田村はまだか | ||
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読了日 | 2014/09/06 |
著 者 | 朝倉かすみ | |
出版社 | 光文社 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 303 | |
発行日 | 2010/11/20 | |
ISBN | 978-4-334-74869-2 |
これを書いている10月17日現在、すぐ近くの小学校のグランドから、運動会の練習の声が聞こえている。
僕と家族が木更津市の真舟地区に越してきた当時(昭和57年)から、小学校建設予定地だったところに、昨年30数年もかかってようやく校舎が建設されて、今年4月に真舟小学校は開校した。
カミさんなどは開校してすぐから、運動会を見にゆくのを楽しみにしていたから、練習の声が聞こえることや、道路で登下校の子供たちの行列を見ては、「可愛!ネ」と売れそうに言う。僕にしてもそれほど子供好きというわけではないが、そうした子供たちを見たり声を聴いたりすると、娘や息子の幼かった頃を思い出して子供はいいものだと思う。
越してきたころは、近所で子供たちの遊ぶ声がしていたが、その子供たちもすでに大人になり独立してここから去って行った人も多い。近ごろはそんな子供の声も聞こえなく淋しい思いをしていたので、再び声が聞こえること喜びを感じている。
ところが人それぞれで、テレビのニュースを見ていたら、東京世田谷(だったと思う)地区では、保育所の建設に住民の反対運動が起こっているという。その理由が子供たちの声を騒音ととらえているらしい。
多くの待機児童の問題は、女性の働く意欲にストップをかけるゆゆしき問題として、行政は保育所の建設に力を入れている最中だ。
近所の騒音が殺人事件にまで発展する場合もあって、考えさせる課題だが、子供の声を騒音とする人たちがいることに、僕は驚くと同時にそういう人たちは昼間何をやっているのだろうという、疑問を持った。
まあ、人によってはきれいな音楽さえも雑音と感じることもあると聞くから、人さまざまで悩ましい問題だ。

さて、本書のタイトルを見て、かなり前のNHKドラマを思い出した。もちろん内容も趣旨も全くかかわりのないものだが、僕はそのドラマを思い出して、この本にも興味を持った。
ちなみにNHKドラマの方は、「憲法はまだか」というタイトルで、テレビドラマデータベースによれば1996年11月30日と12月7日の2回に放送されている。ジェームス三木氏の脚本、重光亨彦の演出により、津川雅彦氏、江守徹氏、岡田茉莉子氏らの主演で制作された。
まあ、どんなドラマでもそうだが特にこうした歴史的事実をもとにつくられたものは、細部を見れば理屈に合わないようなところも出てくるが、限られた時間の中でいかに娯楽性を保ちながら(なんとなればこうした番組は民放ならずとも、視聴者に受け入れられることが重要だからだ)重厚さをも持たせることができるかといった、あるところで妥協点を見出す必要があるだろう。
前述のドラマデータベースなどでは、いろいろ批判もあるが、僕は結構面白く当時の憲法ができる過程を興味深く視聴した。

書は第一話から最終話まで、六話の連作短編集の形をとっているが、連作長編と言った方がいいだろう。
小学校のクラス会の流れの三次会は、札幌ススキノの路地裏の「チャオ」というネオンサインのかかったスナック・バーだ。
流れ着いたのは男三人、女二人の五人だった。五人は、大雪の影響で列車が遅れ、クラス会に間に合わなかった田村を待っていた。彼らは話が途切れると、あるいは話のつなぎのごとく、または思い出したように「田村はまだか」を繰り返す。
たまに田村から状況を知らせる電話が入る。こちらに向かっているのだが、まだ遅れそうだ。
果たして田村は無事に仲間と合流できるのか?その辺がミステリーめいて面白さを感じるところだ。それだけではなく5人の話の成り行きも興味をひく。普通なら小学校のクラス会など、関係者以外は面白くもおかしくもないのだが、そこは読者を引っ張って離さない著者の巧みさだろう。
短編「おまえ、井上鏡子だろう」が併催される。
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