O君の上司には、社長あるいは歴代の人事部長から内々に話があり、それはいつの間にか皆の知れるところとなったのだが、のんびり屋のO君だけがその辺よくわかっていないようだった。そういうところ、大物と言えなくもない。
またこんなこともあった。ある年の忘年会で遅くなったO君、繁華街をふらふらと歩いていたところ、悪い女に引っかかりそうになった。「ちょっといいとこ行かない?」なんて言われてその気になりかけたのだが、どこからか現われた男たちに引き離されてしまった。でもそんなこと、酔っ払った彼には、夢の中の出来事だったに違いない。
口ベタでパッとしないO君のこと、女の子からそうモテるはずもなく、結婚相手もなかなか見つからなかったが、会社の上役から持ちかけられた見合い話、それもとびっきりいい所の、これまたとびっきりのきれいなお嬢さんと、とんとんと話がまとまり、めでたくゴールインとなった。
かくして20年。普通ならせいぜい課長クラスというところ、O君はついにその会社の社長の椅子に座ることとなった。ところが運悪くというのか、不況の波が押し寄せ、このままではいずれ会社が倒れることになる、というところまで来てしまった。
しかしそれは同じ業界の他社とて同じこと。やがて、業界再編という動きが加速して行く。とは言っても長年の社風というのはそう変わりようがなく、その違いによって、うまく行かないことの方が多かった。N社にもそういう話が持ちかけられては消えていく、ということが何回か続いた。
そして次に話の来たS社。ここも合併話が持ち上がっては消えていく、ということの繰り返しだった。社風の違いはもちろん、それはひとえに、若社長のクセの強さによるものだった。N社のO社長と同じくらいの年なのだが、気難しいというのか、相手となかなか折り合わず、話がまとまらないのだ。
そこへ来たのがN社との話。若社長は、また話が合わないのでは、と思いつつ会談の席に付いた。クセの強い人間というのは、だいたいが自分のクセの強さを棚に上げて相手のせいにするものだ。ところがS社の若社長、N社のO社長とすぐに意気投合してしまい、若社長が新会社の会長、O社長は社長のままということで話もトントンと進み、めでたく合併ということになった。こうなれば業界の中でもベスト3には入り、当面は安泰となったわけである。
名指しされた男、O君は、何の取り柄もない、ただ、S社の若社長とウマが合う、気が合うというだけだった。しかし、見事会社を救ったのだ。そう、やはり新宿の占い師は正しかったのである。
いずれにせよ、O社長の周りにはその補佐のため優秀な人間が集められていたおかげで、その後も順調に業績を上げて行ったとのこと。めでたしめでたし。
ところで、S社の社長、これも若くしてトップに上り詰めた男なのであるが、約20年前のこと、銀座のとある占い師によって名指しされたのだという。N社とS社の2人の社長、どちらがニワトリやらタマゴやら…。
まあこういう人生もあっていいだろう。いや、人生ってこんなものなのかもしれない。
Copyright(c) shinob_2005
またこんなこともあった。ある年の忘年会で遅くなったO君、繁華街をふらふらと歩いていたところ、悪い女に引っかかりそうになった。「ちょっといいとこ行かない?」なんて言われてその気になりかけたのだが、どこからか現われた男たちに引き離されてしまった。でもそんなこと、酔っ払った彼には、夢の中の出来事だったに違いない。
口ベタでパッとしないO君のこと、女の子からそうモテるはずもなく、結婚相手もなかなか見つからなかったが、会社の上役から持ちかけられた見合い話、それもとびっきりいい所の、これまたとびっきりのきれいなお嬢さんと、とんとんと話がまとまり、めでたくゴールインとなった。
かくして20年。普通ならせいぜい課長クラスというところ、O君はついにその会社の社長の椅子に座ることとなった。ところが運悪くというのか、不況の波が押し寄せ、このままではいずれ会社が倒れることになる、というところまで来てしまった。
しかしそれは同じ業界の他社とて同じこと。やがて、業界再編という動きが加速して行く。とは言っても長年の社風というのはそう変わりようがなく、その違いによって、うまく行かないことの方が多かった。N社にもそういう話が持ちかけられては消えていく、ということが何回か続いた。
そして次に話の来たS社。ここも合併話が持ち上がっては消えていく、ということの繰り返しだった。社風の違いはもちろん、それはひとえに、若社長のクセの強さによるものだった。N社のO社長と同じくらいの年なのだが、気難しいというのか、相手となかなか折り合わず、話がまとまらないのだ。
そこへ来たのがN社との話。若社長は、また話が合わないのでは、と思いつつ会談の席に付いた。クセの強い人間というのは、だいたいが自分のクセの強さを棚に上げて相手のせいにするものだ。ところがS社の若社長、N社のO社長とすぐに意気投合してしまい、若社長が新会社の会長、O社長は社長のままということで話もトントンと進み、めでたく合併ということになった。こうなれば業界の中でもベスト3には入り、当面は安泰となったわけである。
名指しされた男、O君は、何の取り柄もない、ただ、S社の若社長とウマが合う、気が合うというだけだった。しかし、見事会社を救ったのだ。そう、やはり新宿の占い師は正しかったのである。
いずれにせよ、O社長の周りにはその補佐のため優秀な人間が集められていたおかげで、その後も順調に業績を上げて行ったとのこと。めでたしめでたし。
ところで、S社の社長、これも若くしてトップに上り詰めた男なのであるが、約20年前のこと、銀座のとある占い師によって名指しされたのだという。N社とS社の2人の社長、どちらがニワトリやらタマゴやら…。
まあこういう人生もあっていいだろう。いや、人生ってこんなものなのかもしれない。
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