昨日のブログ記事の続き。
坂本文武著「NPOの経営」の中に、東京・立川市やその周辺地域を活動エリアとするNPO法人「ケアセンターやわらぎ」(以下、やわらぎ)のことが紹介されている。
以下、同書から内容の一部を紹介する。
やわらぎは、高齢者や障害者など、在宅でケアを必要とする人と、ケアの担い手とを結びつけるサービスを提供するNPOである。NPO法人化されたのは2000年だが、活動自体は1987年からスタートしている。
サービスというのは目に見えないため、品質を測定したり伝えたりすることが難しい。
そこでやわらぎが取り組んだのは、「サービスを提供する体制全体で品質保証の認証を受ける」ため、訪問介護、訪問看護、デイサービス、ケアプランの4つのサービスで、品質保証の国際規格であるISO(国際標準化規格)9001の認証を受けることだった。
当時NPOとしてこの分野でISO9000シリーズの認証を取得したのは、全国で初めてだった。以後、介護業界では、やわらぎだけでなく、ISO9001を取得する団体が増えており、品質管理に対する意識の向上が見られるという。
ISO9001を取得するには、購入者(取引先、顧客)の要求にあった仕様の製品やサービスを安定して提供できるしくみをつくることが求められる。当然、企業と同じように、PDCAマネジメントサイクル(Plan 計画→Do 実施→Check 評価→Action 改善)をしっかり回す質の高い経営を実践できなければならない。
やわらぎでは、約半年かけて方針・規定をつくり、利用者の意見も聴取しながら、職員の研修を行い、2001年3月にISO9001を取得した。取得のために費用が550万円かかったというが、ISOの取得によりサービスの質が可視化され、利用者の信用が増すとともに、職員の心構えやスキルが目に見えて向上したという。
さて、上記の内容を読んで、思ったことが2つある。
ひとつは、介護分野ではなくても、ISO認証取得はNPOにとっての強力な経営資源になるだろうということ。
仮に、どこかのNPOがある特定の分野で他の団体(や行政機関や企業など)にない専門知識や経験や能力を持っているとしよう。しかし、それは可視化されない限り、世の中に評価されないし、当のNPOも本来果たしうる社会的な役割を果たすことができない。そして、可視化のためには、ISOの認証の基準に準拠し、特定の分野に要求される社会サービスについて質の高いサービスを安定的に供給する体制をつくる、という条件が満たされればよいとすれば、介護以外の分野、例えば、アートと学校教育を結びつけるというNPO活動についても、ISOの取得はかなり有効な経営資源になるはずだ。
ここから導かれることは、NPOは、どの分野の活動をしているのであれ、ISO認証の取得に向けて経営努力をすべきである、ということだ。そして、もし、行政機関や企業がNPOを支援しようと思ったならば、そのNPOがISO認証を取得するのにプラスになるような支援の仕方を積極的に取り入れるべきであろう。
私が特に強調しておきたいのは、そのことに着目することによって、ほとんどのNPOにおいてスタッフの職場労働環境の整備が不十分であるという現状を見直すきっかけになるのではないか、ということである。実際、低賃金、長時間労働、狭隘な職場スペース、保険や退職金制度などが整備されていない状況、などを放置したままでは、ISO認証など取得出来るわけがないのだから。
もしも、あるNPOが客観的に見て社会に必要とされるサービスを提供しており、そのサービスが質が高いものであれば(ここの見きわめは大切である)、ある程度それに応じた労働環境を整備することは組織経営それ自体にとって必要なことである。それに、そのことでNPOに優秀な人材が多く集まるようになり、社会全体としてサービスの厚みがどんどん増していく、という展開が予想されるのだから、これが実現すれば誰にとっても望ましい流れだと言えるだろう。
思ったことの2つ目は、この指標を、いわゆる政府(国、地方公共団体、特殊法人)系の外郭団体(財団等)にも適用して、さまざまな分野のNPOと経営能力を競わせてみたら面白いのではないか、ということである。
とかく税金の無駄遣いと批判される財団は、最初から内部のスタッフの労働環境は整っている。しかし、サービスの質を指標化して、外からその存在意義を問われることは(少なくとも今までのところは)あまりなかったと言ってよいだろう。
そこで、提供されるサービスの質と、そのサービスを生み出す組織の労働環境の整備状況をともに指標化して、同じ土俵で外郭団体とNPOを比較してみる。
そうすると、社会的資源を有効活用する方法が自ずと見えてくるような気がする。ひょっとすると、財団からNPOへという方向にアウトソーシングの動きが加速するかも知れない。「官から民へ」というキャッチフレーズの具現化にもつながる。
念のために付け加えておくと、私はここで、もっぱら政府系外郭団体への批判を主眼としてこのようなことを言っているわけではない。(具体的な事例について批判が必要な場合も当然あるだろうが、ここではそういう話をしているわけではない。)
そうではなくて、NPOに対して、よりよい(あるいは、よりましな)労働環境を提供するという社会政策的な課題が現に存在していることについて、今回ISOという指標について考えたのをきっかけに、なるべく多くの人の注意を喚起しておきたいと思った、というわけである。
坂本文武著「NPOの経営」の中に、東京・立川市やその周辺地域を活動エリアとするNPO法人「ケアセンターやわらぎ」(以下、やわらぎ)のことが紹介されている。
