だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

『地方政府の民主主義』

2011-04-28 21:13:13 | 経済学
お送りいただいていたものでして.いまや新進気鋭の地方行政学者の初の単著.いろんなことをやっているなあと思っていたらちゃんとまとめ上げてしまうあたりやはりタダモノではないです.

内容としては,知事・市町村長といった首長と,県議会・市町村議会という2つの「代表」がいる日本の地方政府において,この二元代表制が政策決定過程にどのような影響を及ぼしているかを,理論的な背景を提示したうえで,統計的検証および事例研究を行う,というものです.二元代表制とともにカギとなっているのは現状維持点からの変化であり,まったくの白紙の状態からの政策形成が現実的にはほとんど不可能であることを考慮すれば,現状からの変化の方向こそが議論の対象になるということでしょうか.

都道府県・市町村といった「地方政府」の意思決定の分析は,ともすれば中央政府との関係で議論されることが多く,財政的・人的なつながりが強く,またおそらくは歴史的な経緯もあって日常的な接触が多いことからも,それもしかたなかったところなのかとおもいますが,この本では中央政府との関係はそれほど着目されず,首長と議会の関係に焦点が当てられています.普通のアプローチのような気もしますが,あんまりなかったものなのかもしれません.

序章と終章を除くと6章建ての本になっていて,うち3章では統計的な手法を用いた実証が行われています.パネルデータに対する重回帰分析やイベントヒストリー分析(生存期間分析)という経済学の実証ではよく見かける手法が使われていて,手法的には財政論や政治経済学と親和性が高そうです.変数の外生性の仮定がどうなのかしらん,パネルデータを使う場合には変数の「時点」はどうなんだろ,と思うところもちょくちょくあるのですが,そこはたぶんこの本で強調したいことではないと思うのであんまり騒がないのが吉かとおもったり.

うすうす分かるような分からないようなのは,首長と議会の立ち位置の差です.この本の基本的な枠組みでは,首長は「組織化されない利益」を志向する一方で,地方議員は「組織化された個別的利益」を志向するとされています.その意味で,首長と地方議員(から構成される地方議会)は異なる「公益」の実現を目指すこととなり,この両者の相互作用が地方政府としての意思決定に影響する,となります.その原因はそれぞれが選ばれる選挙制度の違いによります.そうかな,と思うような思わないような.というのも,議会は議員から構成されており,基本的には多数決が採用されていることから,特定の個別利益を侵害するような議案に対して,それに直接関係する議員は反対したとしても,それ以外の議員は反対はしないはずだからです.とすると,組織化されない公益の実現のために個別利益を侵害するような議案は議会でも通ってしまうことになり,首長と議会の間に意思決定のずれは生まれないような気がします.もちろん,議員の間に結託があり,「うちの利益が侵害されたときには協力してくれ,そちらの利益が侵害されたときには協力するから」といった関係が議員間で成り立っていたり,あるいは,特定の個別利益を代表するような議員の数がとくに多い(たとえば一票の格差のせいで)というケースでは首長と議会にずれが出ることは十分に考えられます.

もちろん,首長も地方議員もこんなカリカチュアライズされた(←昨日の研究会で聞いたので使ってみた.使用法がおかしいかも)存在ではありません.たとえば第5章の分析では,東京都の臨海副都心開発の事例が検討されていますが,そこでは,1991年の鈴木知事の再選によって社会党が与党化した,との記述があります.もし議員が支持者の組織化された利益のみを考慮しているのなら,知事が選挙で大勝したとしても(個別利益が変化しない限り)その考え方を変える理由はないように思います.知事とは異なる意見を持っていた議員は,基本的には知事とは異なる意見を持っていた有権者に支えられていたはずです.その意味で「組織化された利益」を代表していたのだから.そこへきて知事が選挙で大勝して再選されたとき,この議員が意見を変えるとすれば,それはひとつには知事選の結果を見て支持者の有権者が考えを変えたということがあるかもしれません.支持者が意見を変えていないとすれば,議員もまた支持者以外の有権者,すなわち組織化されない公益を考慮して意見を変えたことになります.「知事が圧勝した再選結果の余勢を駆って議会を抑えた」みたいな言い方は報道では聞くことがあるような気がしますが,なんでそうなるか,は説明が要るような気もします.BesleyとかCoateとかの論文でこんなような話があったようななかったような.

