはじめ瀬在丸紅子、香具山紫子そして森川素直らに分け与えて、一緒に航空ショーを見に行くことになった。
だが、保呂草は各務亜樹良から依頼された件で別の角度から航空ショーの会場へと赴くことになるのだが・・・。
そして、華やかなアクロバット飛行による航空ショーの最中、4機の軽飛行機のうちのリーダー西崎と取材のためにジャーナリスト各務亜樹良の同乗した1番機が、何らかのトラブルで森の中に墜落するという事故が発生する。

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ハードボイルドタッチから冒険小説風の筋運びに、ワクワクとした気分にさせられながら読み進み、最後には本格謎解きの醍醐味を味わえるというストーリーに堪能する。そうした謎を解明する今回の瀬在丸紅子はいつにも増して、魅力的で素敵だ。

 


0953.夢・出逢い・魔性

2009年01月25日 | 本格
夢・出逢い・魔性
読了日 2009/1/25
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 423
発行日 2003/7/15
ISBN 4-06-273806-6

 

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手なワープロの誤変換のようなタイトルが可笑しい。ちょっと関係のない話になるが、昔僕も何台かワープロ専用機を使っていたことがある。ずっとPC-8801というパソコンに、当時としてはコストパフォーマンスに優れたワープロソフト「ユーカラ」を入れて使っていたが、いかんせん、まだプリンタ(ドット・マトリクス・プリンタ=別名ラインプリンタ)のドット数もフォントのドット数も低くて、正式な文書には向かなかったからだ。
そこで、少しずつ価格も安くなりつつあったワープロ専用機を使ってみることにしたのだが、専用機とはいいながら、搭載されている日本語辞書は、今とは比較にならないほど収録語数は少なく、変換機能も低く、誤変換は日常茶飯事だった。
今なら「夢であいましょう」と打てば「夢 出逢い 魔性」などと出てくることは、まずないのだが、このタイトルで、ちょっと昔を思い出した、という話である。

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前にも書いたが、著者のタイトルのつけ方は独特の趣(おもむき)があって、楽しい。今まで呼んだ作品にはすべて英語のサブタイトル(日本語がサブタイトルか?)が付されており、そちらも的確に作品の内容や、あるいはキーワードとなっていて、読後その重要さに気づくことがたびたびあった。
本書では”You May Die in My Show”は、内容の一部分をさしている言葉だが、何より発音が「夢であいましょう」に似ているところが誠にもって愉快だ。
「夢であいましょう」といえば、若い人は知らないだろうが、僕がまだ20代前半のころNHKテレビでやっていた音楽バラエティ番組のタイトルでもある。坂本九、ジェリー藤尾、田辺靖雄といった若手の歌手たちの他に、三木のり平や渥美清などのコメディアン、“元祖・変な外人”のE・H・エリック(先ごろ亡くなった俳優・岡田真澄氏の実兄)といったタレント等々、多彩な出演者が毎週楽しい番組を作り上げていた。
そのころ番組の司会をしていた中嶋弘子嬢の首をかしげての挨拶が評判となっていたことも懐かしい。この番組からは、構成を担当していた永六輔氏と音楽を担当していた中村八大氏のコンビによる数多くの名曲が誕生していることも知られている。その中の1曲、梓みちよ嬢の歌った「こんにちは赤ちゃん」はレコード大賞を受賞している。というような話になると限がないから、この辺までとしようか!

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て、今回は例の面々(レギュラーメンバー)が民放テレビ局のクイズ番組に出演するため東京へと繰り出す、という話だ。
アパート阿漕荘に住む女子大生の香具山紫子は、Nテレビが主催するクイズ番組の女子大生大会に応募したのだが、募集の条件が三人一組だったので、瀬在丸紅子と小鳥遊練無を加えて3人組とした。練無はもちろん男性なのだが、彼は女装が普段の生活の一部分になっており、小柄な体と少女のような顔つきは誰も彼を一目で男と見破るものはいないし、名前からも性別の判断はできないこともあり、彼を加えたのだった。
同じアパートに住む探偵の保呂草潤平は、Nテレビに友人がいることから、紫子達の付き添いという形で、同行した。だが、彼らを待ち受けていたのは不可解な殺人事件だった。

