隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0644.B29の行方

2005年08月31日 | サスペンス
B29の行方
読 了 日 2005/08/31
著  者 花木深
出 版 社 文藝春秋
形  態 単行本
ページ数 299
発 行 日 1992/09/30
ISBN 4-16-313500-6

 

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真の帯で判るように本書は第10回サントリーミステリー大賞の大賞・読者賞をダブル受賞した作品だ。
先日、立ち寄ったBOOKOFFで、安い棚に有ったのを見つけて買った。タイトルからすればあまり読書意欲をそそるものではなかったが、安いということと、受賞作であるという二つの理由で、手に入れた。
それでも読み始めてみると、タイトルから僕が想像していたようなストーリーではなく、15年前に起きた事件とそっくり同じ状態の誘拐事件が発生する幕開けは、いやおうなく僕を物語に引き込んだ。秩父市の近郊で起きた前の事件を取材した記者の井上と、お宮入り前の今度の事件の継続捜査に廻った老刑事・宮脇は、ふとした切っ掛けから二つの事件の関連を調べることになったが、なかなか事件の全貌は見えてこない。戦時中に山中に落ちたと見られるB29との関連は?

読み終わってから、著者の経歴を見ると、1925年生まれとある。途中で明かされる子供の記憶としての戦時中のエピソードが、生々しいのを納得。

 

 

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0643.死体を無事に消すまで-都筑道夫ミステリー論集―

2005年08月29日 | エッセイ
死体を無事に消すまで
-都筑道夫ミステリー論集―
読 了 日 2005/08/29
著  者 都筑道夫
出 版 社 晶文社
形  態 単行本
ページ数 357
発 行 日 2004/09/21
分類番号 75020557

 

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の本は発行当時買ったものだから、もう30年以上前のことになる。この頃までは、まだ、いっぱしのミステリー通を自認していたので、経済事情が許す限り、これはと思うミステリー文献を買い集めていた。
といってもほんのわずかなことではあったが。ところが、買うには買っても読むのは後回しで、この本もそうして積ン読状態が30年以上も続いたわけだ。5月末に著者の「ベッド・ディテクティヴ」(602.参照)を読んだ際に本書を思い出して、読んでおこうと思った次第。E.Q.M.M.の編集に携わっていただけに主として翻訳物についての評論・解説が多いが、今後の読書の指針として大いに役立つと思われる。
著者は惜しくも一昨年(2003年11月)にこの世を去ったが、ミステリーに対する愛着と、独自の視点、また、魅力ある偏見に満ちた、この評論集は、浅学な僕などがどうこう言えることではないが、読物としても面白く、著者の拘りといったものが伝わってくる。
国内の作品では、特に"久生十蘭"や"大坪砂男"について詳しく書かれており、若い頃僕も大坪氏の「天狗」は読んでいるのだが、もう一度読んでみようかと思った。江戸川乱歩氏について書かれている中で、「幻影城」、「続・幻影城」、「海外探偵小説 作家と作品」にちょっと触れているが、僕は、「幻影城」と「続・幻影城」については、苦い想い出がある。まだ高校生の頃、金に困って、少ない小遣いを貯め苦労して買ったこの2冊を神田の古本屋で処分してしまったことがあるのだ。
その後、この2冊は、講談社から江戸川乱歩全集の15として、「幻影城」、「続・幻影城」が合本となって発行されたものをまた買いなおしたのだが。それからは、古本を処分するときも文献だけは手放さないよう気をつけている。「海外探偵小説 作家と作品」のほうは乱歩氏のサイン入りの本が手元にあるが、大分古くなっており、保存が悪く表紙のビニールの部分が縮んでしまっている。

 

 

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0642.蛍坂

2005年08月27日 | 短編集
蛍坂
読 了 日 2005/08/27
著  者 北森鴻
出 版 社 講談社
形  態 単行本
ページ数 224
発 行 日 2004/09/21
ISBN 4-06-212579-X

 

