だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

ぐらんどでざいん

2011-12-29 17:20:00 | 経済学
ぼんやりテレビを見ていたら,かのK大学のI先生が出てきて,「グランドデザインも示さずに増税はけしからん」とか説明していて,どないしようかと思いました.増税したぶんは,何に使うかもなにも,もう使ってしまったものを遅ればせながら支払うだけの話で,使い道をうんぬんするほどの増税にならなさそうだからです.なんで消費税なのか,というのもけっこうあちこちで議論されてきたところで,なにをいまさら,な気がします.個人的には消費税じゃなくてもなあとは思いますけど.

出向官僚の立ち位置

2011-12-28 17:20:44 | 授業ネタ
諸般の事情で出向官僚について再び考えないといけない状況になっておるのですが,そんななかでなかなか興味深いお話が.「南相馬市の放射能検査をやめさせた総務省」という記事で,JBPressに載っていますが,「MRIC by 医療ガバナンス学会発行」となっていて,書いたのはかの亀田総合病院の小松秀樹さんとなっています.元のサイトを見るとタイトルは「村田メールと旧内務省」となっていて,転載のときにタイトルは変化したようです.

状況はこんな感じみたいです.5月から南相馬市立総合病院の非常勤医師で,被曝の検査相談などを行なっている医師の坪倉正治氏が食品の検査体制の強化が重要だと思い,11月に市長の桜井勝延氏と副市長の村田崇氏にメールをしたところ,副市長の村田氏からメールの返事が来て,この記事の筆者はその内容に納得がいかんと言って怒っているようです.南相馬市の内部の話かとおもいきや,この副市長(37歳.僕と同じ年かしらん),総務省からの出向でして(総務省のお知らせページ),そこで議論の展開としては「総務省が出向官僚を通じて市町村を支配する体制があるからイカンのだ」となっています.で,記事のタイトルに総務省が出てくるということかと.たぶん.南相馬市とは「WBCや尿検査の問題などで重大な守秘義務違反」と言われる問題も背景にあったようです.記事を書いた人は,どうもこの事件(?)の前から福島県がお気に召していなかったようで,福島県の対応ともども非難しています.

さて,村田副市長の返事を見てみると(メールが引用されてるんですが,これはいいんですかね),たぶん言いたかったのは「今回のような意見をお持ちでありながら、組織として総合病院がどのような庁内調整をされているのかが全く見えてきません。言葉は良くありませんが、これでは単なる一職員による感情任せの『ちくり』としてしか扱うことが出来ません」の部分ではないかと思われます.市立病院の医師が検査のあり方について意見があるんだったら市立病院として意見をまとめて持って来い,いきなり市長・副市長に直訴されても困る,ということでしょう.これに対してこの記事では「総務省内では、医学上の判断について役人が医師に命令できるというのが常識かもしれませんが、世界には通用しません」としています.

財政系の人間としては,ここでは「副市長が市立病院職員に」意見しているわけで,なんとなく論点が違うような,拡大解釈したような気がします.もし,検査についての意見を民間病院・診療所の医師が送ったとしたら,こういう反応にはならなかったでしょう(「医師会としてまとめてもってこい」というかもしれませんが).だから,「医師と行政」という話ではないようにみえます.個人を相手にする診療行為ではなくて,集団に対する介入になるんだから,組織を使って系統的にやらんといかんよね,ということじゃないんでしょうか(言い方はどうかと思いますけど).拡大解釈といえば,この1件から「中央集権はいかんのだ」と話を展開するのもやり過ぎのように見えます.

