Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「アムステルダム」イアン・マキューアン著(小山太一訳)新潮社

2007-05-04 | 外国の作家
「アムステルダム」イアン・マキューアン著(小山太一訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
冒頭はプレイガールのモリー・レインの葬儀の場面。
彼女は謎の退行性の病気がもとで40代にして痴呆状態になり亡くなります。
葬儀には著名な作曲家のクライヴ、高級紙の編集長ヴァーノン、外務大臣のガーモニーなど彼女の元恋人たちが集まりました。
クライヴとヴァーノンは万が一彼ら2人のうちどちらかがモリーのような病にかかったときには、お互いを死なせてやる安楽死協定を結びます。
やがてガーモニーのスキャンダラスな写真がヴァーノンの新聞社の手に渡り3人の男たちの運命が変わっていきます。
本作は98年度のブッカー賞を受賞しました。

読後まっさきに思ったのはこれはコメディーだということ。
特に最後の場面はマキューアン、明らかに面白がってるなと思いました。
死んだ女性モリーの影にふりまわされる男たち。
右翼的な男ガーモニーのスキャンダラス写真も面白い。
「高遠な目的」を掲げるヴァーノン(腐敗政治を止める!)、クライブ(崇高な音楽をつくる!)の方が、実はたいした手腕がないというのが面白い。
湖水地方でのクライブのしらんぷり事件は、マキューアンが創作に携わる人間へのカリカチュアとして描いたように思いました。
警察の面通しの場面、笑った。
そしてしらんぷりまでして仕上げた作品の出来は?

でもなんだか訳者や評論家は「人生の悲惨さ」や「不完全な善人たちの・・・」といった難しい言葉があったのですが、この作品って基本はコメディーではないのかな?
さまざまな人生の暗い要素は含まれているけれど、マキューアンはむしろそれを喜劇的に書いていると思うのですが。・・・私の読みが浅いのかしら?