プレスリリースより(仮訳)
マクロ経済における因果関係についての実証研究に対して.
GDPやインフレーションは,一時的な金利の引き上げや減税に対してどのように影響されるのだろうか? 中央銀行がインフレターゲットの水準を恒久的に変化させたり,政府が予算編成の方針を修正したりしたときには何が起きるのだろうか? 今年の経済学賞の受賞者は,これらの問題をはじめ,経済政策と他のマクロ経済変数,たとえばGDP,インフレーション,雇用,投資といった変数とのあいだの因果関係に関する他の多くの疑問にこたえるための方法を発展させてきた.
これらの減少は通常は双方向の関係にある.すなわち,政策は経済に影響するが,経済もまた政策に影響する.将来に関する期待がこの相互作用の主要な側面となる.将来の経済活動や政策に関する民間部門の期待は,賃金・貯蓄・投資の決定に影響を及ぼす.同時に,経済政策の決定は,民間部門の発展についての期待に影響される.受賞者の手法は,これらの因果関係の識別に応用され,期待の役割を説明するのに利用される.また,予期しない政策対応や,システマティックな政策変更の効果を解明することも可能にした.
トーマス・サージェントは,構造的マクロ計量経済学が経済政策の恒久的な変化を分析するのにどのように利用できるかを明らかにしてきた.この手法は,家計と企業が,経済発展にともなってその期待を修正するときのマクロ経済的な関係を分析するのにも用いられる.たとえばサージェントは第2次世界大戦後の時代を分析した.この時期には,多くの国がはじめは高インフレ政策を実行がちであったが,その後は経済政策を変化させ,低インフレ政策へ落ち着いた.
クリストファー・シムズは,経済政策や他の要因の一時的な変化に経済がどのように影響されるかを分析するために,いわゆるベクトル自己回帰に基づいた手法を発展させてきた.シムズと他の研究者たちは,この手法をたとえば,中央銀行の設定する金利の上昇の効果の分析に応用してきた.通常はインフレ率が低下するには1年か2年かかるが,経済成長は短期的にはすでに徐々に減速し,数年後まで通常の成長率には戻らない.
サージェントとシムズは研究を独立して行っていたが,彼らの貢献はいくつかの点で補完的である.受賞者の1970年代と1980年代における代表的な業績は,世界中の研究者と政策担当者の双方に受け入れられてきた.こんにち,サージェントとシムズの開発した手法は,マクロ経済分析に必須の手法となっている.
トーマス・J・サージェント.アメリカ人.1943年アメリカ・カリフォルニア州パサデナ生まれ.1968年ハーバード大学よりPh.D.取得.ニューヨーク大学経済学部教授.
クリストファー・A・シムズ.アメリカ人.1942年アメリカ・ワシントンDC生まれ.1968年ハーバード大学よりPh.D.取得.プリンストン大学経済学部教授.