だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

源氏物語(与謝野晶子版)

2015-06-28 10:32:24 | 授業ネタ

つらつらちょこちょこと読みつづけていた与謝野晶子版源氏物語を読み終えました.長かった.

光源氏の恋の遍歴物語とか平安貴族の美意識が現れた物語とか言われる長編小説ですが,えーとまあそんなもんなのかしら,という感じです.与謝野晶子も最後に書いてますが,確かに宇治十帖はやや作風が違うかもしれません.それはそれとしても,平成の世に与謝野版を読むのは少しつらいかも.というのも,「艶な」「貴女らしい」といった形容詞がよく出てきますし,「消息」「おもしろい」といった単語は古語の意味でそのまま使われていて,ちょっと考えないとよくわからんところがちょくちょくあります.たしか敬語の種類で主語を暗示している書き方を原文が取っていて,しかも一文がだらだら長かったりするので,読みにくい箇所もあります.そんなもんだと思えばそんなもんですが.

しかしまあ平安貴族というのはよく泣いて袖や枕を濡らしますね.またしょっちゅう夜明けまで起きてるんですが,いつ寝てるんでしょうか.わりと政権中枢部の高官が多いのですけど,政務とか取ってるのでしょうか.恋愛結婚事情社会風俗というのも変われば変わるものですねえ.


地方が元気になる 自治体経営を変える改善運動

2015-06-19 10:42:40 | 授業ネタ

トヨタの大野耐一らが確立した生産方式の要素として有名なカイゼン活動を自治体に導入した事例報告と推進のためのポイントを指摘した本で,ともすれば「やらされ感」の強くなる改善や改革の進め方について論じています.たぶん,公的部門の事業部局にいる人が読むとふむふむってなものなのでしょうが,実際に働いたことのない身としては,うんまあそうなのであろうなあ,というところです.

だいたい役所というところはちゃんとやっていても褒められないわりに,失敗するとずいぶんとけなされるという割に合わない仕事をしていて,また自治体のばあいには中央政府の法律や規制でやらなければならないことや方法が決まっていることもあり,さらに顧客(住民)の反応が売上のような可視化されやすい指標にならず,売り込みのような攻めの姿勢も取りにくく,選挙で首長が準備期間なく後退することもあり,そうするとどうにも改善活動に身が入りにくいというのは,致し方のないところではあります.幹部が褒めるというのはわりと効果があるんでしょうが,そういったなかで改善活動みたいなものを進めていくのには個別具体的な事情が重要なのであろうなあと思われました.


NHKみんなのうた

2015-06-18 23:16:29 | 授業ネタ


「トレロカモミロ」を見ようと思ってDVDを探したのですがわりとよいお値段を取るということがわかったので(NHKは名作大河とかそういうところでふっかけてる気がしますが)CDを購入しました.2枚組でお得な感じもしますが,ぜんぶ覚えているわけでもないので,まあそんなものか,というところではあります.

しかしなにがよかったといって,あの「算数チャチャチャ」が入っていたことでしょうか.ペギー葉山で.YouTubeに解説(❓)がありますが,「みんなのうた」の「算数チャチャチャ」というタイトルからは想像しにくい式展開で,そりゃ数学のK先生も覚えていようというものです.リズムの関係で言い回しが不思議なところがあるのも味わい深いところで,つまり「分母子を約せば」ですね,やっぱり.あと「タンゼントのことさ」というのもなかなか古風で,むかしはタンジェントとは呼ばなかったんでしょうか.しかし気になるのは「答えはかんたん たったわずかのルートの2となるよ」という部分で,ルート2というのは「たったわずか」と二重に強調されるほど小さい値なんでしょうか.なかなか素敵な曲なので歌い継がれていってほしいものです.

あと,問題作として知られる「森のくまさん」も収録されています.この歌詞の謎についてはたとえばこちらを参照していただきたいのですが,論理的かつ独創的な解釈としてこちらもぜひご覧ください


租税抵抗の財政学

2015-06-12 08:41:01 | 授業ネタ

「日本の租税負担率は先進国で最低の水準だが、納税の痛み、「租税抵抗」は大きい」ことをふまえて,財政危機の名の下でリスクが<私>化され、生活困窮が放置される日本財政を批判的に検討」し,「人々の生存と尊厳を守るために信頼に基づく強靭な財政を構築し、普遍主義的な社会保障制度を整備することを訴える」本です.痛税感の高いのはそのとおりでしょうし,全体として言いたいことは分からんでもないです.直接税を払う人と現金で給付を受け取る人が分かれている,つまり現金給付を受け取りつつ直接税を支払う人の比率が大きくないために,財政的な面で人々が分離してしまい,「受け取る人」と「支払う人」の対立が発生している.このことは社会を分断させ,受け取る人から見れば十分な保証がなく,支払う人から見れば負担ばかりがかさんでいることになり,その結果,負担の先送りが進み公債残高の累増が進む.解決のためには支払いつつ受け取る人を制度的に作り出すことが有効なのではないか,ということです.

