つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

柳生家の人々

2005-10-12 23:25:20 | 時代劇・歴史物
さて、小説の方読むのは初めてな第316回は、

タイトル:柳生非情剣
著者:隆慶一郎
文庫名:講談社文庫

であります。

柳生の方々の話を集めた短編集。
本来は別々に書かれたものですが、血族同士の絡みがあるので連作っぽくなっています。
例によって一作ずつ感想を書いていきます。

慶安御前試合(柳生連也斎)……尾張柳生の開祖兵庫助利厳の三男兵助、後の連也斎の話。家光の面前で江戸柳生の総帥柳生宗冬と戦うことになった兵助。しかし、江戸柳生の刺客が――。宗冬の無念を察する兵助の心情、家光が御前試合を仕組んだ経緯等が非情に丁寧に書かれている。

柳枝の剣〈柳生友矩〉……柳生宗矩の次男でありながら、家光に見初められた柳生友矩の生涯。気性の荒い長男十兵衛、剣を嫌う三男又十郎の間にあって、数奇な運命をたどった天才剣士、という感じの作品に仕上がっている。三人の兄弟の書き分けが非常に上手い。

ぼうふらの剣〈柳生宗冬〉……柳生宗矩の三男にして、後に慶安御前試合で柳生連也斎と戦うことになる又十郎の話。宗矩の不興を買い、侍に嫌気がさした又十郎は能楽の道を選ぼうとするが――。辛い境遇にありながら、くよくよしない又十郎のキャラクターが良い。

柳生の鬼〈柳生十兵衛)……御存知、柳生の有名人十兵衛の話。家光の相手に嫌気がさした十兵衛は大和柳生の圧に戻るが――。破れた十兵衛が自分の剣を見つめ直し、奥義を会得するに至るまでの成長物語。ラストシーンの十兵衛の素直な台詞、最初は冷たかった柳生の故老がもらす台詞、どちらも素敵である。

跛行の剣〈柳生新次郎〉……柳生石舟斎の嫡男でありながら、戦場で負傷し、足が不自由になってしまった柳生新次郎厳勝の物語。男性機能を失い、石舟斎に妻を寝取られても、生まれた子供に剣を托す新次郎。飽くまで涼やかなそのキャクラターは美しい。

逆風の太刀〈柳生五郎右衛門〉……柳生石舟斎の四男、五郎右衛門の話。関ヶ原の戦いで大勢を決した小早川秀秋に仕えた後、流浪の身となった五郎右衛門の数奇な運命を描く。どこか情けないイメージが付きまとう秀秋だが、本作では二つの勢力に挟まれた身にありながらそれでも反骨精神を失わない魅力的な若者として描かれている。

一言で言うと、はみ出し者達の話。(笑)
しかし、どの人物も人間味溢れるキャラクターとして描かれています。
従来のイメージと違う(特に十兵衛)、という意見もあるかも知れませんが、私はこの短編集に出てくる柳生の人々は好きですね。

時代劇好きなら、絶対のオススメ。
心理描写、殺陣の描写、どちらも一級品です、この人本当に上手い。