だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

入ゼミ選考

2015-03-25 23:27:02 | 授業ネタ
入ゼミ選考を行いました.本務校ではA日程・B日程という2段階になっていて,A日程で人気のあるゼミの定員が埋まり,B日程でそれ以外が,ということになるのですが,僕のゼミは当然,B日程に焦点を絞っております.定員に比べればわりと多くの学生さんに申し込んでいただいたところ,さまざまな資料をもとに(成績表・志望動機レポート・筆記試験・面接試験の4つ)慎重に検討し,A日程B日程あわせて12名を採用することにしました.とりあえず4年生の最後まで誰も辞めないでほしいのですが,どうなることやら.

週初めには学位授与式がありましたが,いまの4年生(ゼミ2期生)は1人脱落してしまいました.1期生が5人脱落したことを考えると,改善傾向にあって好ましいです.3期生にはなにはともあれ最後まで続けてほしいところです.

脱落していった学生には卒論のテーマが定まらないという共通点があるのですが,所属団体にも共通項があったりするので,そこらへんで統計的差別がうまれるのであるかなあと思います.ううむ.


農山村は消滅しない

2015-03-12 13:49:15 | 授業ネタ
小田切徳美.2014.農山村は消滅しない.岩波新書.


「このままでは地方は消滅するのか?否。どこよりも早く過疎化、超高齢化と切実に向き合ってきた農山村は、この難問を突破しつつある」という内容紹介がついているとおりで,「どっこい生きている」農山村があるので地方消滅なんて言わないで,という本です.それぞれの取り組みはおもしろいっちゃおもしろいです.

でもなあ,と思ってしまうところもいくつかあります.ひとつは,たぶん成功例が挙げてあるのだろうと思うのですけど,規模的に小さすぎやせんかね,という点です.数世帯引っ越してきました,はいいのですが,それって人口比で見ても小さくて,成功例になっとるのかいな,と思います.いまひとつは,「地域おこし」やその継続に投下される財源について何一つ触れていない点です.限界集落を「たたむ」とかコンパクトシティとかが提言される背景のひとつには,行財政的な面から見た地理的な広がりの不経済性があるにもかかわらず,そのような不経済性を否定したり,それ以上に追求すべき価値があるといったりはしておらず,反論になってないという印象を受けます.「生まれ育った土地で生きていきたい」という愛郷心を尊重しているからこそ,地理的な不経済性にもかかわらず行政サービスが提供されているわけですが,本来的にはその行政サービスの対価も払わねばならんはずです.その対価は今のところ都市と若者から補填されていて,それが耐えられん,というのが現状ではないかと.一人でも人が住んでいれば行政サービス供給の必要性が出てくるわけなので,うっかり移住されたりするとそれはそれでどうなんかいな,と思わないでもありません.完全に自給自足してくれるならいいですけど,救急やら災害時の対応やらは自足できないでしょうきっと.難しいところではありますな.


ぼくは物覚えが悪い

2015-03-11 14:20:53 | 授業ネタ
コーキン,スザンヌ, 鍛原多惠子訳.2014.ぼくは物覚えが悪い:健忘症患者H・Mの生涯.早川書房.


「神経科学史上最もよく研究された患者、脳科学に関心のある万人が知る患者H・Mの生涯と、彼がもたらした神経科学の成果を明かす、驚きと感動のドキュメント」です.27歳のときにてんかん治療のために海馬などを除去する脳手術を受けたヘンリー・モレゾンは,前向性健忘などの記憶障害を持ち,半時間より前のことを記憶できない永遠の現在形(Permanent Present Tense)の世界を生きることになります.著者のスザンヌ・コーキンはヘンリーの症例研究を続けた神経科学者です.脳の構造にうといのでちょいちょい記憶形成にかんする科学的な説明にはついていけませんでしたが(まじめに読んでないとも言いますが),わりと感動的です.honz.jpの書評はこちら


自治体崩壊

2015-03-04 22:36:39 | 授業ネタ

田村秀.2014.自治体崩壊.イースト新書.


「地方自治の専門家が人口減少社会、中央と地方の格差、地方再生の道しるべを徹底検証!」した本,ということになっていて,そういえないこともないし,ちょくちょくはさまれるエピソードや逸話は興味深いのですが,地方自治の専門家が普段思っていることを書いてみた,という雰囲気が拭いきれないと感じました.同じ著者の「暴走する地方自治」のほうは自治体のへんてこりんな例がいろいろ出ていて,その例を紹介するための本だけあって,全編おもしろく読んだ記憶があるのですが,こちらは総論を扱っているだけに,幅広いというか総花的というか,かなあと思ったり.おもしろいんですけど.

けんきう的な小ネタとしては,合併後の市町村議会議員選挙で大選挙区制を取らなかった自治体があるそうで,それが選挙結果や歳出構造に一時的にでも影響を与える識別要因に使えないかなあということでしょうか.選挙制度だった内生じゃん,ときっと言われると思うんですけどね.


