Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

立夏の頃

2017-05-08 09:35:49 | ラジオ亭便り

麦田に店を移転して7ヶ月目。既に暦では立夏の時候が過ぎている。当て込んでいたGWのお客さんは予想どおりで極端に少ない。1日に5人も来客があれば救われた気分になってしまうから不思議である。知己の鎌倉T書房店主のSさん、旧友の家主Hさん、近所の女子大に弦楽器のレッスンを受けに行っているPR会社役員のS女さん。そんな人達がひょっこりと顔を出してくれた。無聊感を退けるような四方山話が弾むと寂しい気分にようやく初夏の陽射しがやってくる。

GWの最終日は横須賀の京急汐入駅の近くに住むAさんのオーディオ怪人暮らしの観察に出かける。気分の換気も兼ねた散歩である。Aさんが住む家は崖の頂上にある平屋だ。崖上までのアプローチは階段が120もあって息が上がってくる。しかし青々とした木々が繁った地山を縫っていく微風のせいか苦にならない。

隣地の畑では「サヤエンドウ」がたわわに実ってよい眺めだ。家の目前を覆う「榎」の古木も美しい。招かれた昭和調平屋の中の各種アンプ、スピーカーの宝庫に驚愕する。ざっとスピーカーだけで10数ペアはあるだろう。数百名キャパの小ホールで鳴らすような大型ダブルウーファーに大型ホーンを搭載したような業務レベルのものから、家庭のホームシアターに使うような国産、海外製トールボーイタイプのものまで、何故にこんなに集めたのか?そのリビドーの方に興味が湧く驚きの家庭的在庫といえる。ざっと聴く夕刻の2時間になった。

決めつけ、予断、偏見を全て現象学的エポケーに括って聞いてみた。結果、ドイツのダブルウーファーを使ったホーン型業務ユース風メイン装置がAさんの企図に反して一番、駄目だと感じた。押し出しや全帯域の臨場感の圧倒性を狙ったのだろうが、シャンソンソースにおけるボーカルの音像、バッキングの楽器の質感が量に災いされているせいか、総て裏目に出てリリシズムもなにも現れてこない実務的PAサウンドという印象を持った。これなどは日本家屋とのミスマッチの典型事例なのでAさんが早く大型オーディオ機器のハイファイ煩悩から足を洗って欲しいと願わずにはいられない。

これに比して良かった事例が近年のスタジオ調整室で使われているニアフィールドモニター用途に使われる小型アンプ内蔵のドイツ製ADMというスピーカーだった。クラシック音楽好きの一部オーディオマニアに隠然たる影響力を保持してるフルヤマオーディオのフラットスピーカーも前後して鳴らしてくれた。キュートな躯体の小さな角形スピーカーからよくもこんなに鮮度が良く細密描写に溢れたモーツアルトを鳴らしてくれるものと感銘する。しかしドイツ製小型2ウエイの音力がもたらす躍動感のリアリティーには叶わない。リズム陣の非力が如実に現れているが、テナーサックスのスイングブロウがコンコンと湧き出す、私家版テープのサンプル音像が実に図太い。これで先日、Dr.櫻井さんが持って来て聞かせてくれたティル・ブレーナーでも聞いたら堪らないだろうと溜息をついてしまった。Aさんにこのスピーカーの価格を尋ねると立派なお値段がついていて二度吃驚する。またまた見聞が広がる横須賀散歩が増えた。

5月のご案内    8日(月) 休業          9日〜14 日 12時〜19時 平常営業