ニッセイ基礎研究所の所報Vol. 51(Autumn 2008)で吉本光宏さんが「再考、文化政策―拡大する役割と求められるパラダイムシフト」―支援・保護される芸術文化からアートを起点としたイノベーションへ―という論文を書いている。
これが非常にわかりやすく整理されていて、かつ、大変示唆に富む内容となっている。
吉本さんによると、いま、文化政策のあり方についてのパラダイム変換が起こりつつある。
それは、以下の3点で説明される。
1 文化政策の領域(ドメイン)の拡大
2 文化政策の担い手の変化:アートNPOと公益法人改革
3 産業政策、経済政策とのつながり
1の「文化政策の領域(ドメイン)の拡大」というのは、従来、文化政策とは芸術文化の振興や文化財の保護など、いわゆる文化の領域だけについて考えられてきたものが、他の政策領域ともつながるようになり、それがどんどん広がっていることを指す。
吉本氏は、最近、芸術という言葉ではなくアートという言葉が使われることが多くなってきていることを指摘し、アートという言葉が使われるときは従来の芸術文化よりも広い概念で使われており、なおかつ、「アート」という言葉には芸術文化の持つ社会的な効用が暗黙のうちに含まれている、と指摘している。
例えば、アートを活用した新しい教育の可能性を開く試みが各地のNPOと行政機関、企業との共同によって進められていたり、福祉、医療、環境、防災等々の領域につながるアート活動が増えていることが紹介される。その他、今後は、環境・外交・観光などの分野でのアートの活用も展望される。
2の「文化政策の担い手の変化:アートNPOと公益法人改革」では、近年、中間支援型アートNPOの活躍が多く見られるようになっていること(JCDN/芸術家と子どもたち/BankART 1929/急な坂スタジオ、など)、地域の課題にチャレンジするアートNPOが出てきていること(大阪で新世界アーツパーク事業を展開してきた4つのNPO、DanceBOX/remo/ビヨンドイノセンス/Cocoroomの事例など)、アートNPOを支え、後押しする企業メセナが活発に展開されていること(全国アートNPOフォーラム/アートNPOリンク/アサヒ・アートフェスティバル、など)、さらに、昨年12月から導入された新公益法人制度や寄付税制の改革、今後のベンチャー・フィランソロピーの成長などによって、NPOの活動とそれを支える活動基盤の整備が進むのではないかという期待があることなどから、文化政策の担い手が行政機関だけではなく、大きく広がっていく可能性が示される。
3の「産業政策、経済政策とのつながり」というのは、横浜金沢など日本各地の都市ですでに具体的な取り組みが始まっている創造都市政策、創造産業育成政策がまちづくりや産業育成の政策と従来の文化政策を連結させ、従来になかった広がりと厚みをもたらすだろう、ということである。
これらをまとめると、これまでの文化政策はいわば「狭義の文化政策」と言うことが出来、そこでの課題は、文化財の保護活用、伝統芸能の伝承発展、芸術文化の振興、行財政改革や指定管理者制度の文化政策に与える影響などであったのに対し、広義の文化政策における課題は、教育や福祉の充実、産業の活性化、地域の再生、などに広がってくることになる。
さらに吉本氏は、このような文化政策のパラダイム変換を前提として、文化政策の遂行にあたって求められることを以下のように整理している。
1 政策統合よりビジョンの共有
2 中心と周縁の循環構造
狭義の文化政策への投資を拡大し、広義の文化政策との間で循環を生み出すこと
3 アートを起点としたイノベーション
これらについては、長くなるので説明は略す。
論文全体がニッセイ基礎研究所のサイトからダウンロード出来るので、ぜひ、直接読んでみていただきたい。
→ ニッセイ基礎研究所>レポート> 2008年 Vol. 51
2 再考、文化政策-拡大する役割と求められるパラダイムシフト
-支援・保護される芸術文化からアートを起点としたイノベーションへ-
社会研究部門 芸術文化プロジェクト室長 吉本 光宏
前半部では文化政策に関わる各種の資料も充実しており、日本の現在の文化政策をめぐる状況が過不足なく概観できる。そのことだけでも大変重宝する内容だが、単にそれだけではなく、全体状況についての的確な構造分析と今後の具体的課題の指摘がなされており、これを読めば、いま何がどうなっていて、どのあたりが問題なのか、今後それらがどのように展開していくことが期待されるのか、などが非常に明快に、すっきりと理解できる。そして、ここに書かれていることに関する理解が前提にあれば、文化政策の理念、目的、展開手法、成果のイメージが非常にはっきり描き出せるはずだ。
