隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0574.四万人の目撃者

2005年03月31日 | サスペンス
四万人の目撃者
読 了 日 2005/03/31
著  者 有馬頼義
出 版 社 光文社
形  態 文庫
ページ数 302
発 行 :日 1988/03/20
ISBN 4-334-70706-8

 

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の本も若かりし頃一度読んだ本だ。映画化もされており、そちらも見ている筈なのだが、佐田啓二氏(俳優・中井貴一氏の父)の顔は思い浮かぶのに内容はさっぱりだ。45年も前のことだから仕方がない。

プロ野球チーム・セネターズのスタープレーヤー・新海清が走塁中に突然倒れ、絶命する。
試合を見ていた東京地検の高山検事は、翌日の新聞記事を見て新海の死に不審を感じる、という発端から、世田谷署の笛木刑事と共に事件ともいえない事件に地味な捜査活動を続けていく。
ストーリーの展開として、多分、新海選手の死は殺人事件なのだろうと思うのだが、本当のところ、これが事件なのかどうかということさえ、作中の人物たちには判ってこないのだ。そうした展開にもかかわらず読むものをとらえて話さないのは作者の筆力であろう。

昭和33年に週刊読売に連載されたとのことだが、僕が高校を卒業する年だった。
この時期には、かの松本清張氏の「眼の壁」も同じ週刊読売に連載された。本作は日本探偵作家クラブ賞(現在の日本推理作家協会賞)を受賞している。また、松本清張氏の推理文壇への登場により探偵小説から、社会派推理小説へと変貌を遂げるスタートの時となる。
有馬氏のこの作品は、一検事の不審に思う事柄から、事件解明までの気の遠くなるような隠れた捜査が、正に推理小説と呼ぶに相応しいストーリだったのではないかと、今読んでも思うのだ。

 

 

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0573.製造迷夢

2005年03月29日 | 連作短編集

 

製造迷夢
読 了 日 2005/03/29
著  者 若竹七海
出 版 社 徳間書店
形  態 文庫
ページ数 331
発 行 日 2000/11/15
ISBN 4-19-891412-5

 

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書は、東京渋谷・猿楽町署の刑事・一条風太と、手に触れたものから、その所有者やそれに触った人の残留思念を読むことの出来る井伏美潮が共に事件を解決に導くというストーリーで、表題作の他、全5編の連作短編集。一種のサイキックの話なのだが、構成にも、人物描写にも、あるいは作者自身の考え方がキャラクターに反映しているのか?荒唐無稽になっていない。
(ここまでが、読後すぐの文章で、この後は2011年5月8日に半ば再読して書いたもの)

 

 

このブログには、本のデータのみが記されているものがかなりある。以前は独語の感想などの文章を書くことより、とにかくたくさんの本を読もうということが、何より優先していた時期があって、あとで書こうと思いながら、そのままになっている。
考えてみればわかりそうなものだが、後になればなるほど記憶は薄れ、書く気力も同時に薄れるということが、その時にはわからないのだ。この本だって、今ざっと目を通しただけで、かなり面白いストーリーの連作だということがわかるのに、その連作のタイトルすら書かなかったとは、信じられない思いだ。
しかも押入れの中まで探したが、とっておいたはずの文庫まで見当たらない始末だ。
仕方なく今日(2011/05/08)君津市立図書館まで足を運んで借りてきた。あったのは文庫でなく単行本だが、中身は違わいからともったが、ここに収録されている著者のあとがきが、文庫にあったかどうかも覚えていない。
まあ、あったことにしておこう。

 

 

ぜこんなことを書くかと言えば、その著者のあとが気が本文にも負けず劣らず面白いのだ。 直接本文に差しさわりのあるようなことは書いてないから、あとがきから読んでも大丈夫。僕は知らなかったのだが、連作のタイトルとなっているのは、曲の名前だそうだ。
著者はその曲のタイトルを使ったいきさつについて書いているのだが、短い文ながらストーリーを組み立てたり、紡いだりするきっかけともいうべき、気持ちや曲から受けた感じなどなど、簡潔に表現されており、わかるような気がする。僕も音楽好きだからだろう。
妹の友達だということから会って話をすることにした、佐々木絵理子は覚せい剤所持で逮捕され、拘置所内で自殺?を図った作曲家の石原流名の件から、リーディング能力を持つという井伏美潮と会うことになった。
一条は刑事として超能力などというものは一切信じていなかったのだが・・・・。

