小田博志研究室

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ウランはどこから

2012-07-31 | 国際・政治

 (北海道新聞夕刊<魚眼図>2012年7月27日掲載)

 原子力発電の原料はウランだ。では、そのウランがどこから来るのかご存じだろうか?

 主要なウラン産出国のひとつがオーストラリアであり、北部準州のカカドゥ地区に大きいウラン鉱山がある。日本の電力会社も顧客である。この地区では数万年前からミラルと呼ばれる先住民族(アボリジニ)が暮らしてきた。

 ミラルの長老マルガルラさんが、昨年4月に国連事務総長に送った手紙がウェブ上で公開されている。最初にマルガルラさんは、東日本大震災と福島原発事故に苦しむ日本人を思いやる言葉を述べている。そして自分たちの土地でのウラン採掘と、原発事故とのつながりに目を向けている。マルガルラさんの言葉を聴いてみよう。

 「日本の原子力企業とオーストラリアのウラン鉱山業者との間には、長い取引の歴史があります。それを踏まえるなら、福島の放射能問題の少なくとも一部は、私たちの伝統的な土地から出るウランによって引き起こされたと言えます。そのことを私たちはとてもつらく感じます」

 カカドゥでの最初のウラン鉱山は、ミラルの人びとの意に反して開発された。その結果、彼らの聖地は奪われ、自然は破壊された。1990年代、2番目の鉱山開発に対して彼らは反対運動を展開、巨額の土地使用料も拒否して、採掘の阻止に成功している。福島の事故でその意志はさらに強まったのだという。

 カカドゥでも取材したドキュメンタリー映画「ハード・レイン」(2007年)によると、ウランの採掘・精練による現地の放射能汚染は深刻だ。その影響は鉱山労働者だけでなく周辺住民にも及び、はるか未来まで環境を汚し続ける。

 原発の問題は発電所の危険性だけに限らず、原料採掘から核のごみの処理にいたる広い幅で見渡す必要がある。ウランが採れる所で何が起こっているのか? それと日本の原発とがどうつながっているのか? マルガルラさんの手紙はそれらのことを気づかせてくれる。

 (小田博志・北大大学院准教授=文化人類学)


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