「極上の科学ミステリー」として絶賛の嵐,と評判の福岡伸一先生の『生物と無生物のあいだ』を読みました.帯に出ている惹句を見ると,文字通り「生物とはなにか」についていろいろ書いてある本かと思うのですが,意外とそうではなくて,ポスドクから若手研究者がどのように研究を進めているか,査読の仕組みとはどういうものか,論理的な思考や実験デザインとはどういうものか,ということがけっこう書いてあって,そこはそこでおもしろいです.そういう業界にいるからかもしれませんが.あのストックとワトソンがあんなことしてたなんて!野口英世ってそうなんだ!といったおもしろさがあったりします.
「生物」の本としては,分子があんなにうろうろしているなんて!という驚きびっくりがあり,「動的平衡」というマクロ経済学で聞いたような概念が出てきたりしてそれはそれで興味深いです.帯に書いてあるような褒め言葉が当てはまるとはあんまり思えないのですが,でも生き物に興味ある人には非常におもしろい本でした.
研究者にとって自分の論文が望みどおりの専門誌に採択されるかどうかはまさに死活問題である.発見の優先権はもちろん,昇進やグラント調達などすべてが発表論文,すなわちピア・レビューという公正な手続きを経て専門誌に掲載された論文の質と量で(多くの場合,量だけで)決まるからである.だから研究者が「業績」といえば,それは通常,刊行された論文数ということになる.(中略)ここに非常に微妙な問題を含んだケーススタディがある.(pp.102-105)
このあとがおもしろいのですよ.ふふっ.