 

初出誌
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 天国の花の香り 小説フェミニナ 1993年春季号
2 製造迷夢 小説フェミニナ 1993年夏季号
3 逃亡の街(亡命の大街改題) 小説フェミニナ 1993年秋季号
4 光明凱歌 問題小説 1994年2月号
5 寵愛 書き下ろし  

 

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0572.D坂の殺人事件

2005年03月27日 | 短編集
D坂の殺人事件
読 了 日 2005/03/27
著  者 江戸川乱歩
出 版 社 春陽堂書店
形  態 文庫
ページ数 251
発 行 日 1987/06/05
ISBN 4-394-30106-8

 

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がシャーロック・ホームズ以前に、探偵小説が好きになる下地があったとすれば、それは小学校時代に読んだ「怪人二十面相と少年探偵団」だ。
雑誌「少年」に連載されていた?江戸川乱歩氏の怪人二十面相はラジオドラマにもなって、夢中で聞いたものだ。
今のように娯楽の多くなかった当時、雑誌やラジオは何物にも代えがたい楽しみだった。そして、この作品を読んだのはそれから何年か後の中学から高校に進学する頃だったのではないかと思う。

 

 

D坂の古本屋の細君が殺された!その死体には生傷がたくさんあった!
D坂のカフェー白梅軒で知り合いになった“私”と明智小五郎は、犯人探しに懸命になった。“私”の推理では明智が犯人かと思われた―表題作―、の他全7編を収録した初期の短編集。

大正末期から昭和のはじめに書かれた作品だが、時代背景を抜きにすれば、今読んでもなかなか面白い。推理物は表題作に、「何者」や「一人二役」など、ユーモアのある「算盤が恋を語る話」、衝撃的な「赤い部屋」等バラエティ豊か。
ラジオ番組の少年探偵団を思い出した。
今となっては、僕の記憶もあまりあてにならないが、少年探偵団が放送されていたのは、夕方だったのだろうか? 1台のラジオは家族に娯楽を与えてくれる大切なものだったから、僕が少年探偵団を聞くことが出来たのは、たぶん夜のゴールデンタイムと言われる時間より早かったのだろう。
半ば消え去ろうとしている、当時の思い出だ。

 

 

収録作
#タイトル
1 D坂の殺人事件
2 何者
3 一人二役
4 算盤が恋を語る話
5 恐ろしき錯誤
6 赤い部屋
7 黒手組

 

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0571.ALONE TOGETHER

2005年03月26日 | 青春ミステリー
ALONE TOGETHER
読 了 日 2005/03/26
著  者 本多孝好
出 版 社 双葉社
形  態 文庫
ページ数 302
発 &nbsp:行日 2002/10/20
ISBN 4-575-50844-6

 

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い先日読んだ「MISSING」(564.参照)と一緒に買った著者2冊目の本で、初の長編だそうだ。
「ある女性を守って欲しいのです」三年前に医大を辞めた「僕」に、脳神経学の教授が切り出した、突然の頼み。「女性といってもその子はまだ十四歳・・・・。私が殺した女性の娘さんです」
「僕」、即ち語り手で主人公の「僕」は、この教授の大学を3年前にやめている。そもそもその大学に入ったのは、「僕」の問題をその教授によって解決する為だったのだが、出来ないことがわかってやめたのだ。その教授が「僕」を覚えていて、頼ってきたことに不審を抱いた。

というようなプロローグで物語は始まる。この主人公の「僕」は、いわゆるサイキックなのだが、僕には、ちょっと理解できないような言動もあり、ちぐはぐな感じで入り込めなかった。ちょっと残念な気がする。

 

 

