隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0660.三日間の悪夢

2005年09月30日 | 短編集
三日間の悪夢
読 了 日 2005/08/20
著  者 仁木悦子
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 276
発 行 日 1984/03/20
ISBN 4-04-145406-9

 

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回読んだ「死の花の咲く家」に続いて短編集である。この短編集でも探偵役がそれぞれ違う作品が収録されており、バラエティに富んだ作品集になっている。発表された順にあげると、罪なき者まず石をなげうて(1960年)、壁の穴(1965年)、恋人とその弟(1970年)、虹色の犬(1971年)、ただ一つの物語(1971年)、三日間の悪夢(1973年)の6編である。

探偵役がそれぞれに違うと言ったが、本書では、その探偵が誰であるのかが最後まで判らない作品もあるので、そうした点もも興味を引くところだ。そして、今回もその1篇に浅田悦子(仁木悦子が結婚して姓が浅田となった)一家が登場する。解説子によれば、仁木悦子・雄太郎コンビの登場する作品は意外に少ないようだ。
僕は、江戸川乱歩賞を獲った「猫は知っていた」をはじめ、コンビの登場する作品が一番多いと思っていたが、そうではないことを知って意外だった。わが国の女流探偵作家の草分けである著者の作品を少しずつ読んで改めてその偉大さを実感している。遅まきながら、僅かずつだが著者の世界に触れていくことにしよう。

 

 

初出誌一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 三日間の悪夢 別冊小説現代 昭和48年7月
2 罪なき者まず石をなげうて 別冊小説新潮 昭和35年10月
3 虹色の犬 小説サンデー毎日 昭和46年9月
4 ただ一つの物語 小説サンデー毎日 昭和46年12月
5 恋人とその弟 別冊小説新潮 昭和45年7月
6 壁の穴 小説現代 昭和40年10月

 

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0659.死の花が咲く家

2005年09月29日 | 短編集
死の花の咲く家
読 了 日 2005/09/29
著  者 仁木悦子
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 274
発 行 日 1979/11/30
書肆番号 0193-145405-0946(0)

 

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和41年から46年にかけて発表された短編集。
東都新報の社会部に席を置く吉村は、激務がたたって胸を悪くして手術をした後の療養生活中であったが、その彼の元に田垣宏子がやって来て、「父が殺されるかもしれない!」と言う。彼女は東都新報の近くの喫茶店でアルバイトをしていた娘だった。(表題作)
の他、空色の魔女、赤い真珠、巷の騎士、夏雲の下で、毒を制する法、鬼子母の手、の全7編を収録。
最初の表題作では新聞記者・吉村が、「空色の魔女」では幼稚園の保母・深瀬妙子が、「赤い真珠」では、主婦の浅田悦子が、「巷の騎士」では、社会部記者・真鍋敦夫が、「真夏の雲の下で」では、小学生の弘ちゃんが、「毒を制する法」では、OLの鹿山操が、「鬼子母の手」では、小学生の狭山伸子が探偵役となっている。というように、それぞれ探偵役が違う作品が集められているのだ。
さらに、子どもの関係する話が多く、こどもが主人公で、子どもの目を通して語られる世界が自然で生き生きと描かれている。「赤い真珠」の探偵役の主婦・浅田悦子は結婚して姓の変わった仁木悦子である。

 

 

初出誌一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 死の花の咲く家
(薄暗い部屋 改題)
推理小説研究3号 昭和41年12月
2 空色の魔女 小説新潮 昭和42年9月
3 赤い真珠 小説サンデー毎日 昭和46年5月
4 巷の騎士 推理界 昭和43年1月
5 夏雲の下で オール読物 昭和46年10月
6 毒を制する法 小説現代 昭和46年1月
7 鬼子母の手
(微笑の素顔 改題)
小説現代 昭和42年10月

 

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0658.犯人に告ぐ

2005年09月28日 | 警察小説
犯人に告ぐ
読 了 日 2005/09/28
著  者 雫井脩介
出 版 社 双葉社
形  態 単行本
ページ数 311
発 行 日 2004/08/20
ISBN 4-575-23499-0

 

