隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

0366.O・ヘンリ短篇集(一)

2003年03月31日 | 短編集
O・ヘンリ短編集(一)
O・Henry Ⅰ
読了日 2003/03/31
著 者 O ・ヘンリー
O.Henry
訳 者 大久保康雄
出版社 新潮社
形 態 文庫
ページ数 257
発行日 1995/05/30
ISBN 4-10-207201-2

 

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校で習ったり教わったりしたものは、実生活ではあまり役立たない、などとい うことがよく言われている。特に数学など・・・・。
でも僕は、そうとばかりだとは思わない。半分は受け入れ側の姿勢にもよるのではないか、それ と教育の方法にもよると考える。
何故こんなことを言うのか、というと僕自身中学や、高校の授業での考え方が、今の自分の考え 方や行動に対してかなり影響していると思うからだ。
実は、この本も中学から高校にかけて、教科書で読んだことがあり、就学中だったか、あるいは 卒業後だったかは忘れたが、授業が印象深かったので、文庫を買って読んだことがあるのだ。

古き良き時代の、いわゆるアーリー・アメリカンの人々の生活や、人情の機微などを描いたショ ートストーリーで、純粋なミステリーではないが、ひねりの効いた結末や、落ちなどがミステリ ー味を伴っているので、リストに加えた。

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 警官と賛美歌 The Cop and the Anthem
2 赤い酋長の身代金 The Ransom of Red Chief
3 振子 The Pendulum
4 緑の扉 The Green Door
5 アラカルトの春 Springtime ӑ la Carte
6 運命の衝撃 The Shocks of Doom
7 ハーグレイブズの一人二役 The Duplicity of Hargraves
8 善女のパン Whiches’ Loaves
9 ラッパのひびき The Clarion Call
10 よみがえった改心 A Retrieved Reformation
11 自動車を待つ間 While the Auto Waits
12 多忙な仲買人のロマンス The Romance of a Busy Broker
13 黄金の神と恋の射手 Mammon and the Archer
14 桃源郷の短期滞在客 Trancient in Arcadia
15 馭車台から From the Cabby’s Seat
16 水車のある教会 The Church with an Overshot-Wheel

 

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0365.猿若町捕物帳 巴之丞鹿の子

2003年03月29日 | 時代ミステリー
猿若町捕物帳 巴之丞鹿の子
読了日 2003/3/29
著 者 近藤史恵
出版社 幻冬舎
形 態 文庫
ページ数 283
発行日 2001/10/15
ISBN 4-344-40167-0

 

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ネットの案内メールで知り、同じシリーズと思われる「ほおずき地獄」と一緒に購入した。著者が捕物帳を書いているとは知らなかった。
今まで読んだ著者の作品のイメージが時代物と重ならなかったのだが、読んでみて、今泉文吾の梨園シリーズと、どこかで交錯するような感じを受け、やはり著者の作品だという認識を持った。
猿若町は、江戸時代から芝居小屋の多く集まっている所だということは、以前読んだ、北森鴻氏の「狂乱廿四孝」で、ぼんやりと憶えていたが。

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

南町奉行所の同心、玉島千蔭は、江戸の町で娘だけを狙った連続殺人事件の被害者が、皆、“巴之丞鹿の子”という、人気役者の名前のついた帯揚げをしていたことに不審を抱く。
男前でありながら、いつでも苦虫を噛み潰したような顔をしている、玉島千蔭は、酒も飲まず、三十過ぎても色っぽい話もない堅物で通っているが、隠居した父親の仙次郎は全く反対の性格だった。
父親から聞いた話では、今評判の役者・水木巴之丞は、中村座の座頭・中村勝蔵が上方から引っ張ってきた女形役者で、得意とする出し物は、「似せ若衆」といって、はじめ若衆姿で登場し、立ち回りをしたりした後、その若衆が実は男装の娘だった、という趣向らしい。千蔭は水木巴之丞に会いに猿若町に行くが・・・・。

~~~・~~~・~~~・~~~・~~~

時代物置き換わったミステリーでも、芝居の世界は、著者の得意とするところか。

 