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この物語の中には、密室殺人事件の謎ばかりではなく、他にもいくつかの謎が隠されており、事件の真相が明らかになると同時に、謎だとも思っていなかったいくつかの事柄が明かされることになる(映像では不可能?)。
こういう風に書いていると、あたかもネタをばらすようだが、心配無用。それは明かされて初めて謎だったとわかる仕組みになっていることだからである。これもミスディレクションの一つだろう。先入観は恐ろしい(アレッ、前回も同じようなことを書いたかな?)。

 


0952.月は幽咽のデバイス

2009年01月22日 | 本格
月は幽咽のデバイス
読了日 2009/1/22
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 407
発行日 2003/3/15
ISBN 4-06-273698-5

 

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在丸紅子のVシリーズ第3弾。前回のところでも書いたが、このシリーズには一つの約束事があり、ストーリーの記述は三人称の語りになっているが、それは事実を客観的に述べるためで、実際の叙述は登場人物の一人・保呂草潤平が行っている。
今回はなぜそのようなこととなっているかの理由がよくわかるような気がする。というのは、細かい区切りで、視点や舞台が変わり、回り舞台を観ているかのごとき、あるいは細かいカット割りの映画と言ったほうが良いか、一人称の語りではこうは行かないだろう、と思う。読み始めてそんなことを感じた。

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は飲み込みが遅いのだろうか?シリーズも3作目に入りようやく本当の面白さがわかってきたようだ。1作、2作がつまらなかったという意味ではない。白状すると僕はS&Mシリーズの第1作「すべてがFになる」は後々確認することがあったりはしたのだが、3回読んでいる。そして読むたびに理解度が増して、その凄さがわかったというような経緯があり、読み終わってつまらないと感じた本も、時が経ってもう一度読み返してみると、その良さが判ることがあるということを何度か経験している。
といった全くの僕の理解力の乏しさを白状したところで話を戻そう。ミステリーではことの大小、あるいは多少を問わずミスディレクション(宛名の書き間違いではない!)が一箇所や二箇所で必ず行われているといっていいだろう。マジシャンが「右手を出したら、左手を見よ」という言葉があるが、ミステリーでも読者を誤った方向へ導くような記述を指すのだが、今回の事件は、そのミスディレクションの裏をかくといったらネタばれになってしまうか?物事を先入観なしで見るというのは簡単なようで難しいことだ!?!

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回は薔薇屋敷、月夜邸あるいは黒竹御殿などと周囲の人たちから呼ばれている、建設会社社長の篠塚氏の広大な邸宅が舞台である。噂によればこの屋敷にはオオカミが出るということだが・・・。
前回からレギュラーメンバーとなった森川素直には、画廊を経営する美沙という姉がいる(この姉も前作で登場済みだ)。商売上の件で篠塚社長から呼ばれた森川美紗は、保呂草に同行を依頼するところからストーリーは始まる。一方、篠塚社長の一人娘莉英と友達の瀬在丸紅子は、パーティーに招かれ、噂の篠塚邸に赴いた。
ところがパーティーの最中、オーディオルームで凄惨な事件が発生した。部屋は内側から施錠されており、一箇所しかない出入り口は、四六時中紅子たちの目に触れており、出入りしたものはいなかった。たった一人美沙を除いては・・・。完全な密室状態だったその部屋で見つかったのは、衣服を引き裂かれ、部屋を引きずり回された状態の死体だった。まるで、オオカミにでもかみ殺されたような・・・

 


0951.人形式モナリザ

2009年01月19日 | 本格
人形式モナリザ
読了日 2009/01/19
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 新書
ページ数 282
発行日 1999/9/5
ISBN 4-06-182092-3

 

