だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

『自治体財政の本』

2012-04-29 14:23:08 | 授業ネタ

某所で事業評価のようなことをすることになったので,わかりやすいと評判の『一番やさしい自治体財政の本』を買ってきました.概論としては分かりやすいと思いましたし,地方財政の教科書に使ってもいいし,おもしろいんですが,当面の僕の課題には直接には関係なさそうな感じです.意外と知らないことも書いてあってためになりましたけど.

自治官僚としていろいろなところを見ているのが,ところどころのカッコ書きなどに反映されてて,そこもおもしろかったです.たとえば,予算と首長と議会について.

予算があっての行政です.首長は,毎年度,予算の審議を通じて行政の施策に住民の意向を反映させること,どんな政策を優先的に取り上げるべきかを大いに議論すること,これが議会の一番大切な仕事です.(それを議会が実際やっているかどうか,は別の問題ですが).(81ページ)

二元代表制について.

しくみが全く違うのに,いたずらに国会のまねをして,もっぱら首長以下行政担当者に質問をすることをもって議会活動だと心得ているのが全国的な風潮です.<中略>財政に関心が薄いのは,地方議会が自分の役割を十分心得ていないことからも来ていると言えましょう.(167ページ)

一番やさしい自治体財政の本 小坂紀一郎.2007.
一番やさしい自治体財政の本
学陽書房.

『合理的市場という神話』

2012-04-28 16:13:37 | 授業ネタ

「合理的市場理論はどのように発展し、神話となり、そして限界を露呈したのか。金融市場の発展を支えた理論の波乱の道のりを描く」という本でした.一般向けだろうと思うのですが,ちょっと難しいのではないかしらんと思ったりします.こういう本を読むと,教科書や授業で教えられる理論のエッセンスが出てくるまでにはいろいろなことが考えられていて,その過程で落とされていく事情や要因や,見過ごされてしまう前提があって,そういう見落とされたものが恐慌や暴落の時に思い出されるのであるかもなあと思ったりします.そこそこ長い本なので,すでに最初のほうで書いてあったことを忘れたりしてますが.

「行動ファイナンス」も広まっている分野のようですが,

行動経済学者など,効率的市場仮説に批判的な立場の者は,合理的市場の体系にあるさまざまな欠陥を発見してきたが,その体系を捨て去ろうとはしていない.アービング・フィッシャーが1世紀前に経済学に組み込んだ均衡の枠組みを取り払おうともしていない.例外的な事象やバイアスの研究に日々を費やしているが,マートン・ミラーの言う「市場の力」がどこかで働いていて,価格は少なくとも全体としてあるべき方向に向かうとまだ信じている.(第16章「ダブル・ノックアウトーーユージン・ファーマとリチャード・セイラー」387ページ)

というのが現状なんでしょうか.株価のランダムウォーク仮説なんかも話の出発点としての意義は失ってないってことですか.行動ファイナンスってぜんぜん知らないけど.

先日,計量の先生と話をしていたら,「取引の多くはプログラムによって実行されているなら,行動ファイナンスの意義ってなんなんですかね」という話を伺いました.確かに,相場がおおきく動くときに「プログラム取引が動きを増幅した」みたいな解説を見ることもありますが,「合理的個人」のコミットメントデバイスとして事前に作られたプログラムが取引パターンを決めているなら,行動ファイナンスの立場もどうなんでしょか.個別株にうっかり手を出しちゃう(で損をする)個人トレーダーの動きを説明できても,彼らの取引額が小さかったら,価格の動きへの影響は小さそうだし.ひょっとして,プログラムに組み込まれた感情,みたいな話になるのかしらん.ううむ.

ところで,この本のタイトル,「効率的市場 efficient market」ではなくて「合理的市場 rational market」なんですが,合理的市場ってあんまり言わないような気も.

合理的市場という神話 ―リスク、報酬、幻想をめぐるウォール街の歴史合理的市場という神話 ―リスク、報酬、幻想をめぐるウォール街の歴史
価格:¥ 3,360(税込)
発売日:2010-09-23

今週

2012-04-27 23:18:00 | 生活

今週はいつもにましてぼーっとしている時間が多かったような.うっかりこのまま連休に入ってしまいますよ.どうしよう.計算は終わっている配偶者控除のはなし,もうまとまってる予定だったのに.流感のほうは共著者が大活躍でなんとかなりそうですが.ああ.


フランス装

2012-04-22 10:47:57 | 生活

ちょっと前に,尊敬する名古屋のO川先生に会いにでかけたときに,優秀なAくんが飲み会に来てくれました.彼は,論文や投影資料をきれいに作ることにかなり注力するところがあって,その点にはおおいに同意するとこです.さてそのAくんがその飲み会のおり「岩波文庫とかで,本の上の部分が不揃いなのは許せない」と言ってて,それはちょっとこまかすぎやしないか,と思っていたのですが,先日とある本を読んでいたところ,そのあたりについての記述があったのでぐぐってみました.

