集改センター恒例の第142回のスキルアップセミナーの報告をいたします。
開催日:2016年(平成28年)9月7日(水)
テーマ:施工ミスと施工偽装に学べる構造問題
講 師:構造設計1級建築士 新保勝浩(NPO集改センター正会員)
◎平成27年度に発覚した東洋ゴム工業の免震部材のデータ偽装問題、横浜市のマンションにおける杭データの改ざん問題、大規模修繕工事の実施に際して多数散見される耐震スリットの施工ミスの発覚問題、そして東日本大震災で発生した立体駐車場スロープ崩落事故による刑事裁判について、製造・施工、設計上の問題点とマスコミ報道等により少し誇張して伝えられている事件の本質を見定め、今後に生かしていただければと思っています。
<セミナー概要>
■免震偽装問題
高減衰積層ゴムという免震部材のデータ偽装が10年以上前から行われていたと国土交通省より公表があり、当部材が高層を含む共同住宅や重要文化財の建物などに使用されていたため大きな事件として取り上げられた。改ざん前の実データを使った検証では、許容範囲に収まっていたのはごくわずかで、ほとんどが許容範囲外と結果がでた。
■杭データ偽装問題
横浜にある鉄筋コンクリート造の地上12階建て、総戸数705戸という大規模マンションで、住民が渡り廊下の約2cmのズレを発見したことにより、施工時の杭打ちデータの改ざんが発覚した問題。杭工法に問題があるのではと大きく取り上げられたが、私見ではあるが、横浜特有の支持地盤層の凹凸の見逃しに建物傾斜の大きな要因があるのではないか、と考えている。
■耐震スリット施工ミス
マスコミ等ではあまり報道されていないが、大規模修繕工事時に数多く目にする施工ミスが構造スリットの未設置や寸法不足である。大手ゼネコンが施工した大手分譲会社の物件においても不具合が確認されている。方立て壁の不具合はまだしも、腰壁におけるスリットの施工ミスは注意したい。大手ゼネコンは現場打ちをしないなどの方法を採用している。
■建物被害における建築士の刑事責任
本件は、大規模量販店の立体駐車場における取付けスロープの崩落により2名が死亡、設計した建築士が第1審で業務上過失致死傷罪に問われた事件であります。意匠図と構造図の不整合等の争点があり、上告審である東京高裁の判断が注目される。
■まとめ
実際の被害はマスコミ報道ほど大きくないのでは、と思いますが、施工、設計にかかわらず認識の甘い安易な行為が、結果的に大きな打撃となって帰ってくるということを、真摯に受け止め、今後に生かせてもらえれば幸いです。
~次回開催予告~
■第142回スキルアップセミナー 2016年10月5日(水)午後3時から
テーマ:「管理組合理事、管理会社の責任を法的に検証」「分別管理制度への問題提起」
講 師:九鬼正光(弁護士)
◎ 管理組合と管理会社との責任分担の境界、管理委託契約はどこまでのことを要求して
いるのか、を議論しましょう。