殺人協奏曲ホ短調 | ||
---|---|---|
読 了 日 | 2009/8/18 | |
著 者 | 由良三郎 | |
出 版 社 | 文藝春秋 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 286 | |
発 行 日 | 1988/9/10 | |
ISBN | 4-16-744602-2 |
ビュー作で、サントリーミステリー大賞受賞作「運命交響曲殺人事件」の後続シリーズだ。
ずいぶんしばらくぶりの著者の作品だから、前に読んだ5冊についてはほとんど覚えていない。 ただ、本書の中で、「運命交響曲…」についてのちょっとした記述があるところから、シリーズだということと多分本書が受賞後第1作らしいとわかった。
著者の作品に時々惹かれるのは、やはり著者が医学者であることから、作品に込められたメディカル・サスペンスに期待してのことだ。
また、著者は医学者であると同時に、東大在学中は仲間と組んで、弦楽四重奏(パートはヴァイオリン)を楽しんでいたという音楽人でもあるのだ(解説の長谷恭男氏による)、という。そんなところからデビュー作も本作品も、タイトルを始めとして内容にいたるまで音楽への造詣の深さを示している。
A県警捜査一課長の白河警視は、1年前に発生した殺人事件の捜査が進展を見ないままに日時が過ぎていく中、急にとらされた休日をもてあましていた。そんなところへ甥の結城鉄平が珍しい音楽のカセットテープを持って訪れた。
鉄平は高校の化学の教師をしているのだが、彼の分析能力は犯罪捜査にも一役買って(運命交響曲殺人事件)、その才能を警察にも認められていた。
そこで、あわや迷宮入りとなりかけている楽器商殺害事件にも、鉄平の知恵を借りようと、警視は事件の詳細を話すのだった。
事件は、一年前、昭和52年8月8日の未明に起きた。
楽器商を営む友永長一郎・62歳が自宅二階の寝室で絞殺死体で発見された。首には電気蚊取器のコードが巻き付けられており、その一端を同室の全身不随の妻・八重子の手に握らされていた、という異様な事件だった。
動機の点から見たら、容疑者と思われる人物は多数いるのだが、そのどれもがアリバイがあったり、確たる物証がなかったり決め手となるものが無く、捜査は難航していた。
うした中、警視の部下である松下刑事は、全身不随のうえ眼も耳も不自由な妻の八重子が、母親が来るたびに決まって唸り声を上げることに気づき、事件について何か訴えようとしているのではないか?という疑問を持ったのである。信じられない話だが、他に手掛かりのない現状で藁をも掴む気持ちで、その声をテープに録って解析しようとしたが、残念ながら得るものはなかった。
そこで、鉄平にそのテープを聞いてもらい何かヒントを得ようとしたのだが・・・
本書は昭和末期の作品だから、もう20年以上も前で大分古い作品となるが、僕はこのオーソドックスなストーリー構成に惹かれる。フーダニット(Who done it)、ハウダニット(How done it)が適度に融合された筋運びが、何か安心して読み進めることが出来て、心地よい。
ちょっと話がそれるが、僕の読書時間は主として夕食後にとることが多い。夜遅くコーヒーを飲むと眠れなくなるというほどではないのだが、できれば就寝前の刺激物は避けたいので、我慢をしている時に本の中でコーヒーを飲む場面があると、つい誘われて飲んでしまう。
このコーヒー片手の読書はまた、至福の時なのだ。単細胞と言おうか影響されやすく、本書も結構そうした場面があってコーヒーは欠かせなかったという話。
さて、オーソドックスな展開とは言っても、サントリーミステリー大賞を受賞した著者のことだから、その結末は一筋縄では納まらない。もちろん専門であるメディカルの要素も効かせた上で、本格推理の醍醐味をたっぷりと味わえる。
にほんブログ村 |