すると,岩波書店の「文庫豆知識」のところにちゃんと説明がありました.すなわち,

お気づきでしょうが,岩波文庫の小口(背を除いた三方)のうち二方はカットされて滑らかですが,天だけはアンカットです(むしろこの方が製本所さんにとっては大変),フランス装風の洒落た雰囲気を出すためということなのですが,いかがでしょうか。

ということなんだそうです.ちなみに「フランス装」というのは「綴じただけで裁断せず、縁を折り曲げた紙表紙などをかぶせた装本。ペーパーナイフでページごとに切って読む。本来は、愛書家が自分用に装丁し直すためのもの。(コトバンク)」だそうです.ちょっと格式が違うよってとこなのかしら(←言い過ぎ).

しかし,くだんの飲み会には出版社勤務のOさんもいらっしゃったかと思うのですけどね.へへへ.


男子校

2012-04-20 15:13:00 | 授業ネタ

男子校が減っているらしいですよ.

開成「最後まで男子校だ」…男女別学、1割切る(Yomiuri Online)

以前,Sunday Flickersで,ゲストのおおたとしまささんが「男子校は絶滅危惧種」と言われていたのを聞いたとおりです.記事中には「東大合格者数の上位常連校は男女別学の高校で、韓国や英国でも男女別学の学力は高い傾向にある」という記述があるのですけど,こと日本については別学だから進学成績がいいのか,進学成績がよくなりそうな生徒が別学に集まっているのか識別できないので,うっかりしたことは言えません.議論ももりあがるわけですよ.個人的には男子校出身なので別学があってもいいじゃん,と思うのですけど.大学も別学みたいなもんだったし(おっと).

しかしまさか男女共学で自然実験があるとは思いませんでしたよ.へー.別学の方が数学の成績はいいですか.ほー.

Eisenkopf, Gerald, Zohal Hessami, Urs Fischbacher, Heinrich Ursprung, 2011. Academic Performance and Single-Sex Schooling: Evidence from a Natural Experiment in Switzerland," Working Paper Series of the Department of Economics, University of Konstanz 2011-34. [ideas]
Goldin, Claudia,  Lawrence F. Katz. 2010. Putting the Co in Education: Timing, Reasons, and Consequences of College Coeducation from 1835 to the Present. NBER Working Paper No. 16281.

男子校という選択 (日経プレミアシリーズ) おおたとしまさ.2011.男子校という選択
日本経済新聞出版社,日経プレミアシリーズ
発売日:2011-12-09

タイ

2012-04-20 06:55:00 | 生活

大学時代の先輩がバンコクから一時帰国しているという飲み会に行ってきました.そういえば去年だか2年前だかにもあったような気が.その時は某国営放送勤務のKさんのインパクトばかりが記憶に残っていますが,今回はこじんまりとしていました.洪水の影響でご多忙だったのかしらんと思ったらさにあらずでした.

タイなんて遠い国で一時帰国した機会は逃してはいかんよねえと思うのですが,いまやバンコクには羽田から直行便が飛んでいて,飲み会の2次会代わりにも使えるし,コンビニの袋ひとつででかけられるのですから,便利になったものですな.


財政論(2)

2012-04-19 17:03:00 | 授業ネタ

春学期の授業の2回目.履修者数が50人前後ということだったので小さい教室に変えてもらいました.出席者数は30人くらいですから,話をするのにはちょうどいい大きさです.黒板がホワイトボードに変わったのはちょっとやりにくいですが.

財政論のはじめということでマスグレイブの3機能の話をしたのですが,ついでに無政府状態の例として九龍城砦の話をしました.こういう探検記を読むと,無政府状態ってすごいねと思います.国防と外交が要らない地理的条件で,外部性の問題だけが極端に出ちゃった感じでしょうか.

防衛といえば,なんとなく買ってしまった本が意外とおもしろかったです.国防はどんな小さな政府でも必要な機能だと思うのですけど,はて.

防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備 (中公新書ラクレ) 防衛破綻―「ガラパゴス化」する自衛隊装備 (中公新書ラクレ)
価格:¥ 798(税込)
発売日:2010-01-10

Trick or Treatment?

2012-04-15 22:47:56 | 授業ネタ

『代替医療のトリック』を読み終わりました.あいかわらずちょっと前の本ですけど.鍼・ホメオパシー・カイロプラクティック・ハーブ療法を例に挙げつつ,これらを含む代替補完医療の有効性の検討結果を紹介する本です.概して代替医療には否定的な結果が得られているとされていますが,この本は代替医療の評価そのものよりも,根拠に基づく医療(EBM: Evidence based medicine)の解説となっているような気がします.また,これらの代替医療が展開してきた歴史の紹介もおもしろいです.イギリスの読者(チャールズ皇太子)を念頭に置いているようで,日本人としては漢方はどうなんだ,というところなのですけど,漢方は付録にある中国伝統医療に含まれているようで,「さらに要検討」となっています.でもしかしなんですね,EBMという用語が確立したのは90年代も後半なんですね.

昨年度になぜか市販の漢方薬の経済的評価を手伝わされた身からすると,治験を経ないで使われている漢方薬もやっぱり「通常医療」的な検討を経ないといけないのであろうなあと思います.北里大学なんかですすんでいるようですけど.