村田氏は37歳,前職が「内閣府沖縄振興局総務課課長補佐」であるところをみるとおそらく旧自治省採用のキャリア官僚でしょう.本省補佐級のキャリア官僚が政令市でもない市町村に出向すること自体,珍しいケースだと思います(佐賀市とニセコ町の例もありますが).東日本大震災に関係した人事でしょう.さて,総務省のお知らせページをみると,「福島県南相馬市長からの要請を受け」とあります.これを額面通りに受け取れば,総務省が送り込んだというよりは,南相馬市のほうが要請した,ということになります.「要請を受けた形にした」可能性は否定できませんが,キャリア官僚の出向先は都道府県が多いこと,霞が関だって人員不足ぎみっぽいこと,副市長人事は議会の同意がいることなどを考えると,「支配するために送り込んだ」というのはちょっと違うような気がします.他方,南相馬市のほうには,今後の予算獲得・中央との折衝のために,中央官僚を呼び寄せる動機はあるように思います.『フクシマ論』的に考えると「支配されるために呼んだ」とも言えるかもしれません.いや言い過ぎか.いずれにしても,2000年ころの稲継先生の議論と照らしてみても,この人事から「中央支配でけしからん」というのはちょっとなあ,です.まあ確かに,「地方分権進めよう!」とか言ってるそばから「中央の官僚を貸してください」というのはなんだかよくわからないですけど,分権への過渡期だし,非常時で人的資源が必要なときだから無理からぬことなんでしょう.

もちろん,「呼ばれて来てやった」から何やってもいい,ということでもないし,福島県や南相馬市の対応がよかった,ということを言いたいのではないです.「守秘義務違反」うんぬんについては事情も知らないですし.このメール1通から中央集権うんぬんとか,高齢者対策うんぬんまで話を展開するのはどうかなあ,と,それだけの話.


千葉7区

2011-12-28 15:55:16 | 生活
消費税引き上げに反対するとかで民主党の議員が離党するとかいうニュースが流れてて,ほほー,と思いながら見ていたら,その首謀者(?)の一人は内山晃議員だそうで.内山議員は千葉7区選出で,あろうことか,ぼくの選挙区だったりします.おやおや.離党の理由は「政権公約を守らない,国民の生活を守らない政党にはいることができない」なんだそうですが,ええっと,そもそも守れないような政権公約を掲げたことは華麗にスルーしたということでいいんでしょうか? だいじょうぶか千葉7区.斎藤健議員はじゃんけんぽんに邪魔されたってとこなのかしらん.

除染予算

2011-12-26 17:56:00 | 授業ネタ
先日,某所で久方ぶりにI先生にお会いして(師匠のI先生ではない),なかなか興味深い話を聞きました.「研究者としてやってるのではない」とおっしゃってましたが,さすがにまとめるとなると社会科学者っぽい.そのときの話にも上がったのですが,このたび政府予算案が決まったということで「24年度予算のポイント」をみたところ,除染予算として4513億円が計上されていました.某所での話によると,除染を本格的にするには兆~十兆円単位でのお金が必要だそうで,ま,ざっくり言って大幅に足りん,ということみたいです.4513億円は中央政府の支出額なので,実際の支出額は地方政府のぶんを足さないといけないわけですが,足りないという結論は間違ってないみたいです.他方で消費税の引き上げは進んでるんだか進んでないんだかで,復興債を考えると国債発行は増加して,地方債計画も大きくなって(3000億円ほど)います.

I先生もはっきりおっしゃってましたが,このような予算編成は,日本の集団的な意思として,福島県をはじめとする地域の除染にお金は使わない,将来の世代に増税する,などと決定したことを意味しています.「そんな人情のない決定をした覚えはない.永田町だかか霞ヶ関だかでいつのまにか決まったことだ」と思う人も多いのでしょうが,間接民主主義のもとでは,そう思うのは間違いです.

消費増税がどうなるかは時事ネタに疎い僕にはわかりませんが,大平・中曽根・竹下・細川・橋本といった各内閣が消費税(付加価値税,売上税,国民福祉税など名前は違いますが)で苦労したのとおんなじなんだろうな,と思います.最近の報道で「消費増税で財政規律が緩んだ」とかあったのは,なかなか示唆的でした.消費増税は「これからの」支出増に対応するためのものだと思われてる,ということですし.しかし実際のところ,増税は「これまでの」支出増に対応するためのものであり,いまさら「使い方がまずかったから,わたしゃ知らん」とは言えない筋合いのもので,「そんなの,国がどうにかすればいいじゃん」というものでもないです.