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分の中で出来上がりつつあった最近の読書ルール(4日に書いた)を無視して、シリーズを続けて読むことになったのは、前作のエンディングによる。前に読んだS&Mシリーズや四季4部作にしても、気を惹かせる終わり方がアメリカのシリーズドラマを思わせるようで、続けて読みたくさせるのだ。
2冊目は文庫が見つからず(僕が見つからないというのは、安い本が、ということである)新書になった。
どうも生来の貧乏性からか(アッ!僕の場合は貧乏性ではなくて貧乏そのものか)、買って自分のものにしないと落ち着いて読めないというのは困ったものだ。それでもどうしようもないときは図書館を利用するのだが・・・。

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ところで、僕が犀川創平や西之園萌絵のその後の活躍を描くGシリーズより前にこのVシリーズを読もうと思った動機は、前回のところで少し触れたが、四季4部作の中でわずかだが、本シリーズのメインキャラクターである瀬在丸紅子が登場して、ほかの人物との関係が明示されるところがあり、驚いたことにある。そこで、すでに10作が刊行されてシリーズの完結を見ているらしいこの作品の終わりで、彼女の現在に至る姿を確かめたいという思いが募ったのだ。

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そんなこんなで読み始めたシリーズだが、S&Mシリーズの面白さとは異なった雰囲気で(当然のことだが・・・)、元大家のお嬢様が今は、極度の窮乏生活を強いられながらもそんなことは一向に気にせず、明るくおおらかな?暮らしを謳歌しているさまと、天才的とも言える、事の深層を見抜く力を発揮させていくところが面白おかしく描写される。また、レギュラーメンバーの一人である保呂草潤平も、四季シリーズの一部で、重要な役どころを果たすのだが、今シリーズでは事件の顛末を三人称形式で一部始終記述するという役割を担っている。
やはりこれは、はじめのシリーズで定着させた登場人物たちと、その姻戚関係および関係者にいたるまでのさまざまな人物を配した大河ドラマである、という感をますます強くする。

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リーズ第2弾は、大学も夏休みに入り、レギュラーメンバーの大学生・小鳥遊練無(たかなしねりな)と同級生の森川素直(もとなお:今回初登場)は、長野県は諏訪市の郊外にあるリゾート地の美娯斗屋というペンションでアルバイトを始めた。彼らのアルバイトのおかげで、小鳥遊と同じアパートに住む大学生の香具山紫子や、保呂草潤平、さらに瀬在丸紅子たちもそのペンションに行くことになった。事件はペンションの近くにある私設博物館「人形の館」で発生した。
終わり近くの、真相が明らかになるシーンなどは映画か、ドラマの映像で観てみたいような気がする。ここで初めてタイトルの意味も同時に明らかになるという仕掛けだ。

 


0950.黒猫の三角

2009年01月16日 | 本格
黒猫の三角
読了日 2009/1/16
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 456
発行日 2002/7/15
ISBN 4-06-273480-X

 

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ミステリもいよいよ3つ目のシリーズになった。本書はVシリーズ最初の1冊。Vシリーズというのは、多分登場人物のメインキャラクターである瀬在丸紅子の名前から来ているのだと思われるが、今月4日から7日までの4日間で読み終えた四季4部作の中で、思いもかけなかった人物の関係を知って、このシリーズを読もうと思った次第。
同時に、僕は著者がこれらの作品に登場する人物たちを通して、那古野市(架空の都市)を中心とした壮大な大河ドラマを構築しようとしているのではないかという思いがしているのだが・・・。
このシリーズは、現在既に10作が発表されており、S&Mシリーズとともに完結されているようだ。この第1作を読んだ限りでは、キャラクターの年齢からして、S&Mシリーズから遡ること20年以上前の時代のようだが、定かではない。
そういった点については、著者のHPや、ファンサイトなどで詳しく判るのだろうが、すべて先入観なしで読みたいから、見ないことにしている。いろいろと想像をしながら読むのも楽しみの一つだ。

