隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0504.大蛇伝説殺人事件

2004年07月26日 | 本格
大蛇伝説殺人事件
読了日 2004/7/26
著 者 今邑彩
出版社 光文社
形 態 文庫
ページ数 368
発行日 2001/08/20
ISBN 4-334-73191-0

僕は残念ながら歴史や日本古来の伝説とかに疎いから、あまり興味も持てないでいる。そこで、関連した書物も手に取らないし読むこともないから、知ることもない。つまり悪循環だ。
たぶん、歴史も過去があって現在があるのだから、いろいろ過去の歴史を知ることは、時代の流れを知ることは決して悪いことではないのだろう。
それほど詳しくならなくとも、少しでも歴史を知ることによって、ミステリーにも歴史をテーマにしたものはたくさんあるから、より面白く読めるのではないかと思う。
そうは思ってもなかなかことはうまくことが運ばないのは、ただただ僕の怠惰のせいだ。

本書も、タイトルが示すように、スサノオノミコトが退治したという、ヤマタノオロチ伝説をテーマにしたミステリーで、著者のことばによれば自信作のようだ。

平成9年の9月、画家の月原龍生が島根県松江市のホテルから失踪した。
そして、素鵞社(そがのやしろ)をはじめとして、スサノオノミコトにに関わりのある八つの社で切断された遺体が発見されるという事件が起こった。鑑識の結果遺体は月原龍生とわかった。
ヤマタノオロチ伝説との関わりは?

亡くなった父の大道寺探偵事務所を引き継いだ大道寺綸子だったが、以来客のない事務所で暇をもてあましていた。そんなところへ月原龍生の妻・月原芳乃が訪れるが、父が亡くなったことを聞くと彼女は何も言わずに去った。
気になった倫子は月原家を訪ね、娘の知美から話を聞き、改めて“ある男を捜してほしい”という内容の依頼を受けたのだ。

 


0503.モーツァルトの子守歌

2004年07月23日 | 連作短編集
モーツァルトの子守歌
読 了 日 2004/07/23
著  者 鮎川哲也
出 版 社 東京創元社
形    態 文庫
ページ数 260
発 行 日 2003/12/12
ISBN 4-488-40313-1

 

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楽椅子探偵・三番館シリーズの6冊目で最終刊。さすがに鮎川哲也賞を擁する東京創元社だから、この安楽椅子探偵の名作を埋もれさすことなく文庫で完結させた。
最初の「太鼓叩きはなぜ笑う」(383.参照)からずっと読み次いできた僕にとって、これで終りかと思うとちょっと寂しいが、知らなかった名作を堪能できたことに感謝しなくてはいけないかもしれない。
仁木悦子氏と共に僕にとっては、この著者も、そのデビュー当時から同じ時代を歩んできた者として、こうした偉大なミステリ作家が去って行くのは殊更寂しい思いである。

 

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 クライン氏の肖像 小説NON 1987年5月号
2 ジャスミンの匂う部屋 小説宝石 1988年2月号
3 写楽昇天 別冊小説宝石 1988年5月初夏特別号
4 人形の館 小説推理 1987年3月号
5 死にゆく者の・・・ 小説推理 1987年9月号
6 風見氏の受難 別冊小説宝石 1991年9月爽春特別号
7 モーツァルトの子守歌 ミステリマガジン 1991年10月号

 

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0502.スペース

2004年07月11日 | 日常の謎
スペース
読了日 2004/7/11
著 者 加納朋子
出版社 東京創元社
形 態 単行本
ページ数 241
発行日 2004/05/28
ISBN 4-488-01298-1

東京創元社からの案内メールで、著者のサイン本のネット販売が行われるというので申し込んだ。
ずっと以前に、書店の店頭に平積みされていた文庫「ななつのこ」(177.参照)が気になったので、買って読んで以来、すっかり著者のファンになってしまった僕は、新しい本が出るたびに、古書店に並ぶのを待ったり、図書館を覗いたりしていたのだが、こうした単行本の新刊を買うのは、そのくらい著者の書くものが好きだということに他ならない。
特に、この「ななつのこ」、「魔法飛行」(191.参照)に続く、駒子シリーズには愛着がある。
著者の(まえがき)によれば、「ななつのこ」でデビューしたのが1992年だそうで、シリーズ第3作の本書は、それから10年以上たったことになる。
だが、僕が「ななつのこ」を読んだのはまだ2年前のことだから、遅れてファンになった利点はそれほど待たずにいろいろ作品が読めるということだ。

