ハープスターを管理する松田博資調教師はGI6勝牝馬ブエナビスタも管理していた。追い切りを見て「この馬はブエナ以上かもしれない」とコメントしている。
これほど桜花賞という感じのしない桜花賞も珍しい。なぜこんな妙な感覚になるのかというと、大本命というか、ほぼ確実に勝つであろう馬、いや、ここを勝たないとマズい馬が、「女王」というより、牡牝の枠を超越した「王者」になるかもしれないからだ。
その「ここを勝たないとマズい馬」とは、言わずと知れたハープスター(父ディープインパクト、栗東・松田博資厩舎)である。
まず、新潟2歳ステークスで3馬身切って捨てたイスラボニータが、牡馬クラシックの最有力候補の1頭となっている。そうした力の比較に加え、この馬自身、前走のチューリップ賞を、スムーズな競馬ができず鼻差の2着に惜敗した阪神ジュベナイルフィリーズの反省を生かして、大外から鋭く伸びて完勝。ダービーには向かわずオークスに出るとのことだが、その先に待つ大舞台――凱旋門賞への夢が大きくふくらむ走りを見せてくれた。長い直線で見せた伸びやかな末脚は、東京やロンシャンでさらに威力を増すことは間違いない。
祖母のベガと同じ、チューリップ賞でのパフォーマンス。
桜花賞トライアルで、クラシックディスタンスの大舞台での飛躍を期待させた――というところは、祖母のベガとまったく同じである。ベガも、チューリップ勝を楽勝したことにより、鞍上の武豊に、
――距離不足のマイルでこの走りなら、オークスはほぼ勝てるだろうな。
と確信させた。
ものすごく強い馬というのは、こんなふうに、何かを飛び越えた夢とか期待を周囲に抱かせる力を持っているようだ。あのベガにディープの血が入っているのだから、強いはずである。
本来なら、阪神ジュベナイルで負けたレッドリヴェールや、同世代の牡馬、前述のイスラボニータのほか、トーセンスターダムやトゥザワールド、ワンアンドオンリー、バンドワゴンらと比べるべきなのだろうが、私は、上の世代のキズナやジャスタウェイあたりと比べてもいい超大器だと思っている。
大外18番枠を引いたが、牝馬同士で枠がどうこうという次元の馬ではない。よほどひどい騎乗ミスかアクシデントでもない限り、ここでは負けないだろう。
ハープスターに唯一勝っているあの馬は?
ハープに食らいつく馬がいるとしたら、実際に負かしたレッドリヴェール(父ステイゴールド、栗東・須貝尚介厩舎)か、阪神ジュベナイルでこの2頭に次ぐ3着に来たフォーエバーモア(父ネオユニヴァース、美浦・鹿戸雄一厩舎)あたりか。
レッドは、阪神ジュベナイル以来4カ月ぶりの実戦となるが、420kg前後の華奢な体を見てもわかるように、元来、間隔を置いて使ったほうがいいタイプだ。さらに、須貝厩舎は、先日阪神大賞典を勝って復活したゴールドシップがそうだったように、久々の実戦でも力を出せるよう仕上げるのが上手い。
もしレッドが「無敗の桜花賞馬」になったら、今、私がハープスターに与えている評価を、そっくりそのままこの馬のそれと入れ替えようと思う。
高いレベルで安定しているフォーエバーモア。
フォーエバーモアは、過去4戦で敗れたのは阪神ジュベナイルだけ、それもタイム差なしの3着と、非常に高いレベルで安定している。鹿戸調教師が「ハープスターより前の位置取りで競馬をすることになると思う」と話しているように、ハープとヨーイドンの瞬発力勝負はせず、早めに動いて後続に脚を使わせる展開に持ち込もうとするだろう。
桜花賞を5勝している武豊が乗るベルカント(父サクラバクシンオー、栗東・角田晃一厩舎)は、前走のフィリーズレビューを、逃げずに好位につけて勝った。明らかにマイルは長いのだが、前走からさらに折り合いに進境が見られるようなら、上位食い込みもあるかもしれない。
ヌーヴォレコルト(父ハーツクライ、美浦・斎藤誠厩舎)は、チューリップ賞でハープに離されたが、しっかり2着を確保。前々で立ち回る器用さがあるだけに、大きく崩れることはないだろう。
穴っぽい馬を挙げるとしたら、4分の2の抽選をくぐり抜けたカウニスクッカ(父マンハッタンカフェ、美浦・尾形和幸厩舎)だ。GIというのは不思議で、競馬の神様がイタズラをしているのではと思うくらい、抽選で出走した馬が馬券にからむ。