言いたいことはそれでいいのですけど,統計の扱い方がややずさんだったり,散布図の相関と因果を混同させて解釈したり,現金給付と現物給付の費用が混乱していたり,話の持って行き方としてはどうなのかしらん,と思われるところが多いように思いました.所得再分配というのはレトリックはともかくとしてもネットで支払う人と受け取る人が出てくる制度で,支払う人から見れば「支払った分だけ返ってこない」のは原理的に当たり前の話です.それでもなお所得再分配を社会的に成り立たせるためには,保険の原理の話であったり無知のベールの話だったりをいれて,日本でそういう理解が進まないのは「お上」意識が抜けないんじゃないかとか,近代市民革命がどうのこうのとか,そういう話もしないとあかんのではないか,と感じました.受け取る人と支払う人をまとめて,アンケートを全体で集計してどうのこうの,というのは不十分かもと思ったりします.だいたい政府なんて経済全体で見れば会社で言うところの総務部みたいなもんですから「公共」というのが一般市民とは別のところにあるという言い方はどうなんすかね,というのは近経的財政論の歪んだ見方なのかもしれませんが.


高校講義

2015-06-08 12:17:34 | 授業ネタ
いろいろあって,一貫校(付属校ではない)の高校で話をしてきました.リレー講義形式を取っているのですが,エネルギッシュな講義で知られる(?)F先生や,話のうまいことで有名なS先生もメンバーに入っているのでやりにくいといえばやりにくい感じでしたが,それはそれとして.2週間で1セットで,1回終わるごとに生徒の皆さんは講義内容を要約して疑問やコメントを書くという課題を課されています.このレポートを見たのですが,かなりぴっちり書かれていて,疑問やコメントもなかなか鋭くて,おおいに驚きました.卒業生の見方も変えねばならんかなあとも感じたのですが,たぶん考えるべきは,こういうのを書けた高校生が大学生になるとなんでああなっちゃうんだろうか,ということです(ああなっちゃう,が何をさすかは,名誉のために書きません).一つの可能性は,たぶんこの可能性が高いのですが,毎回レポート課題を課されるような授業を選択する生徒は,ぼくが接する機会が多いタイプの学生にならない,つまり他の大学や学部やゼミに進んでいるということです(サンプルセレクションの問題).フラットタックスを知っているような高校生が進学して僕のゼミに入るとは思えないわけですし.もう一つの可能性は,高大接続という制度のもとであっても,レポート課題の評価が成績や進学に影響するということです(インセンティブの問題).逆にいえば,成績評価が3段階(落第を入れても4段階)というアバウトなものではなく,また成績がその後の進路(就職とか)に影響することが分かっていれば,ああなっちゃった大学生であってもちゃんと学習してくれるのではないでしょうか.大学の学習でその手の外発的動機づけ(extrinsic motivation)を使うべきかどうかはまた別の問題でしょうが.

ということで,計量経済学的にもミクロ経済学的にもなかなか興味深いイベントでした.社会保障の話がうまくできなかったのは秘密です.


できる研究者の論文生産術

2015-06-08 11:44:51 | 授業ネタ

副題の「どうすればたくさん書けるのか」がテーマの本ですが,後半は文体や論文の構成についても書かれているので,「どうすれば書けるのか」はおもに前半で扱われています.メッセージは単純で「スケジュールに従って淡々と書く」だけです.「書く」といっても,執筆に必要な作業は,作業の種類を問わず「執筆」に含まれているので,実験や実査をしない種類の研究者にとってはほとんどがこの本で言う「書く」に入ってしまいます.帯にある通り,よい習慣は才能を超える,ということですか.

その点でわりと興味深かったのは第2章に紹介されている実験です.スケジュールに従わせるかどうかをランダムに大学教員に割り振った実験なのですが,執筆を欠かすとペナルティを課される条件におかれた参加者が執筆量が多く,書くことを強制すると独創的な執筆アイデアが浮かんできた,という結果が得られているそうです.そうかもなあというかなるほどなあというか.

個室を持つ社会科学系のけんきう者としては,ウェブとの接続を切って机に向かうような仕組みを作るというのはスケジュールを守るために必要かもしれません.あと,やることを表にしておくとか.そういえば,論文の多い本学部の某先生の研究室には論文の進行度合いがホワイトボードに羅列してあったような.あれもひょっとしてそうなのか.


出生率1.42

2015-06-06 11:59:35 | 授業ネタ
人口動態統計調査によると2014年の出生率は1.42だったそうで,2005年以来はじめて前年を下回ったということで,人口減に拍車がかかることが予想されています(NHK日経).この動きは「厚生労働省は、「いわゆる団塊ジュニアの世代の女性の出産が一段落し、今後、少子化はさらに進むとみられる」と話しています」とあるとおりだと思います.