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の下に て春死なむ」(196.参照)「桜宵」(401.参照)に続く三軒茶屋のビアバー「香菜里屋」シリーズだ。今回は、カメラマンとし ての限界を感じ、恋人の江上奈津美を残して中東へ旅立った有坂祐二だが、失意の内に帰国して、ふと入った「香菜里屋」 で奈津美の友人植村洋子と出会う。
そして、奈津美の死を知らされる(表題作)をはじめ、三軒茶屋でタウン誌を発行している仲河に降りかかった詐欺まがい の話(猫へ恩返し)、10年前に再開発の話が一軒の反対者のおかげでだめになり、家業の金物屋の店を閉めて、サラリーマン になった南原は、その反対者だった画廊の立原美昌堂が店を閉めるということを知った(雪待人)、桜の隅田光園で出会った 路上生活者を題材に、香菜里屋の常連たちを実名で登場させる小説を書いた秋津(双貌)、父の弟・皆川脩司は伯父さんとい っても、真澄と5歳しか年の差がなくよく2人で一緒に過ごした。真澄が小学校6年生のときに脩司から飲まされたのは、孤拳 とかかれた壺の中の焼酎だった(孤拳)の全5編の連作集。

ますます冴えるビアバー「香菜里屋」の主・工藤の料理と推理は人生の悲哀を余すところなく映し出す。大好きだった酒が 、2年ほど前から飲めなくなってしまった僕だが(体質の変化?)、一度「香菜里屋」の常連たちの話とマスターの料理を肴 にビールを飲んでみたいものだ。

 

 

初出誌(IN★POCKET)
# タイトル 発行月・号
1 蛍坂(原題 蛍坂幻景) 2003年7月号
2 猫に恩返し 2003年10月号
3 雪待人 2004年1月号
4 双貌 2004年5月号
5 孤拳 2004年7月号

 

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0641.賢者はベンチで思索する

2005年08月26日 | 安楽椅子探偵
賢者はベンチで思索する
読了日 2005/8/26
著 者 近藤史恵
出版社 文芸春秋
形 態 単行本
ページ数 280
発行日 2005/5/30
ISBN 4-16-323960-X

好きな作家の本は、誰でもそうなのだろうが、次々と読みたくなるので、僕は時々自制する。何も目標を立てて読書をしているからといって、その方法や、ジャンルにまで規制を作る必要などまるでないのだが、なんとなく広いジャンル、ないしは昔読めなかった名作なども読んでおきたいなどと、自分に言い聞かせているのだ。
さて、僕の大好きな作家の一人である近藤史恵女史の作品は、4月末に読んだキリコちゃんシリーズの「モップの精は深夜に現われる」(589.参照)に次いで、もう18冊目となる。本書は今までになかった新しいキャラクターの登場である。
デザイン関係の専門学校を出たものの、思うような就職先が見つからないまま、ファミリーレストラン「ロンド」でアルバイトをしているフリーターの、七瀬久里子・21歳がメインキャラクター。そして、彼女の周りで発生する謎や、事件の解明に手を貸すのが正体不明の老人?・国枝。

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

ひょんなことから犬を飼うことになった彼女の家の周辺で、飼い犬と思われる犬が殺されるという事件が起きる-「ファミレスの老人は公園で賢者になる」
久里子の勤務する「ロンド」で、客に出した料理の味がおかしかったり、子供が料理を吐き出したりする事件が相次ぐ―「ありがたくない神様」
ファミレス「ロンド」の常連客の男の子が誘拐され、久里子のところにも刑事が事情聴取に来る―「その人の背負ったもの」
3編の連作の形をとった長編?。このような若い女性キャラクターは、前作の清掃人キリコ嬢もそうだが、実に生き生きと描かれており、つい、著者と重ね合わせてしまう。本書では、犬も重要な要素となっているが、これは著者も飼っているので、犬好きを書けるのだろう。

 

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0640.エラリー・クイーンの冒険

2005年08月25日 | 短編集
エラリー・クイーンの冒険
THE ADVENTURE OF ELLERY QUEEN
読了日 2005/08/25
著 者 エラリイ・クイーン
Ellery Queen
訳 者 井上勇
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 378
発行日 1961/06/09
書籍番号 61006675

 

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期の短編集。若い頃何度か読んでいるのだが、記憶の外。
こういう本を読んでいると、学業そっちのけでミステリーにのめりこんでいた時期の苦々しい思いと、それに反した懐かしい想いとが交錯する。いずれも論理性の高い本格推理で、著者の特徴が端的に現われている作品集だ。
この中で僕が特に好きなのは、「アフリカ旅商人の冒険」と「1ペニー黒切手の冒険」。
「アフリカ旅商人の冒険」を読み始めたとき、昨年9月にNHKで放送された英BBCのTVドラマ「コナンドイルの事件簿」を思い出した。
「アフリカ・・」はニューヨークの大学の講座を受け持つことになったエラリーが、3人の学生を実際の犯罪現場に引率して、実地に捜査活動を学ばせるというストーリー。
現場の状況を観察した学生たちは、2時間後エラリーの前で、それぞれ事件解明への推理を発表するのだが・・・。