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0570.金田一耕助のモノローグ

2005年03月25日 | エッセイ

金田一耕助のモノローグ

金田一耕助のモノローグ
読 了 日 2005/03/25
著  者 横溝正史
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 136
発  :行日 1987/08/30
ISBN 4-04-130496-2

 

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者横溝正史氏のエッセイ集。
戦時中岡山県の山村に疎開していた当時の話は、戦中、戦後と物のない厳しい時代を子供だった僕にもいくらか記憶にあるので、苦くも懐かしい思いが蘇る。
氏は、この時の疎開が縁で、かの名作「本陣殺人事件」をはじめとする岡山や、瀬戸内の小島を舞台とする金田一耕助シリーズを生み出した。
「本陣殺人事件」や、「獄門島」はかなり後になって僕は読んだのだが、その後探偵小説誌「宝石」に連載された「悪魔の手毬唄」あたりからは、リアルタイムで読んでいる。
あの頃文字通り胸躍らせて読んだことを思い出す。
同時に、原作とは全くの別物であるところの、片岡千恵蔵扮する金田一映画も残らず見てきた。
というようなことも思い起こさせるエッセイである。
片岡金田一を、見たのはまだ中学生のころで、まだ金田一幸助を知らなかった頃だったと思う。だから、その後原作を読むようになってから、ところどころで原作と合致するような筋運びもあるものの、主人公のキャラクターがこうも違っていいものかと感じたものだ。
しかし、昔ながらの活劇ともいえる片岡千恵蔵氏の、颯爽たる金田一耕助は、それはそれで楽しんでみていた。「三本指の男」(本陣殺人事件)から、「獄門島」、「悪魔が来り手笛を吹く」等々、田舎の小さな映画館で、胸躍らせながら見ていたことが、思い出される。

 

 

このエッセイが新聞に連載されていた頃は、、僕が活字離れを起こしている真っ最中だった。
思えば、その活字離れが僕にもたらした損害は、計り知れぬものがある。しかし、こうしてまた、古今東西のミステリーを思う存分楽しめるときが来たのだから、良しとしよう。
金田一シリーズも機会があるごとに読み返すとしよう。

 

 

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0569.八月の舟

2005年03月24日 | 青春ミステリー
八月の舟
読了日 2005/3/24
著 者 樋口有介
出版社 角川春樹事務所
形 態 文庫
ページ数 231
発行日 1999/9/18
ISBN 4-89456-567-6

 

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口有介氏の青春小説には、夏が多い。つき抜けるような青い空と眼の痛くなるような白い雲、暑い夏がよく似合う。
僕も若い頃は太平洋に面した房総の小さな町で過ごした。一家で間借りしていた家は、浜辺まで30mのところにあり、子どもの頃は家から裸で海に行ったものだ。夏になると東京から従兄弟たちが海水浴や避暑のためにやって来てひと時賑やかな様相を呈した。夏も終わり、ひと時の夏を楽しんだ客たちが帰ると、誰もいなくなった海は寂しくて、そうした秋が僕は嫌いだった。だから、著者の夏のひと時を描いた、こうした作品を読むと、当時のことをちょっと思い出して、切ないような、懐かしいような気持ちになる。

 

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

そうした暑い夏を謳歌する、本書の主人公は、葉山研一・高校生。

 

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0568.社会部記者

2005年03月22日 | 仕事
社会部記者
読了日 2005/3/22
著 者 島田一男
出版社 双葉社
形 態 文庫
ページ数 239
発行日 1995/05/15
ISBN 4-575-65805-7

 

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若い頃だが、島田一男氏の作品にも凝ったことがある。特に講談社の書き下ろし探偵小説全集の1冊「上を見るな」(80.参照)からは、刑事弁護士・南郷次郎シリーズを欠かさず読んだ。 長編はもちろん、週刊東京に定期的に掲載されていた短編も、夢中で読んだものだ。
横道にそれるが、この週刊東京には、昭和32年ごろから翌年にかけて、島田氏の南郷シリーズの他に、高木彬光氏の大前田栄策シリーズ、横溝正史氏の金田一耕助シリーズの各短編が2週ずつ交互に掲載されており、毎週楽しみにしていたのだが、考えてみると随分豪華な連載企画であった。

