うたかた/サンクチュアリ | ||
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読 了 日 | 2016/06/09 |
著 者 | 吉本ばなな | |
出 版 社 | 福武書店 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 214 | |
発 行 日 | 1991/11/15 | |
ISBN | 4-8288-3223-8 |
書記録を付けようと始めたころは、タイトルの通りきっちりミステリーだけを読んでいたが、近頃はどうかするとまるでミステリーとは関わりのないような読み物も、ここ加わるようになっている。実を言えば、それほど残された時間があるわけではないから、中学生から高校生にかけて夢中になった文学作品にも目を通しておこうとも思っているのだ。
そんなに欲張っても、思うほど読めるわけではないのだが、歳をとるにしたがって夏目漱石や志賀直哉と言った文豪を懐かしく思い起こすことが多くなっている。だからというわけではないが、吉本ばなな氏の作品も溢れる才能と言われる著者は、一体どんなものを書くのか一つや二つ読んでおこうという気になったのだ。
だが、そんなことをしていると若い頃是非読もうと思っていた古今東西のミステリーの名作すら、読めなくなるのは必至だ。
近頃は自分がどうしようとしているのかさえ、時々怪しくなってくる。本当にしたいことをするというのは、そういうことのできる立場であっても簡単ではない。まあ、そんな哲学的なことを言っても仕方がない。なるようにしかならない。

ミステリーとは関わりがないと思いながらも読み進むうちに、特に後の「サンクチュアリ」などは、ミステリーと言っても良いようなところもあり、この読書記録にまるっきり当てはまらないこともない、などと無理やり自分を納得させたものだ。
タイトル通り本書は「うたかた」と「サンクチュアリ」という2編の中編を納めた作品集で、初期の作品らしい。両方ともにラブ・ストーリーと言っていいだろうが、この2編だけで著者のその才能の素晴らしさを僕は感じ入ったのだ。
最初のうたかたは、題名通り少女のうたかたのような日常を描いたものだが、その展開が実に心地よい。割り切ってお妾さんの生活を送る母の許で、めったにお目にかからない放蕩者の父親を、快く思っていない少女が、ひょんなことから出会った腹違いの兄かも知れない青年。
この青年がまるで屈託のない、少女の心にすっと溶け込んでいくような、明るい性格で気づかないうちに、少女の恋心を育てていく。そう言った内容だが、その問題の父親やら、青年が海外に飛んだりして、わずかな波乱らしきものもあり、かすかに波紋も感じるが・・・。

年が海辺で出会った不思議な光景は、泣きじゃくる女性の姿だった。
サンクチュアリのすたーとのシーンだ。彼は―智明という名だ―「よかったらちょっと休んでお茶でも飲みませんか?」と女性を誘ってみる。女性は泣くことを中断できてうれしいという。彼女もどうやら、どこかで泣き止むことを望んでいたらしい。
そんな風にして知り合った二人がその先どうなっていくのかという展開が気になって、前のうたかたと同様に、二人の恋愛模様を期待してしまうが、そう簡単な話ではなかった。二つ共に物語は若い二人の淡い恋心を描いたものだが、双方ともに人生捨てたものではないとか、悪いことばかりではないといった、そんな柄にもなく哲学的なことを思わせるような、感じさせるような読後感を得る。
# | タイトル |
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1 | うたかた |
2 | サンクチュアリ |
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