除染予算が少ないのも,公債が増えるのも,「政府」というものが自分とは関係ないところにあって,自分は税を取られるだけだ,といった政府観・おかみ観が根底にあるようです.政府は営利企業ではなく,その財源は税(か社会保険料か手数料など)によって調達されなければなりません.政府サービスを享受するためにどれほどのお金がかかるかということについて分かりにくく,「公務員って給料よさそうだよな」という通念があることもあるんでしょうけど(でも,給料を下げると,もっとロクでもないのしか公務員にならないかもしれないのに).

しかし,財政があぶないって,この15年くらいずーっと言われてると思うんですけど,いつまでやるんですかね.「このままいくと危ないよシミュレーション」も流行ったような気がしますが,やる側も飽きてきて,学者の方で試算する人って少なくなっていくような気がします(僕も止めた).コンピュータはどんどん速くなってるというのに.そういう「必要な」試算では業績にならんですからな.あっはっは.


OIR (続々)

2011-12-25 16:05:51 | 経済学
気鋭の開発経済学者のhkonoくんの宸襟を悩ませてしまった2段階最小2乗法でのOIR(ORT)問題ですが,Sargan統計量を用いる検定を,(1) 一致性は保証されているが効率的ではないかもしれない推定量と,一致性はないかもしれないがもしあったら効率的な推定量を比べるDurbin-Wu-Hausman検定のようなものと考えるか,(2) GMMで最小化される距離がゼロと等しいかどうかを調べるHansen検定のようなものと考えるか,で「少なくともひとつの外生性を満たす操作変数うんぬん」という文言に違和感を持つかどうかの差が出るらしい,ということのようです(計算方法はよくわかってないけど).2段階最小2乗法は線形GMMの特殊形(条件付き分散均一の仮定)と考えられるので(2)じゃん,と僕は思っていたのですが,教科書によっては(1)のように解説していて,ついでにこの検定の検出力が高くなかったりすることもあるらしいです.うーん.

ま,実際上は(?),さんざん言われたように,外生性について制度やデータの特性から説得的な議論を展開しつつ,ORTも併用でがんばる,というのが,応用屋さんの戦略です.あとは査読者が説得されるかどうかですか.査読者は神ですからな.あはは.


「フクシマ」論

2011-12-25 15:49:39 | 経済学
ゆるゆると読んでいた「「フクシマ」論」を読み終わりました.いまさらながら.ふう.

原子力ムラの現在・前史・成立を書いた第2~4章はとくに興味深かったのですが,考察にあたる第5・6章の展開はところどころよく分からなくて「ううむ」というところでした.社会学の素養がないからかもしれませんけど.「抑圧」とか「服従」とかいう概念はほとんど使ってこなかったですしねえ.第5・6章については提示される具体例はおもしろいのですけど,「それってそういうはなしなのか?」というのがよく分からなかいところがちょいちょいありました.とくにvoice/exitの応用のあたりはなんか違うんじゃないかしらん.省庁・科学者あたりの<原子力ムラ>はむりして言及しなくても,と思ったり.ま,sunaharayくんと同じ感じでしょうか.(現在の)地方財政論では地方あるいは地方政府は最初から独立した意思決定主体と設定されるのでそこらへんと噛み合ってないのかもしれません.しかしこれが修士論文の改訂稿なんですから,「それにしても,修士論文でこれくらい書ける筆力があるというのはホントに立派だと思う。」です.ぼくの出た大学院では修士論文って短かったですからねー.