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さて、本書で扱われる事件は、3年前から始まった1年1件という気の長い連続殺人である。
最初の事件は3年前の7月7日に11歳の小学生女児が殺害された。
そして、2年前の7月7日に22歳の女性が殺害され、さらに昨年の6月6日には、33歳の女性が前2件の事件同様の手口で殺害されるという事件があった。
この順序から行けば、今年の6月6日には、44歳の女性が狙われるということになる。
桜鳴六画邸と名づけられた邸に住む44歳になる学習塾経営者・小田原静江は過去の事件が記載された新聞記事のコピーという脅迫めいた手紙が送られてきた事から、心配になり、小田原家が経営するアパート阿漕荘に住む探偵・保呂草潤平に身辺警護を依頼する。保呂草は同じアパートに住む、大学生・小鳥遊練無(たかなしねりな)や女子大生の香具山紫子(むらさきこ)を助手に雇って警護に当たるのだが・・・。

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鳴六画邸(おうめいろっかくてい)の離れ(無言亭と呼ばれる小屋)には、瀬在丸紅子と彼女の一人息子、小学生の通称へっ君と根来機千瑛(きちえい)という老人が暮らしている。
邸は元々瀬在丸家の所有だったという経緯で、その無言亭に居候という形で住んでいるようなのだ。瀬在丸紅子は趣味の科学実験や製作をする自称科学者だが、職を持たない極端な窮乏生活があかるく描かれて愉快だ。
ところで、タイトルの「黒猫の三角」だが、この物語にはデルタと呼ばれている黒い野良猫が登場する。誰が名づけたかキーワードとなる「黒猫の三角(デルタ)」とは?著者ならではの洒落か!?
冒頭で、この物語は登場人物の中の一人が三人称の形で、記述しているという説明があり、最後にその記述者が明かされるのだが、瀬在丸紅子を始めとする数人のメインキャラクターによりさらにシリーズとして続くことを予告するような最後の一行が印象的で、心憎い。

 


0949.招かれざる客

2009年01月13日 | サスペンス
招かれざる客
読了日 2009/1/13
著 者 笹沢佐保
出版社 光文社
形 態 文庫
ページ数 311
発行日 1999/6/20
ISBN 4-334-72832-4
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書が著者の長編デビュー作だということを以前知ったのは どこでだったか忘れたが、古書店に入るたびにそれとなく探していた。 探しているときはおいそれとは見つからず、普段あまり入ったことのない店の棚で見つけて信じられないほどの安い値段で手に入れた。
テレビドラマとなって評判を呼んだ「木枯らし紋次郎」シリーズで広く世間一般に知られているが、2002年に72歳でこの世を去った著者が残した作品は400篇にも届こうかというほどの多作家であった。 しかし、ミステリーに関しては常に本格推理を軸として傑作を数多く発表している。デビュー作にはその作者のあらゆる長所が凝縮されているとも言われているので、今まで関心の向かなかった(テレビドラマで知った 危険な隣人の1作だけ読んでいる) 著者の作品に触れてみようと思ったのである。

 

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中央官庁の名称は、省庁の改変でだいぶ昔と変わってしまったが、物語は東京・大手町にある商産省(以前の通商産業省がモデルか?)の労働組合が、省との労使交渉の最中に、組合側の闘争計画が省側に漏れてしまったことが発端となる。
果たして、組合内部にスパイがいたことが判明する。そして、いずこかに身を隠していたはずのその職員の男が、商産省の七階非常口の踊り場で他殺体で発見される。 さらにその5日後に男の手先となって秘密書類を盗み出した臨時職員の女と同室の女性が身代わりとなったかのごとく、同じ方法で殺害されるという事件が発生したのである。 組合活動の上での裏切り行為に対する報復と目された事件は、殺された男の世話人とも言える容疑者を特定したが、なんと彼は交通事故によって死亡してしまう。

 

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ストーリーの前半は事件の当事者や、関係者による警察の調書などが、余すところなく公開されていき、警察の捜査は一人の容疑者に絞り込むまでに達するところまでが描かれ、 後半は事件全体に割り切れないものを感じている警部補が、病気療養のための2週間の休暇中に再度見直してみる、という2部構成になっている。
前半の調書などによるルポルタージュ風に描かれる事件と捜査の模様は、あらゆる角度からこれでもかというくらいに微に入り細をうがつというほどの記述が続き、 事件および警察の捜査の成り行きが示される。
そうした経緯を経てようやく一人に絞り込んだ容疑者がトラックに引きずられてあっさりと死んでしまうというなんとも皮肉な結果に終わる前半とは、 打って変わって緊迫の度合いを深めていく後半は、これぞ本格推理の醍醐味といえる展開となる。

