Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「バレリーナの小さな恋」ロルナ・ヒル著(長谷川たかこ訳)ポプラ社

2007-09-15 | 児童書・ヤングアダルト
「バレリーナの小さな恋」ロルナ・ヒル著(長谷川たかこ訳)ポプラ社を読みました。
「ピンクのバレエシューズ」の続編。憧れのパリ・オペラ座のバレエ学校に入学したイレーヌ。彼女はサン・クルーの丘にあるクレパンさんの家に、オペラ座の先輩ステラ、画家ジョナサンと下宿しています。イレーヌはライバルたちがひしめくなか、異例の早さでバレエ団の正団員となるのですが・・・。

前作よりバレエ度が高くて面白かったです。
いじわるにも負けずひたむきにバレエにとりくむイレーヌの姿がさわやか。
いつかは大舞台でセバスチアンとイレーヌが共演するのかな・・・。

「狭くて小さいたのしい家」永江朗・アトリエワン著(原書房)

2007-09-14 | エッセイ・実用書・その他
「狭くて小さいたのしい家」永江朗・アトリエワン著(原書房)を読みました。
いま首都圏では、建築家の設計による敷地面積25坪ほどの小さな家が急増中。「小さくても自分の好きな街に好きなデザインの家で住みたい」と考えた永江家。
建築家アトリエ・ワンへの依頼から完成まで、施主、建築家、職人、みんなが一丸となってくりひろげた様子をつづった家づくりドキュメントです。

地下室に50mの長さの本棚・・・家=職場だから仕事道具とはいえ、うらやましい間取り。
最近デザイン住宅ばやりですが、狭い敷地だとまず土地の環境(土地の形や建築条件、周囲の環境)によってほぼ外形が決まり、中に置きたい大きな家具(ピアノやクローゼットやベッド)によって内部の住み方もほぼ決まるのだということを知りました。
まだ家を買う予定などありませんが、家づくりをちょっとのぞけたみたいで面白かったです。専門的な部分は飛ばし読み。


「穴堀り公爵」ミック・ジャクソン著(小山太一訳)新潮社

2007-09-12 | 外国の作家
「穴堀り公爵」ミック・ジャクソン著(小山太一訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
広大な邸宅に独居する老いたイギリス人公爵。彼は突然何かに駆り立てられて、敷地内の地下に巨大なトンネルを掘り巡らせます。体の不調と老いに怯える公爵はトンネルをめぐり、幼い頃親に手を引かれ海辺で見た光景の謎に突き当たります。
この小説は公爵の日記の形をとっており、ところどころに使用人の談話や隣人の目撃証言が挿入されています。
十九世紀に実在した第5代ポートランド公をモデルに、奔放な想像力で描かれた作品。本書が著者のデビュー作ですが、ブッカー賞の最終候補となりました。

著者のミック・ジャクソン(本名マイケル・ジャクソン!)は映画製作者なだけあり、映像的でとても美しい場面がはしばしにあります。真っ暗な洞窟の中で光る水晶が星空に見える場面なんて、とても好きです。(「天空の城ラピュタ」の映画の一場面を連想・・・)ほかにも公爵がスケートをする場面や、スコットランドで迷子になる場面なども好き。

若き日の恋にもやぶれ、孤独な老境をむかえている公爵。好きなことをして過ごしているけれど、その時間を分かち合える家族はいない・・・。
そして自分の身体が衰えていくことに対する疑問と、身体への好奇心の高まり。
始めは大人がお金を使って子供のような遊びをしている、という印象だった公爵。読み進めるうちにだんだんそれが常軌を逸したものになるのが怖い・・・。



「点子ちゃんとアントン」ケストナー著(池田香代子訳)岩波書店

2007-09-11 | 児童書・ヤングアダルト
「点子ちゃんとアントン」エーリヒ・ケストナー著(池田香代子訳)岩波書店を読みました。
お金持ちの両親の目を盗んで、夜おそく街角でマッチ売りをするおちゃめな点子ちゃんと、おかあさん思いの貧しいアントン少年。
それぞれ悩みをかかえながら、大人たちと鋭く対決します。
一章を終えるごとにケストナー自身の人生に対する考え方が優しい文章でさしはさまれています。2000年に新訳で再登場。
それぞれに問題を抱えた大人たちの社会の中で、点子ちゃんのユーモアとアントンのまっすぐさが光っています。




