だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

医療過誤は医師を減らすか

2006-11-29 21:57:00 | 生活

医療過誤訴訟が日本でも増えてきて(?),訴訟リスクの高まりに伴って医療現場に副作用が出ているんじゃないか,という話は,医療従事者などのあいだではよく語られるようになってきているそうです.たとえばここ.訴訟大国アメリカでは,医療過誤訴訟が多いので,医師が賠償金を支払うときのための保険があって,その保険料が高くなりすぎるので問題だ,ってな話もあります.

というわけで(?),「医療訴訟制度が変わると医者の行動は変わるか?」という論文を読んでみました(授業で).Kessler and McClellan (1996, QJE) という論文なのですが,要するに「医療過誤訴訟の制度,たとえば賠償金の上限設定などが変化すると,医療費と医療のoutcomeに変化は生じるか」というのをDDっぽい回帰で分析したものです.結論は,訴訟制度の変化(医師の負担を減らす方向での)は,医療のoutcomeをそれほど変化させないが,医療費はかなり下がる.したがって,これまでは,訴訟を恐れた防衛医療(defensive medicine)が行われていたに違いない.そのような防衛医療がなくなれば,急性心筋梗塞患者の生存1年当たりすくなくとも10万ドルは節約でき,一般的に用いられるQALYと比べると,このような防衛医療をなくすのは正当化できる,というものでした.

この論文では単に医療費が変化する,ということだけが実証されていますが,この医療費の変化分が検査(撮影など)に多く依存しているという研究もあります.また,過激な医療過誤訴訟があると医師のなり手がいなくなっちゃうんじゃないか,という問題意識からも研究をしている人たちがいます.Baicker and Chandra (2005) はそこらへんのレビューをしつつ,州データを用いて検証を行っています.彼らは「医師の数全体にはそんなに影響しないが,いくつかの分野・地域では影響がある」という結論を導いています.

Kessler and McClellan (1996)は, 患者のマイクロデータが利用可能で,州ごとに制度が異なる,というアメリカならではの分析ですが,その後の一連の研究は最近の日本についてもなかなか示唆にとんだ研究ではないかと思います.こういうのについて,実際にデータを使って分析してる人っているんでしょうか.医療過誤訴訟や関連する事件のデータから必要ですけど.マスメディアの報道と医師の行動の変化,とか,日本でもできそうな感じがしないんでもないんですが.誰かやる人がいたらぜひご一報を.

Kessler, Daniel and Mark McClellan. 1996. Do doctors practice defensive medicine? Quarterly Journal of Economics 111(2), 353-390. [JSTOR]
Baicker, Katherine and Amitabh Chandra. 2005. Defensive medicine and disappearing doctors?. Regulation 28(3), 24-31. [SSRN]

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『格差社会』

2006-11-27 23:04:00 | 生活

橘木先生の『格差社会』を読んでみました.この前の岩波新書と比べるとフォントが大きいし,「ですます」調で書いてあるし,同じ業界の人なので読みやすいです.このまえ直接謦咳に接したこともあって,「ですます」調が先生の声と重なって聞こえて,なんだか講演を聴いてるみたいです.中身は基礎的な事実をちゃんと押さえてあるのと,先生の考え方を「私は判断します」という形で明示してあるので,とても読みやすいです.格差とか社会厚生関数とかとなると「あとは国民の判断ですから」という話になりがちなんですが,「私はこう思う」というのをちゃんと書いてあるのはよいなあとおもいます.自分も国民ですしね.

わかりやすいのでとっとと読んでしまったのですが,しみじみ読んだほうがよかったですかねえ.

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梅が瀬渓谷

2006-11-26 22:55:00 | 生活

Pb260166 少し早いかもしれないなあと思いつつ,養老渓谷のうちの梅が瀬渓谷に紅葉を見に行きました.大多喜とか久留里とか亀山湖とか,大学時代に春合宿や公認大会ででかけたものだなあ,と思うと,ちょっと懐かしくもあります.朝,柏から16号を下って南へ……というと小田和正みたいですが,東京湾をはさんで逆ですね,とか思いつつ,柏から船橋方面へ向かいます.途中で白井や八千代松蔭高校のそばなど通りつつ,京葉道~館山道に入り,市原ICでおりてさらに南下します.途中ではとくに渋滞もなかったのですが,梅が瀬渓谷のすぐ近くの駐車場は満車という掲示が出ていたので,養老渓谷駅の近くの駐車場に車を止めます.駐車場代200円.さらに,この駐車場から梅が瀬渓谷の入り口までのシャトルバスが片道160円,という,まあなんていうかいい商売してます.シャトルバスといっても2kmくらいなので歩くことにして進んでいくと,途中にいくつか駐車場があります.ここの駐車場代500円.「むむむ」ですね.そんなことを気にしつつ,着々と上っていき,てっぺんの展望台でお昼を食べます.なんだか団体さんがいらっしゃっててもう大騒ぎ.しかも通り雨.すぐに止んだので近くの神社によってもみじ谷を下ります.細いうねうね尾根が延びていて,なかなか房総系の地形です(OLerしか分かるまい).下ったあとは沢道を下っていくのですが,小川と小径が何回も交差する沢底の涼やかな道です.これが意外と遠いのですが.と,いうことでぐるっと1周して駐車場まで戻って約4時間.そんなものですかねー.