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

さて、本書は著者の出世作とも言うべき作品で、大陸での記者経験を生かした事件に絡む記者の活躍を描いたもので、 当時の世相が鮮やかに切り取られて軽快なセリフと、テンポの良い文体とがマッチして、読者に受け入れられた。 この作品が更に発展して、NHKでロングランとなったドラマ「事件記者」が生まれた。

 


0567.青じろい季節

2005年03月20日 | 本格
青じろい季節
読了日 2005/03/20
著 者 仁木悦子
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 299
発行日 1987/05/20
ISBN 4-04-145407-7

 

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書の存在を知り、読もうと思ったのは天藤真氏の「遠きに目ありて」(330.参照)を読んで、主人公である障害者の少年にモデルがあり、著者が仁木氏に断って、この「青じろい季節」の中から借りたという巻末のあとがきでこの作品を知ったというわけだ。
僕はこの著者が第3回江戸川乱歩賞を受賞したときからリアルタイムで知っていたのだが、受賞作を除いては、殆ど読んでいないといっていい。
今になって何故だったのだろうと考えるが、これといった理由があったわけではない。他に読みたい本がたくさんあって手が廻らなかったのだろう。
さて、本書は外国語の翻訳を生業とする小さな事務所を経営する青年・砂村朝人が主人公。翻訳家や、翻訳業界の内情が実に詳しく描かれていると思ったら、著者の夫君が、翻訳家だそうだ。
翻訳の下請けをアルバイトとする大学院生が行方不明となる発端から、物語が進むに連れて深まる謎と、明らかにされる人間関係とが入り乱れる。

 

 

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0566.猫丸先輩の推測

2005年03月17日 | 連作短編集

猫丸先輩の推測

猫丸先輩の推測
読 了 日 2005/03/17
著  者 倉知淳
出 版 社 講談社
形  態 新書
ページ数 318
発 行 日 2002/09/05
ISBN 4-06-182272-1

 

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ンソロジーで知った著者の本も3冊目となる。
本書も含め3冊とも共通して"安楽椅子探偵"形式を取っているが、特に本書はそれが顕著で面白い。
皮肉とユーモアで言いくるめる、猫丸先輩の推理と謎解きに納得されられる。傍目には変人と見られる彼は、物事を見通す観察眼が鋭く、なんとも不可思議な謎をその深い洞察力で推理する。が、反面人の目を全く気にしない奇妙な言動が後輩たちに変人として疎んじられる。

 

 

『病気、至急連絡されたし』手を変え品を変え、毎夜届けられる不審な電報「夜届く」
花見の場所取りを命じられた孤独な新入社員を襲う数々の理不尽な試練「桜の森の七分咲きの下」
商店街起死回生の大イベントに忍び寄る妨害工作の影・・・・「たわしと真夏とスパイ」などなど、と他に3篇を加えた全6篇の連作集。
年齢不詳、神出鬼没、掴み所のないほのぼの系、猫丸先輩の推理が、すべてを明らかにする・・・・???
ミステリー好きの方は気が付いているだろうが、下記の収録作にあるタイトルは、他の内外の作者の作品タイトルのパロディである。こんなところにも猫丸先輩ならず、作者のユーモア精神が表れている。

 

 

収録作
# タイトル
1 夜届く
2 桜の森の七分咲きの下
3 たわしと真夏とスパイ
4 失踪当時の肉球は
5 カラスの動物園
6 クリスマスの猫丸

 

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0565.新・事件 海辺の家族

2005年03月15日 | 脚本

 

新・事件
海辺の家族
読 了 日 2005/03/15
著  者 早坂暁
出 版 社 大和書房
形  態 単行本
ページ数 238
発 行 :日 1982/08/10
ISBN 4-479-54002-4

 

