降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★殺気立つ整理!=「北海タイムス物語」を読む (85)

2016年04月19日 | 新聞

(4月18日付の続きです。写真は、本文と直接関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第85回。
(小説の時代設定や登場人物のほか、新聞編集でつかう「倍数」「CTS」などの用語は随時説明します)

【 小説新潮2015年12月号=連載③ 368ページから 】
僕が頭を下げると、権藤さんが社会部を振り返った。
「おい、社会部。朝火事の原稿どうなってるんだ! 早く出せ!」
社会部のデスクが真っ赤な顔でこちらを見た。
「放火かもしれないんだって言ってるだろ! いま追取材させてんだ!」
「ばかやろう! 何時だと思ってるんだ! 降版時間があるんだ!」

「伝えるのが俺たちの仕事だろ! 突っ込まないで何が新聞だ!」
「その前に商品作ってるんだってこと忘れるな!」
「整理は黙って待ってりゃいいんだ!」
「きさまこそ黙れ! 五分以内に出さないと外すぞ! 編集権は整理にあるんだ!」
萬田さんが「ようし。パチパチパチ」と言いながら手を叩いた。



❶「放火かもしれない……降版時間があるんだ!」
興奮している北海タイムス編集局の前に、小説の時代設定などを再確認——。
時代は、昭和から平成に変わった翌1990(平成2)年4月中旬。バブル期真っただ中(1986年12月~1991年2月で換算)。
場所は、北海タイムス札幌本社5階の編集局。

当時の北海タイムス紙の夕刊降版時間は不明だけど、複数版をとる新聞社の降版時間は(だいたい)下記のとおり。
▽夕刊②版入稿締切11:30➡︎降版時間11:45
▽夕刊③版入稿締切12:30➡︎降版12:45
▽夕刊④版入稿締切13:30➡︎降版13:45
……となると、だいたい北海タイムス紙の夕刊降版時間は13:45ぐらいか(⬅︎同紙の規模から見ると、当時は1回勝負=1版止めと思われる)。

整理部社会面担当(面担=めんたん)の権藤くんは
「朝火事の原稿を早く出稿しろ!」
大声をあげられた社会部デスクは、怒りで顔を真っ赤にし
「事件性がある。追取材をしているんだ!」
と応酬(整理部あるある)。
おんやぁ~、整理部のデスクは何しているの?
——ということはさておき、こういう場合は(朝火事だから夕刊には何としても入れないとならないのだ)、
「分かった。分かっている第一報だけ出せ!」
「事件性があったら追加差し替える! 一応、違う記事も(同じ行数ぐらい)出稿を!」
とすればいいのだけど(⬅︎僕の経験上ね)。

❷突っ込まないで何が新聞だ!」
報道するのが俺たちの仕事——新聞社〝お仕事小説〟という設定上の、敢えての発言。
現場で、こういう大上段に振りかぶった言い合いはしないよね。

———というわけで、続く。