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対談集『21世紀への対話』に学ぶ㊤

2020年08月30日 | 妙法

人間主義の哲学の視座〉 第2回 対談集『21世紀への対話』に学ぶ㊤ 〈人間主義の哲学の〉  2020年8月30日

  • テーマ 利他

 危機の時代に求められる哲理を、池田先生の著作から学ぶ「人間主義の哲学の視座」。第2回は、20世紀最大の歴史家であるイギリスのアーノルド・J・トインビー博士との対談集『21世紀への対話』をひもとく。前回(8月15日付、ロートブラット博士との対談集)に引き続き、「利他」をテーマに学ぶ。
 

 

対談の最終日に、近くのホーランド公園を散策する池田先生とトインビー博士(1972年5月9日)
対談の最終日に、近くのホーランド公園を散策する池田先生とトインビー博士(1972年5月9日)
 
【池田先生】利己性や欲望を克服するためには どうしても宗教が必要になってくる
 
かくせんそうと「成長のげんかい

 池田先生とトインビー博士の対談がロンドンの博士の自宅で行われたのは、1972年と73年。語らいは延べ10日間、計40時間にも及んだ。
 当時、ベトナム戦争は泥沼化の様相を呈し、人類は依然、東西両陣営による核戦争の危機にさらされていた。
 人口増加と経済成長による地球環境の汚染と破壊も深刻の度を増し、72年に発刊されたローマクラブのリポート『成長の限界』では、100年以内に地球が成長の限界に達するとの予測が示され、世界に衝撃を与えていた。
 多くの識者が悲観的な人類絶滅論を唱える中で、二人は人類が自らの選択で未来を切り開く可能性に言及する。
 
 
 トインビー 今日の状況はたしかに未曽有のものです。かつて人類は、人間の力ではどうにもならない自然の力によって、幾度か絶滅の脅威にさらされてきました。しかし、人類が、自分自身で行ったこと、ないしは行い損なったことによって、直接その未来が決せられることを知ったのは、今度が初めてなわけです。
 
 池田 今日の人類絶滅論が内包している終末観は、人間自身のもつ力に対する認識にかかわるものです。すでに現代人は、科学を武器として、地球全体さえ動かしかねない力をもっています。この力によって自分がつくった文明に裏切られ、まさにその文明によって死に追いつめられているという、想像だにしなかった事態に、現代人は当面しているわけです。
 かつての終末論には、自然災害によって物質的な貧困に追い込まれ、死に絶える、という思想がありました。ところが、現代の人類絶滅論は、人口や食糧の問題もありますが、それよりも、物質的な豊かさのなかに死に絶えていくのではないかという恐怖をはらんでいます。
 
 トインビー まさにおっしゃる通りです。しかしながら、人類の生存を脅かしている現代の諸悪に対して、われわれは敗北主義的あるいは受動的であってはならず、また超然と無関心を決めこんでいてもなりません。
 これらの諸悪が、もしも人間に制御できない力から生じたものであったなら、たしかに現代の人間に残された道は、諦観や屈服だけしかないかもしれません。しかし、現代の諸悪は人間自身が招いたものであり、したがって、人間が自ら克服しなければならないものなのです。

 
 
 発刊から45年となる対談集『21世紀への対話』は、これまで29言語で出版され、世界で広く読み継がれている。
 なぜ世界の知性が、この対談集にヒントを求めるのか。
 その一つに、危機と人類について、根源的かつ普遍的な次元から、議論を交わしていることが挙げられる。
 

 

イギリス・ロンドンにある自宅の書斎で机に向かうトインビー博士
イギリス・ロンドンにある自宅の書斎で机に向かうトインビー博士
 
文明それ自体のてんかん

 トインビー博士から対談を要請するエアメールが届いたのは、69年秋。
 「現在、人類が直面している諸問題に関して、二人で有意義に意見交換できれば幸いです」「私たちの対話が実現すれば、英日両国のみならず、人類全体の未来に、きっと恩恵をもたらすものとなるでしょう」
 この69年、博士は4月に満80歳の誕生日を迎えるとともに『回想録』を出版。その中で、生ある限り、人類の未来に思いを馳せること、次の世代の運命に関わりを持つことが自身の責任であると強調している。そこに、生涯にわたる若さの源泉があるとも述べた。
 
 
 池田 もし人間が英知を働かせて全力を尽くすならば、私は、地球の汚染を進めてきた文明それ自体の本質的な転換も可能になるものと信じます。また核兵器を永久に使用しないですむ道も、必ずや開けるはずです。しかし、人間が英知を曇らせ、欲望とエゴイズムの虜となり、そこからくる空しさをいだき続けるかぎり、人類絶滅論を取り払うことはいつまでもできないでしょう。
 
 トインビー われわれが当面する人為的な諸悪は、人間の貪欲性と侵略性に起因するものであり、いずれも自己中心性から発するものです。したがって、これらの諸悪を退治する道は、自己中心性を克服していくなかに見いだせるはずです。
 経験の教えるところによれば、自己中心性の克服は、困難で苦痛をともなう課題です。しかし、同じく経験のうえからいえば、人類のなかにはすでにこの目標を達成した人々も何人かいるのです。もちろん、彼らも完全にはできませんでしたが、それでも彼ら自身の生き方を大きく変革しましたし、さらにそうした彼らの実例に啓発された人々の行動をも変革するに至っています。

 
 
 「文明はそれ自体の力だけではなく、高等宗教の力に頼ることによって初めて救われる」と結論するトインビー博士にとって、宗教は最重要の課題であった。人類の生存を深刻に脅かす諸悪と対決し、克服する力を大乗仏教に見いだし、それゆえ、急速に発展していた学会に、“生きた仏教”として深い関心を抱いていたのである。
 
 
 トインビー 今日の状況はたしかに危機的ですが、しかし私の信ずるところでは、われわれのもつ自由も、人為的な諸悪を退治するに足る、十分大きなものです。とはいっても、この自由も絶対的なものではありません。われわれは自らの宿命を向上させることはできても、宿命自体を捨て去ることはできないからです。
 
 池田 つまるところ、問題は人間が自分自身の宿命をいかに転換し、向上させていくかにあるわけです。これには、人間生命に内在する利己性や種々の欲望にどのように対処するか、ということが含まれるでしょう。このことからも、人類が生き延びるためには、科学とともに、どうしても宗教が必要であることが明らかになってくると思います。
 
 ◇ 
 
 池田 そして、その宗教とは、一人の人間生命は地球よりも重く、しかもこの生命の尊厳は、自然との調和によってはじめて維持できるという原理を、一人一人に実感させることができる宗教でなければならないと思います。
 
 トインビー その通りです。人類の生存に対する現代の脅威は、人間一人一人の心の中の革命的な変革によってのみ、取り除くことができるものです。そして、この心の変革も、困難な新しい理想を実践に移すに必要な意志の力を生み出すためには、どうしても宗教によって啓発されたものでなければならないのです。

 

 

対談者のプロフィル

 アーノルド・J・トインビー イギリスの歴史家。1889年4月14日、ロンドン生まれ。オックスフォード大学卒業。ロンドン大学教授、王立国際問題研究所研究部長などを歴任。西欧中心ではない独自の歴史観で文明の興亡の法則を体系化。「20世紀最大の歴史家」と称される。30年かけて書き上げた『歴史の研究』は不朽の名著として名高い。ほかに『試練に立つ文明』など著書多数。池田先生との対談は『21世紀への対話』(英語版タイトル『CHOOSE LIFE』〈生への選択〉)として発刊された。

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