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題の本をその時に買うということはめったにないのだが、ネットで安く手に入った。
著者の本は、「火の粉」(603.参照)に次いで2冊目だ。その火の粉を読んでいるときにも思ったのだが、状況描写が細かく丁寧で、ストーリー展開もオーソドックスで物語りに入り込み易い。ただ、主人公に感情移入はしにくいところもあるのは前作と同様。 導入部分は、3年前に主人公である神奈川県警の警視・巻島史彦が指揮を取っていた幼児誘拐事件の顛末が、かなりのページを割いて説明されている。
この事件によって彼は、足柄署の特別捜査官へと左遷されるのだが、事件の後遺症とも言うべきトラウマが彼に付きまとう。
北海道勤務となっていた当時の上司・曽根が本部長として県警へと返り咲き、現在捜査が行き詰まっている川崎の男児連続殺害事件の捜査本部の置かれている宮前署での捜査の指揮を巻島に命じる。そして捜査の方法は劇場型と名づけられたマス媒体であるテレビを使うというものだった。
2段組360余ページは、かなりの長編だが、捜査状況に係わらず、一気に読み進める。 第7回大藪春彦賞・受賞作。

 

 

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0657.時の渚

2005年09月27日 | サスペンス
時の渚
読 了 日 2005/09/27
著  者 笹本稜平
出 版 社 文藝春秋
形  態 単行本
ページ数 311
発 行 日 2001/05/15
ISBN 4-16-320070-3

 

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18回サントリーミステリー大賞の大賞・読者賞をダブル受賞した作品である。
元警視庁捜査一課に席を置いていた私立探偵・茜沢圭が、夏も終ろうとしたある日、松浦武郎という老人から、人探しを依頼される。
松浦は、若い頃極道な生活を送っていたが、最愛の妻が初めての出産で男の子を残して死亡するという痛ましい出来事を体験していた。生まれたばかりの赤ん坊の対応に苦慮していた時に出会った女性に、名も聞かずに子どもを託したという。
松浦は、末期癌にかかっており、残り少ない生命となった今、一目息子に会いたいというのである。茜沢も、3年前に妻と5歳の息子を轢き逃げされるという目に遭っており、松浦の依頼を引き受ける。
そして茜沢の35年の時を隔てた人探しが始まる。元の職場、警視庁捜査一課に当時の上司がいたり、あるいは盛り場でヤクザに痛めつけられていたのを助けたIT技術に長けた若者、行く先々での親切な人々の助けがあるとはいえ、35年前の人探しは困難を極める。
そして茜沢にとっては癒えることのない妻子の事故の犯人を追うというもう一つの人探しもあるのだ。
この二つを追い求めて行動する主人公が、周囲のあらゆる人々を巻き込みながら、真相に迫っていく過程の描写に読んでいる方も引き込まれる。人生の不思議さに感動。

 

 

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0656.愚か者死すべし

2005年09月25日 | ハードボイルド
愚か者死すべし
読 了 日 2005/09/25
著  者 原
出 版 社 早川書房
形  態 単行本
ページ数 355
発 行&nbsp:日 2004/11/30
ISBN 4-15-208606-8

 

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ットの古書店で購入。
BOOKOFFでたまたま安いのを見つけて買った「私が殺した少女」(474.参照)を読んで、ファンになり、7月で全作読み終わったと思っていたら、昨年11月に出た新作の紹介がネット古書店であり、買い込んだ。
今回の発端は、沢崎がその年の最後に事務所のドアを開けた時だ。ドアに挟まれていたらしいメモが舞い落ちるが、今は亡き前の所長渡辺に宛てた伝言メモだった。死者に宛てたものなので棄てようかとしているところへ、メモを書いた当人が現われる。伊吹啓子と名乗る若い女性だった。

探偵・沢崎の新シリーズ第1弾ということで、前作の「さらば長き眠り」から10年が過ぎている。僕は、遅くなってファンになったから、読み始めてそれほど期間をおかずに全作読むことが出来たが、当初から著者の作品を読み始めた人にとっては、寡作な著者の作品をいつも待ちに待って読むことになったであろう。
寡作家の作品は秀作だといわれるが、総てがそうだとは言えないだろうけれど、この著者には正にあてはまる。著者のあとがきによれば、新シリーズも2作、3作と続くようなので、大いに期待したいものである。

 

 

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0655.雨の匂い

2005年09月24日 | ハードボイルド
雨の匂い
読了日 2005/09/24
著 者 樋口有介
出版社 中央公論社
形 態 単行本
ページ数 217
発行日 2003/07/25
ISBN 4-12-003420-8

 

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ットでは、ついつい単行本を買ってしまう。だが、家で読むには断然単行本のほうが良い。最近は、眼鏡が合わなくなってきたようで、文庫を読むのがきつくなってきた。しかし、週に何回か外で読むこともあるので、そういうときには文庫の方が携帯に便利なのだが。。。。