 

二つ目の「1ペニー黒切手の冒険」は、ホームズ譚の「六つのナポレオン」を連想させるストーリー展開なのだが・・・、そこはさすがにエラリー・クイーン先生、一筋縄ではいかない、。

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 アフリカ旅商人の冒険 The Adventure of The African Traveller
2 首つりアクロバットの冒険 The Adventure of The Hanging Acrobat
3 1ペニー黒切手の冒険 The Adventure of The One Penny Black
4 ひげのある女の冒険 The Adventure of The Bearded Lady
5 The Adventure of The Three Lame Men
6 見えない恋人の冒険 The Adventure of The Invisible Lover
7 チークのたばこ入れの冒険 The Adventure of The Teakwood Case
8 双頭の犬の冒険 The Adventure of "The Two Headed Dog"
9 ガラスの丸天井付き時計の冒険 The Adventure of The Glass-Domed Clock
10 七匹の黒猫の冒険 The Adventure of The Seven Black Cats



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0639.金田一耕助の新冒険

2005年08月22日 | 短編集
金田一耕助の新冒険
読 了 日 2005/08/22
著  者 横溝正史
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 451
発 行 日 2002/02/20
ISBN 4-334-73276-3

 

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型作品集「金田一耕助の帰還」に続く第2弾。
7編からなる短編集だが、いずれも後に中篇あるいは長編へと改稿された作品だという(詳細は下記の初出一覧)。
まだその第1弾は未読なので、いずれ読もうと思っている。本書の収録作品は、「悪魔の降誕祭」、「死神の矢」、「霧の別荘」「百唇譜」、「青蜥蜴」、「魔女の暦」、「ハートのクイン」の7編。僕は、この中で長編になったものを2~3読んでいるが、今となっては、内容も忘れており、本書を読んで所々で、「ああ、そうだった」と思い出した次第。
今考えると金田一探偵は映像の方が先で、東横映画「三本指の男」や「獄門島」の片岡千恵蔵扮するダブルのスーツ姿の金田一耕助に子供の頃出会ったのが最初だと思う。
資料を見ると、「三本指の男」が公開されたのが昭和22年で、「獄門島」が昭和24年だから、僕が見たのは田舎の映画館でリバイバルを小学校5~6年の頃に見たのだと思う。その後中学生になってから原作を少しずつ読んで、映画とずいぶん違うと感じたものだ。それでも、「八つ墓村」、「悪魔が来たりて笛を吹く」、「犬神家の謎・悪魔は踊る」、「三つ首塔」と次々と見ていった。
映画は映画として面白く見たのだが、何故原作どおりに映像化できないのだろうか?と不思議な気がしていた。

 

 

その後、江戸川乱歩氏のエッセイや、原作者横溝正史氏のエッセイなどで、映画会社の方が、原作者よりも高い位置にあったことが、その理由の一つとして考えられる。
今から思えば古き良き時代だったのかもしれない。映画の制作側からは、興行的に成功させるには原作のおもしろさというよりは、客を呼べる映像をどう作るかの方に重点を置いたのだ。
だから、脚色は原作をどうねじ曲げようと、自由自在に行われたようだ。その辺のところが横溝氏のエッセイでは、映画化の先輩である乱歩氏からの助言で、向こう(映画会社)の言うとおりに聞いておきなさい、というようなことを言われたとのことだ。

今なら、当時の時代背景を考えて、そんな物だったのだろうと想像できるが、そうしたこととは関わりなく、子供だった当時は映画は映画で楽しんでいたことを懐かしく思い起こす。

 

 

収録作
# タイトル 紙誌名 発行月・号 長編タイトル 発表年
1 悪魔の降誕祭 オール讀物 昭和33年1月号 悪魔の降誕祭 昭和33年7月
2 死神の矢 面白倶楽部 昭和31年3月号 死神の矢 昭和31年5月
3 霧の別荘 講談倶楽部 昭和33年11月号 霧の山荘 昭和36年1月
4 百唇譜 推理ストーリー 昭和37年1月号 悪魔の百唇譜 昭和37年10月
5 青蜥蜴 推理ストーリー 昭和38年3月号 夜の黒豹 昭和39年8月
6 魔女の暦 小説倶楽部 昭和31年5月号 魔女の暦 昭和33年8月
7 ハートのクイン 大衆読物 昭和33年6月号 スペードの女王 昭和35年6月

