降版時間だ!原稿を早goo!

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★てんこ盛り過ぎな乱歩賞受賞作❷

2014年08月13日 | 新聞/小説

【きのう8月12日付の続きです】
第60回江戸川乱歩賞受賞作『闇に香る嘘』(下村敦史さん(33)講談社、本体1,550円=写真右)を読んだ。
(邪魔にならない程度のあらすじは、きのう12日付みてね)

今野敏(58)選考委員が絶賛している。
「完璧なミステリーを構築している。
多くの布石があり、それをすべて拾っている。」(巻末選評から引用しました)
完璧なミステリーとなっ!

プロの作家だったら絶対に設定しないであろう、69歳の全盲者が主人公というのが凄い。
謎の手紙の暗号解読(←詳しくは書けません)、
終戦直後の満州から、現代の東京・岩手・北海道までの、時空を超えた謎と疑惑、
そして様々に張り巡らされた伏線と仕掛けが、終章で一気に反転するという
「えっ!まさか!そんなっ!」
という巧みな構成。

「完璧なミステリー」に加えて、下記の要素も盛り込まれているから、
▽てんこ盛り過ぎではないだろーか。
▽デビュー作からエンジン全開で息切れしないだろーか(←余計なお世話)
と、あまりの濃厚な一作を読み疲れて心配してしまった。

てんこ盛り過ぎではないだろーか・その❶=家族の絆
主人公・村上和久(69)が〝兄〟の疑惑を探るなかで書き込まれている、老いた母の過去、娘との確執、孫の病気...........これだけでも社会問題や高齢者福祉を考えちゃって、重たい重たい重たい。

てんこ盛り過ぎではないだろーか・その❷=戦争の悲惨さ・極限の人間
半島からの引揚者手記など、けっこう読んだけど、
この作品に出てきた避難行描写には絶句した。
地獄絵図.......ここまで書き込める作者はいったいいくつだろう、と思ったら、
1981年生まれの33歳だった。

てんこ盛り過ぎではないだろーか・その❸=視覚障がい者の生活
ディティールを徹底的に書き込んであるので、失明した人にとって、なにげない日常が
「こんなに恐怖なのか.......」
と痛感した。


これだけ読めて、1,674円(税込み)は安過ぎる、と思う。
さらに、乱歩賞「選評」も、各選考委員の個性が出ていて結構たのしめたし。