 

 

さて、今回のストーリーは樋口有介の世界であることに違いないのだが、それでも少しばかり違うような?今まで何度となく書いたことではあるが、著者の作品を読んでいると、なんとなく安心感のようなものが芽生えてくる。今回の主人公は21歳の大学生・村尾柊一。
塗装職人だった寝たきりの祖父・寛治との二人暮しで、父親・友員は末期癌で入院中。ある日、近所の親戚付き合いをしている小母さん・小林ハツが、知り合いから頼まれたという、緒川家の黒板塀の塗装の話を持ってくる。寛治は下半身不随で仕事は出来ず、柊一も小学生の頃祖父を手伝ってはいたが、職人ではない。柊一は、その緒川家に直接自分で断りに行く。
いつものように初っ端で事件が発生する話ではなく、至極平凡で、穏やかな、平和な日常生活が展開されていく。読んでいて、居心地の良い物語に入り込んで、このまま静かな日常で進んで欲しい、と変な期待を寄せてしまう。
大学は、専攻した環境生物学に熱が入らず、レンタルビデオ店店員のアルバイトに励む柊一には、小学生の頃離婚して父と自分を置いて家を出た母親・久子がいる。その母・久子が寛治の死亡保険金を目当てに借金の申し出をしてくる。
少しずつ、ほんの少しずつではあるが、事件の芽が蒔かれていくのだが・・・・。

人の心の奥底にある、いろんな感情が、それぞれの人たちの生き方に影響していく様が、自然な日常の推移の中で描写されており、読後ちょっと切なく、悲しくなる。

 

 

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0654.あなたに似た人

2005年09月23日 | 短編集
あなたに似た人
Someone Like You
読 了 日 2005/09/23
著  者 ロアルド・ダール
ROALD DAHL
訳  者 田村隆一
出 版 社 早川書房
形  態 文庫
ページ数 498
発 行 日 1987/04/15
ISBN 4-15-071251-4

 

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」他、全15編の短編集。
若い頃読んだことがあるとばかり思っていたが、15編全部読んでも全く覚えがないところを見ると、勘違いかもしれない。
短編集のタイトルは普通、中に収められた1篇から流用するが、このタイトルはここに収められた登場人物たちの、賭け事に夢中になる者や、想像力の恐ろしさ、そういったものがごく普通のあなたの中にもあるという意味で、つけられたもののようだ。つまり読者である、"あなた"ということだ。
収録されているのはいずれも短い掌編ともいえる作品だが、最後の「クロウドの犬」は短い章に分かれた中篇といってもいいだろう。

ここでもドッグレースという賭け事に夢中になっている若者二人の生活を描いている。主催者の目を欺くイカサマを企てるクロウドとその友達ゴードンが長い準備期間を要して、実行に移すまでの描写が事細かに書かれる。特に、終盤ドッグレースに参加する犬の飼い主たちが、今まで行ってきたイカサマの手口をクロウドが、ゴードンに話す件は微に入り細にわたる。
いずれの話も、自身では気づかないような考え方や性格のようなものを、思い起こさせるような、ちょっと怖い話になっている。ブラックユーモアをたっぷりと含んだ短い話が、物語の外の世界にいる自分自身に安心する?

 

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 Taste
2 おとなしい凶器 Lamb to the Slaughter
3 南から来た男 Man from the South
4 兵隊 The Soldier
5 わがいとしき妻よ、わが鳩よ My Lady Love,My Dove
6 海の中へ Dipn in the Pool
7 韋駄天のフォックスリイ Galloping Foxley
8 皮膚 Skin
9 Poison
10 お願い The Wish
11 Neck
12 音響捕獲機 The Sound Machine
13 告別 Nunc Dimitis
14 偉大なる自動文章製造機 The Great Automatic Grammatizator
15 クロウドの犬 Claud's Dog

 

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0653.こがね虫たちの夜

2005年09月20日 | 短編集
こがね虫たちの夜
読 了 日 2005/09/20
著  者 五 木寛之
出 版 社 河出書房新社
形  態 単行本
ページ数  
発 行 日 1971/02/05
書肆番号 75000105

 