第5章については,都債の借換制約が利いているってそれはつまりstrategic deficitってことか,と思ったり,有権者より知事のほうが近視眼的ってことかと思ったり,事例研究ならではのおもしろさもあります.他の章もそれぞれにおもしろいけど.

やっぱりイガラシくんはすごいねえ,とまあそういう話.

地方政府の民主主義 -- 財政資源の制約と地方政府の政策選択砂原庸介.2011.地方政府の民主主義 -- 財政資源の制約と地方政府の政策選択.有斐閣.

チチヤス

2011-04-26 19:09:35 | 生活
これもまたローカルな話.

引っ越しをすると,スーパーで売っていたものが変化してびっくりというのはよくあることで,田舎から上京してきたぼくもその例外ではないのですが,そういえばあんまり見かけないなあと思っていたのがチチヤスヨーグルト(本社・廿日市市).チチヤス乳業という会社は2005年になくなっていたのですが,乳業事業を継承していたチチヤス株式会社がこのたび,「伊藤園の子会社へ」だそうですよ(中国新聞日本経済新聞).伊藤園とはまた全国区な.ヨーグルト以外もがんばってほしいものです.


揉みたい背中

2011-04-26 09:53:10 | 生活
先々週くらいからどうにも背中がしみじみ痛くて,たぶんそれと深い相関があるとおもうのですけど肩や首や目の奥がしみじみ痛くて,仕事になりません.椅子や机や枕を変えた覚えはなくていまのところ原因不明です.むむー.こういうときにはどこへ行けばいいんだろう,と思いつつ歩いていると,整骨と整体と整復というのの違いが気になりだした今日この頃です.このうち,一部分は健康保険の適用になるというから話がややこしいですなー.そんなこんなで日本経済学会秋大会の申し込みも忘れてしまいました.3月に社人研で発表したのでも持っていけばよかったー.

生兵法は...

2011-04-12 16:29:26 | 生活
中途半端な知識でいじるとロクなことがない,と思いました.
  • 大学院の同期の某Kくん(開発経済専攻)のhatenaダイアリーに地方分権のはなしが出たのでコメントしようと思ったら,Firefoxからコメントできなかった(画像認証をクリアできなかった).某Sくんのところでもそんなことがあったようなかかったような.
  • PDFファイルをみるのにFoxitがタブを使えるので便利だ,と思っていたら,FirefoxでPDFを開くたびにエラーが出てたいへん.アンインストールして英語版を入れたら,日本語フォントが読めない.
  • Outlookからのメールの添付ファイルがwinmail.datとかにパッケージされてしまってThunderbirdで読めない問題は拡張機能で解決したと思ったら,添付ファイルをまとめて保存ができなくなってしまった.
がっくり.授業が始まるっつうのに.

山津波 [続]

2011-04-08 10:55:11 | 生活
「山津波」 仙台市内陸部の住宅地にも深い爪痕という河北新報の記事ですが,3月30日付夕刊が見られるようです(pdf. 15.5MBくらいあるのでご注意を).1面の地滑りの写真は西花苑のもの.毎日新聞でも同様の報道が.
地面隆起し家の壁裂けた「内陸だって被災地」
仙台市議の花木則彰さんのブログにも写真があります.余震が心配.

猫と目

2011-04-04 00:36:00 | 生活
ちょっと前のこと.帰ってきて扉を閉めたら,どこからともなく,ぎゃーというかにゃーというか,そういう声が聞こえてきました.猫の声のようなのですが,外の公園にいるにしては大きく聞こえますし,かといって1階ではないのでベランダに侵入してきたとも思えず,すわ化け猫か猫又か,よやねこまたよやよや,と思いつつびくびくして扉を開けたらネコさんがするっと入ってきました.最近階段を使っているので外から付いてきたのかもしれません.そのあと,出会うたびに寄ってくるのですが,ええとどうしたことでしょう.そんなに痩せてないので飼い猫じゃないかと疑っているんですが.

日を同じうして(?),目がしんどいです.どうしたこっちゃ.目の環境はそれほど変わってないように思うのですが.うーむ.ブルーベリー食べたほうがいいですか関係ないですか.

地震から3週間以上が経過しました.経済学は基本的には平時の学問であるなあとおもうことしきりですが,復旧・復興へ向けて,限りある資源を配分するということでいろいろ言われているようです.じろじろ読んだわけではないのですが,なるほどなあと思うものもあり,どうかなあと思うものもあったり.要らんことを考えるくらいなら瓦礫の1つも運んだらどうや,と言われればそれまでかともおもうのですけど.

