詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(37)

2018-03-21 15:27:58 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(37)(創元社、2018年02月10日発行)

 「音楽」は「音楽」について書いているが、具体的にどの音楽、誰の曲、誰の演奏かはわからない。

穏やかに頷いて
アンダンテが終わる
二つの和音はつかの間の訪問者
意味の届かない遠方から来て
またそこへ帰って行く

 「二つの和音」は、二通りに読むことができる。「一つの和音」と「もう一つの和音」、つまり「二種類の和音」と読む読み方と、「一つの音」と「もう一つの音」によって構成される和音、つまり「二つの音による和音」と。
 私は「二つの音による和音」と読んだ。「一つの音」が「もう一つの音」と出会い、「和音」になる。
 そしてこのとき、それぞれの「一つの音」は、たとえばピアノの「ド」と「ミ」ではなく、一つはピアノ、もう一つは谷川の「肉体」のなかにある音と読んでみたい気持ちになる。たとえピアノの「ド」と「ミ」の「和音」であったとしても、「ド」と「ミ」のどちらから谷川の「肉体」に深くしみついている音、谷川の「肉体」にひそんでいる音と読みたい。誰の「肉体」にも何か「基本の音」がある。それが別の「音」と出会って、「和音」となって響く。そういうことがあると思う。
 そう読むと、つづく二行がとてもおもしろい。
 「意味の届かない遠方」というときの「遠方」も二通りに読むことができる。谷川の「意味の領域(圏域)」の彼方というのは、一つはたとえば「宇宙の彼方」のような「遠方」ととらえることができる。存在を知らなかった「未知の意味」「まったく新しい意味」と呼び変えてもいい。それとは別に「肉体」のなかにあって「意識されない意味」があり、それはやはり「遠方」と呼べないだろうか。それは「未生の意味」と言いなおすことができると思う。
 どこか谷川の「肉体」の外の「遠方」から「未知の意味」があらわれる。それは谷川の「肉体」のなかの「未生の意味」と出合い、それまで存在しなかった「意味」を生み出す。「和音」のように、出合いの瞬間に結晶し、「意味」になる。
 そして、これは、いまは便宜上、「肉体の外にある意味」を「新しい意味」、「肉体のうちにある意味」を「未生の意味」と区別したけれど、逆かもしれない。「新しい」と「未生」の関係は、出会った瞬間に決まることで、どちらがどらかとは言えない。
 「ド」の音に「ミ」の音が出会うのか、「ミ」の音に「ド」の音が出会うのか。区別がつかない。というよりも二つの音が出会ったとき、それぞれを「ド」「ミ」と認識し、同時に「和音」になるということが起きるのではないだろうか。一つ一つの音が「生まれ」、また「和音」が生まれる。二つの音が「和音」を生み出し、同時に「和音」が不つたの音を生み出す。そういうことが起きると思う。(こういう思いつきを書くと、絶対音感の持ち主からは、ドはドの音、ミはミの音と叱られそうだが。)

 こういうことは、長く書き続けられない。つまり「明確」に論理化できない。強引に書けば、どうしても「破綻」してしまう。瞬間的に感じる「錯覚」のようなものである。
 「意味」は、また「未生の意味」へ帰っていく。
 同じように「音(和音)」もどこか、それが生まれ来たところへ帰っていく。それは「遠方」なのか、「肉体の奥」なのか、わからない。区別ができない。




*


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目次

小川三郎「沼に水草」2  岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13  タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21  最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28  鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
     *
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83

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聴くと聞こえる: on Listening 1950-2017
クリエーター情報なし
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