降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北海タイムス物語」を読む (82)

2016年04月14日 | 新聞

(きのう4月13日付の続きです。写真は、本文と直接関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第82回。
(小説の時代設定や登場人物のほか、新聞編集でつかう倍数、CTSなどの用語は繰り返して説明しています)

【 小説新潮2015年12月号=連載③ 367ページから 】
権藤さんが僕を見た。
「あ……まだです……」
「ばかやろう。先に行数かぞえてそれを控えてから見出しはつける❶もんだ」
そんなこと言われても初めての僕にわかるわけがないではないか——あまりにも理不尽だ——。
「早くしろ!」
権藤さんが声を荒らげた。
「はい……」
急いで数えた。しかし途中で赤いサインペンや青いサインペンで記事が削られたり書き加えられていたり❷してわからない。
その字数を足したり引いたりしていると「鈍くさいやろうだな。貸せ」と原稿を奪われた。
そしてサインペンでトントントンと叩きながら素早く原稿をめくって❸いき、メモ用紙に16と書き、原稿を僕のほうに投げてまた別の原稿に眼を落とした。



❶先に行数……見出しはつける
小説の時代設定は、1990(平成2)年4月中旬——。
当時の北海タイムス紙は、
①記者が原稿用紙に書いた原稿(書き原=かきげん)
②共同通信社からの配信モニター原稿
の2種類があった。
面担(めんたん=紙面担当編集者)の権藤くんがもっていたのは、書き原のことだろう。
B5サイズの1行13字どり原稿用紙だったはず。
出稿部から書き原が来ると、整理は
➡︎原稿1枚目には出稿伝票がついているので、掲載日・面数・字どり・行間を確認し、仮見(仮見出し)をつける(新聞社のシステムによって多少異なるけど)
➡︎目を通しながら行数をかぞえる
➡︎メモ用紙に行数を控える
➡︎再度読み込み、見出しをつける
——と権藤面担は言っている。
だけど「ばかやろう」とは言葉づかいが悪い。

*原稿用紙
各新聞社が特注した原稿用紙は、だいたいB5サイズのわら半紙。
マス目は薄いグリーンやブルーで印刷され、ファクス送信に邪魔にならない色だったけど、ピンク色マス目の用紙も見た記憶がある(だけど、誰がカラーを決めていたのだろう。総務か、資材部だったのだろうか)。
必ずしも「1行13字」ではなく、1行15字どりで13字目に太いケイが引かれていたりもした。


❷途中で赤いサインペン……加えられていたり
青いサインペンで書き原に加筆・修正などの手を入れたのは出稿部デスク、
赤いサインペンは整理部デスクだろう。
出稿部デスクの修正は前後入れ替えや挿入、書き加えが多いので、かなり行数把握が難しい。
いちいち数え直している時間はないので、まぁ大体で……なのだ(面倒くさいときは、漢テレ入力後のモニターを見れば分かったはず)。

❸サインペンでトントントン……原稿をめくって
ここの描写は細かい。
作者・増田さんは短期間でも整理部勤務があったのだろう。
行数をかぞえるため、
①1行、2行、3行……と、原稿用紙をトントントンと行刻みに叩く傍若無人型整理
②コッコッコッの社内環境気くばり型の整理
③「…………」の完全消音型整理
がいる。
当然、僕は③完全消音型整理……だははははははははははははは。

———というわけで、続く。