 

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0638.棘のある樹

2005年08月20日 | 本格
刺のある樹
読了日 2005/08/20
著 者 仁木悦子
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 266
発行日 1982/10/10
ISBN 4-04-145410-7

 

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末からはじめた散歩がてらのウォーキングのコースが定着して、このところ週2回のペースで、1周約7キロを途中30分の休憩を挟み2時間かけて歩く。その途中の休憩点がマックスバリュという24時間営業のスーパレット(小型のスーパーマーケット)に付随したハンバーガーのマクドナルドだ。7時30分前後に出発して、8時前後にそこに着くとコーヒーを飲みながら持っていった文庫本を読むのが定型となっている。
この本もそうして読み始めたのだが、読んでいて今さらながら、わが国の女流本格ミステリーの先駆者の偉大な功績を認識するのである。
「猫は知っていた」(164.参照)で江戸川乱歩賞を受賞したのが昭和32年で、高校3年生だった僕は、著者のミステリー作家としての活動をリアルタイムで知っていたにもかかわらず、さほど興味を持たなかったのは、何故だったのだろうと、今頃になって思うのだ。だが、落ち着いてミステリーを堪能できる境遇になった今、著作の書かれた頃の時代背景とともにストーリーを懐かしく思いながら、1冊づつ読んで行きたいという思いに駆られている。

 

 

本作は昭和36年の長編第4作の、仁木雄太郎・悦子兄妹による探偵譚だ。

水原氏の外遊の間、温室のサボテンの管理を任された兄妹が起居する邸に、尾永という紳士が訪れる。生命を狙われるという体験を3度もして、警察に届けたが、真面目に取り合ってくれず、警視庁の砧警部補から仁木雄太郎を紹介されたという。奥さんからも詳しい話を聞こうということで、尾永氏の自宅へ行くことになり、尾永氏が自宅へ電話すると、女中が、「奥さんが死んでいる」という。衝撃的な事件の幕開けで仁木兄妹の活躍が始まる。
細かく配置された伏線と論理の積み重ねが、事件の真相へと向かう正統派本格ミステリーである。

 

 

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0637.しゃべくり探偵の四季

2005年08月19日 | ユーモア
しゃべくり探偵の四季
読 了 日 2005/08/18
著  者 黒崎緑
出 版 社 東京創元社
形  態 単行本
ページ数 304
発 行 日 1995/02/28
ISBN 4-488-01270-1

 

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リーズの前作「しゃべくり探偵」(336.参照)が面白かったので、以前から第2作も読みたいと思っていた。
前のは、文庫本で読んだのだが、本書は、ネットで単行本が安く手に入った。
全7編からなる短編集だが、前と同じ保住ホームズと和戸ワトソンの掛け合い漫才風は、最初の2編「騒々しい幽霊」と、「奇妙なロック歌手」だけで、次の2編「海の誘い」、「高原の輝き」は三人称による語り、そして「注文の多い理髪店」では、刑事のお客の調髪をしながらの独り語り、さらに「戸惑う婚約者」は、保住と和戸の二人羽織風の占い師が登場、そして最後は、屋台のアルバイトをする、保住君が、二人の客の会話を聞いて・・・・、というようにバラエティに富んだ構成となっているのだ。

僕は、この安楽椅子探偵のストーリーは、どちらかといえば短編の方がピリッとしまった話になるのではないかと思っているが、著者のこのシリーズは、それに加え、会話の妙や、ユーモア、風刺などが散りばめられて、絶妙なストーリー展開になっている。
僕の今までのユーモア・ミステリーに対する偏見を糾してくれた、シリーズである。この中で、1篇だけある長編の原型とも言える作品があり、興味深く読んだ。

 

 

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0636.切れない糸

2005年08月18日 | 青春ミステリー

 

切れない糸
読 了 日 2005/08/18
著  者 坂木司
出 版 社 東京創元社
形  態 単行本
ページ数 374
発 行 日 2005/05/25
ISBN 4-488-01205-1

 