そうした、勝負事に必要な運を持っているだけではなく、中山のマイルで行われた未勝利と菜の花賞の勝ちっぷりがよかったし、6着に敗れた前走のアネモネステークスは、ゲートを出てすぐ落鉄したので「なかったこと」にしていい。みなが後ろのハープを意識するあまり、それほどペースは速くないのに縦長の展開になったりしたら、気分よく先行したこの馬がきわどく残る、というシーンも十分あり得る。
一強のときに馬連を買いたい理由。
カウニスクッカを管理する尾形調教師は開業2年目。昨年、免許取得直後に開業し、秋にはカラダレジェンドで京王杯2歳ステークスを勝ち、重賞初制覇を遂げた気鋭である。「足が遅くて負けるのは仕方がない。でも、それ以外の理由、例えば、ゲートに入らないとか、ささってコントロールできずに負けるのは調教師の責任。そうしたマナーの悪い馬はつくらないようにしています」という言葉に見える、馬づくりに対する真っ直ぐな姿勢にも好感が持てる。
ここで結論。
◎ハープスター
○レッドリヴェール
▲フォーエバーモア
△ベルカント
△ヌーヴォレコルト
×カウニスクッカ
一強のときは、馬単と馬連のオッズにそう差はなくなるはずだから、馬連で買いたい。
【桜花賞】桜の女王はハープスター!衝撃のごぼう抜き
直線大外に持ち出されると、驚異的な末脚を繰り出したハープスター。断然の1番人気に応え、まず1つ目のGIを手中に収めた
13日の阪神11Rで行われた第74回桜花賞(3歳牝馬オープン、GI、芝1600メートル、18頭立て、1着賞金=8900万円、1~4着馬にオーク スの優先出走権)は、川田将雅騎手騎乗の1番人気ハープスター(栗東・松田博資厩舎)が最後方追走から大外一気に差し切って断然人気に応え、GIタイトル を手にした。タイムは1分33秒3(良)。
ヒヤリとさせても、最後はやはり力が違っていた。辛勝ではあっても、結果的にはその強さを際立たせたハープスターが大外から豪快に差し切って桜花賞を制覇。まず1つ目のGIを手中に収めた。
レースは伏兵フクノドリームが大逃げを打つ展開。ハイペースでぐんぐん飛ばして、後続を大きく突き放していく。2番手にコーリンベリー、ニホンピロアンバーなどが続き、断然人気のハープスターは最後方からのレース。直線に向いてもフクノドリームは大きなリードを保ったままで、逆にハープスターはまだ最後方だったことから、場内は騒然となる。しかし、直線に入ってエンジンがかかると、外から1完歩ごとに力強い伸び。ひと足先に抜け出した2歳女王レッドリヴェールを目標に、ゴール前でさらにギアを上げて、きっちりと差し切った。この勝利によって、ディープインパクト産駒は、初年度産駒のマルセリーナに始まり4年連続の桜花賞Vとなった。
クビ差2着が2番人気のレッドリヴェール。さらに3/4馬身差の3着が5番人気のヌーヴォレコルトで、4着のホウライアキコまでがオークス(5月25日、東京、GI、芝2400メートル)の優先権を獲得している。
ハープスターは、父ディープインパクト、母ヒストリックスター、母の父ファルブラヴという血統。北海道安平町・ノーザンファームの生産馬で、(有)キャロットファームの所有馬。通算成績は5戦4勝。重賞はGIII新潟2歳S(2013年)、GIIIチューリップ賞(14年)に次いで3勝目。松田博資調教師は93年ベガ、09年ブエナビスタ、11年マルセリーナに次いで桜花賞4勝目。川田将雅騎手は初勝利。
川田騎手は「ホッとしています。道中はいつも通りの位置で、リズムを取りながら心配なく乗っていました。リズム良く走ることと、追い出しのタイミングだけを考えていました。(フクノドリームの大逃げは)全く意識していなくて、この子が一番脚を使えるようにと。あんな位置から届いて、すばらしい脚を使ってくれました。さすがにGIということを馬も理解してくれたのか一生懸命走ってくれたし、2歳女王もさすがに強くて、あそこまで残られているので、届いてくれてよかったです。新馬からこんなにすばらしい馬を任せていただいたのに昨年は悔しい思いもさせてしまったので、無事にひとつGIを勝てたので本当にホッとしているし、ありがたく思っています。GI馬になれたし、牝馬の中では一番強いと思っているので、胸を張って次のレースに行けたらいいと思います」と早くもオークスでの2冠制覇を視界にとらえていた。