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昭和35年に発表されたこの作品は、実は江戸川乱歩賞に応募され最終候補の4作品に残ったのだが、惜しくも次点にとどまった。 しかし、選考委員の評価が高く出版にこぎつけたのだという。ちなみにその年(昭和34年)の受賞作は、 新章文子氏の危険な関係だった。
というようなことで、著者の推理小説への意気込みが感じられる内容だった。この作品が最初に出版された昭和35年といえば、僕はまだ21歳で、 そのころは結構ミステリーも読んでいるはずなのだが、残念ながら著者の作品には触れていなかった。遅まきながら少しずつでも紐解いてみようか・・・。

 


0948.カー短編全集1 不可能犯罪捜査課

2009年01月10日 | 短編集
カー短編全集1 不可能犯罪捜査課
The Department of Queer Complants
読了日 2009/1/10
著 者 ディクスン・カー
John Dickson Carr
訳 者 宇野利泰
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 326
発行日 1970/2/17
ISBN 4-488-11801-1

 

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元推理文庫が発行しているカー短編全集5巻のうちの一冊で、全10篇のうち6篇がタイトル通り、ロンドン警視庁の不可能犯罪捜査を専門に扱うD3課・マーチ大佐の名推理が描かれるストーリーである。後の4篇はシリーズ外の怪奇趣味の横溢するストーリーながら、本格推理を踏襲している。
ディクスン・カーの作品は、短編に限らず、どれもが不可能犯罪と思われる本格推理で占められており、特に密室殺人の種類の多さは他を圧倒している。本書ではそうした不可能犯罪の傾向が特に顕著に現れたストーリーで、名作と謳われている作品集である。

 

D3課を率いるマーチ大佐は238ポンド(約108kg)の大きな身体と、温厚そうな顔立ちに、赤毛の口ひげを蓄えた青い目の風貌を示し、大きな火皿のパイプがトレードマークだ。どんな奇抜に見える犯罪にも、意外だという表情を見せないところから、D3課の課長に抜擢されたといわれている。そんなマーチ大佐のところへ持ち込まれる事件は、狂人の戯言かと思われるような奇妙な事件ばかりで、並みの事件には彼は見向きのしないのだ。
手袋が拳銃をつかんで発射したとか(新・透明人間)、人が乗れるはずもない生垣の天辺についた足跡(空中の足跡)などという奇抜な話にマーチ大佐は喜んで耳を傾けるのである。

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 新透明人間 The New Invixible Man
2 空中の足跡 The Footprint in the Sky
3 ホットマネー Hot Maney
4 楽屋の死 Death in the Dressing Room
5 銀色のカーテン The Silber Curtain
6 暁の出来事 Error at Daybrea
7 もう一人の絞刑吏 The Other Hangman
8 二つの死 New Murder for Old
9 目に見えぬ凶器 Persons of Things Unknown
10 めくら頭巾 Blind Man’s Hood

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0947.四季 冬

2009年01月07日 | ファンタジー
四季 冬
読了日 2009/1/7
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 新書
ページ数 240
発行日 2004/3/5
ISBN 4-06-182363-9

 

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シリーズ最終作である。本書のラストシーンは、S&Mシリーズの一部分と重なっており、僕は改めて、この好きなシーンを味わって、離れがたい想いで感傷的になったのだが・・・。天才真賀田四季の稚気を描いたこの場面は、従来の流れからすると、ちょっと浮いているような感じがしないでもないが、僕は好きだ。