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年11月から12月にかけて、この著者のシリーズ作品を読み、3作目の「動物園の鳥」(524.参照)でシリーズ完結だと知り、とても残念に思い、次回作を待っていた。
東京創元社の著者サイン本のネット販売の案内で、新作の本書を知り、飛びつくような感じで購入。
前作のシリーズでは、ひきこもりの名探偵・鳥居真一と、彼のよき理解者で唯一の親友・坂木司とが周囲で発生する、あるいは持ち込まれる事件や謎を推理し、お互いを補完し合いながら、次第に交友関係と世界をを広げていくという連作だったが、今回は、町のクリーニング屋「アライクリーニング店」を中心とした下町の商店街が舞台。

 

 

そして、大学卒業を間近に控えたアライクリーニング店の息子・新井和也 「俺」が物語の語り手だ。ある日、アライクリーニング店の店主・「俺」の親父が急死した。幸か不幸か、就職の決まってなかった「俺」は仕方なく家業をアルバイト的に手伝うことになった。店は、親父と一緒に仕事をしていた家族同様のアイロン職人のシゲさんが居るので、「俺」は配達と集荷の営業をすることに・・・・。
同じ町内にある喫茶店に、大学で一緒だった沢田直之が、アルバイトをしている。彼は、親友というほどではないが、鋭い観察眼を持ち、良く人からの相談事を解決する特異な能力の持主だった。商店街に暮らす人々の生活と、3人の名探偵たちが解決していく謎は・・・・。

 

 

収録作
# タイトル
第一話 グッドバイからはじめよう
第二話 東京、東京
第三話 秋祭りの夜
第四話 商店街の歳末
以上の他に、前後にプロローグ、エピローグがつく

 

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0635.アラビアンナイトの殺人

2005年08月17日 | 安楽椅子探偵

 

アラビアンナイトの殺人
THE ARABIAN NIGHTS MURDERS
読了日 2005/8/17
著 者 J.D.カーJohn Dickson Carr
訳 者 宇野利泰
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 518
発行日 1961/6/16
ISBN 4-488-11806-2

 

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日もかけてようやく読み終わる。僕は、若い頃もディクスン・カーの作品はあまり読まなかった。HPBで、処女作の「夜歩く」は買って読んだ覚えはあるが、内容は全く記憶の外だ。
タイトル同様の不気味な顔の表紙イラストが印象的だったのでそれだけを覚えている。不可能犯罪の最たる密室事件のみを書いているので、僕の好みからいえばもっと沢山読んでいてもいい筈なのだが、相性が悪かったのか?

 

この作品も、決して読みにくい文章でもないのだが、読むのに時間がかかってしまった。これを読もうと思ったのは、安楽椅子探偵譚として、東京創元社の案内にあったからだ。
要約すれば、ロンドン警視庁の警部、警視、そして副総監が、ロンドン市内の博物館を巡回中だった警官が遭遇した奇怪な事件の顛末を、それぞれの視点からフェル博士に解説するということなのだが。この三人三様の話が長いこと。全編515ページに及ぶ長編の、96%が三人の話なのだ。しかしながら、考えようによっては、それも読者へのフェアプレーの精神に基づくサービスなのかもしれない。あらゆる角度からの捜査の過程や、データを示して、三人の行き着いた結果を判断させようとする・・・。

 

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0634.若狭小浜殺人紀行

2005年08月13日 | トラベルロマン

 

若狭小浜殺人紀行
読了日 2006/12/15
著 者 石川真介
出版社 コスミック・インターナショナル
形 態 新書
ページ数 238
発行日 2002/5/1
ISBN 4-7747-0350-8

 

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つの頃からか、テレビで紀行番組がそっちこっちの局で放送されるようになったが、 ミステリーの世界でも紀行ミステリーとか、旅情ミステリーとか呼ばれるものが多く見られるようになった。
どちらが先だったか判らないが、紀行ミステリーについて言えば、映像化された場合の効果が、倍増されるというメリットがある、ことではないかと思っている。僕は元来こうした紀行ミステリーには興味がなく、手にすることはなかった。
ところが、石川真介氏の鮎川哲也賞受賞作の「不連続線」(509.参照)がドラマ化されたものを見て、その後原作を読んで、登場人物のキャラクターが好きになり、次々と読むことになった、それが、紀行ミステリーだったというわけだ。
ドラマの「不連続線」は、若干原作とニュアンスの異なる部分もあったが雰囲気としては、良かったので、その後いくつもの作品に同じキャラクターが登場しているにもかかわらずドラマがシリーズ化しないのは何故かと不思議に感じている。いまや、わが国の新しいミステリーには、定番とも思える、紀行や、それに付随して語られる、料理などもふんだんに登場して、風土や伝説等にも触れて、しかも、石川氏の小説には、勤務先のコマーシャルもふんだんに出てくるので、映像化を妨げているのか?!

