隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1290.六つの手掛り

2012年09月24日 | 連作短編集

 

六つの手掛り
読 了 日 2012/09/07
著  者 乾くるみ
出 版 社 双葉社
形  態 文庫
ページ数 297
発 行 日 2012/03/18
ISBN 978-4-575-51488-9

 

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は少し違うが、同じ古書店を舞台とした連作短編集が「蒼林堂古書店へようこそ」(1193参照)だ。僕はこの続編が出ないかと期待しているのだが、今のところ続編の情報は入ってこない。
そんなことで(どんなことだ?)本書もタイトルから気になっており、読むことにしたのだが、このところ(8月の下旬から)伸び放題になっていた草取りに、毎朝2時間ほどの時間を割いて、1か月弱かかってしまった。
2時間とは言いながら、毎日のことだから年寄りの身体には結構応えて、夜になって本を手に取るも、眠気が先に立って、満足に本も読めない日が続く。
猫の額ほどの狭い庭なれど、しっかりと根を張った草はなかなかにしぶとく、手間がかかった。どちらかと言えば嫌いなこうした作業は、従来できるだけ敬遠してきたのだが、8月1日にうちのカミさんが室内で転倒した際に、テーブルの角にあたって、鎖骨と肋骨とを骨折して(しかも肋骨は2本だ)近くの総合病院へ救急搬送され、急遽入院という羽目に陥ったから、嫌いだなどと言ってられなくついに手を出すことになった次第だ。
今までは時々シルバー人材センターかどこかに依頼していたのだが、今年は異常な暑さのせいか、一向に来てくれる気配もなかったことも手伝って、仕方なく自分でやることになった。

 

 

まあ、本はいつでも読めるからいいようなものだが、草は放っておいたら伸びるばかりなので、どこかで刈り取るしかない。ところが始めて最初の日に、僕はえらい目に遭ってしまったのだ。車庫から物置に続くスペースを最初に手を付けたのだが、その夜右手首から二の腕にかけて2-3mmほどの発疹がびっしりと出来て、痒みで夜中に目が覚める始末だ。我慢できなくて翌日皮膚科に行ったら、あいにく休診で2日間は猛烈な痒みに悩まされる。
翌々日皮膚科で診察を受けると、何と原因は毛虫だという。椿や山茶花の葉の裏に発生する何とかいう(名前は忘れた)毛虫は、その毛を四方八方に飛ばすのだという。一応虫除けに僕は厚いジーンズに長袖のシャツという服装で臨んだのだが、医師の説明では細かい毛はちょっとした隙間から入ってしまうとのこと。
ちょうどそのスペースには高さ1m弱の椿があって、取った草をまとめて袋に入れる時、そういえば毛虫を見た気がした。毛虫にもいろいろあって、赤塚不二夫氏のケムンパスのような、愛らしいものばかりではないことを知った。
幸いにカミさんは1か月半ほどして、9月14日に無事退院の運びとなった。

 

 

んなこんなで、また読書に専念できるかどうかはわからないが、毎日ポツポツとまるで拾い読みのような感じで本書をようやく読み終えたところである。表紙のイラストにある山高帽をかぶった、チャップリンのような男が主人公で名探偵なのだ。
林茶布(はやしさぶ)という名から、英国流に姓と名を逆にして、サブリン(茶布林:林をリンと呼んで)と名乗る。(この名前については他の読み方もあって、巻末の山前譲氏の解説にほかの著書との関係や、兄弟についてなど、詳しく興味深い話が載っているのだ)
とにかく、本格推理好きの読者には答えられないだろうと思われる、連作短編集なのである。特に思わず「えっ!?」と思うのが最後の1行?だ。そうした遊び心も含めて、まあ読んでご覧なさいと言いたい本だ。

 

初出誌『小説推理』
# タイトル 発行月・号
1 つの手掛り 2006年4月号
2 のプレゼント 2006年12月号
3 四枚カード 2007年9月号
4 三通の 2008年4月号
5 二枚舌のけ軸 2008年10月号
6 一巻の終わ 単行本(2009年4月)に書き下ろし

 