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0364.ママのクリスマス

2003年03月27日 | 安楽椅子探偵
ママのクリスマス
MOM MEETS HER MAKER
読了日 2003/03/27
著 者 ジェームス・ヤッフェ
James Yaffe
訳 者 神納照子
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 322
発行日 1999/01/08
ISBN 4-488-10316-2

 

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楽椅子探偵”ママ”シリーズの長編第2作。読む順序が前後したので、前回語り手で登場した、ロジャーがデイヴの助手となった経緯が本書でわかる。
クリスマスを目の前にして、アン・スウェンソンの公選弁護人事務所に依頼人の一家が訪れた。マイヤー夫妻と息子のロジャーである。
彼等の隣にあるキャンディー牧師の協会が遊園地にでもなったかの如く、大音量のクリスマス・ソングを流し始めたので、抗議に行ったロジャーと牧師が言い争いになり、牧師は銃を取り出した。
ロジャーと牧師はつかみ合いになり、銃が暴発した。幸い弾は当たらず怪我はなかったが、キャンディーの妻が警察に通報、ロジャーはキャンディーの申し立てで不法侵入と、治安妨害の罪で逮捕されたと言うのだ。そして、キャンディー牧師が銃で殺された。

今回から。ストーリーの進め具合に、少し変わった趣向を凝らしている。プロローグで、ママが神に向かって告白をするのだが、息子のデイヴに話した事件解明の推理は、事件の真相をすべて明らかにしたのではないという告白なのである。
そして、その続きはエピローグに移るのである。それは、一件落着の後で、もう一つの真実が明かされるということを冒頭で示していることになるのだが、そういうことが分かった上でも、面白さは少しも損なわれていないところがすごいと思わせる。
このシリーズを読むと、よきアメリカ人の母親像と、親子関係や、家族関係、さらには近隣との交際等々、その典型が細やかに描写されて、興味深い。

 

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0363.喪服のランデブー

2003年03月25日 | サスペンス
喪服のランデヴー
RENDEZVOUS IN BLACK
読了日 2003/03/25
著 者 コーネル・ウールリッチ
CORNELL WOOLRICH
訳 者 高橋豊
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 322
発行日 1976/04
ISBN 4-15-070601-8

 

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人は毎晩八時に逢った。雨の降る日も雪の日も、月の照る夜も照らぬ夜も」。これは本書の冒頭、出だしの文章だが、野沢尚氏の脚色によるNHKドラマの導入部分でもナレーションとして使われており、印象深い。
結婚を目前に控えた若い二人が、毎晩落ち合う街灯の下での逢瀬が、思いもかけないアクシデントによる女の死で壊される。それを知らずにいつまでも待ち続ける男のやるせない気持ちが、そして、やがて復讐へと傾いていく男の心が独特のタッチで描かれる。
僕は若い頃の一時期、このサスペンスの詩人と言われる作家に傾倒して読み漁ったが、この本は読んだ記憶がない。
2000年8月から9月にかけてNHKで野沢尚サスペンスとして5回連続で放送されたドラマを見て、読んで見ようと思ったのだ。ドラマは舞台を日本に移して翻案されており、人物設定や、時代背景等、原作とはかなり異なる点はあるものの、原作のイメージを損なうことなく、持ち味を生かしたドラマに仕上がっていた。
これを機にまたこの作家の作品を少しずつ読み返してみたいと思う。特に、もう一度読んでおきたいのは「幻の女」だ。

 

 

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0362.木曜組曲

2003年03月23日 | サスペンス
木曜組曲
読了日 2003/3/23
著 者 恩田陸
出版社 徳間書店
形 態 文庫
ページ数 247
発行日 2002/09/15
ISBN 4-19-891759-0

 

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文庫のカバーの折り返しに写真があり、映画化されたことがわかる。本を読んでからDVDでもレンタル店で探そうと思った。
読みはじめて、今まで読んだ著者の作品と少し趣が違うかな?と感じる。もっとも、同じ作者の本だからといって、いつも同じタイプのストーリーや、内容とはいえないのだが。
特にこの作者の作品は読むたびにまったく違う世界に誘われるのだが、それでも、独特のにおいと言うか、感じがあるのだ。

