降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★「北タイ物語」を読む (79)

2016年04月10日 | 新聞

(4月8日付の続きです。写真は本文と直接関係ありません)

小説新潮に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人がいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第79回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=北大中退後、北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ報道部記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


【 小説新潮2015年12月号=連載③ 366~367ページから 】
権藤さんが机の上に積んである藁半紙を一枚とった。一番上に〈北海タイムス見出し用紙〉と印刷されているその紙には大きな枡や小さな枡が縦横に印刷してあった。見出しのフォーマット❶のようだった。
そこにさらさらと黒のサインペンで文字を書き、赤のサインペンで〈6M〉〈4G〉などと指定❷している。
数字が倍数サイズ、MやGは明朝とゴチックの略だろうか。

( 中略 )
「おい、権藤。一本ぐらい見出しつけさせてやれ」
三十分くらい経ったころ、萬田さんが倍尺で作業しながら❸言った。
「まだ早いです」
「いいからひとつくらいつけさせてやれ」
萬田さんが語気を強めた。
権藤さんが舌打ちをし、生原稿を僕の机に投げた。
「これ、ベタだ」



❶見出しのフォーマット
小説の時代設定は、1990(平成2)年4月中旬。
初期CTSの一時期、見出し用紙に
「主」「柱」「袖」「天」「地」
などと印刷されていた(⬅︎各新聞社の制作システムによって違います)。
見出し伝票を受け取った制作局でそれぞれのファンクションを打ち、字句を入力するシステムだったけど、
あまり天地アキのバランスがよくない見出しになってしまった。
結局、僕たち整理が大組み画面(LDT=レイアウト・ディスプレー・ターミナル)を校正モードにしてU単位で微調整するので、いつの間にか「主」などの印刷がなくなった。

*U(ユー)単位
UはCTS(コンピューター組み版・編集)で使う単位。ユニットの略。
1Uは11ミルスなので、1倍=8U=88ミルス。
LDTから校正モードに切り替えて、見出し文字をツカんで上げ下げするのだけど、けっこう面倒くさい。


❷〈6M〉〈4G〉などと指定
整理部の人なら、
「あ、ロクヨン4段見出しだね」
と思うはず。
ただ、4Gはかなり強いので指定しにくい感じなのだ。

*ロクヨン/ゴチック
横山秀夫さんの名作『64/ロクヨン』(文春文庫=2016年5月映画化公開)とは何の関係もございませんwww。
また、文中「ゴチック」は「記者ハンドブック/新聞用字用語集13版」外来語・片仮名語用例集では「ゴシック」に統一しましょう——と言っているけど、著作物なのでこのまま行ってください。


❸萬田さんが倍尺で作業しながら
「萬田さん」は萬田恭介、北海タイムス編集局次長兼整理部長(45)。青山学院大英米科卒。
七三に分けた髪形、黄色い色レンズが入ったティアドロップ型眼鏡をかけているためか、小説主人公の野々村くんは
「キザな男」
と第一印象を受けた。
「倍尺で作業しながら」は夕刊フロント1面を(新人の松田くんに指導しながら)割り付けしているのだろう。
当時の北海タイムス紙の夕刊降版時間は午後1時30分ぐらいのはずなので、急げ萬田さん、松田くん!

———というわけで、続く。