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HKドラマ人間模様・事件シリーズの第1作の脚本。
このシリーズの脚本5本が5冊の本になり刊行されたのを買って、僕は2回くらいずつ読んだ。
以前買った本はミステリーの文献などを除くと大半は手放してしまったのだが、ドラマの再放送も望めなかったので、このシリーズは手元に取っておいたのだ。
しかし最近になって、NHKのBSとスカパーの362ch(ホームドラマチャンネル)で4作目の「ドクター・ストップ」を除く4作が放送された。今回は逃さず録画した上で、DVDにも焼いて残した。

 

 

さて、本作は、東京湾に面した浦安の漁業一家の物語で、当時湾岸道路建設等のための海岸の埋め立てに伴い漁業権を放棄した漁業従事者に多額の保証金が支払われた。
その金を目当てにバーやキャバレーなどの風俗営業が林立して、ホステスの女性たちも各所から集まった。
そのホステスに一家の主が入れあげたことが発端となり事件が発生する。
多分この当時は似たような事件は日常茶飯として発生していたのではないかと思われる。
このシリーズのドラマは、世相を色濃く反映したものが多く、そのためにビデオ化もDVD化もされなかったのではないかと思っている。唯一、世相とはあまり関係のない題材で作られたのが、「ドクター・ストップ」だった。
この作品だけは、出演者に人気俳優松田優作氏が入っていることもあってか、かなり前にビデオになってレンタル店にも並び、最近になってDVDも作られたようだ。

 

 

台となった千葉県の浦安は昔から東京湾に面した漁業の村として、山本周五郎氏の「青べか物語」にも描かれているが、馴染みのない人も多いことだろう。
細々と漁業を生業として、肩を寄せ合って海辺で暮らす家族。貧しいながらも幸せな毎日を送っていた人々が、近代化という波に押し流されて、一転してどん底に陥れられるという悲劇を描いたのがこの作品だ。
早坂氏の脚本の良さに上回る演技を示していたのが、祖父役の今は亡き笠智衆氏や、母親に扮した中村玉緒氏だった。このシリーズドラマでは、本作以外にも多くのバイプレーヤーが登場して、いぶし銀のような演技を見せていることも見逃せない。
どちらがどちらとは言い切れないが、そうした演技を引き出してもいる早坂氏の練られた脚本を改めて味わう。

 

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0564.MISSING

2005年03月13日 | 青春ミステリー
MISSING
読 了 日 2005/03/13
著  者 本多孝好
出 版 社 双葉社
形  態 文庫
ページ数 341
発 行 日 2001/11/20
ISBN 4-575-50803-9

 

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納朋子氏のファンサイトの掲示板で、近年流行語になった"癒し系”の話として、読者から紹介されていた中に本書があった。第16回小説推理新人賞受賞作「眠りの海」を含む処女短編集ということだ。
「謎々」とルコの声が云った。「夏はどうしてこんなに気持ちいいのでしょう」ルコと一緒にいるから、なんて言えなかった―「瑠璃」より―の他、全5篇が収録されている。
各社から発行されている推理小説誌(一般誌でも)で、制定されているミステリー文学賞の受賞作が毎年かなりの数に昇っているようだが、最近は、月刊誌を買ったり、読んだりすることが全くなく、そうした情報に疎くなってしまった。
図書館へ行ったら、単行本で有ったので、受賞作だけ読んだ。再度図書館へ行ったときに続きを読もうと思っていたら、BOOKOFFで安い文庫の棚に、本書と、「ALONE TOGETHER」が有ったので2冊とも買った。

 

 

入水自殺を図った男は、幸か?不幸か?その土地の少年に助けあげられた。
少年に問われるまま、自殺に至った過去の経緯を話し始める。
という、受賞作「眠りの海」は、主人公の「私」と、少年との会話が、面白い。全編ミステリーといえば言えないこともないが、ファンタジックなストーリーで、不思議な読後感を与えてくれる。

 

 

収録タイトル
# タイトル
1 眠りの海
2 瑠璃
3 祈灯
4 蝉の証
5 彼の棲む場所

 