4年前に亡くなった耽美派の大作家・重松時子を偲ぶ会が、年1度催され、今年もそのときが来た。彼女の住まいだった「うぐいす館」に集まるのは、ライター・絵里子、流行作家・尚美、純文学作家・つかさ、出版プロダクション経営の静子、この4人が時子と姻戚関係で、もう一人編集者のえい子の5人である。
当日、このうぐいす館に花屋だと言う青年が現れ「フジシリチヒロ」さんという方から注文をいただいたと言って花を置いていった。宴が始まり、花に付いていたメッセージカードを読むと、「皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のために花を捧げます」とあった。
このメッセージがきっかけとなり、次々と告白や、告発が始まる。

全編がほとんど女達五人の会話で埋め尽くされるこの作品が、どのように映像化されたのかぜひ見てみたい気になる。

初出誌(問題小説) 1998年4月号~1999年8月号



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0361.朝霧

2003年03月21日 | 連作短編集
朝霧
読了日 2003/3/21
著 者 北村薫
出版社 東京創元社
形 態 単行本
ページ数 219
発行日 1998/04/20
ISBN 4-488-01280-9

 

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昨年の月から4月にかけ、立て続けに”私と円紫師匠”シリーズを読んでからおよそ1年が経過した。が、本作が文庫にならないので、図書館の単行本を読んだ。
このシリーズもこれで5作目となり、いよいよ”私”も大学を卒業して出版社に勤めることになった。
前作「六の宮の姫君」(193.参照)から文学談義が一段と多くなったが、著者は月にどのくらいの量の本を読むのだろう
著作の資料として読む本は1作で数十冊となる場合もあるようだが、それらは、巻末の参考資料ということで載っているので分かるのだが。
本書では、従来より作品数が少なく3作となっており、ちょっと寂しいが、この後は続かないのだろうか?
著者の作品については共通して言えることだが、多分、多くの読書量とその質に支えられた確かな知識が活かされて、特にこのシリーズでは、独特の雰囲気が形成されている。読み飛ばすにはもったいないような気がする。

 

収録作
# タイトル
1 山眠る
2 走り来るもの
3 朝霧

 

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0360.黒後家蜘蛛の会3

2003年03月19日 | 連作短編集
黒後家蜘蛛の会3
TALES OF THE BLACK WIDOWERS Vol.3
読了日 2003/03/19
著 者 アイザック・アシモフ
Isaac Asimov
訳 者 池央耿
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 377
発行日 1992/05/29
ISBN 4-488-16703-9

 

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後家蜘蛛の会も3集目となった。このシリーズには、殺人事件といった凶悪な犯罪や、もう一つお色気話は出てこない。著者のアシモフ氏の方針なのだ。
特にお色気話については、そうした雑誌や書物が他にいくらでもあるから、好みの人はそちらを利用されたし、というのが彼の言い分なのだ。これも彼の一方の自信の現われなのだと思われる。わが国でも、その著作の中で、お色気話が出てこない作家は散見できる。僕も男性の端くれとして、そういった話は嫌いではないが、ミステリーとしては必要欠くべからざるものだとは思わないから、アシモフ氏の言い分はもっともだと納得している。

 

さて、このシリーズの売り物はもう一つ別にある。各ストーリーごとに付いている著者のあとがきだ。作品はほとんどE.Q.M.M.に掲載されたものであることは前にも書いたが、中にはそのときの世情に合わなかったりして、E・クイーンのフレデリック・ダネイから返されるものもあるという。
そうした経緯(いきさつ)なども書かれており、生の著者を見るようで、興味深い。さらに本書では下記の収録作の一覧に*印をつけておいたが、この当時、創刊されたアシモフ自身の名前を冠した雑誌「I.A.S.F.M.(Isaac Asimov Science Fiction Magazine)」に掲載されたものもある。Black Widowersはますます意気軒昂である。

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 ロレーヌの十字架 The Cross of Lorraine
2 家庭人 The Family Man
3 スポーツ欄 The Sports Page