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さて、4日をかけてシリーズ4冊を一気に読んできたが、やはり全部を通して読んで、初めて真賀田四季の天才としてのもどかしい想いのようなものが伝わってくるようだ。天才と凡才とは、住む世界(思想の問題で物理的なものではない)が違うということなのだが、それこそ凡才の僕には真の理解には遠く及ばないところだ。判りやすく一言で言えば価値観の違いか?
彼女が「構築知性のゴール」について、質問側の理解の及ばないところに苛立ちを覚えながら幼稚とも思える質問を繰り返すインタビュアーに応える場面に、そうしたことが現れている。この最終作では、そのような大命題に対する哲学的ともいえるような記述もあり、著者がS&Mシリーズで脇役として登場させた真賀田四季を、もう一方の主役として描きたかったのではないかという思いも浮かぶ。

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天才・真賀田四季を取り込もうとするプロジェクトチームが、ネットのメール交換で創りあげた囮を使って、接触を企てる遊園地の場面は、トマス・ハリス氏のハンニバルを思わせて、興味深い。
ところで、このシリーズの中で、想像もしてなかった登場人物の人間関係が明らかにされるところがあって、このあと読むモリ・ミステリはGシリーズの前にVシリーズだということになった???!!

 


0946.四季 秋

2009年01月06日 | ファンタジー
四季 秋
読了日 2009/1/6
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 新書
ページ数 273
発行日 2004/1/8
ISBN 4-06-182353-1

 

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「春」と「夏」はBOOKOFFで、安く買ってきたのだが、さすがのBOOKOFFでもそうそう都合よく僕の読みたい本がほしい値段で見つかるわけでもなく、そんな時は図書館のお世話になる。ところが、木更津市の図書館には生憎と蔵書がなかったので、隣街・君津の市立図書館に赴く。市役所の隣にある図書館は、木更津市立図書館の倍ほどもあるかと思われる大きな建物で、設備も整っているようだ。貸し出しカードを作ってもらい、本書と、最終作「四季 冬」の2冊を借り出した。

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時代は一足飛びに現在を迎える。短いプロローグでいきなり犀川創平&西之園萌絵が登場して、嬉しくなってちょっと興奮気味に読み進める。この巻ではS&Mシリーズ同様に西之園萌絵や、犀川創平のサイドからの視点が主となってストーリーが展開される。前回で既に伝説の人となった真賀田四季が比真加島に残した手がかりを元に、犀川創平はその謎を解くために懸命に取り組む。まるで、四季があちらこちらに罠(マジック)を張り巡らしたかのような様相に、なぜか動揺する萌絵。この辺はやはり先にすべてがFになるを読んでおくことがこのシリーズの面白さを倍増させるだろう。

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タイムカプセルを思わせる四季の仕掛けたマジック(謎)はまだ解けておらず、壮大なドラマは終わっていなかった。謎は謎のまま残しておいてほしい、という思いと、この先も大河ドラマを展開し続けてほしいという思いが広がっていく。・・・どうやら著者ならびに真賀田四季の術中に嵌ってしまったようだ・・・
この続きはまた明日。

 


0945.四季 夏

2009年01月05日 | ファンタジー
四季 夏
読了日 2009/1/5
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 新書
ページ数 262
発行日 2003/11/5
ISBN 4-06-182339-6

 

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(昨日の続き)ということで、このシリーズは続けて読むことにした。 新書一段組みの260余ページは、途中休み休みではあるが、一日かけて読むのに丁度良い長さだ。 本書では真賀田四季の13歳から14歳にかけての一年間が描かれる。簡単に言ってしまえば、思春期を迎え、 天才といえどもコントロールの効かないことがある、ということがテーマ(これは僕だけの捉え方かもしれない!?)なのだが、 前回にも増して、ミステリー味は薄められて、真賀田四季の一大叙事詩のパーツという位置づけとなっている、ようだ。

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四季の頭脳への投資をしようとする佐織宗尊をスポンサーに迎えて、いよいよ、一大プロジェクトが発足して、比真加島に研究所の建設が始まった。そんな中、四季の両親は離婚の危機を迎えていた。そうした状況の最中、比真加島で催される研究所の落成パーティーが・・・。

 


0944.四季 春

2009年01月04日 | ファンタジー
四季 春
読了日 2009/1/4
著 者 森博嗣
出版社 講談社
形 態 新書
ページ数 265
発行日 2003/9/5
ISBN 4-06-182333-7

