隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1011.ハゲタカ

2009年07月31日 | 経済
ハゲタカ
読了日 2009/07/31
著 者 真山仁
出版社 講談社
形 態 文庫
ページ数 (上)488
(下)426
発行日 2006/03/15
ISBN (上) 978-4-06-275352-9
(下) 978-4-06-252353-7

 

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書館の単行本を読もうと思っていたが、長いこと貸し出し中なのは、6月(平成21年)に本作のシリーズ最新作「レッドゾーン」の映画化が公開された為か? 仕方なく、文庫本を購入。
2007年2月から3月にかけて、6週に亘って放送されたNHKドラマ「ハゲタカ」を見て、いつかは原作を読もうと思っていた。
前にもどこかで書いたと思うが、NHKの土曜ドラマ枠で制作されたドラマには名作、傑作が多いことで定評があるが、本書及びシリーズ次作の「バイアウト(文庫化に伴い“ハゲタカⅡ”に改題された)」を元に林宏司氏の脚本によって制作されたドラマは、例に漏れず名作といえるだろう素晴らしいドラマだった。
僕はドラマの面白さが演じている俳優の魅力に負うところも多分にあるという感じがしたのだが、それは今まで全く知らなかった、鷲津政彦に扮した俳優の大森南朋氏の演技と存在感に、ドラマが進むに連れて正に圧倒されるような感覚を覚えたからだ。
当時のNHKのこのドラマのために開かれたサイトの掲示板で、大森氏は僕が知らないだけで演劇愛好家たちの間では有名な存在だったようだ。

 

 

ドラマや映画の話はまたの機会にして、本のほうに戻ろう。
素晴らしいドラマを見た後、もっと早く原作となった本書を読もうとは思ったのだが、図書館の単行本はいつでも読めるという思いもあって、延び延びになっていた。が、いざ読もうという段階で、先を越されるという皮肉な結果となった。
さて、上下巻合わせて900余ページに亘る大長編だが、“巻置く能わざる面白さ”、という言い方があるが、正にその通りだった。別の表現に、長さを感じさせないという言い方もあるが、僕は逆にこの長さの中にたっぷりと盛り込まれたエピソード、興味深く描かれる幾人かのメインキャラクター達の、それぞれの人生の関わりがスリリングに交錯していく過程に、感動したのである。

バブル崩壊後に残された銀行の不良債権は、大きく銀行経営の足を引っ張るばかりか、日本経済の根幹を揺るがすほどの要因となって、すばやい処理を必要としていた。
そして、バルクセールと呼ばれる、不良債権の一括売却を狙って、参入してきたのが外資系の投資銀行だ。
その膨大な資金力に物を言わせ、弱みに漬け込むような、容赦なく買い叩く姿は、ハゲタカと呼ばれ、恐れ嫌われていた。

 

 

数の都市銀行である三葉銀行も、例に漏れず1000億円以上の不良債権を抱えて、苦悩していた。
そうした不良債権の処理を行う資産流動化開発室室長・芝野健夫の前に颯爽と現れたのは、アメリカでも有数の買収ファンドKKL(ケネス・クラリス・リバプール)の日本法人、ホライズン・キャピタルの社長・鷲津政彦だった。
ハゲタカと恐れられるファンドの代表が日本人であることに、驚くとともに安心感を抱いた三葉銀行の面々だった、が、彼らは銀行が差し出した720億円という債権に対して行った、デューデリジェンスと称する査定の価格は、僅か65億円という10%にも満たない金額だった。

こうしたハゲタカたちの最初の活動を示すエピソードを発端として、ストーリーは目まぐるしく展開していく。
実際には、プロローグとして、2-3の事柄が示されるのだが、それが後の展開にどう関与していくのかは、その時点ではわからない。ともかく、今またバブル崩壊後の状況と似たような不況の現実に直面する中で、実存の人物や機関、あるいは事件を連想させるストーリーは、物語の面白さだけではない、多くを考えさせるものを持っている。そして、最後に記された...to be continuedが、次の「バイアウト」へ続くことを示す。

ところで、本書の内容は部分的にドラマと一致するところがあるのは当然の事ながら、基本的にドラマとは別の物語と考えたほうがいいだろう。

 

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