4 史上第2位 Second Best
5 欠けているもの Missing Item
6 その翌日 The Next Day
7 見当違い Irrelevance
8 よくよく見れば None So Blind
9 かえりみすれば The Backward Look
10 犯行時刻 What Time Is It
11 ミドル・ネーム Middle Name
12 不毛なる者へ To the Barest




0359.ママは眠りを殺す

2003年03月17日 | 安楽椅子探偵
ママは眠りを殺す
MOM DOTH MURDER SLEEP
読了日 2003/03/17
著 者 ジェームス・ヤッフェ
James Yaffe
訳 者 神納照子
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 326
発行日 1997/11/28
ISBN 4-488-10317-0

 

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マシリーズ長編第3弾。わが国で歌舞伎やその他の芝居・演劇などの世界をを舞台としたミステリーが数あるが、欧米では、いわゆるシェークスピアものと言われるミステリーが多く存在している。
これらの作品を読むときに、必ずしもそれらの知識を必要とはしないのだが、知識があるに越したことはない。ストーリーに対する理解度も、面白さも倍増するのではないかと思うのだが、残念なことに僕は、そうした知識は全くないのだ。(威張れることじゃないが)

今回のお話は、今までと違い語り手が二人となっている。捜査主任デイヴの助手となったロジャーがその一人となる。
メサグランデ芸術劇団の公演がシェークスピアの「マクベス」に決まり、中心人物以外の出演者を募集する地元新聞記事で、ロジャーも出演することになった。事件はそのリハーサル中におきた。マクベスの家臣バンクオー暗殺の場面で、俳優と入れ替わった本物の刺客に殺されたのだ。

歌舞伎ミステリー、戸板康二氏の「車引殺人事件」を連想する事件だが、複雑に絡み合う事件をメサグランデに越してきたママの推理が解きほぐしていく・・・。

 

 

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0358.黒後家蜘蛛の会2

2003年03月15日 | 連作短編集
黒後家蜘蛛の会2
TALES OF THE BLACK WIDOWERS Vol.2
読了日 2003/03/15
著 者 アイザック・アシモフ
Isaac Asimov
訳 者 池央耿
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 358
発行日 1992/04/10
ISBN 4-488-16703-9

 

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に入った作品を次々と待たずに読めるのは実に幸せなことだ。ということで、シリーズ第2集。黒後家蜘蛛の会の個性的なメンバーは、特許弁護士のジェフリー・アヴァロン、暗号専門家のトーマス・ソランブル、作家のイマニュエル・ルービン、有機化学者のジェームス・ドレイク、画家のマリオ・ゴンザロ、数学者のロジャーホルステッド、そして給仕のヘンリー。
こうした人物にそれぞれの職業に沿った活発な意見を闘わせるには、著者にも相応の知識が要求されると思うのだが、その博覧強記振りには圧倒される。
著者の顔写真を見る限りでは、まさに、その博学と旺盛な物語作者としてのエネルギーを感じさせるが、と言うのは、写真から受ける雰囲気が、僕が会社勤めをしていた頃出会った経営コンサルタントに良く似ているのだ。それも複数の人たちにである。彼らもその職業柄、博学多識ではあったが、なにより、今になって考えると、ものに対する直感的な理解力が優れていたという気がするのだ。人は外観では分からないと言う。しかし僕は、外観に現れる本質もあると思うのだ。

 

著者もこのシリーズに関しては、絶対的な自信を持って臨んでいるのだろう、自分の眼の黒いうちは著作を続けると“まえがき”に書いているのだ。
そこで、シリーズをより面白く読むには、こちら側もある程度は、多少の勉強なり、知識を蓄える必要があるかもしれない。とはいうものの僕などは、ちょっと遅きに失したかも。英語の辞書を傍らにおいて読んでいるのだから・・・。

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 追われてもいないのに When No Man Parsaech
2 電光石火 Quicker Than the Eye
3 鉄の宝玉 The Iron Gem
4 三つの数字 The Three Numbers
5 殺しの噂 Nothing Like Murder
6 禁煙 No Smoking
7 時候の挨拶 Season’s Greetings!
