Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ラピスラズリ」山尾悠子著(国書刊行会)

2007-05-11 | 日本の作家
「ラピスラズリ」山尾悠子著(国書刊行会)を読みました。
銅版、閑日、竈の秋、トビアス、青金石のイメージが綴る連作長編集。
初めの場面は画廊。不思議な偏執的な熱心さで書き込まれた銅版画。
二篇目からはその絵の内容ともいうべき物語が繰り広げられます。
幾多もの人形、眠る人々。長い冬。
美しくて恐ろしい幻想の物語です。


「夏への扉」ロバート・A・ハインライン著(福島正実訳)早川書房

2007-05-11 | 外国の作家
「夏への扉」ロバート・A・ハインライン著(福島正実訳)早川書房を読みました。
1970年12月、コネチカット州の古ぼけた農家に住んでいたディヴィス。
彼の飼い猫ピートは、いつも冬になると、夏への扉を探す。
外に通じるドアが十一もあるこの家のドアのどれかが、夏に通じていると信じ込んでいるのだ。
そして、ディヴィス自身も夏への扉を探していました。
婚約者のベルに裏切られ、同僚のマイルズにはだまされ、大切な発明さえも騙しとられた彼の心は真冬。
そんなとき、ディヴィスの目が「冷凍睡眠保険」に吸い寄せられます。
ディヴィスは猫のピートと共に、30年後に蘇る冷凍睡眠を申し込もうとします。
そして、2000年の12月に…。
アメリカSF界最大の巨匠の最高傑作といわれる作品です。

初版は1957年。(日本語初版は1979年)。
その当時はきっと未来はひょっとしてこんな風になるのかもしれない、とその想像力も含めて画期的な作品として受け入れられたのだと思いますが、実際に2000年を過ぎた現在の私が読むと「う~ん、科学の進歩はそんなに輝かしい面ばかりじゃない・・・」と思ってしまいました。
「この世の真理がどうであろうと、ぼくは現在をこよなく愛しているし、ぼくの夏への扉はもう見つかった。未来は、いずれにしろ過去に優る。誰がなんといおうと、世界は日に日に良くなりまさりつつあるのだ。人間精神が、その環境に順応して徐々に環境に働きかけ、両手で、器械で、勘で、科学と技術で、新しい、よりよい世界をきずいてゆくのだ。」
現代に生きる私が読むと、「明るい希望」というよりはちょっとアイロニックにも聞こえます。時代とともに作品の読まれ方も変わりますね。
ロボットや冷凍睡眠など目新しい技術を駆使しし、過去を見つめ未来の幸せに近づこうとする姿、この作品自体が1957年当時の空気を伝えるタイムマシーンのような存在だと思いました。