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去に読んだ本の殆どを処分してしまったのだが、処分し残した中に著者の何冊か の単行本と全集がある。
文藝春秋から刊行された箱入りの全集は、全巻揃えるつもりでいたのだが、その頃からぽつぽつと 活字から遠ざかりつつあったのか、20巻ほどしか残っていない。
だが、結構著者に心酔していたのだ。今度この本を読み返してみて、当時の心境がなんとなくわか るような気が少しした。
本書は、短編集で、昭和44年から45年にかけてオール読物やその他の雑誌に発表されたものだ。

スナックのママとなっている女の、学生時代の奔放な過去を回想する表題作の他、
北陸の古い街にヒッピーたちの大群が押し寄せる騒動を描く「聖者が街へやってきた」
良家のお嬢さんが本屋で万引きをするところをフーテン3人に目撃され、仲間に入りドライブをする 「自由をわれらに」
商業カメラマンが企画した海外取材で行ったチェコスロバキアで遭遇する出来事を描いた「モルダ ウの重き流れに」の全4編を収録。

 

 

初出一覧
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 こがね虫たちの夜 オール讀物 1969年2月号
2 聖者が街にやってくる 別冊文藝春秋 1969年12月
3 自由をわれらに 小説エース 1969年11月号
4 モルダウの重き流れに 週刊朝日カラー別冊 1970年1月

 

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0652.陸橋殺人事件

2005年09月18日 | 本格
陸橋殺人事件
THE VIADUCT MURDER
読了日 2005/09/18
著 者 ロナルド・A・ノックス
Ronald.A.Knox
訳 者 宇野利奏
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 277
発行日 1982/10/29
ISBN 4-488-17201-6

 

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の本は、東京創元社の創元推理文庫だが、昔読んだのはHPBだった。その頃は、創元推理文庫でも揃えていたのだが、HPBにも大分お世話になった。D.カーの処女作「夜歩く」もHPBだった。46―7年も前のことだ。変な話だが、当時僕がなぜ本書をHPB(早川ミステリイ・ポケットブック)で持っていたか?ということが、今回改めて読むまで、その理由を忘れていて不思議な気がしていた。
著者のノックス氏についても、内容についてももうすっかりも忘れていたが、読み終わってなるほどそうだったか、と納得した次第。

 

 

1925年にこのような作品が既に世に出ていたのかと思うと、この当時にあらかたのミステリーの原型が出揃っていたことを認めざるを得ない。そして、後々まで世界のミステリー名作選に名を連ねることにも納得する。
ロンドンから汽車で1時間の一寒村のゴルフ場でプレイを楽しむ四人組は、ミステリー論議に花を咲かすほどのミステリー好きぞろいだった。そのうちの独りがスライスした打球を追ううちに、鉄道の走る陸橋の下で、顔のつぶれた男の死体を発見するというのが発端である。自殺、他殺、事故死の三面から警察の捜査が始まるが、四人組も独自に調べ、事件を推理しあうのだった。少ない登場人物の会話や、状況の描写で、読者も推理に加わり安い構成になっているのだが・・・・。

著者のノックスは有名な探偵小説の十誡を残しているが、ほぼそれに乗っ取ったこの作品は読んでおいて損はない。

 

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0651.ナポレオン狂

2005年09月14日 | 短編集
ナポレオン狂
読 了 日 2005/09/14
著  者 阿刀田高
出 版 社 講談社
形  態 文庫
ページ数 279
発 行 日 1993/06/30
ISBN 4-06-136235-6

 

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は勘違いをして、この短編集の表題作が推理作家協会賞の受賞作だとばかり思って買ったのだが、表題作は直木賞受賞作だった。
しかし、推理作家協会賞を受賞した「来訪者」も収録されていたから、大きな勘違いでもなかったようだ。著者の作品は前に読んだ「Aサイズ殺人事件」(458.参照)に次いで2冊目である。
昔の一時期に僕はショートショートに嵌って、星新一氏の作品をずいぶんと読んだことがあるが、それ以降ショートショートを読むことはなかった。阿刀田氏の短編は、ショートショートではないが、短い話の中でいろんなことを味わえたり、考えさせたり、恐がらせたりするところが、昔読んだショートショートを思い起こさせた。
各受賞作の他に、全部で13篇の作品を収めた本書は、裏表紙の解説にあるように、スレッサーの作品にも匹敵するようで、読み応えのある短編集である。特に僕は、自分の娘がつまらぬ男に引っかかり、使い込んだ会社の金を工面する為に誘拐を思いつくミステリー仕立ての「恋は思案の外」や、四次元の世界を思わせるSFのような「捩れた夜」などが好きだ。