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0563.夫と妻に捧げる犯罪

2005年03月11日 | 短編集
夫と妻に捧げる犯罪
LOST DOG & OTHER STORIES
読 了 日 2005/03/11
著  者 ヘンリー・スレッサー
Henry Slesar
訳  者 小鷹信光
出 版 社 早川書房
形  態 文庫
ページ数 331
発 行 日 1974/04/15
ISBN 4-15-040067-9

 

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、テレビで放送されていた「ヒッチコック劇場」という番組で、脚本家の名前に時々見かけたのが切っ掛けで、著者を知った。
多分最初に読んだのが、「うまい犯罪、しゃれた殺人」だったと思うが、まだ僕は結婚する前のことだから大分昔の話だ。
ヒッチコックが好んでこの作者の作品をドラマ化したように、センスの良い落ちのある話とか、引っ掛ける話とか、あっと驚くような、あるいは、やられた!と思わせるような結末の作品が多かった。
本書は翻訳家の小鷹信光氏が編んだ短編集で、4部構成・30篇からなっている。
切れ味の良い落ちの作品から、ブラックユーモアや思わずほろりとさせるものまで、バラエティに富んだストーリーを集めてある。
小鷹氏の解説によれば、著者は生粋の作家ではなく余技としてショートストーリーを書いたのだというが、余技でこれほどのものを書かれたのでは、本職の作家はたまらないだろう。

 

 

収録作と原題
# タイトル 原題
第一部 夫と妻に捧げる犯罪
1 愛犬 Lost Dog
2 就眠儀式 The Lady and the Boy
3 愛の巣 Love Nest
4 光る指 Light Finger
5 アンドロイドの恋人 Marriages Are Made in Detroit
第二部 クライム・アンド・サプライズ
1 ベッツィが待っている Fly Home to Betsy
2 勲章のない警官 Cop Without Medals
3 ペントハウスの悲鳴 A Cry from the Penthouse
4 どなたをお望み The Candidate
5 人相書 Incognito
6 暗殺指令 Mission:Murder
第三部 ファンタスティック・ドリーム
1 三つの願いごと The Wishgiver
2 猫の子 My Father,The Cat
3 旅する医者 The Travelling Couch
4 朝帰り The Anonymous Man
5 置手紙 Confessions of a Talking Dog
6 おもちゃ The Toy
第四部 陥穽の1ダース
1 最後の微笑 The Last Smile
2 出世の早道 A Way to Make It
3 奇病 Very Rare Disease
4 ヴァイオリン・ソロ Solo for Violin
5 解雇通告 The Firing Line
6 すばらしい媚薬 The Seacret Formula
7 交通地獄 The Jam
8 受験日 Examination Day
9 凱旋パレード Victory Parade
10 その後・・・ After...
11 遺言 A Whimper
12 おはよう、未来です Good Morning! This is the Future

 

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0562.女彫刻家

2005年03月09日 | サイコ・サスペンス
女彫刻家
THE SCULPTRESS
読 了 日 2005/03/09
著  者 ミネット・ウォルターズ
Minette Walters
訳  者 成川裕子
出 版 社 東京創元社
形  態 文庫
ページ数 489
発 行 日 2000/08/25
ISBN 4-488-18702-1

 

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000年9月に読んだ「氷の家」(71.参照)に続く著者の2作目だ。でも僕は、氷の家を読むまで、こちらの女彫刻家の方がデビュー作だとばかり思っていた。
というのも、この作品もドラマの方を先に見ていたからだ。英本国で制作されたドラマがビデオになってレンタル店に並んでいたのを借りて見たのだ。衝撃的な作品で、見た後すぐに原作を読もうと思い文庫を買ったのだが、なぜか積ン読のまま4年が過ぎてしまった。
今回読んでみて、テーマの重さにかかわらず文体も平易で読みやすく、自然とストーリーに没入できた。著者は、この後先に読んだ「氷の家」や、「鉄の枷」、「昏い部屋」と問題作を次々に発表して、英国のテレビは、これまた次々とそれらの作品をドラマ化した。
氷の家はNHKでも放送されたのだが、この女彫刻家の方は、ビデオ化されている所為か、それとも冒頭の事件の残酷さの所為か放送されなかった。

