隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0848.あなたに不利な証拠として

2007年11月30日 | 警察小説
あなたに不利な証拠として
Anything You say can and will be used against you
読了日 2007/11/30
著 者 ローリー・リン・ドラモンド
Laurie Lynn Drummond
訳 者 駒月雅子
出版社 早川書房
形 態 新書
ページ数 269
発行日 2006/02/15
ISBN 4-15-001783-2

 

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mazonの古書ストアで、安かったので購入した。昨年の2月に刊行された本だからもう1年以上経っているのに、書店によってはまだ新刊として並んでいるところもあり、そうした本としては意外に安く手に入れることが出来たのは幸運だった。

本書は、Amazonのお勧めにより知った本だったと思うが、内容についてはあまりよく知らないで読み始めた。
著者のローリー・リン・ドラモンド氏は、アメリカ・ルイジアナ州はバトンルージュ市警の制服警官等を経た後、再び大学で学び、現在大学で教鞭をとる傍ら、執筆活動を続けているという。

本書は氏が5年間勤めたバトンルージュ市警が主な舞台で、そこに勤務する著者と同じ女性警官5人を描いた短編集である。

 

 

ストーリーはキャサリン、リズ、モナ、キャシー、サラという制服警官の女性たちの一人称で語られていく。いわゆる警察小説なのだが、従来のミステリーに登場するような類型的なヒーロー(女性だからヒロインか)は登場しない。唯一、キャサリンだけが伝説の人物ということになっている。
淡々と語られていくストーリーは正にこれがアメリカだとも思われるような感じを抱く話なのだが、従来物語の主人公ともならなかった制服警官の、しかも女性警官の仕事振りや心理状態が微細に描写されていく。

少しばかり古い言い方だが、また、新しい3F作家の登場だ。帯の池上冬樹氏の「読みながら何度も心が震えた」という言葉は単なる褒め言葉ではない。
タイトルはミステリードラマや映画で、犯罪容疑者が身柄を拘束される際に刑事が宣告する「ミランダ警告」と言われるもので「あなたには黙秘する権利がある・・・あなたの発言は法廷で不利な証拠として扱われることがある・・・」と言った台詞でおなじみだが、ここから取っている。

 

 

収録作と原題
タイトル/Title サブタイトル/Sub Title
キャサリン/Katherine 完全/Absolutes
味・感触・視覚・音・匂い
Taste,Touch,Sight,Sound,Smell
キャサリンへの挽歌/Katherine's Elegy
リズ/Liz 告白/Lemme Tell You Something
場所/Finding a Place
モナ/Mona 制圧/Under Control
銃の掃除/Cleaning Your Gun
キャシー/Cathy 傷痕/Something About a Scar
サラ/Sarah 生きている死者/Keeping aDead Alive
わたしがいた場所/Where I Come From

 

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0847.タルト・タタンの夢

2007年11月22日 | 連作短編集
タルト・タタンの夢
読了日 2007/11/22
著 者 近藤史恵
出版社 東京創元社
形 態 単行本
ページ数 212
発行日 2007/10/30
ISBN 4-488-01228-1

 

僕はテレビの紀行番組には興味が無く余り見たことも無いが、旅先のホテルや旅館で出される料理などが事細かに紹介されるようだ。
それによって出かける人もいるのだろうが、僕はどちらかと言えば旅先で初めて出会う料理の形や味覚に新鮮な驚きを感じたい方だから、というのがそうした番組を見ない一つの理由だ。
それはミステリーにおいても然りで、結末の意外性とか初めて体験するストーリー構成に驚きを味わいたいから、どんでん返しなどという惹句があると興味が半減する。
しかしながら、ミステリーにおける酒や料理のエピソードについては別物だ。北森鴻氏の作品には酒や料理の話が出てくるものが多いが、それらを読んでいるとわくわくするのは何故だろう?
本書も小さなフレンチレストランが舞台だから、頻繁に料理やワインに関するエピソードが出てくる、というよりそれらがミステリーを形成しているのだ。
個人的な好みから言えば、あまり縁の無いフランス料理には興味も無く食べたいとも思わないが、そうは言ってもこうしたストーリーを読んでいると、楽しいし、あたかも通になれたような気になるから不思議だ。

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シェフの三舟を始め、料理人の志村、ソムリエの紅一点・金子、そして語り手でもあるギャルソンの高槻の4人で構成されるビストロ・パ・マル。このフレンチレストンで発生する彼らや客たちの小さなミステリー。 ちょっとしたボタンの掛け違いで、すれ違う男女の心理を、鋭い洞察力で見通すのはシェフの三舟。彼の作る料理がミステリーを明らかにする?