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1289.舟を編む

2012年09月07日 | 仕事
舟を編む
読 了 日 2012/09/07
著  者 三浦しをん
出 版 社 光文社
形  態 単行本
ページ数 259
発 行 日 2011/09/20
I S B N 978-4-334-92776-9

 

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の本を知ったのは昨年早くに、NHKBSで放送された「週刊ブックレビュー」で、ゲストの誰かがお勧めの1冊として紹介していたのを見てからだ。と思う?
まあ、僕の記憶力もあまりあてにならないが、最近記憶力の減退は加齢によるものではないという話を聞いた。
昔から年を取って物忘れがひどくなった、というのはよく聞く話だが、歳をとることと記憶力はあまり関係ないということなのだ。
そういったことが書かれている本を、最近BS11(イレブン)で毎週火曜日の夜放送している「宮崎美子のすずらん本屋堂」という番組で紹介していた。機会があったら読んでみようかと思っていたが、本のタイトルも著者も忘れた。そんなことから「ほんとかな?」などとも思っている。

 

 

それはともかく、本書についてはその後さまざまなところで紹介され、ついには本屋大賞を射止めてしまった。
そんなこんなで、それでは僕も読んでみようかと、先日近くにある家電量販店ヤマダで貯まっていたポイントで交換した。家電量販店で本を買うというのはおかしな話だが、そこは割と大型店で家電の他に化粧品や本まで扱っているのだ(前にどこかで書いたな)。細かな買い物でも時がたつとポイントがたまるもので、3千円相当のポイントがあったので、パソコン誌2冊と本書でちょうど交換できた。近頃は懐が豊かでないから、以前は定期購読していたパソコン誌を読むのもしばらくぶりだ。
パソコンの話になったついでに、(僕のこの記録はついでの話の方が多くなってしまうのだが・・・・)僕はこの記事を書くときや、ネットに接続するときもタワー型のデスクトップを使っているが、ノートもOSがWindows7なので、最近ヤフオクで手に入れた「Visual Basic.net」が古いタイプで、インストールできない。
そこで仕方なく、ヤフオクで小さなXP対応のモバイルノートを手に入れて、インストールした。
もともと僕のプログラム作りは、Basicをスタートとしていたから、VBならいくらかでもとっつきやすく、Excellなどに付随しているVBA(VisualBasic for Application)で、何度かプログラミングをしてきた。

先に出た加齢と記憶力の話だが、それが無関係という話を聞いてそれならということで、またもやプログラム作りに挑戦することにしたのだ。話によれば、記憶力は努力することにより高まる、ということなので年寄りの冷や水だが、暇つぶしにはなるだろう。

 

 

て本書の舞台は、玄武書房という中堅の出版社、そこで企画された大きなプロジェクトが、「大渡海」という日本語辞書の出版だった。日本語という言葉の海原を渡るための舟が、辞書ということで名づけられた「大渡海」だが、それにかかる費用と、時間は半端なものではなく、会社の方針で何度か中止となりかける。
そうした環境の中、顧問で編集の大元をつかさどる大学教授の松本、定年後も社外編集者の一人として、編纂に携わる荒木、そして馬締、さらに中年の女性社員・佐々木といったメンバーが辞書編集部だ。
前からいたお調子者だと思われていた西岡という部員は前半で広告宣伝部へ異動となる。ストーリーの前半は新たに部員となった馬締と、入れ替わるように辞書編集部から去る西岡の交錯が描かれて、当初気楽な社員と思われた西岡の中の、意外な面が次第にあらわれる様子が、少しほろりとさせる場面などもある。

そうした前半に少し時間がかかったが、半分から後は一気に読み進める。 主人公は、真面目が取り柄の馬締(まじめ)君だ。冗談みたいな話だが、本当のことだ。営業部で一人浮いた状態だったのを、定年間近の主任・荒木が惚れ込んで辞書編集部に引き抜いたのだ。まじめが取り柄とは言いながら、彼は言葉に対する執着は誰よりも強く、そこを辞書の編集に向いていると見込んのだが・・・・。
そうしたこととは別に彼が下宿しているアパートに、大家のタケおばあさんの孫娘・林香具矢がやってきた。
京都で板前の修業をしていたが、タケおばあさんを案じて、こちらの割烹「梅の実」で見習いとして働き始めたのだそうだ。そんなことから辞書編集部の新入部員の歓迎会が「梅の実」で行われることになった。 席では美人の香具矢に調子のいい同僚の西岡がちょっかいを出す。西岡に童貞をからかわれた真面目は、気が気ではないが、案に相違して香具矢はあっさりと真面目と結ばれてしまう。