代替医療の側のひともけっこう気にしてるのでしょうか.というリンクを発見.なるほどねえ.

代替医療のトリック サイモン・シン.エツァート・エルンスト.青木薫訳.2010.
代替医療のトリック
新潮社.
発売日:2010-01

地方税と社会保障

2012-04-14 14:03:29 | 授業ネタ

土居さんの記事:「消費税の地方税化」私ならこう考える

さすがによくまとまってるなあというか,いつ書いたんだろうなあというか,やっぱり影武者が2,3人はいるんじゃなかろうかというか,と思いました.基本的にはいつものはなしといえばいつものはなしで,最初の段落がちょっと冗長な感じがするのもお人柄が表れていてすばらしい.論点としては「社会保障において最終的な支出元となるのは、社会保障給付の約8割が地方自治体」となっている状況下で,

  1. 社会保障財源の問題は「地方負担」といいながら純粋に地方税での負担になっていないこと
  2. 「国庫負担」といいながら赤字国債で負担を先送りしていること
  3. 社会保障の給付と負担に世代間格差がありながら、高齢者(特に高所得者)の保険料負担を軽減していること
  4. 社会保障財源の負担にまつわる地域間格差を是正する仕組みとして地方交付税と国庫負担における地域間調整の2つがあるが役割が複雑・不明確で、逆に地域別に見た受益と負担の関係が不明確になっていること

なんだそうですよ.社会保障給付が,公共資本みたいに10年も20年も役に立つとは考えにくくて,すぐに使ってしまう支出とみなせることを考えれば(健康資本とか言い出すとまた別ですが),2番目の点は問題だろうなあと思うし,基本的には社会保障は恵まれている人からそうでない人への金のやり取りなので3番目の点も問題だろうなあと思います.1番目の点は地方交付税交付金があるので,名前としてはよろしくはない気もしますが,「地方交付税は地方固有の財源である!」と思えば,地方負担といえば地方負担かしらいやどうなんだろう,というところですか.4番目の点はよく分かりません.社会保障についてこれって問題なのかしらん.

公園とか道路とか公民館とか図書館とか,基本的にはその地方に住んでいる人が使うもので,利用料だけで建てるのにはなんらかの意味で問題があるとき(市道を走るときに料金は取りずらい,とか)に.税金で払いましょう,税金はやっぱり金持ちにそれなりに負担してもらいますがそれはその地方とかコミュニティの負担の配分の問題なので,地方全体でみれば受益と負担が一致しているほうがよかろう,というのは,そうかなあ,という議論ではあります.その地方の人しか使わないのにお金は他から取ってくる,っつうのはあんまり正しい話じゃないかなあと.その地方の人が全般的に金持ちじゃないので,それにともなって道路や公民館がちょっといまいちであっても,国道なんかはちゃんとしているのなら,まあそれでいいか,と思われるのかもしれません.

社会保障はそうではなくて,基本的には豊かな人がそうでもない人(病気になった金持ちは,社会保障の文脈では基本的には「そうでもない人」になります)へお金を渡す,という話になります.子どもへの医療費助成に地域差があるというのは知られた話なのでしょうが,何歳までの医療費をタダにするかを地方が決めてもいいよ,でも財源も自分でね,となるとどうなるでしょうか.たとえば中学校まで子どもは全員医療費は無料にします!といったとき,子どもが少なく大人が豊かな地域ほど税率の上げ幅は小さくなり,子どもが多く大人が貧しい地域ほど税率の上げ幅は大きくなります.「うちの町は貧乏なので子どもの医療費もあんまり助成しません」とか,「うちの町はお金があるので子どもの医療費は全部助成します」とかいう差が発生します.

同じ子どもなのにうっかり住んでいるところがちがうばっかりに受け取ることのできる公的サービスに差があるのも,「そうでもない人」に同等のサービスを提供するために住んでる所によって税金が異なってしまうのも,地方分権の帰結なのでそれはしょうがないとみるならそれはそれで一つの見識でしょう.公的サービスが充実しているところに引っ越すかもしれないし.もし,「そうでもない人」の処遇について,「うちの町の人たち」と外の人たちを分けて考える市民が多ければ,そもそも差があることは問題にならないはずですから,分権したほうがいいんでしょう.あるいは,そういう差があるのはよくないので,直轄事業にして単独事業は認めないことにしようというのも一つの見方でしょう.そのときには執行も国が行うことになりますし,この理屈では生活保護を地方に執行させているのも見直さないといけません.また,上乗せ横出しを認めずにでも執行は地方にやらせる,だって地方のほうが住民に「近い」から,という現在の仕組みに近い制度もそんなに悪くない気もします.でもこのばあい,執行のための補助金を出す必要があるので,地域内で「受益」と「負担」は当然に一致しません.

きっとこれに,執行のコストの差(「政府部門の無駄遣い」とか「やる気の差」とか)とか,海外との関係とか,がからんできて話がややこしくなるんだろうな.まあ,制度がややこしくてわけわからん,というのもあんまりいい話じゃないような,でもそれでなんとなく納得してくれるんだったらしょうがないような,もやもやしたところですねえ.