 

 

本書は、推理作家の吉本紀子が寄稿先の週刊スクープの依頼で、迷宮入りとなっている、若狭のバラバラ殺人事件の取材に、広域捜査官の大島警部と福井県へと出かける幕開けだ。鯖江市出身の著者の、地の利を活かした地方色豊かなエピソードも添えて、吉本紀子の推理も冴える。

 

 

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0633.ミス・マープル最初の事件

2005年08月11日 | 本格
ミス・マープル最初の事件 牧師館の殺人
THE MURDER AT VICARAGE
読了日 2005/8/11
著 者 アガサ・クリスティ
Agatha Christie
訳 者 厚木淳
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 272
発行日 1976/6/25
ISBN 4-488-10528-9

 

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そもそも、目標冊数(500)に向かって読み始めた切っ掛けの一つが、翻訳書を読んで感動したことなので、当初は読むのは専ら海外作品だった。
途中から、国内の作品も読むようになり、いつの間にか、翻訳モノに縁遠くなっていた。 僕は読んで気に入ると、同じ種類の作品や、同じ作家の作品ばかりに偏る傾向があるので、時々、軌道修正を心がける。 そういった意味で、近頃は、海外の名作や古典をできるだけ読み直そうと思っている。

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

これは、原題は「牧師館の殺人」だが、和訳のタイトルのようにクリスティ女史の生んだ二大探偵の1人、ミス・マープルの最初の1冊だ。 読書のほかに、僕はささやかながらビデオコレクションにも精を出しているので、英国BBCテレビで、名優ジョーン・ヒクソン主演により制作されたTVドラマ「ミス・マープルシリーズ」は全作見ている。
ドラマはさすがに良く出来ており好きなドラマの一つだが、原作は、ドラマとは違った面白さがある。また、活字と映像の決定的に違うのは、本は読者が想像の世界を作り上げることだろう、と思う。

話が横道にそれるが、テレビ番組のホームページで、掲示板への書き込みなどを見ていると、原作と映像化されたもののイメージが違うと、苦情を書いている人が居る。 それはそれで一向に構わないのだが、僕は、映像と小説と両方を別々に楽しむように心がけている。 本場英国の素晴らしいと思えるTVシリーズでさえ、原作と映像化されたものが違うことはざらにあるのだから。

 


0632.緋の記憶(三影潤推理ノート)

2005年08月08日 | 連作短編集
緋の記憶
三影潤推理ノート
読 了 日 2005/08/08
著  者 仁木悦子
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 297
発 行 日 1980/05/15
ISBN 4-06-183050-3

 

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近になって、この偉大な、わが国の女流ミステリー作家の草分けとも言える、著者の本を少しずつ読み始めている。僕は結構長いことこの著者の評価を誤っていたのだ。「猫は知っていた」(164.参照)が乱歩賞を受賞したのが昭和32年で、高校2年生だった僕はあまりにも騒がれた受賞と、評判とで返って読む気がせず、読んだのはずっと後になってからだった。
本書は、サブタイトルにあるように、高田の馬場駅近くのマンションに事務所を持つ桐影秘密探偵社の探偵・三影潤を主人公とする連作短編集である。好奇心が旺盛で、金にならない依頼をついつい引き受けてしまうことから、共同経営者の桐崎秀哉からにらまれる事も。幼い頃の夢が母の死に関係しているとの、若い女性・北松園美からの依頼で調査を始めると、自殺として処理されていた事件が、どうやら他殺の疑いが出てくるという表題作「緋の記憶」のほか、暗緑の時代、ほか全6篇を収録。いずれも本格物で、短編ながら読み応えのある秀作。

 

初出誌一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 暗緑の時代 小説推理 昭和51年12月号
2 緋の記憶 小説宝石 昭和52年7月号
3 アイボリーの手帖 小説新潮 昭和52年3月号
4 沈丁花の家 カッパまがじん 昭和52年3月号
5 蜜色の月 問題小説 昭和52年6月号
6 美しの五月 小説宝石 昭和51年6月号

 

