Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「エマ(上・下)」ジェーン・オースティン著(工藤政司訳)岩波書店

2007-05-15 | 外国の作家
「エマ(上・下)」ジェーン・オースティン著(工藤政司訳)岩波書店を読みました。
土地の名家に生まれ、美しく聡明で裕福、あらゆる資質にめぐまれた21歳のエマ。ハイベリーに女王のように君臨する彼女が、自分を敬慕する若い女友達ハリエットの縁結びに乗り出します。
ハンサムなフランク・チャーチル、エルトン夫妻やジェーン・フェアファックスも巻き込み、ハイベリーの人間模様は複雑さを帯びていきます。
のどかに流れる村の日常とともに、あやまちや失敗を越えて微妙な変化を見せるエマの心理が描きだされています。

オースティンの作品はほかに「高慢と偏見」しか読んだことはないのですが、舞台がイギリスの田舎、内容は主人公を含め周囲の女性たちの恋物語ということで、雰囲気が似ています。
元気で賢い主人公エマ、内気だけどやさしいハリエット、なにかと押し付けがましいミセス・エルトン、人当たりはいいけれど考えの足りないフランク・チャールズ、父親のミスター・ウッドハウスがなにかというと健康を口にするのはこっけいで面白かったし、みんなどこかにいるようなキャラクターです。
でも聡明で度量の大きい年上の男性ミスター・ナイトリーだけは、なかなかいない人物かな。

しかし最後まで読んでも残念ながらエマ、好きになれませんでした。
身分の違いにがちがちにこだわり、人間性を見ないで「身分が低い」というだけであっさりと人を軽蔑するのは時代だから仕方がないのかな。
自分の思い込みでミス・スミスの恋をひきさき、誤った相手にけしかけ、あげくに傷つけ、本当に可哀想。ハリエットは相手の使った包帯の切れ端もとっておくような内気な女の子なのに。
最後は結局ロバートと結婚したけど、なんか作者が無理やりハッピーエンドにさせるためだったような気がする。エマとかかわることによって「身分の違い」や「向上心」をことあるごとに吹き込まれたハリエットがすんなり元の鞘に納まるっていうのも考えにくいもの。

エマはまわりの人をたくさん傷つけて「悪いことをした」って思っているけど、自分の胸の痛みの問題だけで、実際はなにも失ったものはない。
結局エマがどんなわがままをしてもは「前から好きだったんだよ」ということで非の打ち所のないミスター・ナイトリーの愛まであっさり手に入れて、なんだか腹たつなー。
作者はエマを「私以外は誰も好きにならないような女」だと評したといいます。
その言葉は逆説として言ったのかもしれないけれど、私は実際、好きになれなかったです・・・。