 

初出誌(ミステリーズ!)
# タイトル 発行月号
1 タルト・タタンの夢 vol.3(2003/12)
2 ロニョン・ド・ヴォーの決意 vol.5(2004/6)
3 ガレット・デ・ロワの秘密 vol.9(2005/2)
4 オッソ・イラティをめぐる不和 vol.11(2005/4)
5 理不尽な酔っぱらい vol.13(2005/10)
6 ぬけがらのカスレ vol.14(2005/12)
7 割り切れないチョコレート vol.15(2006/2)



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0846.数学的にありえない

2007年11月21日 | サスペンス

 

数学的にありえない
THE LAST PRECINCT
読了日 2007/11/21
著  者 アダム・ファウアー
Adam Fawer
訳  者 矢口誠
出版社 文藝春秋
形  態 単行本
ページ数 317/319
発行日 2006/10/05
ISBN 4-16-325310-6
4-16-325321-3

 

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いにこの本を買ってしまった。2006年8月発行の本書はまだ文庫化されていないから、単行本の上下2冊だ。各冊とも定価2095円もする本だからもちろん中古品である。
昨年のいつか、あるいは今年に入ってからかもしれないが、NHKラジオ朝の番組で、俳優の児玉清氏が推薦する本というコーナーで紹介された本で、話を聞いていて面白そうなのでタイトルにも引かれて、機会があったら読んでみたいと思っていた。

読書人としても知られる児玉氏は、NHKBS放送の「週刊ブックレビュー」という番組の司会をしていたこともあり、その折大分前のことだが、P・コーンウェル女史の「検屍官」シリーズについて言及していたことから、僕は彼の読書の傾向に注目していた。
ラジオ放送を聴いたあとすぐにネットで検索したところAMAZONのユーストコーナーに出品されていることが判ったがまだ価格が高く、おまけに上下2冊と来てはちょっと手が出なかった。そうこうしている内に、またラジオ放送を聴く機会があり、今度は、ウイリアム・ランディという同じアメリカの作家の「ボストン・シャドウ」という作品を紹介していた。その直後たまたま立ち寄ったBOOKOFFの店で、「ボストン・シャドウ」の文庫を目にして購入した。
そこで、これは児玉氏が僕に読めと言っているのかと思い、AMAZONで「数学的にありえない」上下も思い切って買ってしまったというわけだ。

 

 

訳者の矢口氏も巻末で書いているように、最近はある専門分野の知識をふんだんに盛り込み、読者の知識欲を煽るような作品が多いようだ。
原題のIMPROBABLEは、起こりそうないことを指すのだが、矢口氏の「数学的にありえない」という訳は、数学者である主人公と重ね合わせて、まことに以て適切な訳題と言えるだろう。
タイトルだけでも十分に人を引きつける魅力を表しているではないか。
本書も矢口氏の言うように、ある天才的な才能を示す数学者が主人公に据えられ、CIAの女性エージェントや、物理学者、国家安全保障局の所長などといった様々な人物が絡み合って、サスペンスフルなストーリーが展開する。
そして、所々に挿入される物理学や、確率論などの講義も難しいものの、ある程度納得のいく説明で興味深い。そんなところが、僕の知識欲をいささかでも満たしてくれるのだ。

 

 

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0845.バラ迷宮

2007年11月17日 | 安楽椅子探偵
バラ迷宮
読了日 2007/11/17
著者 二階堂黎人
出版社 講談社
形態 文庫
ページ数 357
発行日 2000/1/15
ISBN 4-06-264717-6

 