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0631.夏草の記憶

2005年08月06日 | サスペンス
夏草の記憶
BREAKHEART HILL
読了日 2005/8/6
著 者 トーマス・H・クック
THOMAS H.COOK
訳 者 芹澤恵
出版社 文藝春秋
形 態 文庫
ページ数 318
発行日 1999/9/10
ISBN 4-16-721858-5

 

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著者の本は、以前「MORTAL MEMORY(死の記憶)」(10.参照) 「THE CHATHAM SCHOOL AFFAIR( 緋色の記憶)」(24.参照)を余り間を空けずに読んだ。
それと本書を合わせて記憶3部作と呼ぶのだそうだが、前2作からかなりの期間をおいて本書を読んだ ので、前の内容がおぼろげになってしまった。ただ、「緋色の記憶」については、2003年1月に、今は亡 き野沢尚氏の脚色によりドラマ化されて、NHK総合テレビで5回にわたり放送されたから、わずかに記 憶に残っている。特に、村のバス停に降り立つ若い女性の緋色のブラウス、は余りにも原作のイメー ジそのままで驚いたことを思い出す。まさに「緋色の記憶」だ。

 

さて、この3作が記憶3部作と呼ば れるのは、いずれも過去の事件(もちろん、事件の内容も、起きた場所も、登場するキャラクターもそ れぞれ全く違うのだが)の記憶を主人公の一人称で語りながら、その真相にたどり着くという形をとっ ているからだ。 本書は、アラバマ州の北部にあるチョクトーという小さな町で30年前に起きた事件を、当時チョクト ー・ハイスクールの生徒だったベン・ウエイドが折に触れ、回想していく。今では、チョクトーの信 頼される医師のベンも、ハイスクール時代の誰にも言えない暗い過去があった。

 

ハイスクール時代の誰にでもある ような初恋や、嫉妬、クラブ活動や、友情、先輩や、教師等、諸々との係わり合いが静かに語られて いく中で、何が起こったのかが、次第に明らかになってゆきサスペンスが盛り上がる。

 

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0630.博士の愛した数式

2005年08月03日 | 数学
博士の愛した数式
読 了 日 2005/08/03
著  者 小川洋子
出 版 社 新潮社
形  態 単行本
ページ数 253
発 行&nbsp:日 2003/08/30
ISBN 4-10-401303-X

 

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ンラインブックショップの案内で、4月に読んだ「世にも美しい数学入門」(藤原正彦/小川洋子)(583.参照)の前書きでこの本を知った。
同様にその時の案内でもう1冊読んだのが、「フォア・フォーズの素数」(竹本健治)(599.参照)だ。
それはともかくとして、本書は、今でも書店の店頭で大量に平積みされているので、僕はてっきり最近の新刊だとばかり思っていた。だから、購入するのは諦めて、図書館の本を予約した。奥付を見ると発行日は2003年だ。書店で大量陳列されている理由はこの本が"本屋大賞"なる賞を受賞したことのようだ。

その昔、仲間と一緒に郊外型書店のチェーン店を目指して、会社を興した際、参考書や受験雑誌等で大手出版社の営業課長の経験のある、今は亡き親友が「本屋ほど本を読まない人種は無い」などと言っていたのを思い出し、余分なことだが、本屋大賞なるものにちょっと疑問を感じた。

 

 

著者の小川洋子氏については、従来まったく知らなかったのだが、これを機会に他の作品も読んでみようかという気にさせられた。

瀬戸内海に面した小さな町の家政婦紹介組合に登録している「私」が、派遣されたのは、屋敷の離れに住む初老の数学博士のところだった。
彼は、1975年の交通事故により、記憶障害の後遺症で、確かな記憶は1975年までの記憶で、それ以降のことは記憶の積み重ねが80分しかできなかった。
未婚の母の「私」には10歳の男の子が居るが、博士の提案で、「私」の勤務時間中は、学校が終ると博士宅で、博士と「私」と息子の3人で過ごすことになる。

 

 

士は、息子の頭が平らなところから「ルート」というニックネームをつけてことのほか可愛がる。
博士の面倒を見ると同時に、博士からは、数字に関する質問を受けたりするうちに、「私」と息子は次第に数学に興味を引かれるようになる。
数字にしか興味を示さない博士が、愛情を持って息子を抱きしめるところは、感動的で思わず涙を誘われる。家政婦の「私」とその息子が、記憶障害の博士とどう向き合ってコミュニケーションをとっていくか、一読を勧めたい話だ。

 

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