そして後半は13年後、馬締は辞書編集部の主任となっているところから始まるのだが、何のことは無い、まだ「大渡海」の編集の追われる毎日が続いているのだ。少し変化がみられるのは辞書編集部に新たに岸辺みどりという女性社員が異動してきたことか。

普段僕たちが何気なく使っている辞書だが、それが出来上がるまでには、実に多くの人たちが携わっていることや、編纂という仕事には、言葉に対する取り組み方が、並大抵のことではないことなどがわかり、頻繁に辞書を使う身としては、辞書を見る目が少し違ってくるだろうという気になる。 今回は辞書の出来上がるまでの数々のドラマを描いたストーリーで、ちょっとミステリーから外れた物語ではあったが、感動的なラストもあって多くの書店員さんが推したのも、なんとなく納得できるような物語ではあった。

 

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1288.おやすみラフマニノフ

2012年09月04日 | 音楽

おやすみラフマニノフ

おやすみラフマニノフ
読 了 日 2012/09/02
著  者 中山七里
出 版 社 宝島社
形  態 文庫
ページ数 372
発 行 日 2011/09/20
I S B N 978-4-7966-8582-5

 

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者の「さよならドビュッシー」を読んだ後、同様の音楽ミステリーである本書を続けて読みたいという思いを持つ自分を、どうやらなだめすかして、(そんなことをする必要もないのに…)楽しみを後回しにしていた。
とにかく素人の僕でさえ、音楽関係の人なのかしら?と思わせるほどのクラシック音楽に通じて、そればかりでなくその業界にも詳しくて、本書の解説を書いているピアニストの仲道郁代氏でなくても、中山七里とは何者?といった感じを持たせるのだ。
とにかくオーケストラの音があふれ出てくるような描写は、サスペンス小説そこのけの迫力でインパクトを与える。前作で名探偵ぶりを発揮した岬洋介が今回も登場するから、これはシリーズと言ってもいいだろう。
ということはこの先も続編が登場する可能性があるということか?出るといいな。
こんな小説を読んでいる時が、一番の幸せを感じる時だ。

 

 

今回巻末で解説を書いている仲道郁代さんは、世界的なピアニストでずっと前に(2年くらい前だったか?)、NHKBSのハイビジョン特集「仲道郁代 ショパンのミステリー」という番組では、彼の地を訪れてショパンの愛用したピアノを弾くなどの姿を見せていた。
古くは?中村紘子氏の例を取るまでもなく、わが国の女性ピアニストには別嬪さんが多いね。(失礼、最近はこの程度の発言もセクシャルハラスメントと取られかねないから、気をつけないと)
プロの音楽家を唸らせるほどの内容は、全く素晴らしく、多少でもクラシック音楽に興味のある人ならなおさらだろう。

前作に続いて今回もロシアの誇る作曲家・セルゲイ・ラフマニノフの名を冠したタイトルが、前の興奮を思い起こさせて、読む前から期待に胸が高鳴る。今回は語り手でもある、城戸晶という愛知音大に通う青年がヴァイオリニストを目指すストーリーだ。

 

 

ころがその愛知音大でとんでもない事件が持ち上がったのだ。金庫室とも呼ばれている楽器の収納室から、チェロが盗まれるという事態が発生した。ただのチェロではない、時価2億円のストラディバリウスなのだ。
楽器収納室には警備員もついており、温度・湿度の管理上部屋には窓が一つもなく、確実に施錠もされていたから、現場は完全な密室だった。一体どうやって犯人は盗み出すことが出来たのだろう? 発見者は音大の学長であり世界的なピアニストでもある柘植彰良の孫娘、柘植初音である。彼女もここでチェリストを目指している音大生だ。
冒頭の愛知芸術劇場で、聴衆の城戸や柘植初音を圧倒するピアノの腕前を披露するのは、音大の臨時講師を務める岬洋介。チェロ紛失事件を追うとともに、毎年、年1回行われる愛知音大定期演奏会のメンバーを選出するオーディションが行われる。今年の演目はラフマニノフのピアノ協奏曲第二番、ピアノはもちろん柘植彰良学長である。オーディションにより先行される楽団員は合計55名。