8 東は東 The One and Only East
9 地球が沈んで宵の明星が輝く Earthset and Evening Star
10 十三日金曜日 Friday the Thirteeth
11 省略なし The Unabridged
12 終局的犯罪 The Ultimate Crime




0357.ママは何でも知っている

2003年03月13日 | 安楽椅子探偵
ママは何でも知っている
MOM,THE DETECTIVE
読了日 2003/03/13
著 者 ジェームス・ヤッフェ
James Yaffe
訳 者 小尾芙佐
出版社 早川書房
形 態 新書
ページ数 253
発行日 2000/04/15
ISBN 4-15-001287-3

 

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内の書店、ブックセンター・サンワで取り寄せてもらった早川書房のポケミスだ。昔随分お世話になったポケミスだが、、最近は書店であまり見かけなくなった。知っている限りでは、千葉パルコ7階の改造社書店と千葉駅前のキディランド書店にわずかある程度で、寂しいかぎりだ。
本書は、今月初めに読んだ「ママ、手紙を書く」のJ・ヤッフェ氏がそれより20年も前に書き始めたブロンクスのママシリーズの短編集で、これはわが国で独自に編まれたものだ。
何故これほどの名作が本国アメリカで単行本にならなかったのか不思議な気もするが。作品は全てE.Q.M.M.に掲載され、E・クイーン氏らの絶賛を浴びたにも関わらず。彼我の出版事情の差か?ともかく、こちらでは絶版になってなくて幸いだった。
たった8編しかないから、あっという間に読んでしまわぬよう、じっくり時間をかけて読んだ。

 

 

ニューヨーク市警殺人課に勤務するデイヴィッドが毎週金曜日に妻のシャーリーを伴って、ブロンクスに一人住まいのママを訪ねて3人で夕食会をするのが慣習となっている、という紹介からストーリーが始まっている。時にママはシャーリーに対抗意識を持ちながら、デイヴの抱えた難題に鋭い推理を働かす・・・。
この三人で夕食を楽しむ傍ら、デイヴから今抱えている事件の内容が話されるのだが、時々口を挟む妻のシャーリーに対して、ママの皮肉が飛び出したり、ちょっとした嫁姑の闘いがあったりして、ニヤリとさせられる場面も出てくる。今夜の事件は、プラチナ・ブロンドの娘が、滞在中のホテルの部屋で頭を鈍器で殴られた上、枕に顔を押し付けられて窒息死した状態で発見された、という事件だ。
その夜ホテルに彼女を訪ねてきた3人の男が容疑者として拘留されたので、いずれ締め上げれば、犯人が判るのは時間の問題だとデイヴはいうが。
ママは、「あなたたちの頭も締め上げるんだね!」と言う。果たして、ママは整然たる論理の積み重ねによる推理を始めるのだ。(表題作)

 

収録作と原題
# タイトル 原題
1 ママは何でも知っている Mom Knows Best
2 ママは賭ける Mom Makes Bet
3 ママの春 Mom in the Spring
4 ママが泣いた Mom Sheds a Tear
5 ママは祈る Mom Makes a Wish
6 ママ、アリアを唄う Mom Sings Aria
7 ママと呪いのミンク・コート Mom and the Haunted Mink
8 ママは憶えている Mom Remembers

 

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0356.私は殺される

2003年03月11日 | アンソロジー
私は殺される
読 了 日 2003/03/11
編  者 結城信孝
出 版 社 角川春樹事務所
形  態 文庫
ページ数 341
発 行 日 2001/06/08
ISBN 4-89456-845-4

 

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こ何ヶ月か、アンソロジーを読むことが多くなっている。少し前に女性作家ばかりの作品を集めたアンソロジーを3冊読んだが、本書も9作の女性作家の作を集めたアンソロジーだ。古書店の棚を見ているうちに、アンソロジーの中に好きな作家の名前や、まだ読んだことのない作品が入っているとつい手が出てしまう。本書もそうした理由で、宮部みゆき氏と、渡辺容子氏の名前に惹かれて買った。出来ればアンソロジーは読んだことのない作家の作品が入っていることが望ましいのだが、そうして好ましい作家を見つけることが出来ればそれがもう一つの読書の喜びだ。

 

 