 

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間に2冊ほどの他の作品を入れながら、モリ・ミステリを読むというパターンが定着しつつある。それは、有限である僕の読みたいモリ・ミステリを短い期間で読み終わってしまわないための方策だ。ということで、予定では今回「Φは壊れたね」を読むつもりでいたのだが、前回の犀川助教授・西之園萌絵のS&Mシリーズ最終作「有限と微小のパン」で、真賀田四季への想いが抑えがたくなって、寄り道をすることになった。

 

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天才プログラマへの成り立ちがどのような経緯を示すのかが、本書の内容なのだが、タイトルからも想像出来るように、四季のシリーズ4部作となっており、その第1作である。彼女の少女時代を描いた1作目は、多重人格の織り成す幻想的と言ったらいいか? 不思議な感覚のストーリーである。
真賀田四季については、成人してからの真賀田四季博士の事件を描いたすべてがFになるで、その生い立ちなどが簡単に紹介されているが、本書では当然のことながらまだ彼女の両親である、真賀田佐千朗博士と美千代博士も、さらには叔父の新藤清二・裕美子夫妻も登場する。つまり、「すべてがFになる」までの遠くて近い過去の物語だ。

 

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前半の舞台となるのは新藤清二が院長を勤める新藤病院が舞台となっており、病弱だった幼少の四季(僅かにネタを明かすことになってしまう表現だが・・・)の現象を示す描写がある。この病院内で、若い女性の看護士が殺害される事件が発生する。だが、事件そのものはミステリーとしての重要な要素を示すものではなく、四季の一要素を語るファクターとして描かれているところが、今まで読んだS&Mシリーズと違って興味を惹かれるところだ。
一応13歳までの真賀田四季を描いており、そこまでという点では完結らしいのだが、やはりこれは、「冬」まで読まないと真の完結にはならないのだろうな?

 


0943.都庁爆破

2009年01月01日 | サスペンス

60歳で打ち立てた読書計画(というほどのものでもないか)とともに書き始めたこのささやかな読書日記も、途中抜けているところがかなりあるが、昨年11月で丸9年を過ぎて、10年目に突入した。いよいよ今年の11月2日で古希を迎えることとなる僕のミステリ読書も目標の1,000冊に残すところ57冊となった。
10月くらいから月に10冊のペースを保っているから、今のままで行けば割と早い時期に1,000冊は達成できそうだ。余分なことに手を出さずしばらくは読書に専念しよう。

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出版社宝島社

都庁爆破
読了日 2009/1/1
著 者 高嶋哲夫
形 態 文庫
ページ数 475
発行日 2004/4/29
ISBN 4-7966-4056-8

 

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よそ2年半ぶりの著者の作品は2001年アメリカ・ニューヨークで起こった911テロを思い起こさせるテロ事件を描いたパニック・ミステリーだ。本書を読んで、ずっと前の事だが、一時期夢中になっていたパニック映画を思い出した。中でも、高層のビル火災を扱った「タワーリング・インフェルノ」は、映画館で2回、ビデオで数回見たほど、僕にとって思い出深い映画だ。
本作では、それにも増して、都庁職員と一般の見学客合わせて200余名の人質をとったテロ事件で、緊張の場面を描き出す。

 

 

廃止されて現在は催されていないサントリーミステリー大賞を受賞したイントゥルーダーが、コンピュータソフト開発を巡る父と子の愛情を描いたストーリーで、割と僕の好みに合っていたから著者の作品を何冊か読んで来た。ユニークな経歴を持つ著者は毎回違った世界を描き出して、興味を惹かれるが本書は前に読んだ「スピカ原発占拠」と同じ系列と思われる作品で、胸躍らされるサスペンス・ストーリー。
欲を言えば、この中で少し触れられている国際的な金融犯罪についても、もう少し突っ込んでほしかったと思った。(これについては2010年、「虚構金融」が上梓された。)
だが、僕はこの著者には最先端のテクノロジーを駆使したような作品を期待しているのだ・・・。

 

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