政策提言,霞が関に活

2015-03-03 22:43:10 | 授業ネタ

政策提言 霞が関に活、データ分析 学生走る という記事が日本経済新聞3月2日付朝刊の大学面に載ってました.経済系というか政策系というかの大学教員ならなんとなく知っているISFJやWESTや公共選択学会の学生の集いを扱っていて,学部生が政策分析をしていて霞が関などに発表に行って好評ですよ,という話です.隣の記事は「これが学部生!? 論文ハイレベル」という見出しで,中身はまあその通りで「統計分析ができてすごい」というような話です.いい話じゃないですか(マジで)

意識低くへらへらとかつてのぼくのような学部生活を送ることに比べれば,ゼミの指導教員のもとで政策分析をして政策的含意を引き出して発表し,切磋琢磨する機会があることが望ましいことは言うまでもないのですが,それでもなあ,と思う点もあります.ひとつは,そうはいっても経済社会というのは複雑に動いていて,学部生が分析したくらいでそんなに政策提言なんぞ出てくるんかいな,という点です.なんのかんのいって霞が関は巨大なシンクタンクでそれぞれがそれぞれの政策課題にたいして(給料をもらって)取り組んでいるわけで,霞が関なんかの人たちが本気で「おお」と思うような政策提言が出てきたら(それはそれで素晴らしいんですが)霞が関の人たちってなんなの,ということになります.もちろん政治的なしがらみやなんかで言えないことを学生なら言えるってこともあるかもしれませんし,そういうあたりに学生らしい「斬新さ」があるのかもしれませんが.あるいは担当教員のアイデアを形にしてる可能性もありますけど.

もうひとつは,記事では「統計分析ができてすごい」という話になってますが,このややこしい世の中で学部生が統計分析でまっとうな結果を出すのは難しかろうという点です.最小2乗推定ができたんですかすごいですねー,と僕なんかも言いますが,それは教育的見地からで,そこから何か提言的なものをいうとなると,ちょっと待てや内生性がー,となるのが普通です.もちろん何らかのきれいな自然実験や操作変数が見つかったというのなら別ですが.っていうか今どき,最小2乗推定やパネルの固定効果モデルの推定ができたくらいではあんまり褒めませんが(某ゼミはDSGEをカリブレートして回したりするんであれはすごいと思います).それやこれや考えると,横山先生の「政策提言について「学生の能力開発が第一の目的」ととらえて「政策を考える側から尋ねられたら答える」というスタンスを崩さない」というのが大変好ましいなあと思うところです.

あと,「審査員集めが大変」ということで,ここだけみると「こういう青雲の志にあふれた学生のサポートをしない教員や研究者どもはなっちゃない」という話なんですが,いくつかの団体については審査員へのアプローチがずいぶんと無礼で,それゆえに引き受けないという教員がわりといるようです.また,この記事で扱われたようなゼミ以外のゼミの論文の質はまあなんというかな感じでやっとられんという話もあるようです.

いい話なんでdiscourageしてはいかんイベントだとは思うのですけど,個人的には接し方に悩むところであるなあ,とまあそういう話.


育休世代のジレンマ

2015-03-02 22:24:11 | 授業ネタ

中野円佳.2014.「育休世代」のジレンマ:女性活用はなぜ失敗するのか?.光文社新書.


「産休・育休や育児支援制度が整った今でも、総合職の女性の多くが、出産もしくは育休後の復帰を経て会社を辞めてしまうのはなぜなのか」をインタビューをもとにした質的研究で検討した本です.「総合職の女性」いうところの「ばりきゃり女性」が対象になっているため,インタビュー相手も旧帝一工早慶か,これに準ずる大学女子大ということになっていて,ぼくとしてわりと身近な存在で興味深く読んだのですけど,大学進学率が約半分で,しかも対象がこのとおりということになると,想定されている母集団はずいぶんと狭い範囲になっていて,「やりがいのある仕事を与えることが必要」などという「解決策」に対しては,そりゃまあね,と思うところです.こういう狭く設定された母集団を扱う理由についても書いてはあるので,そうかなあといえばそうかなあですが.


興味深かったのは,総合職を「男並み」に求める女性ほど,育児支援が使いにくい職場を選びがち(あるいは気にしない)で,夫についても理解を示してしまうため,結果的に自分のキャリアを諦めてしまうことがあるという点と,専業主婦の教育ママのもとで高学歴に育てられた女性はそれゆえに母親と同じ径路を取れないという点でしょうか.母集団が小さいだけに統計的解析になじまず,したがって要因の抽出がわかりにくく,結果として「まあいろいろだよね」という話になってしまうあたりがなんだか微妙ではありますが.該当する大学の男子学生・女子学生は読んでみると将来への示唆があるのではないかと思います(と思ってゼミ生に知らせてみたんですけどやっぱり誰も読まなさそう).