「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ著(古屋美登里訳)早川書房

2007-09-10 | 外国の作家
「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ著(古屋美登里訳)早川書房を読みました。
タイを舞台に綴られた7篇、タイ系アメリカ人の作者のデビュー短篇集です。
表題作は失明間近の母と美しい海辺のリゾートへ旅行にでかけた青年の話。
ほかに11歳の少年が、いかがわしい酒場で大人への苦い一歩を経験する「カフェ・ラブリーで」。
息子の住むタイで晩年を過ごすことになった老アメリカ人の孤独「こんなところで死にたくない」など。

友人とその命運を分かつ「徴兵の日」は印象的でした。
ウィチュがぼくに「大丈夫か?」と聞く場面、双方の心の痛みが伝わってくるようでした。
また闘鶏に負け続け、家庭を崩壊に追い込む父を見守る娘を描いた「闘鶏師」もすばらしい作品。残虐な土地の有力者の暴力にあらがえない自分たち。
「世の中は怖い、でも俺は流されたくない」と語る父の言葉が響きます。

どの短編も人生のもの哀しい断片が描かれた名作ぞろい。はずれナシです。

「マジック・フォー・ビギナーズ」ケリー・リンク著(柴田元幸訳)早川書房

2007-09-07 | 柴田元幸
「マジック・フォー・ビギナーズ」ケリー・リンク著(柴田元幸訳)早川書房を読みました。
ファンタジー、民話風、SFなどいろいろな味わいの9作品を集めた短編集です。

表題作の主人公はアメリカ東海岸に住む15歳の少年・ジェレミー・マーズ。
彼は毎回キャストが変わり放送局も変わる、予測不可能の海賊テレビ番組「図書館」の大ファンです。
彼の母親は大おばからラスベガスのウェディングチャペルと電話ボックスを相続するのですが、その電話ボックスに電話をかけていたジェレミーは、ある晩、耳慣れた声を聞きます。それは「図書館」の主要キャラ・フォックスの声でした。
番組内で絶体絶命の窮地に立たされている彼女は、ある頼みごとを彼に託します。フォックスは画面中の人物のはずなのに、いったい何故?
ジェレミーはフォックスを救うため、自分の電話ボックスを探す旅に出ます。

ほかにも国一つが、まるごとしまい込まれているハンドバッグを持っている祖母と、そのバッグのなかに消えてしまった幼なじみを探す少女を描いたファンタジー「妖精のハンドバッグ」。
なにかに取り憑かれた家を買ってしまった一家を描いた「石の動物」などが収められています。

どれも奇妙で面白い話ばかりなのですが、私が特に好きなのは「猫の皮」。
敵対する魔法使いの陰謀によって死んだ魔女。残された魔女の子供は猫の皮をかぶり、賢い猫と一緒に復讐に挑みます。「長靴を履いた猫」のような民話仕立ての話運びが面白い。でももちろんラストはペローの童話のように大団円とはいきません、これは読んでのお楽しみ。

ほかにもゾンビに品物を売りつけようとするコンビニなど、ケリー・リンクは発想がとにかく普通じゃない!日々どうやって作品の着想を得ているのかが気になります。

「ある秘密」フィリップ・グランベール著(野崎歓訳)新潮社

2007-09-05 | 外国の作家
「ある秘密」フィリップ・グランベール著(野崎歓訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
一人っ子で病弱な「ぼく」は、想像上の理想の兄を作って遊んでいました。
しかしある日「ぼく」はかつて本当の兄が存在していた形跡を見つけます。
そして次第に明らかになる禁断の恋と懊悩、ユダヤ人迫害の時代とホロコースト。1950年代のパリを舞台にした自伝的長篇小説です。