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書計画も9年目に入った割りに一向に進まず、二週間以上もかかってやっと1冊読み終えたという始末だ。
本書は、同じシリーズというか名探偵二階堂蘭子の名推理を描いた短編集「ユリ迷宮」(812.参照)の続編とも言うべき短編集だ。
その「ユリ迷宮」の中の“ロシヤ館の謎”が安楽椅子探偵譚として紹介された記事を見て、探して読んだので、本書にもそれを期待して購入。どうも安楽椅子探偵譚というのに弱く、この作者には、他にも“水乃サトル”(510.参照)というキャラクターの安楽椅子探偵譚があって、当初は新本格ということで、敬遠していたが、安楽椅子探偵譚につられて読むようになった。読んでいると、こうした傾向のストーリーはやはり短編の方が特色を生かせると感じる。

今月12日から始まったWebサイト「モーグ」のオートシェイプでのお絵かきに以前作った作品10点ばかり応募したりということの他に、何十年ものブランクを経て、最近またスケッチを始めたのが、読書をおろそかにする最大の原因だ。
子供の頃好きだった絵を描くということが、20代前半の頃まではどうにか続いていたのだが、いつの頃からかすっかり忘れ去られていた。30歳を過ぎた頃一旦思い出したように油彩などを少し描いたのだが、ほんのわずかな間で終わっていた。
絵を描くことは、僕にとって心穏やかで気持ちにゆとりがあるときでないと出来ない作業だから、今、ようやくそのような状況に至ったと言えるのかもしれない。といっても今描いているのはほとんどが鉛筆画だ。それほど道具を必要としないから、今の僕に向いている。しかし、鉛筆画といっても馬鹿に出来ない。プロの画家の作品を見ると、これが鉛筆で描かれた絵かと、圧倒されるようなすばらしい作品がたくさん有るのだ。

 

収録作
# タイトル
1 サーカスの怪人
2 変装の家
3 喰顔鬼(じきがんき)
4 ある蒐集家の死
5 火炎の魔
6 薔薇の家の殺人

 

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0844.鋏の記憶

2007年11月01日 | 短編集
鋏の記憶
読了日 2007/11/1
著 者 今邑彩
出版社 角川書店
形 態 新書
ページ数 314
発行日 2001/6/10
ISBN 4-04-196204-8

桐生紫(ゆかり)という女子高生をメインキャラクターとした連作短編集。
幼くして航空機事故で両親を失うというアクシデントに見舞われた紫は父の従弟である桐生進介と同居生活をしている。進介は警視庁捜査一課に勤務する刑事、31歳の独身で、紫は年が近いことから友達には彼を兄と紹介している。
この紫が子供の頃から物に触れただけで所有していた人物などを感知するという特殊な能力を持っていた。いわゆるサイコメトラー(残留物感知能力者)である。

本書は角川ホラー文庫の1冊だが、殺人事件などを扱ってはいるものの、内容はれっきとした?本格ミステリーだ。作者もこれらの作品がホラーに分類されることは意に反していたのではないか、と思うのだが・・・。
こうした超能力者が登場するミステリーは、宮部みゆき氏の作品に多く、超能力がミステリーを解決してしまえばミステリーにも何にもならないが、そこは作者たちの腕の見せ所でそれらの超能力を実にうまく使ってミステリーを形成している。
僕は本書で、超能力者を主人公に据えて、著者本来の本格ミステリーを展開させているところに大いに感動した。

収録作
# タイトル
1 三時十分の死    
2 鋏の記憶    
3 弁当箱は知っている    
4 猫の恩返し    

さて、明日は僕の68歳の誕生日である。
この読書計画もついに丸8年を終えたことになる。今年の年始め頃には今日までに900冊くらいは読めるのではないかと思っていたのだが、大幅に予定が狂ってしまった。
原因はいろいろあるが、最近一つことに集中できなくなってきていることが主な要因だろう。しかし、あと2年で160冊弱を読めれば目標の1000冊になるのでどうにか届くだろうとは思っている。

読書以外に今月から募集の始まったWebサイト「モーグ」のオートシェイプでのお絵かきにも、何点か作品を応募するつもりなので、そちらもがんばってみようとしているのだが・・・。