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以下、同書から内容の一部を紹介する。
やわらぎは、高齢者や障害者など、在宅でケアを必要とする人と、ケアの担い手とを結びつけるサービスを提供するNPOである。NPO法人化されたのは2000年だが、活動自体は1987年からスタートしている。
サービスというのは目に見えないため、品質を測定したり伝えたりすることが難しい。
そこでやわらぎが取り組んだのは、「サービスを提供する体制全体で品質保証の認証を受ける」ため、訪問介護、訪問看護、デイサービス、ケアプランの4つのサービスで、品質保証の国際規格であるISO(国際標準化規格)9001の認証を受けることだった。
当時NPOとしてこの分野でISO9000シリーズの認証を取得したのは、全国で初めてだった。以後、介護業界では、やわらぎだけでなく、ISO9001を取得する団体が増えており、品質管理に対する意識の向上が見られるという。
ISO9001を取得するには、購入者(取引先、顧客)の要求にあった仕様の製品やサービスを安定して提供できるしくみをつくることが求められる。当然、企業と同じように、PDCAマネジメントサイクル(Plan 計画→Do 実施→Check 評価→Action 改善)をしっかり回す質の高い経営を実践できなければならない。
やわらぎでは、約半年かけて方針・規定をつくり、利用者の意見も聴取しながら、職員の研修を行い、2001年3月にISO9001を取得した。取得のために費用が550万円かかったというが、ISOの取得によりサービスの質が可視化され、利用者の信用が増すとともに、職員の心構えやスキルが目に見えて向上したという。
さて、上記の内容を読んで、思ったことが2つある。
ひとつは、介護分野ではなくても、ISO認証取得はNPOにとっての強力な経営資源になるだろうということ。
仮に、どこかのNPOがある特定の分野で他の団体(や行政機関や企業など)にない専門知識や経験や能力を持っているとしよう。しかし、それは可視化されない限り、世の中に評価されないし、当のNPOも本来果たしうる社会的な役割を果たすことができない。そして、可視化のためには、ISOの認証の基準に準拠し、特定の分野に要求される社会サービスについて質の高いサービスを安定的に供給する体制をつくる、という条件が満たされればよいとすれば、介護以外の分野、例えば、アートと学校教育を結びつけるというNPO活動についても、ISOの取得はかなり有効な経営資源になるはずだ。
ここから導かれることは、NPOは、どの分野の活動をしているのであれ、ISO認証の取得に向けて経営努力をすべきである、ということだ。そして、もし、行政機関や企業がNPOを支援しようと思ったならば、そのNPOがISO認証を取得するのにプラスになるような支援の仕方を積極的に取り入れるべきであろう。
私が特に強調しておきたいのは、そのことに着目することによって、ほとんどのNPOにおいてスタッフの職場労働環境の整備が不十分であるという現状を見直すきっかけになるのではないか、ということである。実際、低賃金、長時間労働、狭隘な職場スペース、保険や退職金制度などが整備されていない状況、などを放置したままでは、ISO認証など取得出来るわけがないのだから。
もしも、あるNPOが客観的に見て社会に必要とされるサービスを提供しており、そのサービスが質が高いものであれば(ここの見きわめは大切である)、ある程度それに応じた労働環境を整備することは組織経営それ自体にとって必要なことである。それに、そのことでNPOに優秀な人材が多く集まるようになり、社会全体としてサービスの厚みがどんどん増していく、という展開が予想されるのだから、これが実現すれば誰にとっても望ましい流れだと言えるだろう。
思ったことの2つ目は、この指標を、いわゆる政府(国、地方公共団体、特殊法人)系の外郭団体(財団等)にも適用して、さまざまな分野のNPOと経営能力を競わせてみたら面白いのではないか、ということである。
とかく税金の無駄遣いと批判される財団は、最初から内部のスタッフの労働環境は整っている。しかし、サービスの質を指標化して、外からその存在意義を問われることは(少なくとも今までのところは)あまりなかったと言ってよいだろう。
そこで、提供されるサービスの質と、そのサービスを生み出す組織の労働環境の整備状況をともに指標化して、同じ土俵で外郭団体とNPOを比較してみる。
そうすると、社会的資源を有効活用する方法が自ずと見えてくるような気がする。ひょっとすると、財団からNPOへという方向にアウトソーシングの動きが加速するかも知れない。「官から民へ」というキャッチフレーズの具現化にもつながる。
念のために付け加えておくと、私はここで、もっぱら政府系外郭団体への批判を主眼としてこのようなことを言っているわけではない。(具体的な事例について批判が必要な場合も当然あるだろうが、ここではそういう話をしているわけではない。)
そうではなくて、NPOに対して、よりよい(あるいは、よりましな)労働環境を提供するという社会政策的な課題が現に存在していることについて、今回ISOという指標について考えたのをきっかけに、なるべく多くの人の注意を喚起しておきたいと思った、というわけである。
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