 

 

しかし、この作品の主張するところは、事件の残酷性ではなく、人の心の不可解さというか、人間心理を追求することだと思う。
物語は、母と妹を殺害した上、その遺体を切り刻んだとして終身刑となったオリーブ・マーチンという女性についての本を書くために、フリーライターのロザリンドが、面会に行くところから始まる。
凶悪な殺人者として収監された女性は、どんな人物だろうかという不安を持って面会に望んだロザリンド(ロズ)は、囚人が遺体を切り刻んだことと、自身の大きな体つきから「女彫刻家」と呼ばれていることから想像していたよりずっと女性らしく、教養さえ垣間見せる女性だった。
こうして何回か面会するうちにロズは、オリーブが事件の加害者であるということに疑問を感じていくのだ。MWA賞最優秀長編賞に輝く巨編である。

 

 

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0561.旅芝居殺人事件

2005年03月06日 | 短編集
旅芝居殺人事件
読了日 2005/03/06
著者 皆川博子
出版社 文藝春秋
形態 文庫
ページ数 298
発行日 1987/9/10
ISBN 4-16-744002-4

 

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分前からこの本を探していた。目標を立てて本を読み始めた頃、目安としてミステリー文学賞の受賞作品を手始めに読もうと思ったことは何度か書いてきたが、その中で日本推理作家協会賞受賞作の中に本書があり、タイトルから、興味を持った本だった。
僕は、あまり芝居には興味がなく、観劇の経験も殆どない。それなのにこうした作品に惹かれるのは、平岩弓枝氏や、新しいところでは、近藤史恵氏の作品で、歌舞伎の雰囲気などを味わって、小説の中の演劇に興味を持ったのだ。
古くは、エラリー・クイーンのドルーリー・レーンの4部作や、わが国では、戸板康二氏の中村雅楽シリーズが有名だが、演劇に題材をとったミステリーは、古今東西数え切れないほどあるのだろう。
というようなことはさて置き、本書は、「桔梗座」の奈落は人を喰う。そしてその壁には死んだ役者の、消えた役者の憎悪と悲哀が塗りこめられている---芝居小屋「桔梗座」の市川蘭之助劇団の奥行きで起こった殺人事件が15年後、新たな殺人事件を引き起こす(表題作)。この受賞作である中篇を始め、全7編が収録されており、旅役者、芝居小屋の雰囲気を細かく描写する。

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 旅芝居殺人事件 「壁-旅芝居殺人事件」改題 昭和59年9月白水社刊
2 瑠璃燈 別冊小説現代 昭和60年新秋号
3 奈落 別冊小説現代 昭和59年初夏号
4 雪衣 小説春秋 昭和60年3月号
5 黒塚 月刊小説 昭和59年10月号
6 楽屋 小説現代 昭和60年3月号
7 花刃 オール讀物 昭和60年6月号

 

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0560.成吉思汗の秘密

2005年03月04日 | 安楽椅子探偵

 

成吉思汗の秘密
読 了 日 2005/03/04
著  者 高木彬光
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 304
発  :行日 1987/11/30
ISBN 4-04-133802-6

 

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には、取り立てて得意分野というほどのものはないが、不得手なものはある。その一つが歴史である。
これに関しては、日本史であろうが世界史であろうが、さっぱりだ。中学生の頃から、歴史の年代を覚えるのを最も苦手としていた。
にも拘らず、この本は面白く読める。1月に読んだジョセフィン・ティ女史の「時の娘」で本書を思い出して、かつて高校生の頃、義経伝説にまつわるこの作品を読んだ時の興奮をいま一度味わいたくて、再読した。
例によって一度読んではいるものの、幸い内容は殆ど記憶からクリアされているから、初めて読むに等しいといえる。今回読んでみて、この作品がそれまでの著者のミステリーとは違って、膨大な資料から、一大ロマンを生み出すという作業を時間をかけて成し遂げた、という思いを抱く。わが国の安楽椅子探偵ミステリーの古典ともなりつつある、名作といえるだろう。

 

 

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