さて、今回のお話は暮れも押し詰まった大晦日に忙しく立ち働く母と姉から、お使いを頼まれた駒子がデパートに行く、ところから始まる。お節の飾り用についでに公園で松の葉も取ってきて、と頼まれたのだがデパートの大きな松飾の葉を2~3枚失敬しようとして、「もしもし、お客さん、何をしているのですか?」と警備員から声をかけられる。
ビックリ仰天したが、警備員はなんとアルバイトをしている瀬尾さんだった。駒子は、瀬尾さんに読んでもらいたい手紙があると言う。そこから、瀬尾さんに渡されたその手紙の文面が延々と続く。
この手紙を読んでいると、女学生同士の遠慮のない、会話のようなほのぼのとしたものが伝わってくる。実に自然で、時々噴出したくなるような文面もあったりして、楽しい手紙なのだが・・・・。(スペース)

もう1篇の「バック・スペース」の方は、双子の駒井姉妹の姉まどかの語りで始まる。本書は実に上手くできていて。初出一覧でわかるように2編の中篇で構成されているのだが、発表された時期も場所(雑誌)も違い、だから、一つづつ読んでもそれぞれ完結した話になっているので、話はわかるようになっているのだが、続けて読むと、二つの中篇は一つの長編となっているのだ。この形式は、最初の「ななつのこ」から一貫して踏襲されているが、一つにまとめられる方法がそれぞれ違うという工夫もされているのである。
今回の話では、後の「バック・スペース」で語り手となっている双子の姉駒井まどかが中心人物だ。が、勿論入江駒子も瀬尾さんも重要な役割を果たしている。別の時期に、別の場所に書かれた物語がどのように合体するのかは、これもミステリーの一つであるので書けないが、最後まで読んだとき、ジグソー・パズルの最後の一片がピタリとはまったような快感をさえ覚える。

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月号  
1 スペース e-NOVELS
週刊アスキー
 
2000年7月25日号~
10月17日号
2 バック・スペース ミステリーズ vol.3(2003年12月)~
vol.4(2004年3月)




0501.最終退行

2004年07月09日 | 金融

 

最終退行
読了日 2004/7/9
著 者 池井戸潤
出版社 小学館
形 態 単行本
ページ数 531
発行日 2004/02/20
ISBN 4-09-379628-9

僕はこの手の話にも詳しくはないのだが、戦後の混乱期にどこからか浮上した莫大なM資金の噂に、踊らされた人々や企業の話は、いくつかの小説で、読んできた。
こうしたテーマは、様々に形を変えて、ミステリーにも数多く登場しているようだ。
本作では、冒頭で戦後直ぐの昭和21年(1946年)に米海軍が芝浦沖で金塊を引き上げたという朝日新聞の記事が簡単に紹介されており、以降のストーリー展開に波乱を呼び起こす予感を与えている。
もう、お馴染みとなった著者の形を変えた銀行ミステリーの長編だ。僕は著者の銀行関係のストーリーを読み始めると、不思議と不安と期待に胸が躍る。

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

大手家電メーカーの業績不振の責任を担った副社長・諸田善文が、1千億円の融資という大規模な詐欺事件に巻き込まれて自殺するという事件の、顛末報告書を書いているのは、東京第一銀行の会長・久遠和彌。
孤立無援の諸田善文が副社長を務めていた山友電気は東京第一銀行の顧客だった。物語りは、この諸田副社長の嵌った詐欺事件の顛末が報告書の形で紹介されるところからスタートする。
銀行内の人事問題や、男女関係のエピソードを織り込みながら、やがて大きな事件へと発展するの。タイトルの「最終退行」は、業務終了後最後に銀行を出る事だが、もう一つの意味を持たせている。