齊藤誠先生のここのところの記事はいずれもなるほどですが,とくに4月2日付の記事は基本を失っていないという意味でとくに納得しました.

  • 報道は報道で重要だとは思いますが,実効性があり説得性のある政策の立案にはそのベースとなる情報がなければなりません.というところで,ウナさんのこの記事はいいところを突いていると思いました.既存の統計をできるかぎりそのまま作り続けるためにも,地方公務員の被災地域への派遣が増える必要があるかもしれません.

    Cash-for-Workは最初はなんじゃらほいと思いましたが,自宅周辺の片付けにも賃金を払うあたりに納得しました.避難や復旧に発生しがちな無償労働に対して賃金を払おうという発想はすばらしい.被災地外からボランティアに来る人には(定義により)払わなくてよいのですが,払っておいて寄付してもらってもいいわけだし.

    計画停電は評判悪いようです.昨年の(これまでの)電力消費量をまかなうだけの電力供給がないという意味では電力が不足していますが,需要と供給が一致しなければ何らかの調整メカニズムが働くのは経済学の基本といえば基本で,足りなければ価格が上がるわけで,価格が上がらなければ所与の価格水準にたいする需要か供給の少ないほうが実現します.価格が調整しなければ数量が調整します.数量調整を乱暴にするか(予期しない大規模停電),計画しながらやるか(計画停電),いずれも評判が悪ければ,価格を上げる必要があります.電力は生活必需品っぽい(価格弾力性が小さい)とすれば,需要を小さくするには価格を相当あげなければなりません.一義的には消費者が直面する価格を上げさえすればよいので,電力価格を直接あげても,電力消費税を導入してもどっちでもいいわけですが,ここのところの経緯をみると電力価格よりも税のほうがよさそうではあります.もちろん,需要曲線は価格の関数であるとともに効用パラメタの関数でもありますから,電力を使わなくてもいいや,となれば同じ価格でも需要量が減ることはありえます(節電).もちょっと長期的には供給が増えればいいわけでもあります(太陽光自家発電など).さて,生活必需品ということは価格をあげると低所得者層への負担が相対的に大きくなる可能性が高いです.ここで,電力特有の事情として,ピーク時がとくに問題になるのなら,契約アンペアに応じて値上げするという手段がありますよ,という野口悠紀雄先生が紹介しているアイデアはなかなか素敵だとおもいました.電力消費税は,分配面からちょっとなー,とは思うところ,アンペア数ならそういう問題は比較的少ないはず.この方法でどれくらい電力消費が減るのかはよくわからないので,2部料金を考慮した電力の需要関数の推定が必要かもしれません.電力料金体系は地域によって異なるので,居住地データと家計簿があれば,電力会社の管轄区域の境の近くのデータを使えばできるはず.「家計調査」ならパネル構造になっていて家計簿があるはずなのでできるのではないかしらん? 2部料金は累進所得税と同じように処理できるでしょうし.

    復旧・復興財源がどれくらいになるかは見当もつきませんが,一時的な巨額の支出が必要になることは間違いないので,基本的には公債発行で賄うべきでしょうけど,問題は,もともと増税の必要があったところに支出の必要性が増えたというところでしょうか.復興財源だからといって,あとから返せないほど借りるのはさすがに間違いでしょう.どこで見たか忘れましたが,こういうご時世にはみんなの公共心が高まるので,復興のためといえば増税もやりやすいのだとすれば,ここで増税もしてしまって,復興需要の減少とともに社会保障財源へ切り替えるというのはひとつの手段かと思いました.増税といえば消費税というのが震災前によくある話でしたが,消費税の枠組みの中で被災地向けの軽減措置をとるのが難しそう(消費税の取り方は法人税に近いから)であれば,所得税を増税した(被災地控除とかつけて)ほうが執行コストが安いのではないかしらん.公債のほうも特別に名前をつけて,一時的なものだというのを強調しておいて,償還期間も60年ルールの例外で10年くらいで返すことにしたほうが信認を失わなくてすむのでは.

    住宅ローンは踏み倒せないんですかね……って,あ,うっかりいろいろ書いてしまいました.しまった.しまったついでに言えば,厚生労働省はたぶんいろいろ抱え込み過ぎてしまうと思うので,大臣一人はしんどいのでは.厚生大臣と労働大臣を置くってわけにはいかんのでしょうかねえ.いかんですけど.