さて,とくに「そうかも」と思わせたのは,

原発の積極的な誘致は「反中央であるがゆえの原子力」としての意味を持っていた.そして,とりわけ後進地域であった現在の原子力ムラはこの中央からもたらされる得体の知れないものを,「喜び」と共に受け入れていったのだった.(終章,p.355)
という着眼点でしょうか.得体が知れないがゆえに(「中央」の側もよくわかってはなかったのかもしれませんが),そこに可能性をみたのかもしれません.そのあとの「自発的な服従」とかなんとかいう話は.ラチェット効果か,あるいは行動経済学とかで言われるところの「所有バイアス」と思ったほうがいいのかなあとも思ったり.ううむ.あと,「排除と隠蔽のメカニズム」という解釈もおもしろかったですが,隠蔽なのか無関心なのか,そこはよくわかんないのではないかしらん.
「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか開沼博.2011.
「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか
青土社
発売日:2011-06-16

ひらめき☆ときめき

2011-12-17 16:52:03 | 生活
「学術振興の中核を担う機関として,科学研究費助成事業などの学術研究への助成や,特別研究員事業などの若手研究者養成を,研究者の自主性と研究の多様性を尊重しながら実施している」日本学術振興会では,「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~ KAKENHI」実施プログラムを募集しています.「ひらめき」と「ときめき」のあいだには「☆」が入るのが正式な表現のようです.だいじょうぶか.「研究公開支援経費」とかにすると怪しまれるので,ということなんでしょうか.

サイエンスっていうくらいだしいわゆる「理科」の人たちが実験とかするのかしらん,と思ったら,意外と「株式投資で社会貢献をしよう!!」とかあって,経済学もやってないことはないみたいです.この経費で子供を集めてついでに実験しちゃうとか,実験経済学の人は考えそうですけどどうなんでしょうかねえ.


はやぶさ2

2011-12-14 17:03:22 | 授業ネタ
竹内結子で評判の(?)映画にもなって,これ以外にも2本も映画化されたという小惑星探査機「はやぶさ」ですが,2012年度予算編成ではその後継機(探査機としては1号機)の予算が削減されることになったようです(毎日新聞WSJ日経ビジネスオンライン).「国民のご理解」が必要なのはそうなんですが,あれだけ盛り上がったのにいまさらご理解もなあ,と思ったり.地球政府がまだ存在しない以上,がんばったらいいのに,と思うんですが,国庫窮乏の折からということでしょうか.そうなのか? 前プロジェクトマネジャの川口淳一郎さんが驚愕のあまり(?)訴えている文章はなかなか説得的だと思います.どうでしょう?
震災の復興が叫ばれている、その通りだ。即効的な経済対策にむすびつかない予算は削減されがちである。しかし、耐え忍んで閉塞をうち破れるわけではない。なでしこジャパンのワールドカップでの優勝、それは耐え忍んだから勝てたのか?そうではない。それは、やれるという自信が彼女らにあったからだ。震災からの復興を目指す方々に示すべき、もっとも大きな励ましは、この国が創造できる能力がある国だという自信と希望なはずなのだ。(中略)トップの位置を維持し、独走して差を開いて行こうという決断を行うことに躊躇してしまう。世界の2番手にいて、海外からの評価と格付けに神経をとがらせるばかり。堪え忍べと叫び、自らの将来を舵取りするポリシーに欠ける。なんとなさけないことか。次世代を支える若者が、この国の国民でよかったと感じられなくなるようでは、将来はない。

OIR (続)

2011-12-12 18:00:24 | 経済学
過剰識別制約検定についての続き.

過剰識別制約検定を使うとき,ぼくの理解している範囲では「すべての操作変数が外生だ」が帰無仮説なので,とくに「どれか1つは外生と仮定したうえで」という注釈はつかないものだ,と思っていたのですが,授業の関係で読んでいたAcemoglu et al. (2001, AER, p.1393) に

The overidentification test presumes that one of these instruments, say S, is truly exogenous, and tests for the exogeneity of the others, such as settler mortality. This approach is useful since it is a direct test of our exclusion restriction. However, such tests may not lead to a rejection if all instruments are invalid, but still highly correlated with each other. Therefore, the results have to be interpreted with caution.
とあって,dojinくんの言ったとおりです.あー,どういうこっちゃいな.

Acemoglu, Daron, Simon Johnson, James A. Robinson. 2001. The colonial origins of comparative development: An empirical investigation. American Economic Review 91(5), 1369-1401. [Link]