 

 

収録作
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 ナポレオン狂 オール讀物 昭和53年9月号
2 来訪者 別冊小説新潮 昭和53年秋季号
3 サン・ジェルマン伯爵考 小説現代 昭和53年12月号
4 恋は思案の外 小説推理 昭和50年12月号
5 裏側 オール讀物 昭和54年3月号
6 甲虫の遁走曲 小説宝石 昭和53年9月号
7 ゴルフ事始 オール讀物 昭和53年11月号
8 捩れた夜 小説新潮 昭和54年4月号
9 透明魚 小説推理 昭和49年12月号
10 蒼空 エル(PR誌) 昭和44年
11 白い海 別冊問題小説 昭和52年春季号
12 凶暴なライオン 別冊小説新潮 昭和53年春季号
13 縄―編集者への手紙 小説現代 昭和54年4月号

 

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0650.能面の秘密

2005年09月12日 | 短編集
能面の秘密
読 了 日 2005/09/12
著  者 坂口安吾
出 版 社 角川書店
形  態 文庫
ページ数 280
発 行 日 1977/04/10
ISBN 4-04-110015-1

 

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川文庫から刊行された坂口安吾作品集の1冊。
多分若い頃、著者の短編を幾つか読んだことがあると思うのだが、記憶の外。
本書は、昭和25年から30年(著者の亡くなった年)までの8編の短編が収録されている。巻末の、権田萬治氏の解説によれば、著者の探偵小説(推理小説)観は、犯人捜し、即ちパズル・ゲーム論に立っていたようだ。

この中で、上記のパズル論に最も乗っ取っているのは、最初の「投手殺人事件」だ。
また、探偵役として二つの作品に登場する人物が2人いる。1人は、「選挙殺人事件」と「正午の殺人」に登場する巨勢(こせ)博士、もう1人は、元奇術師で今は旅館の主人をしている伊勢崎九太夫という人物で、「心霊殺人事件」と「能面の秘密」に出ている。いずれの作品も書かれてから45年以上もたっている割には、それほど違和感なく読める。

 

 

収録タイトル
# タイトル 紙誌名 発行月・号
1 投手殺人事件 講談倶楽部 昭和25年臨時増刊
2 南京虫殺人事件 キング 昭和28年4月
3 選挙殺人事件 小説新潮 昭和28年6月
4 山の神殺人事件 講談倶楽部 昭和28年8月
5 正午の殺人 小説新潮 昭和28年8月
6 影のない犯人 別冊小説新潮 昭和28年9月
7 心霊殺人事件 別冊小説新潮 昭和29年10月
8 能面の秘密 別冊小説新潮 昭和30年2月

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0649.てるてるあした

2005年09月10日 | 連作短編集
てるてるあした
読了日 2005/9/10
著 者 加納朋子
出版社 幻冬舎
形 態 単行本
ページ数 349
発行日 2005/5/25
ISBN 4-344-00784-0

「ささらさや」で舞台となった、架空の町・佐々良がふたたび物語の舞台として登場。そして、心ならずもこの町にやって来た一人の少女が織り成すストーリー。

目指す高校に合格した喜びも束の間、生活を省みずに浪費を繰り返した挙げ句、多重債務に陥り、夜逃げをすることになった両親と別れ、遠い親戚だという鈴木久代を訪ねて鷹野照代は、佐々良に来た。
ようやく訊ね当てた鈴木久代の家の玄関先で、疲れと空腹で照代は失神する。
15歳の少女の過酷な試練?が始まる。自分の不幸な境遇に、周りのもの全てに反感を持つ照代だったが、サヤ(“ささらさや”の主人公。交通事故で突然夫を失った子持ちの未亡人。)を初めとする周囲の人々とのふれあいが、次第に心を開かせる。

 春の嵐
 壊れた時計
 幽霊とガラスのリンゴ
 ゾンビ自転車に乗って
 ぺったんゴリラ
 花が咲いたら
 実りと終わりの季節
  の7編からなる連作。




0648.十三番目の陪審員

2005年09月08日 | リーガル
十三番目の陪審員
読了日 2005/09/08
著 者 芦辺拓
出版社 角川書店
形 態 文庫
ページ数 430
発行日 2001/08/25
ISBN 4-04-358701-5

 