ここでいう出生率は合計特殊出生率と言われるもので,統計の作り方から言って,出産年齢が遅くなっていく局面では合計特殊出生率はいったん下がってから上がるという動きを見せます.もし,出産年齢が遅くなるだけで,女性が一生の間に産む子供の数が変化しなければ,合計特殊出生率は下がって上がってもとにもどります.日本の合計特殊出生率がいったん上がった(下げ止まった)のはこのような統計のトリックに依存するところが大きいのではないかと思われ,とするなら,合計特殊出生率の動きも今後は低位均衡値(?)へ向けて下がっていくことになるのでしょう.実際,各世代の女性が実際にどれほど出産してきたかという指標(出生コーホート別にみた累積出生率)をみると,順調に下がっていることが見て取れます.というか,この統計は平成22年のものなんですが,新しいのは出ないのかしらん.年齢別の出産数データがあれば自分で作れるものではあるんですけど.

そういうことなので,ここのところの合計特殊出生率の落ち着きをみて人口政策(?)が奏功していたとかいうわけではぜんぜんなかったというあたり,もっとはっきり書けばいいのに,と思うんですけどどうなんでしょうか.あと,集計データを使った出生率の分析で無造作に合計特殊出生率が使われることが卒論とかではわりとみられるような気がしますが,ああいうのちゃんと指導しないといけませんな.


研究を深める5つの問い

2015-06-04 11:41:02 | 授業ネタ

副題が「科学の転換における研究者思考」ということで,おもに理系の研究者を念頭に,科学や科学者がなんとなく信頼されていた幸せな時代ではなくなったなかでどのように研究を進めていくかを考えるときに注意すべき点を挙げています.砂原くんが書いているように,「まあ要するに、環境が変わりつつある中で数人に評価される論文書いてるだけではダメだ、という話」で,ひとりの市民として視野を広げつつ研究をがんばっていきましょうということと,知るは楽しみなりという研究の本質というか初心というかを忘れないようにしましょうということでしょうか.

そりゃまあそうなんですが,研究分野や領域における個別の思考方法やスタイルをちゃんと身につけないと異分野の人と会ってもふらふらしてしまうだけなので,あんまり若手な人が読むのはどうなのかしらんとも思います.しかし,学術調査官とかやってると,理系のひとたちの行財政に対する考え方の素朴さというかなんというかを感じないこともなかったので,文部科学省や財務省を敵視するような発想から脱却するにはこういう本も必要なのかもしれません.経済学の論文の書き方の指南書(?)には,「イントロでは研究の意義をちゃんと書け」というのはわりとしつこく書いてあるわけだし.

それはそれとして,確かに新学術領域のような大型科研の審査や評価における「異文化融合」的な点の重視は,「後進の育成」と並んでなかなか素敵なところがあるので,そこらへんにむりくり振り回されないのはそれはそれで重要だと思います.まあかといって,振り回されなさすぎるのもまたどうかというところでもありますが.というか,経済学系のひとたちは(他の人社系は知りませんが),社会を対象とした学問をやってるわりに,プレゼンとかアウトリーチとかに総じて淡白なように思います.審議会やマスコミに出るのはそれはそれでいいと思うんですが,研究費使ったアウトリーチ活動って経済学でやってる人いるんですかね.啓蒙書とかが該当するのかしらん.


民主主義の条件

2015-06-01 15:34:04 | 授業ネタ


サントリー学芸賞受賞の新鋭が政治の仕組み基礎の基礎をイチから解説した「民主主義の条件」をいただいたので遅ればせながら熟読しました.いちいち納得しながら読んだということは,「イチから解説した本」を送られるにふさわしかったということで大変ありがたいことです(いやほんと).

Amazonでは坂井さんの「多数決を疑う」とセットでお勧めされるだけのことはあって,間接民主制の議会で多数派をちゃんと形成して納得感のある政治が進められるにはどういう点をみるべきか,ということが,坂井さんの本よりは制度に即した観点から解説してあります.多数制と比例制は混ぜてはいけないとか知りませんでした.そうなのか.自筆制はそろそろ止めたがいいですよね.

117ページに「男性と女性で別の選挙をするわけにはいかず」とあるのですけど,フランスでは男女ペアでの選挙戦が導入されたということで,そんなに頭から否定するものでもないのかしらんと思います.小選挙区(中選挙区でもですけど)の区割りを地域を基準にするというのは慣習であって,井堀・土居の両先生や竹内幹さんが言ってるように世代別選挙区というのも(法律的にはともかく)実行可能なわけですから,性別選挙区を考えたってよいのではないでしょうか.女性の進出がどうのこうのと言われているわけですし.性的マイノリティの問題はありそうですが.学生の政策提言コンテストとかで誰か言ったりしてないのかな.

ちなみに,現在の地方議員の男女数については「地方公共団体の議会の議員及び長の所属党派別人員調等」というのでだいたい分かるのですが,都道府県別に集計されていて市町村別には公表されていません.聞けばいいのかもしれないけど.ネットの速度も速くなってて容量も増えてるんだから,こういうの市町村別に公表すればいいのにと思うんですけどどうなんでしょう.プライバシーの問題なのか(まさか).