さてと、読み始めて宮部氏の不文律」は、前に読んだ地下街の雨」(188.参照)に入っていることに気づく。後ろの方の初出誌と、収録書にも載っているではないか。たまにこういうこともあるのだ。この作品(不文律)は、昨年読んだ直木賞受賞作品理由」(248.参照)のルポルタージュ形式のような感じの短編だったことをようやく思い出した。

その他に気になった作品は、新津きよみ氏の「うわさの出所」、同じ大型マンションに住む、年上の主婦からPTAの役員だということで、いろいろと用事を頼まれる主婦が、その主婦に良く似た女性が、夫以外の男性とホテルから出てきたところを目撃して、不倫のうわさを流すが・・・・。思わぬ結果を招くというストーリー。

戸川昌子氏の「嗤う衝立」は、ちょっとお色気場面もある、アマチュアゴルファーの話で、癌の疑いのある腫瘍を切除するために、片足を切断して入院中の夫は、妻の不貞を疑うが・・・。タイトルが意味深である。

前にもどこかで書いたが、動物と子どもの話には泣かされることが多い。 栗本薫氏の「犬の眼」は、その両方の話だから、なおさらだ。一人息子が可愛がっていた犬が、土曜日の交通量の多い道路で車に撥ねられ死んだ。そして、間もなく家人の留守に、今度は息子が絞殺死体となっていた。二重の不幸に見舞われた夫は、息子の殺された日の妻の行動に不審を抱く、というストーリ-。

 

 

本薫氏の作品は乱歩賞のぼくらの時代」(135.参照)しか知らないが、こういう短編を読むと、うまい作家だなあと感心する。僕はこの人については、小説よりもテレビのクイズ番組「ヒントでピント」を思い浮かべる。テレビ朝日で土居まさる氏の司会で1979年から15年ほど続いた番組で、彼女はもう一つの中島梓という名前で女性キャプテンを務めていた時期があった。歴代の女性キャプテンの中では、抜群に解答率が良くて、頭の良い人だという印象があった。話がそれたが、僕はこの頃、この番組を良く見ており、男性キャプテンでは、作曲家の小林亜星氏とか、イラストライターの山藤章二氏の印象が強く残っている。また、今は亡き土居まさる氏の軽快で、明るい司会も番組を盛り上げていた。

話を戻して、若竹七海氏の「再生」は、本格ミステリー。興信所に勤める葉村晶が主人公だ。ある時所長が連れてきた依頼人は、作家の斉藤俊哉だった。彼の依頼は、近所で最近起きた老女殺しで、その若い姪が逮捕された事件についてだった。その日、彼は原稿の締め切りに追われ、編集者に捕まって缶詰状態だったが、どうしても抜け出して人と遭わなければならない用事があった。そこで、アリバイ作りのために自室から外出中の外の様子をビデオに収めるためのセットをして、編集者に判らないように抜け出したが。帰って、ビデオを見ると、そこに老女殺人事件らしきものが写っていたと言うのである。そして、犯人らしき人物の手は男の手だったというのだが・・・。ミスディレクションの配置も鮮やか。

期待の渡辺容子氏の「ロープさん」は、土・日に入ってくる不動産屋のチラシで、日毎に値下がりするマンションや、一戸建ての価格を見て、やりきれない思いの主婦。親の遺してくれた遺産や,OL時代の預金などすべてをつぎ込んでおく近い金を出して購入した一戸建ての家が、今1/3の価格まで下がっているのだ。ある日小学生の息子のガールフレンドが来て、二人で宿題のお絵かきをさせた後、女の子のスケッチブックを覗き見た主婦は、そこにロープで首をつっているらしい男の絵を見て驚くが・・・。この作品もミスディレクションを巧みに使った作品。構成が面白い。

 

初出誌
# タイトル 著者 紙誌名 発行月
1 不文律 宮部みゆき 問題小説 92年5月号
2 枕香 乃南アサ 週刊小説 93年9月17日号
3 うわさの出所 新津きよみ 週刊小説 98年10月16日号
4 嗤う衝立 戸川昌子 小説現代 76年10月号
5 犬の眼 栗本薫 小説新潮 82年1月号
6 再生 若竹七海 野生時代 95年11月号
7 ロープさん 渡辺容子 週刊小説 99年8月20日号
8 呪われた密室 山村美紗 小説現代 84年1月号
9 妻と未亡人 小泉喜美子 小説すばる 93年6月号

 

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0355.九マイルは遠すぎる

2003年03月10日 | 短編集
九マイルは遠すぎる
THE NINE MILE WALK
読了日 2003/3/10
著 者 ハリイ・ケメルマン
HARRY KEMELMAN
訳 者 深町眞理子 他
出版社 早川書房
形 態 文庫
ページ数 253
発行日 2001/11/15
ISBN 4-15-071102-X

 

