けーざいがく的には最適な公的債務の水準が実証的に決まるわけでもないので今の水準が高すぎるのかどうかははっきりとは言えないですが,中立命題が成り立ってなさそうな現状にかんがみれば(とくに「バローの」中立命題といわれるほう),赤字公債については「公正」とか「不道徳」とか日本ではあんまり言われないですけど(こちらを参照),けーざいがくしゃ的にはやっぱり減らしたほうがいいんじゃないかしらんと思います.
赤字の返済といえば,戦中に累増した公債はインフレで返されたと思ってたんですが,こんなこともやってたとは.税率90%の財産税とか,政府の負っている債務と同額での「戦時補償特別税」の課税とかですか.たしかに制度上は増税ですけど,国内債がほとんどであったところでもほとんどデフォルト(というか債務調整)だったのですなあ.
松下孝昭.2013.軍隊を誘致せよ: 陸海軍と都市形成.吉川弘文館 (歴史文化ライブラリー). タイトルのとおり,明治維新後から日露戦争前までの期間,軍拡によって設置が決まった師団や歩兵連隊を誘致するために各都市が運動を繰り広げ,またそのために水道が整備されたり遊郭ができたりできなかったりした歩みをまとめた本です.都市や地域が発展のために誘致をするということ自体は今も昔も変わらないのであるなあ,というところなのですが,この本が注目しているのが軍隊だというあたりが興味深いです.ふつう,というか都市経済学や地方財政論の標準的な設定では,地方政府が誘致するのは民間資本か,本社か,公共投資かあたりで,いずれも直接にその地域で生産を行い,雇用を生む存在です.でも,軍隊はそれ自体はその地域で消費されるような財を生産をするものではない(外交や国防は典型的な公共財だということになっているので,消費されているといえばされてますが)し,兵隊さんはほかからもやってくるので雇用を生むわけではありません.したがって,誘致する意義が直接にはない気がします.もう少しちゃんというと,それぞれの地域で完全雇用が達成されているとすれば,軍隊が来ることは生産関数を拡張するのには役に立たないわりに,消費人口のみを増やし,一人当たり消費を減らす効果を持ちかねません. それでも軍隊の誘致が熱心に行われたのは,もちろん完全雇用が達成されておらず,ケインズ的な乗数効果が期待されたのであろうというのが1つの理由です.また同時に,軍隊が立地した都市では,軍隊のための公共インフラ整備のおこぼれに与かることができた,具体的には水道が整備された,という事情もあったようです.ふーむ.あと,遊郭がうんぬんという話もあったようですが,これはどちらかというと副作用的なものみたいで,NIMBY的なものであると同時に,経済効果もあったりしてややこしいようです. 軍都としての広島がちょくちょく登場するので,その意味でもおもしろかったです.そうか,流川ってそうなのか. |