Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ著(古屋美登里訳)早川書房

2007-09-10 | 外国の作家
「観光」ラッタウット・ラープチャルーンサップ著(古屋美登里訳)早川書房を読みました。
タイを舞台に綴られた7篇、タイ系アメリカ人の作者のデビュー短篇集です。
表題作は失明間近の母と美しい海辺のリゾートへ旅行にでかけた青年の話。
ほかに11歳の少年が、いかがわしい酒場で大人への苦い一歩を経験する「カフェ・ラブリーで」。
息子の住むタイで晩年を過ごすことになった老アメリカ人の孤独「こんなところで死にたくない」など。

友人とその命運を分かつ「徴兵の日」は印象的でした。
ウィチュがぼくに「大丈夫か?」と聞く場面、双方の心の痛みが伝わってくるようでした。
また闘鶏に負け続け、家庭を崩壊に追い込む父を見守る娘を描いた「闘鶏師」もすばらしい作品。残虐な土地の有力者の暴力にあらがえない自分たち。
「世の中は怖い、でも俺は流されたくない」と語る父の言葉が響きます。

どの短編も人生のもの哀しい断片が描かれた名作ぞろい。はずれナシです。

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