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い頃、随分と内外のミステリーを読んだつもりでいたのだが、今になって考えてみると、実は大したことはなかったのだといささかガッカリするような気持ちだ。
それでも、ミステリー以外の書物も含めればざっと1千冊以上は読んでいた筈なのに、殆ど記憶が薄れてしまっている。まあ、今こうして懸命に読んでいるのだから別にガッカリすることもないのだが、今だってこのようにノートをとっておかなければ、おそらく読んだそばから忘れていくのだろうと思う。
さて、こんなことを考えたのも、今回読んだアメリカの代表的なアームチェア・ディティクティブ「九マイルは遠すぎる」も、今まで全く知らなかったからだ。
本書は8編から成る短編集で、特に表題作は、ちょっとしたミステリー・マニアなら、一度は読んだことがあるか、あるいは名前を聞いたことがある筈の作品だということだ。

 

 

序文で作者が、この物語が生まれた経緯を書いているが、ケメルマン自身が、英作文の教師をしている時に、短い文の組み合わせから幾通りもの解釈が生まれる、という問題にたまたま目に付いた新聞の見出しから「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。まして雨の中となるとなおさらだ」という文を取り上げて、これを元に作文をしろということだったが、生徒からは解答が出なかったようだ。
そして、彼がミステリーとしてこれを作り上げ、 ニコラス(ニッキイ)・ウェルト教授を誕生させたのは、それから14年後のことだった、という。

その本編はというと、郡検事の“わたし”と大学教授のニコラス・ウェルトの間で交わされる会話の中で、「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない。まして雨の中となるとなおさらだ」という言葉から、推測できることは?と“わたし”はウェルトに言う。ウェルト教授は一つずつ推論を重ねた挙句・・・・とてつもない結論を・・・。
これぞ安楽椅子探偵という推理の組み立て!

 

収録作
# タイトル 原題 訳者
1 九マイルは遠すぎる The Nine Mile Walk永井淳
2 わらの男 The Straw Man 深町眞理子
3 10時の学習 The Ten O’clock Scholor 深町眞理子
4 エンド・プレイ End Play 深町眞理子
5 時計を二つ持つ男 Time and Time Again 深町眞理子
6 おしゃべり湯沸し The Whistling Tea Kettle 永井淳
7 ありふれた事件 The Bread and Butter Case 岩田迪子
8 梯子の上の男 The Man on the Ladder 永井淳

 

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0354.池袋ウエストゲートパーク

2003年03月08日 | 青春ミステリー
池袋ウエストゲートパーク
読 了 日 2003/03/08
著  者 石田衣良
出 版 社 文藝春秋
形  態 文庫
ページ数 367
発 行 日 2002/04/15
ISBN 4-16-717403-0

 

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判の高かった本作をようやく読んで、表題作が短編で第36回オール読物推理小説新人賞を受賞したことを知った。
池袋西口公園を中心とする少年たちの生き様と関わる事件を乾いた,歯切れの良い文章がつづっていくハードボイルドの連作ストーリー。
池袋西口で、母親と二人で果物屋の店を営む真島誠・通称マコトが本編の主人公。19歳。覚めているが仲間への友情は厚い。主人公並びにそれを取り巻く仲間たちのキャラクターが個性的で、しかも魅力的に描かれており、感情移入がしやすい。
最近池袋周辺では、連続女子高生絞殺未遂事件が発生して、新聞、テレビを賑わしている。西口公園でたむろしているマコトたちの前に現れた、二人の女子高生、ヒカルとリカはすぐに仲間になった。が、ある時リカがラブホテルで絞殺死体となって発見された。ストラングラー(絞殺魔)の仕業か?マコトは仲間たちを集って調べ始める・・・。(表題作)
他に、エキサイタブルボーイ、オアシスの恋人、サンシャイン通り内戦(シヴィルウォー)と続く。

 

 

収録作
# タイトル
1 池袋ウエストゲートパーク
2 エキサイタブルボーイ
3 オアシスの恋人
4 サンシャイン通り内戦(シヴィルウォー)

 