帰りはやや混んでいたのですが,駐車場のおじさんお勧めのごりやくの湯によって,あったまって帰ることにします.帰りは市原インターに行く途中の道の駅によって漬物など購入しました.うまいです.館山道→京葉道で帰るのですが,帰りは市川ICまで引っ張って松戸へ,というルートを取ります.高速が意外と渋滞しててがっかりしましたが,普通の時間に帰り着いてほっと一息,というところです.

真っ赤な紅葉が楽しめた,というわけじゃないですが,ああいう不完全な紅葉が日本人的にはよいのではないかなあ,なんて.


はくさいはいき

2006-11-24 23:44:04 | 生活

ひそかに尊敬しているS大のS先生のところで「白菜を捨てる」話が書かれていて,最近は農協とか農業金融とかにややはまっていた僕としては「ふむむ」とおもったので,こちらでもちょっと.(書いてもいいとは思うんだけど.ダメなら知らせてください)

なんとなくな話をまず書いておくと,「今年は白菜がえらく豊作なので,白菜農家が価格維持のために白菜を廃棄していて,それには農協から補助金が出る」らしい,ということです.さて,S先生の発想自体はそんなに難しいものではなくて(そこからモデルを組んじゃうところがさすが理論家ですが),「農家が意思決定主体であれば,農協主導とはいえ,カルテル破りのインセンティブがあるのではないか? なんで農家がそろって白菜を廃棄するのか?」というところにあるんじゃないかと思います.たぶん.カルテルに参加するということは,カルテルを破ったときに得られる所得(維持された価格で売り抜けられるから)を上回るペナルティがあるはず,と考えるのが自然です.そうでなければ,誰もカルテルに参加しなくなって,価格支持政策が成り立たなくなるからです.さて,この農協主導のカルテル=白菜の廃棄に参加しないときのペナルティ,というと,「農協にはほとんどすべての農家が加入しているし,村八分とかなるんじゃねーの」という話になるんですが,廃棄するほど白菜を作っている野菜農家であれば,少なくとも流通については農協を通さなくてもよさそうなので,農協によるペナルティってどうなのさ?という反論もありそうで,そうすっといったいどういうことかしら?と思われるところです.

で,ちょっと調べてみたところによると,この農協主導の需給調整は農林省も認めている(プレスリリース)もので,交付金は社団法人全国野菜需給調整機構というところが払いますが,この交付金の財源は,農協1/2,政府1/2となっています.ということは,「農協が補助金」というのはあながち間違いではないけど正しくもない,ということです.農協が農家の団体であることを考えると「農協が補助金」ということは,単に農家間の所得移転が行われているだけで,その部分については,さまざまな作物を作っている農家間の一種の保険と考えることもできないではありません.政府が補助金を出しているということは,この部分でカルテルへの参加をさらに誘導している,ということでしょうか.

で,こういうところを見ていると,このカルテルに参加しないときのpayoffはそんなに大きくないのではないかという気もします.農協主導の価格支持=白菜の廃棄に協力せず,維持された価格にただ乗りしようとすれば,当然,農協の流通網を使うことはできず,となると流通経費を自分で持たないといけないことになります.もし,農協が主導した価格がそれほど高くない(もちろん,何もしないときよりは高い)とすれば,流通経費のところで足が出ちゃう可能性があります.そうすると,カルテルに参加しないときのほうがpayoffが低くなってしまうのではないかと,思うんですが,どうでしょう?

追記:「需給調整」は政府の政策なんだそうで(わかる!野菜対策の見直し(PDF)).実質的にJAがないと機能しない制度になってるので,JAが作らせた制度なのかもしれないですけど.この制度は「キャベツ、だいこん、たまねぎ、にんじん、はくさい、レタス」にしか適用されないそうで,野菜需給調整機構に出資している県も限られてます.この全般的に白~緑系の野菜農家はなんか特殊な政治力でも持ってんでしょうか?


