アイリッシュ短編集3 裏窓・他 SOMEBODY ON THE PHONE & OTHER STORIES |
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読了日 | 2012/07/23 | |
著 者 | ウィリアム・アイリッシュ William Irish |
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訳 者 | 村上博基 | |
出版社 | 東京創元社 | |
形 態 | 文庫 | |
ページ数 | 381 | |
発行日 | 1973/03/31 | |
ISBN | 4-488-12005-9 |
こに収められた短編は、僕が生まれた年の前後数年ごろに書かれたものだ、ということが下記の一覧でわかる。
だからどうということではないが、今までそんなことは気にしたことがなかったので、改めて作品が発表された年代を見て、ほんの少しその頃の昭和を思い起こしている。
太平洋戦争の始まる前の危うい雰囲気の時代から、開戦初期の緊迫以前のその頃には、まだ僕の父親も出征(兵隊となって戦地に赴く)前だった。まさか、その数年後に親父が兵隊にとられ、東京大空襲で、僕の住んでいた家(駒形の借家ではあったが)も焼失して、まだ乳幼児だった弟を背にしたお袋に手を引かれて、非難するなどということは夢にも考えられなかったころだ。
最近歳を取ったせいで、ふとしたことから昔のことを思い起こすことが多くなった。いや、そうとばかりは言えないか。そうした昔を思い起こさせるような、懐かしさを感じさせるのがこの作者の短編に多いのだ。
初めて見る風景や、状態を前に見たことがあるような気がすることを、デジャヴというが、僕はアイリッシュ氏の作品を読むと、そうしたデジャヴに似た感覚を覚えるのだ。
そういえばつい最近NHK BSで「デジャヴ」というアメリカ映画をやっていた。前にも一度民放?で放送されたのを見ているのだが、今回は放送時間が深夜だったので録画しておいて、昼間改めて見た。見た後不思議な気持ちを憶える映画だ。
なぜこんなことを書くかと言えば、デジャブを感じた刑事の話とか、デジャブがその昔の時代に主人公をワープさせるというようなファンタジーがこの中にあるからなのだ。デジャブという感覚について僕は、夢に見る世界に通じていると思っているのだが・・・・。人間の記憶の不思議さを表しているのではないか?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/b8/b4ec98792d6e79306238ce5aa9fb40bc.jpg)
本書は最初に収録されているのが、ジェームス・スチュアート、グレース・ケリー両氏の主演で、アルフレッド・ヒッチコック監督により映画化された「裏窓」だ。ここでは原題がIt Had to be Murder(殺人は行われたのだ)となっているが、映画では文字通り「Rear Window」となっていた。殺人者にはまだテレビで売り出す前の、レイモンド・バー氏が扮していた。ヒッチコック監督の代表作の一つだろう。
ハラハラ、ドキドキさせるのが監督作品の特徴だが、原作からも映像に負けることなく?!その味わいを得ることが出来るのはもちろんだ。しかし今回改めてこの原作を読んでみて(再読である)、映画とは違う主人公の心理状態が描かれるストーリーの素晴らしさを再認識する。頭の回転が鈍い僕は、2度3度読んで初めて作品の狙いや、その価値がわかるようで、何とも歯がゆい思いだ。しかし改めてと言えば、もう一つこの短編を1時間20分余りの映画に仕上げたヒッチ監督の手腕にも脱帽だ。
僕がこの作者の作品を読んで、郷愁のようなものを感じるのは、先に書いたように古き良き時代のアメリカ、いわゆるアーリー・アメリカンの時代を背景として書かれたものが多いからかもしれない。
サラリーマン現役中にたった2度ほど、しかも業務でしか行ったことの無い、アメリカになぜ郷愁のような感じを抱くのだろうか?それはやはり著者の文体によるのかも・・・。アメリカに限らず、わが国でも豊かになる前の、皆が貧しかった時代に有ったもの、それが今失われていることに対する懐旧の情か?
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/05/b8/b4ec98792d6e79306238ce5aa9fb40bc.jpg)
ーリー・アメリカンの風景と書いたが、本当はその時代を過ごした人々の風俗、風習や、人情の機微が僕の胸を打つのだろう。古き良き時代の風習を色濃く残した、下町のドラマを描いた小路幸也氏の「東京バンドワゴン」のシリーズに惹かれるのも、同じような理由からかもしれない。
この中では最初の「裏窓」しか映像化されたことを、僕は知らないのだが、読んでいるとその他の作品も脚色如何によっては、それ以上の映画やドラマになる要素を持っている。翻案として国内のドラマにもなるのではないか?もちろんわが国の脚本家やテレビプロデューサーたちも、こうしたストーリーの中からドラマになるような作品を探してはいるのだろう。
いつの日かこの中から傑作ドラマが生まれることを期待したい。
# | タイトル | 原題 | 発表年 |
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1 | 裏窓 | It Had to be Murder | 1942.4 |
2 | 死体をかつぐ若者 | The Corpse and the Kid | 1935.9 |
3 | 踊り子探偵 | Dime a Dance | 1938.2 |
4 | 殺しの翌朝 | Murder on My Mind | 1936.8 |
5 | いつかきた道 | Guns, Gentleman | 1937.12 |
6 | じっと見ている目 | The Case of the Talking Eyes | 1939.9 |
7 | 帽子 | The Counterfeit Hat | 1939.2 |
8 | 誰かが電話をかけている | Somebody on the Phone | 1937.7 |
9 | ただならぬ部屋 | Mystery in Room 913 | 1938.6 |
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