ときどき、ドキドキ。ときどき、ふとどき。

曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

パリ・オペラ座歌舞伎公演

2007-05-06 00:05:04 | アーツマネジメント
去る4日夜のNHK教育テレビで、この3月にパリのオペラ座(オペラ・ガルニエ)で行われた歌舞伎公演の模様が放送されていた。

番組の冒頭で、「口上」はフランス語で喋る、というからどうなるのだろうと思っていたら、団十郎や海老蔵は最初に日本語で喋ったあとでフランス語に切り替えていた。実際に聞いてみると、フランス語の口上もそれほど違和感はない。(日本語の字幕があるからだが)
台詞として喋るだけなら、日本語でもフランス語でもさほど問題ない、というわけか。

市川宗家による公演だから、口上のあとに、「にらみ」も入る。「ひとつにらんでご覧に入れましょう」という、あれである。

全体に、今回の公演の雰囲気は、いかにも「文化交流」であって、日仏の友好関係を寿ぐ、という感じのおおらかさを感じた。

というのも、私が昔蜷川カンパニー(蜷川幸雄演出の公演団のことをこう呼んでいた)の海外公演に関わりを持っていたときは、現地の観客や批評家にきちんと評価されるかどうかが大問題で、もしも評判が悪ければ公演自体の意味がなくなってしまう、というような、一種真剣勝負にも似た切迫した感覚があったものだからである。蜷川さん自身が、後年になって新聞のインタビューに答えて、海外公演の事情について、「ここに来るまで激しい勝ち抜き戦だった」という言葉でその雰囲気を語っていたこともある。

ところが、今回は、そのような緊張感とはずいぶん違った印象がある、ということである。2年前だかに歌舞伎が世界遺産に指定されていることもあってか、今回のパリ公演は、日本演劇の真骨頂を何が何でも伝えなければ、というような気負いがあったわけではないように見えた。「金持ち喧嘩せず」とでもいうような余裕綽々ぶりであったのかも知れない(ただし、これは、単にテレビでの中継を見た感想で言っているにすぎないので、実際のところどうだったのかはわからない)。

さて、NHKはパリ公演の初日(23日)の模様を放送していたのだが、最新号のシアターガイド(6月号)が現地での公演の模様をレポートしていて、NHKを見ていただけではわからなかった興味深い事情を伝えている。

それによると、今回のパリ公演では、団十郎と海老蔵の親子が「勧進帳」の弁慶と富樫を役替わりで交代して演じたという。つまり、海老蔵が弁慶を演じて団十郎が富樫を演じた回もあったということである。
これは、「日本では考えられないこと」(海老蔵)の由。

「勧進帳」の最後、弁慶が六法を踏んで引っ込むところは、劇場の構造上花道が設けられていなかったのでいつものように花道を引っ込むわけにいかない。どうしたかというと、舞台前面に花道風の舞台(平台を組んだ通路)がしつらえてあって、終幕になって定式幕が引かれた後、弁慶ひとりが舞台に残ると幕前をいったん上手に移り、上手から下手まで舞台を一気に横ぎって引っ込んだ。(注:この部分については自分でテレビで確認した。)

私は、この「新演出」を観て、なるほど、歌舞伎の舞台というものは融通無碍で、いつもの演出にこだわらなくてもいろいろやりようはあるんだなあと思ってみていたのだが、どうも話はそれだけでは終わらなかったらしい。後でシアターガイドのレポートを読んだところ、なんと海老蔵の弁慶は舞台から客席に飛び降りて引っ込んだのだという。

これなど、予想を上回る融通無碍さ加減にあっけにとられる感じである。

演じ手によって、これほど極端に演出が変わるのも、歌舞伎がなんと言っても役者の魅力によって成り立っているからであろう。




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パリオペラ座にいってきました (かつらぎ)
2007-05-19 15:20:39
ごぶさたしております。かつらぎです。
3月25日に、パリオペラ座の歌舞伎公演を
見てまいりました。
そのレポートをブログに掲載いたしましたので
もしよかったら見てみてください。

オペラ座、とても、とても美しい想い出に
なりました。歌舞伎の力もさることながら
劇場の力に圧倒される一日でした。

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