当然のことながら、城戸晶もそれに向かって挑戦するのだが、目指すのはコンマス(第一ヴァイオリンのコンサートマスター)である。家庭の事情で、実家からの仕送りが跡絶え、半期分の学費が未納の身としては、ぜひともコンマスの座を射止めて、学費免除を勝ち取るしかないのだ。
しかしながらコンマスを目指すには大きな障壁が存在した。
そんな中で、第二の事件が発生する。柘植学長専用のスタンウェイのピアノが破壊されたのだ。チェロ盗難事件と同一犯人の仕業か?

普段あまり書かないストーリー解説をつい興奮のあまり長々書いてしまった。僕の下手な解説を読むより、興味のある方は是非とも本を読んでいただきたい。僕の興奮の度合いがわかるというものだ。

 

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1287.ビブリア古書堂の事件手帖 栞子さんと消えない絆

2012年09月01日 | 図書
ビブリア古書堂の事件手帖3
栞子さんと消えない絆
読 了 日 2012/08/31
著  者 三上延
出 版 社 アスキー・メディアワークス
形  態 文庫
ページ数 302
発 行 日 2012/06/23
ISBN 978-4-04-886658-3

 

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書もシリーズ作品、そちらこちらの売り上げランキングの上位を占めており、多くのファンを獲得している。もちろん僕もその一人だ。
そうしたことから著者もテレビや雑誌のインタビュー番組に引っ張りだこの様子で、そんなに引き回しては次の作品に差し障りが出るのではと、心配になるが、どうやらそれも杞憂のようだ。著者のあとがきによれば、もう次のテーマも決まっているらしく、「よろしければ次回もおつきあいください」と結ばれている。
当然お付き合わせていただきますよ、三上さん。

 

 

このシリーズの何がそんなに僕を引きつけるのだろう?
やはり一番は、篠川栞子さんの古書をはじめとする本の膨大な知識だろう。客商売をしているのに人見知りというヘンな性格が、本の話題となると突如人格が変わったかと思われるように雄弁となるところなども、その該博な知識がもたらすものだろう。
人には多少の差はあるものの、誰しも一つくらいは得意な分野があって、そうしたことの話題となれば栞子さんのように滔々と語ることがあってもおかしくない。そんなことから、読書人の一人としては、栞子さんから得られる知識は興味深い。例えその本を読まなくとも、彼女の解説はそれだけで面白い。
はるか昔、僕もミステリーファンになったばかりで、クラスメートにいっぱしのミステリー解説などしたものだ。今振り返ればまことに幼稚で、思い出すと恥ずかしいが、若ハゲのイタチで、いや若気の至りで、本当に若かったな。

 

 

作(2)のところでもちょっと触れたが、本書にも同様の愛読者カードなるはがきが差し込まれており、映画化されるとしたら栞子さんには女優の誰?、また五浦大輔には誰?がいいかなどという設問がある。
50円切手を貼って出すかどうかはわからないが、(前回はどうだったかな?多分出さなかったのだろう)、一応前回同様栞子さんには永作博美氏、五浦大輔には今回は平岳大氏をと、書いた。最近NHKテレビでちょくちょく見かけたので、平岳大氏にしたが、彼が平幹二郎氏と佐久間良子氏の息子だとはついこの前まで知らなかった。なかなか感じのいい好青年で、五浦にぴったりだと思っている。
今回の三つのエピソードはどれもよかったが、特にと言えば第三話 宮澤賢治「春と修羅」(関根書店)で、栞子さんがちょっと厳しい態度を見せるところが新鮮で、よかった。ここでもまだ解けない謎が残っているので、また次回作が楽しみだ。著者のあとがきでは冬には出るらしいから、それまで首を長くして待つことにしよう。

 

収録作
# 著者 タイトル 発行所
第一話 ロバート・F・ヤング 「たんぽぽ娘」 (集英社文庫)
第二話   「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの」  
第三話 宮澤賢治 「春と修羅」 (関根書店)

 

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