0500.誰か

2004年07月05日 | サスペンス
誰か
読 了 日 2004/07/05
著  者 宮部みゆき
出 版 社 実業之日本社
形  態 単行本
ページ数 384
発 行 日 2003/11/25
I S B N 4-408-53449-8

 

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著者のタイトルの付け方に、読み終わってからなるほどと思わされることが、時々ある。
このタイトルもいろいろと考えさせられる意味深なタイトルだ。
僕のこの読書記録の中で、最多の冊数を誇り、これまで以上に読書の面白さを教えてくれた、重要な位置を占めるのが著者の作品だ。そういうことからか、意識したわけでもないのに、500冊という区切りの本に著者の作品が当たった。この後も折に触れて著者の本を読み続けていくことは間違いのないところだろう。
読書好きの人なら誰でも思い当たるだろうが、僕は特に惚れっぽいところを自分でも意識しており、ともすると、その作家ばかり読むことになりかねない。
この読書記録を始めた頃、僕は自分に出来るだけ幅広く、多くの作家の、多くのジャンルの作品を読もう、と密かに決めていたので、時には同じ作家を続ける場合もあるが、出来るだけそうしたことを避ける用に心がけている。
しかしまあ、そうは言ってもいったん好きになってしまうと、なかなか我慢は出来ないのが人情で、その辺は柔軟に、と自分に都合のいい解釈をしてしまうのが弱いところだ。

 

 

さて、本書はごく普通のサラリーマンだった杉村三郎が結婚を決意した相手が、そのときになって今をときめく今多コンツェルンの総帥・今多嘉親の娘であることを知る。だが、今多嘉親は杉村が会社の経営陣に加わろうとしないこと、会社の社内報の編集が主な仕事の広報部に勤務すること、という二つの条件をたてに結婚を承諾したのだ。
一人娘の桃子が出来て、幸せな生活を送っていたが、あるとき今多の運転手をしていた梶田が、何者かの自転車との衝突で死亡した。自転車はそのまま逃げた。
そして杉村は今多からの依頼で、梶田の娘二人とあって話を聞くことになるのだが・・・・。

 

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0499.修羅の夏 江戸冴富蔵捕物暦

2004年07月03日 | 時代ミステリー
修羅の夏 江戸冴富蔵捕物暦
読 了 日 2004/07/03
著    者 新庄節美
出 版 社 東京創元社
形    態 単行本
ページ数 317
発 行 日 2004/01/30
ISBN 4-488-01294-9

 

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戸冴富蔵捕物暦-えどにさえしとみぞうとりものごよみ-というサブタイトルの付いた捕物帳である。
今年1月の刊行だからそれほど古くない単行本を手に入れた理由は、捕物帳ながら安楽椅子探偵だからだ。
東京創元社のメールマガジンで紹介されていたので、古書店かネットのオークションにでも出たら買おうと思っていた。幸い手ごろな価格でネットに出品されていたものを入手した。初めて読む作家なので、期待半分で読み始めたが、若竹七海氏のお勧めの解説文通りの読みやすく、謎解きの時代ミステリであった。

本書で活躍するのは、南町奉行所定廻り同心・門奈弥之助の十六になる娘・お冴と、弥之助の手先・わらび屋清五郎の下ッ引き・富蔵二十四歳。
富蔵は日本橋の水油問屋掛川屋の跡目を継ぐはずだったが、それを義弟に譲って、灯油の行商をしながら、清五郎の下で働いている。
一方、父親の弥之助と二人暮しのお冴は幼少の頃、疱瘡が原因で失明している。実は、この眼の不自由なお冴が富蔵から事件の成り行きや、捜査の行方を訊いて真相解明へと推理を進めるのである。
この二人を初めとする人物設定や、簡潔にして必要十分な周囲の環境描写等が読んで楽しい時代本格推理を作り上げている。是非ともシリーズ化をして欲しいところだ。

 

 

収録タイトル
# タイトル 読み
1 隠居殺卯月大風 いんきょごろしうづきのおおかぜ
2 母殺皐月薄雲 ははごろしさつきのうすぐも
3 後家殺水無月驟雨 ごけごろしみなづきのゆうだち

 

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