特に、行政の文化政策担当者の方々には、ぜひとも熟読玩味していただきたい内容である。
これが非常にわかりやすく整理されていて、かつ、大変示唆に富む内容となっている。
吉本さんによると、いま、文化政策のあり方についてのパラダイム変換が起こりつつある。
それは、以下の3点で説明される。
1 文化政策の領域(ドメイン)の拡大
2 文化政策の担い手の変化:アートNPOと公益法人改革
3 産業政策、経済政策とのつながり
1の「文化政策の領域(ドメイン)の拡大」というのは、従来、文化政策とは芸術文化の振興や文化財の保護など、いわゆる文化の領域だけについて考えられてきたものが、他の政策領域ともつながるようになり、それがどんどん広がっていることを指す。
吉本氏は、最近、芸術という言葉ではなくアートという言葉が使われることが多くなってきていることを指摘し、アートという言葉が使われるときは従来の芸術文化よりも広い概念で使われており、なおかつ、「アート」という言葉には芸術文化の持つ社会的な効用が暗黙のうちに含まれている、と指摘している。
例えば、アートを活用した新しい教育の可能性を開く試みが各地のNPOと行政機関、企業との共同によって進められていたり、福祉、医療、環境、防災等々の領域につながるアート活動が増えていることが紹介される。その他、今後は、環境・外交・観光などの分野でのアートの活用も展望される。
2の「文化政策の担い手の変化:アートNPOと公益法人改革」では、近年、中間支援型アートNPOの活躍が多く見られるようになっていること(JCDN/芸術家と子どもたち/BankART 1929/急な坂スタジオ、など)、地域の課題にチャレンジするアートNPOが出てきていること(大阪で新世界アーツパーク事業を展開してきた4つのNPO、DanceBOX/remo/ビヨンドイノセンス/Cocoroomの事例など)、アートNPOを支え、後押しする企業メセナが活発に展開されていること(全国アートNPOフォーラム/アートNPOリンク/アサヒ・アートフェスティバル、など)、さらに、昨年12月から導入された新公益法人制度や寄付税制の改革、今後のベンチャー・フィランソロピーの成長などによって、NPOの活動とそれを支える活動基盤の整備が進むのではないかという期待があることなどから、文化政策の担い手が行政機関だけではなく、大きく広がっていく可能性が示される。
3の「産業政策、経済政策とのつながり」というのは、横浜金沢など日本各地の都市ですでに具体的な取り組みが始まっている創造都市政策、創造産業育成政策がまちづくりや産業育成の政策と従来の文化政策を連結させ、従来になかった広がりと厚みをもたらすだろう、ということである。
これらをまとめると、これまでの文化政策はいわば「狭義の文化政策」と言うことが出来、そこでの課題は、文化財の保護活用、伝統芸能の伝承発展、芸術文化の振興、行財政改革や指定管理者制度の文化政策に与える影響などであったのに対し、広義の文化政策における課題は、教育や福祉の充実、産業の活性化、地域の再生、などに広がってくることになる。
さらに吉本氏は、このような文化政策のパラダイム変換を前提として、文化政策の遂行にあたって求められることを以下のように整理している。
1 政策統合よりビジョンの共有
2 中心と周縁の循環構造
狭義の文化政策への投資を拡大し、広義の文化政策との間で循環を生み出すこと
3 アートを起点としたイノベーション
これらについては、長くなるので説明は略す。
論文全体がニッセイ基礎研究所のサイトからダウンロード出来るので、ぜひ、直接読んでみていただきたい。
→ ニッセイ基礎研究所>レポート> 2008年 Vol. 51
2 再考、文化政策-拡大する役割と求められるパラダイムシフト
-支援・保護される芸術文化からアートを起点としたイノベーションへ-
社会研究部門 芸術文化プロジェクト室長 吉本 光宏
前半部では文化政策に関わる各種の資料も充実しており、日本の現在の文化政策をめぐる状況が過不足なく概観できる。そのことだけでも大変重宝する内容だが、単にそれだけではなく、全体状況についての的確な構造分析と今後の具体的課題の指摘がなされており、これを読めば、いま何がどうなっていて、どのあたりが問題なのか、今後それらがどのように展開していくことが期待されるのか、などが非常に明快に、すっきりと理解できる。そして、ここに書かれていることに関する理解が前提にあれば、文化政策の理念、目的、展開手法、成果のイメージが非常にはっきり描き出せるはずだ。
特に、行政の文化政策担当者の方々には、ぜひとも熟読玩味していただきたい内容である。
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