「労働ダンピング」

2006-11-20 15:27:00 | 生活

最近,新聞の岩波新書の宣伝で大きく取り上げられることのある中野麻美『労働ダンピング』を読んでみました.書評があちこちにあるのですが(たとえばこれ),ぼくなりにがっつりまとめれば,雇用の「多様化」のもとで仕事の細切れ化や短期契約化,まとめていえば商品化が進み,その結果,賃金等のダンピングがおき,時間的には十分働いているのもかかわらず生活もできないような給料にさらされているパートタイマーや契約社員が増えている,その反面,代替的な生産要素であるこれらの労働力の賃金下落を背景として正社員の労働環境が悪化している.その背景としては,「正社員の夫を持つ妻が行う労働としてのパートや派遣」という根強い性役割分担意識があるのだ,解決のためには法整備を含めた対策が必要なのだ,といったような内容かと思います.

具体例がたくさんあるのかしら,と思ったら意外とそうでもなく,なんとなく似たような内容が手を変え品を変え訴えられていたような読後感があるのですが,それはそれとして,現状の把握とそこにいたるロジックについては「そうなのかー」という感じですが,いまひとつ「すとん」とこないところのある本でした.このなんとなくな納得のいかなさの原因は自分でもよく分からないのですが,つれづれに考えてみるに,まず,「労働は商品じゃない」と繰り返し言われてもなあ,という点があります.確かに労働は商品じゃないのですが,しかし自分の労働を提供して対価として賃金を受け取る以上,商品としての性格を持たないわけにはいかないのではないかなあと思います.

この著者の言いたいことを経済学の用語で言い換えれば,「労働者は雇用者に対して交渉力が弱いから,労働組合とか最低賃金制とか社会保険とかで補助する必要がある」ということじゃないかと思うんですが,その話と性別の役割分担についての偏見の話が直接には結びつきにくいのではないかというのもあります.関係ないとは言いませんが,一歩間違えると,派遣であれパートであれ正社員であれ,すでに職を得ている労働者の既得権益保護の本になっちゃいそうな危うさがあるような気がします.

パートや派遣さんの賃金がダンピングされてほとんどワーキングプアになる一方,正社員は正社員でパートとの比較でこき使われている(霞ヶ関の公務員や外資系困猿や金融の若いうちに典型的ってこと?)ってことは,一部の正社員と資本化が多くを持ってってる,ということになるんでしょうか.やっぱグローバル化ですか.

うーん.なんだかよくわかんないですね.しかし,「だから制度を変えて法律作ればなんとかなる」って問題ではないような気もします.賃金ダンピングを防いで正社員の労働時間を短縮化すれば,その企業はそもそも雇用を減らすか,あるいは人件費負担に耐えかねて倒産,ということになりかねず,そうすると社会保障給付が多くなるので社会保険料が高くなって……ということになるんじゃないかと思うんですけど.どーなんでしょうか.資産や資産性所得への課税が難しいとすればやっぱり付加価値税なんですかね.ううむ.

ネット界で(?)有名な財務官僚さんとかなら,「いや原因は不況にあるのであって」とか言っちゃうんだろうなあきっと.そういう問題じゃねえよ.

労働ダンピング―雇用の多様化の果てに 中野麻美
『労働ダンピング―雇用の多様化の果てに』

価格:¥ 819(税込)
発売日:2006-10


飲んで観て寝て

2006-11-18 23:27:00 | 生活

結婚式のときの同窓会で教会へ行って高校の恩師と話をして,「教会ってのもたいへんなんであるなあ」としみじみ思ったりして,家の近くのKOKOMOでビールを飲んでから帰ってきました.苦めのビールがいいなあと言ったら,川越の地ビールの伝説のビール職人が出てきました.地ビールにありがちなすっぱさもなくて,しみじみとうまいビールでした.ほかにもいろんなビールがあったのでまた行きたいところです.

それから,借りっぱなしになっていた「運命を分けたザイル」を観ました.「アンデスの雪山で起こった遭難事故を忠実に再現した奇跡の生還劇」なんですが,同じく山岳ドラマであった「氷壁」とはまた別の次元で怖い話です.ついじーっと観てしまう感じの映画でした.実話をベースになっているのと,「どうやって撮ったんだ」と不思議になるような緊迫した映像と山の美しさが印象的でした.

運命を分けたザイル 運命を分けたザイル
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2006-07-19

個室に籠もって

2006-11-17 21:35:00 | 生活

前の職場であったところに来年度の関係で出かけて行って,午後から非常勤先の図書館の個室に籠もって資料を作っておりました.個室が借りられる図書館というのもすばらしい仕組みで,桜田通りを走る赤いテールランプが綺麗で……といえば「ロード」が思い出されるわけですが,えーっとその,あの夫婦のポジションっつうのはなんなんでしょうかね.そういえば,いま市議会選挙中で公明党とかうるさいんですよねー.