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0353.名探偵の憂鬱

2003年03月06日 | アンソロジー
名探偵の憂鬱
=本格推理展覧会=
読了日 2007/8/16
編 者 山前譲
出版社 青樹社
形 態 文庫
ページ数 342
発行日 2000/7/20
ISBN 4-7913-1208-2

 

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本格推理展覧会と銘打たれた企画で刊行されたアンソロジーで、全42編の短編を文庫5巻に分けて編まれたうちの1冊。若い頃から僕は、本格ミステリーが好きで、機械的なトリックなどもごく自然に受け入れてきたのだが、最近では、そうした機械的なトリックより、ストーリーそのもに仕掛けられたトリックや、心理的なトリックにその面白さを求めている。

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本書を手に入れた目的は、戸板康二氏の作品が載っていたからなのだが、この「車引殺人事件」はずっと昔、探偵雑誌「宝石」に掲載されたものを読んだ記憶があるのだが、記憶があいまいである。歌舞伎役者の探偵がスマートに事件を推理するストーリーに引かれて、随分読んだような気もする。またいつか、それらを読み返してみたい。

初出一覧
# タイトル 著者 紙誌名 発行月
1 失踪する死者 島田荘司 EQ 昭和60年5月
2 後光殺人事件 小栗虫太郎 新青年 昭和8年10月
3 蝙蝠と蛞蝓 横溝正史 ロック 昭和22年9月
4 夜の殺人事件 島久平 探偵趣味 昭和24年1月
5 罪なき罪人 高木彬光 読物 昭和28年4月
6 車引殺人事件 戸板康二 宝石 昭和33年7月
7 昇仙峡殺人事件 津村秀介 別冊宝石 昭和62年9月
8 「むしゃむしゃごくごく」
殺人事件
山口雅也 鮎川哲也と
13の謎
平成2年12月

 


0352.氷柱

2003年03月04日 | 安楽椅子探偵
氷柱
読了日 2003/03/04
著 者 多岐川恭
出版社 東京創元社
形 態 文庫
ページ数 531
発行日 2002/02/23
ISBN 4-488-42903-3

 

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書は、表題作の他に「おやじに捧げる葬送曲」が併催されており、僕はこちらの方を読みたくて探していたのだ。この作品が安楽椅子探偵だと知って、探していたところ、ようやくここに併催されていることが判った。
著者の作品は昔、「落ちる」という短編?を読んでから、今回の読書で、乱歩賞受賞作の「濡れた心」を読むまで、読んでいなかったので、こうした作品も全く知らなかったのだ。
「氷柱(つらら)」の方は、1958年というから大分古い作品で、地方都市,雁立市(架空の都市)に住む、小城江保という人物の一人称で語られる。
彼は親の残した潤沢な資産で、郊外に3万坪の敷地に居を構え、周囲との交わりを絶った風変わりな男だったが、ある時、近くの路上で7~8歳の交通事故で死亡したらしい女児を見つけたことがきっかけで、自身が戸惑うほどの情熱に突き動かされて、少女の復讐に手を染めていく。淡々とした文章で語られるストーリーだが、著者が、情熱を持って書いた物語であることが、伝わってくるような感じがする。

 

 

「おやじに捧げる葬送曲」目的のこちらの方は、名前の判らない“おれ”の独白の形でストーリーが展開する。探偵社に勤めるは“おれ”は、宝石商殺しの容疑をかけられており、時々見舞いに行って、“おやじ”さんに話す。“おやじ”さんとは、元・敏腕刑事の青砥五郎、彼は死期も間近な重病で入院中で、しかも、言語も手足も不自由な身である。
それでも、“おやじ”さんは、頭だけは全く衰えておらず、時に“おれ”の嘘まで見通す。アームチェアならず、文字通りベッドディティクティブだ。
殺された宝石商というのは、赤山宝飾店を経営する赤山正義といって、あくどい商売をしていたらしい。また、“おやじ”さんには、道っちゃんという娘がいて、“おやじ”さんは彼女が“おれ”に好意を持っていると言う。というようなことがストーリーが進むに連れて判って来る。“おれ”の独白で続くストーリーだが、時には、“おやじ”さんと心中を察した上での、会話形式になることもあり、次第に事件の全貌が現れてくる。
解説の川出正樹氏によれば、いつでも従来の形式のとらわれず、新しい小説形式を試み続けた著者の真骨頂を示す作品ではないかと思う。

 

 

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