Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ある秘密」フィリップ・グランベール著(野崎歓訳)新潮社

2007-09-05 | 外国の作家
「ある秘密」フィリップ・グランベール著(野崎歓訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
一人っ子で病弱な「ぼく」は、想像上の理想の兄を作って遊んでいました。
しかしある日「ぼく」はかつて本当の兄が存在していた形跡を見つけます。
そして次第に明らかになる禁断の恋と懊悩、ユダヤ人迫害の時代とホロコースト。1950年代のパリを舞台にした自伝的長篇小説です。

両親の語らない過去。教科書で見た「ナチスドイツの所業」がリアルにたちあがってくる瞬間。両親にもかつて若かった時があり、そしてそれが戦争とまともにぶつかった時代だった・・・。
自分が戦争加害者ではないのに、その時代を自分が生き抜いたことで、死んだ者たちに対してどこか罪悪感を感じる、助けられたんじゃないかという負い目を感じる・・・戦争は戦いが終わってからも各人の心に傷がつづく、本当にむごい出来事なのだと実感します。

この作品はフランスでは権威のあるゴンクール賞として高校生が選んだ作品です。こんな作品を選ぶなんて、フランスの高校生はすごいな~。
たとえば日本の高校生が第二次世界大戦時の日本を舞台にした同じような作品があったら、選ぶだろうか?と思うと、疑問を感じます。
高校生だったらもっと現代を舞台にした作品を選ぶような気がするので。
フランスと日本の感覚の違いをちょっと感じました。

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2 コメント

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おひさしぶりです (sibaccio)
2007-09-17 01:00:09
『ある秘密』読みました。

大学時代に受けたフランス史の講義を思い出しました。

今でこそ、ヴィシー政権ドイツ軍占領に関する書物は本国で多く出版されているそうですが、フランスにとって1940-1944は、やはり目を背けたい屈辱と陰鬱の時代のようです。

小説はまず、「ある秘密」の探求によって語り手が大人へ成長する話だと思うのですが、どうしても、ある家族のある時代のイストワール(histoire;歴史、物語)という側面に目が入ってしまいました。

ユダヤ人迫害といえばナチスの残虐行為が思い浮かびますが、この物語の背景にあるのはやはり、フランスに根深く残る反ユダヤの価値観であることは言うまでもないと思います。率先してホロコーストを行ったわけではないけれど、それを黙認し、ときには協力した事実が、フランス史に厳然と刻まれている。

そんな重苦しい前提があるにも関わらず、等身大の視点で、淡々と少しファンタジックに語ることで、悲惨な事実を身近に引き寄せる、怖い小説でした。

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お久しぶりです (Straighttravel)
2007-09-18 22:09:38
コメントありがとうございます!

私たちにとって第二次世界大戦は祖父母の時代、ある程度は過去の歴史ですが、この物語の作者にとっては親の時代の出来事ですから、自分にも切実にかかわってくる、「戦争は過去のこと」と割り切れない出来事なのだろうなあ、と読んだとき感じました。

戦争の悲惨さを表現した出版物もいろいろありますが、この作品ではむしろ親や親戚たちも戦争のこと、亡くなった家族のことを口に出さないという事実が逆に家族の傷の重さを強く感じさせました。

この作品が興味深かったので、同じく「リセが選ぶゴンクール賞」をとった「碁を打つ女」も今度読んでみようかなと思ってます。
日本でも「高校生が選ぶ芥川賞」とかあると面白いですよね。
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