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前読んだ著者のデビュー作「殺人喜劇の十三人」が好みに合わなかったという理由で、この後著者の作品は読んでいなかった。本書も、書店や古書店で見るたびに、気になっていたのだが、どうしようかとかなり迷った末に古書店で手に入れた。どうにもタイトルから来る印象が、僕を惹きつけるのだ。読んでみて驚いた。謎の提示と言い、ストーリーの展開といい、430ページ程を一気に読んでしまう面白さだった。
元来僕は、ペリー・メイスンシリーズを引き合いに出すまでもなく、法廷ミステリーが好きで、リーガルミステリー全般に興味を持つようになった。ミステリーファンならずとも、欧米の裁判が陪審員制度によって成り立っていることは誰しも知るところであるが、わが国でも戦前の一時期陪審員制度が取り入れられて、実際の裁判が行われていたことがあった。そして今、陪審員制度に準じるような一般市民の裁判への参加が、始められようとしている。
そうした時期に、この本を読んだというのもタイミングがマッチしたような気がしている。さて、本書の内容は、物書きになる夢を棄てきれずにいる青年・鷹見瞭一は、先輩から持ちかけられた冤罪事件でっち上げの企てに加わる事になる。架空の犯罪事件の容疑者となり、DNA鑑定をも欺く為に鷹見は医療機関で血液交換までされる。ところが、彼が逮捕されたのは実際の事件・ある女性への強姦・殺人事件の容疑だった。しかも、起訴されて始まった公判は、戦後初めての陪審員制度による裁判であった。彼は、何かの罠にはめられたのか?
話題のDNA鑑定についての解説が詳しい。が、最初に紹介される、原子力発電所の事故のエピソードがどう事件と関係してくるのかが最後に明かされる。

 

 

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0647.名なし鳥飛んだ

2005年09月06日 | 青春ミステリー
名なし鳥飛んだ
読 了 日 2005/09/06
著  者 土井行夫
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 285
発 行 日 1988/05/10
ISBN 4-16-747301-1

 

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後間もないまだ混乱の治まらない頃の新制高校を舞台に、教師や生徒の学校生活の中で起きた事件の謎を追う物語。
読み始めてすぐには、乱歩昌受賞作の「透明な季節」(224.参照)を思い浮かべたが、読むうちに、こちらの方は、明るい雰囲気の内容で多彩なキャラクターを配しユーモアも交えたストーリーで、一気に読み進めた。
大阪の澪標(みおつくし)高校の新任で女性数学教師の小谷(おたに)真紀、通称オタヤンが主人公。彼女が日直当番の日曜日、校長の浮田、通称ホトケが校長室で服毒死した。傍に校長の自筆で書かれた自由律俳句から、警察では自殺と判断したが、その後、近くの爆弾の投下によって出来た池・爆弾池に書道教師の長門・通称ラッコの死体が浮かんだ。
教師や主だった生徒が、みな渾名で呼ばれており、それぞれ個性豊かな人物像が描かれる。こんな時代の学園模様や、戦時中の軍国主義に係わる様々な様式や思想・考え方などを引きずった人々の生活は、既に忘れ去られようとしているのではないかと思う。
僕の年代で、この時代を思い起こすことのできるのは最後ではないだろうか?それでも本書の書かれたのが昭和60年・1985年だから、そのときで戦後40年だったのだが、戦後60年の節目を迎えた今、戦後も遠くなりにけりという思いである・・・・。
第3回サントリーミステリー大賞受賞作。

 

 

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0646.まひるの月を追いかけて

2005年09月04日 | 連作短編集
まひるの月を追いかけて
読了日 2005/9/4
著 者 恩田陸
出版社 文藝春秋
形 態 単行本
ページ数 400
発行日 2003/9/15
ISBN 4-16-322170-0

どんなに好きな作者の本でも、中には自分の感性と相性の悪いものもある。言い方を変えれば、理解できないということか?!
この作品は、読み通せば紛れもなく長編なのだが、2001年7月~2002年8月にかけ、オール読物へ6回にわたり発表された短編連作だ。語り手でもある主人公の女性・静(しずか)、その異母兄の渡部研吾と、研吾と別れた恋人君原優佳利の友人・藤島妙子、がストーリーを展開する3人だ。

ある時、静は勤務先のリフレッシュ休暇をとろうとしていた矢先、研吾の恋人・優佳利から奈良への旅行に誘われる。連絡の取れなくなった研吾を探す為に、研吾の予定していたコースを一緒に歩いて欲しいという優佳利の頼みだった。ところが、その旅の途中で・・・・。