両親の語らない過去。教科書で見た「ナチスドイツの所業」がリアルにたちあがってくる瞬間。両親にもかつて若かった時があり、そしてそれが戦争とまともにぶつかった時代だった・・・。
自分が戦争加害者ではないのに、その時代を自分が生き抜いたことで、死んだ者たちに対してどこか罪悪感を感じる、助けられたんじゃないかという負い目を感じる・・・戦争は戦いが終わってからも各人の心に傷がつづく、本当にむごい出来事なのだと実感します。

この作品はフランスでは権威のあるゴンクール賞として高校生が選んだ作品です。こんな作品を選ぶなんて、フランスの高校生はすごいな~。
たとえば日本の高校生が第二次世界大戦時の日本を舞台にした同じような作品があったら、選ぶだろうか?と思うと、疑問を感じます。
高校生だったらもっと現代を舞台にした作品を選ぶような気がするので。
フランスと日本の感覚の違いをちょっと感じました。

「ピンクのバレエシューズ」ロルナ・ヒル著(長谷川たかこ訳)ポプラ社

2007-09-04 | 児童書・ヤングアダルト
「ピンクのバレエシューズ」ロルナ・ヒル著(長谷川たかこ訳)ポプラ社を読みました。
イレーヌは、バレリーナになることを夢見てレッスンにはげむ少女。ところが両親が亡くなり、田舎に住むおじさん一家のもとに預けられることになります。それでも夢をあきらめず、たったひとりでレッスンを始めるイレーヌ。
いじわるないとこのアンリエット、その妹で、イレーヌと仲良くなるカロリーヌ、イレーヌにはまたいとこにあたるセバスチアンなどさまざまな人をからめながらイレーヌは成長していきます。
バレエを基にしたシンデレラストーリー。孤児になったにもかかわらずけなげにがんばるイレーヌを応援したくなります。読後感はとてもさわやか。
そして話は続編「バレリーナの小さな恋」につづく!

「最後の晩餐の作り方」ジョン・ランチェスター著(小梨直訳)新潮社

2007-09-03 | 外国の作家
「最後の晩餐の作り方」ジョン・ランチェスター著(小梨直訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
主人公はイギリス人のタークィン・ウィノット。彼はフランスびいきの食通で、第二の故郷であるプロヴァンスへとひとり旅をしている最中です。
その途中に滞在したホテルや立ち寄ったレストランでの食事の模様を語りながらの、四季折々・世界各国の料理や文学、歴史に関するレシピやうんちく。
語られるレシピはブリニのサワークリームとキャヴィア添え、仔羊のロースト、桃の赤ワイン漬けといかにもおいしそう。
そしてそこにさしはさまれるタークインの家族や思い出の挿話。
しかしその思い出話をたどるうちに、主人公に近しい人物たちの死が明らかになっていきます。

主人公はまさにまさに博覧強記。皮肉めいた独特の批評眼は面白いのですが、歴史や哲学に関するうんちくは正直難しくてよくわかりませんでした・・・。
エッセイのような文章を楽しく読んでいるうちに、主人公の歪んだ人生哲学が顔を出します。


「真鶴」川上弘美著(文藝春秋)

2007-09-03 | 日本の作家
「真鶴」川上弘美著(文藝春秋)を読みました。
失踪した夫・礼を思いつつ、恋人の青茲(せいじ)と付き合う京(けい)。
京は礼の日記に「真鶴」という文字を見つけます。
“ついてくるもの”にひかれて京は「真鶴」へ向かいます。

土地につく幽霊のような、もうひとりの自分のような、不思議な女性に導かれて歩く真鶴。
私は実家が東海道線沿線なこともあり、真鶴も何度か降りたことがあるのですが、海のそばのひなびた町、メジャーな土地(熱海・湯河原)からちょっと外れているという土地の性格が物語の発想になったのかもなーと思いました。
「大磯」の海岸も雰囲気がいいけど、ロングビーチのイメージが強いしね。

作品については、正直読んでいるうちにだんだん一人称の女性語りに飽きてしまったのでした。ちょっと長すぎる気がしました。京の内面の対話の話で大きなストーリー展開もないし。
こんな感想だけでごめんなさい・・・。